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特定商取引法改正のポイント

特定商取引法改正のポイント

B to Cでビジネスを行う場合に気を付けなければならないのが、各種の消費者を保護することを目的とした法律です。とりわけ特定商取引法は、規定の内容が複雑であるうえ、しばしば改正があることから、現在の法の内容について常に注視することが重要となるといえます。

そこで、今回は令和3年公布にて行われた特定商取引法改正のポイントについて解説します。


この記事の著者
  中小企業診断士 弁護士 

1 特定商取引法とはどのような法律か

取引についての一般的なルールは、民法・商法などにおいて定められています。しかし、事業者と消費者との間で行われる取引のなかには、民法や商法のルールをそのまま適用したのでは、悪質な業者が消費者を食い物にしてしまうおそれが類型的に高いものがあります。そこで、類型的にこのようなおそれがある一定の取引(これを特定商取引といいます)が公正に行われるようにして消費者を保護することを目的とする法律が特定商取引法です。

特定商取引法は主に、民法・商法の取引に関するルールを修正するクーリング・オフ等の民事ルールと特定商取引を行う事業者に対する行政処分を含む行政規制から構成されています。令和3年改正の主な内容は、大きく、①通販の「詐欺的な定期購入商法」対策、②送り付け商法対策、③消費者利益の擁護増進のための規定の整備の3つにわけることができますが、これらの改正も民事ルールと行政規制のいずれにも行われています。

以下では、これらの法改正の内容について解説をしていきます。


2 通販の「詐欺的な定期購入商法」対策(令和4年6月1日施行)

コロナ禍のなか、商品等をインターネットで販売するECサイトの利用が進んでいます。ECサイトによる商品等の販売は、通信販売(特商法第2条第2項)にあたります。

近年ECサイトによる商品等の販売について、さまざまなトラブルが発生しています。それらのトラブルの典型的なものとして、「ECサイトで1個1000円と格安価格での商品の案内があったので申込んだところ、実際はその商品を1年間にわたり購入し続けることが条件で、しかも2回目以降は1個1万円で解約もできない」といった詐欺的な定期購入商法に関するものがあげられます。

そこで、改正特定商取引法では、ECサイトにおける申込みの最終段階である最終確認画面において、事業者に対し一定の事項を表示することが義務付けられるようになりました(特定商取引法第12条の6第1項)。あわせて当該一定の事項や契約の申込みに関する事項で、消費者を誤認させるような表示をすることを禁止することも義務付けられています(同条第2項)。この規制については、ECサイトに限らず、カタログ・チラシなどの書面で申込みを行う通信販売についても申込書面おいて同様に規制がなされています。

ここにいう「一定の事項」とは、分量、販売価格・対価、支払いの時期・方法、引渡時期・提供時期、申込みの期間、申込みの撤回、解除に関する事項をいいます。具体的な内容等については、消費者庁による『通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン』において詳細に解説されています。

(出典:消費者庁取引対策課『特定商取引の改正について―通信販売規制を中心に―』)

そして、これらの事項について、表示すべき内容を事業者が表示しなかったり、表示してはいけない表示を事業者がしたために消費者が誤認をして申込みをしたりした場合は、消費者は当該契約の申込みの意思表示の取消が可能となります(特定商取引法第15条の4)。さらに、特定商取引法第12条の6の違反は、行政処分の対象となるのみならず、事業者に対する刑事罰も新設されました(特定商取引法第70条第2号、第72条第4号)。

これらの事項のうち、特に商品の販売が詐欺的であるとしてトラブルが先鋭化するきっかけとなるのが申込みの撤回、解除に関する事項です。事業者としては、いかなる場合にどのような条件の下で申込みの撤回や解除が可能なのかについて、消費者が誤解をすることがないように明確に記載しておく必要があるといえます(なお、同ガイドラインにおいては、ECサイトにおける通販における最終確認画面の表示について、原則として表示事項を網羅的に表示することが望ましいものの、表示事項が多岐にわたる場合もありうることなどから、消費者が明確に認識できることを前提として、最終確認画面にリンクを張るなどの方法も可能であるとされています。トラブルを避けるためにも消費者にわかりやすい方法を検討することをおすすめします)。


3 送り付け商法対策(令和3年7月6日施行)

送り付け商法(ネガティブ・オプションともいいます)とは、消費者が注文していない商品を事業者が突然消費者に送り付け、その消費者から何らの連絡もない場合に、購入する意思があるものとみなして、売買代金を一方的に請求するものをいいます。

そもそも、契約の成立には申込みと承諾の意思表示の合致が必要です(民法第522条第1項)。したがって、事業者が一方的に商品を送り付けてもそれだけでは申込みと承諾の意思表示が合致したということはできず、契約が成立することは基本的にはありません。しかし、契約が成立しないのであれば、その商品は事業者の所有物となる以上、消費者が勝手に処分をしてもよいのかという問題や、事業者がその商品の返還を消費者に求めることができるのかといった問題が生じます。

この点について、改正前の特定商取引法では、事業者が一方的に消費者に送付した商品は、送られてきてから14日間が経過すれば返還義務がなくなるとされていました。今回の法改正ではこの内容をさらに進め、事業者が一方的に消費者に対して送付した商品については、事業者は消費者に対して返還を求めることができず、消費者は「直ちに」処分が可能となりました(特定商取引法第59条・第59条の2)。

送り付け商法は以前から社会問題になっていたものです。いうまでもありませんが、事業者がこのような方法でB to Cのビジネスを進めていくことはコンプライアンスの観点からも問題があり、避けるべきであるといえます。


4 消費者利益の擁護促進のための規定の整備

これまでに述べたもののほか、消費者保護の観点からさまざまな規定が整備されています。これらのうち、特に事業者が留意しておくべきものとして、消費者からのクーリング・オフの通知や事業者が交付しなければならないとされる契約書面等(ただし、消費者の承諾が必要)について電磁的方法(電子メール等の方法)によることが可能になったものがあるということがあげられます(令和4年6月1日施行)。

これまでは内容証明郵便を使用することが一般的であったクーリング・オフが電子メールでも可能となったことにより、いっそうクーリング・オフのハードルが低くなったとはいえ、事業者としては、魅力的な商品等の提供に努める必要が生じたといえます。また、契約書面を電子メールで交付することは、郵便コストや印紙税等の点において事業者にメリットがあることから、活用することを検討してもよいのではないでしょうか。


5 消費者庁のウェブサイト等で最新の情報を確認する

特定商取引法に限らず、消費者問題の高度化・複雑化に伴い消費者に関する法律は頻繁に改正がなされます。この点について、消費者庁のウェブサイトでは詳細な改正法資料のほか、改正法の説明会の動画など様々な形で情報発信を行っています。事業者としては、これらも参照しながら、法改正には常に注意を払いたいものです。


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著者プロフィール

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武田 宗久

中小企業診断士 弁護士

ライター、コンサルタント

1978年生まれ、大阪府富田林市出身。京都大学法学部・同大学院法学研究科卒

2011年 弁護士登録

2020年 中小企業診断士登録

債権回収や離婚等の一般民事事件を担当する一方、大阪の中小企業や自治体を元気にするため、法務・労務を中心とした支援に取り組む。著書に『改正民法対応!自治体職員のためのすぐに使える契約書式解説集』(令和2年、第一法規、共著)など。

お問い合わせ先

株式会社プロデューサー・ハウス

Web:http://producer-house.co.jp/

Mail:info@producer-house.co.jp

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