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電子契約に収入印紙は必要ない? その理由や注意点を解説

電子契約に収入印紙は必要ない? その理由や注意点を解説

電子契約の導入を検討されている方、もしくは既に導入済みの方にとって気になることの一つが、収入印紙の扱いではないでしょうか。基本的に紙の契約書では収入印紙が必要になりますが、電子契約では必要ないと聞いたことがある方もいるかと思います。

本記事では、電子契約における収入印紙の必要性について、印紙税法の解説も交えながら、その理由や注意点を詳しく説明します。

電子契約やサービスの選び方などは、関連記事でも詳しく解説していますので、参考にしてください。


この記事の監修者
  行政書士、申請取次行政書士 

電子契約に収入印紙は必要ない?

結論から言うと、電子契約に収入印紙は必要ありません。そのため、電子契約の導入は印紙税のコストカットにも繋がります。

なぜ電子契約では、収入印紙が必要ないのでしょうか。その根拠について、詳しく解説していきます。

印紙税法における課税文書の定義

収入印紙が必要ない理由を説明する前に、まず印紙税法における課税文書の概要を押さえておきましょう。印紙税法では、課税対象となる文書を20種類定めています。以下はその一部となります。

  • 不動産や鉱業権などの売買・賃借契約に関する契約書
  • 請負に関する契約書
  • 約束手形・為替手形
  • 株券や投資信託などの受益証券
  • 継続取引の基本となる契約書
  • 消費貸借通帳や請負通帳

(出典:No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁
(出典:No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで|国税庁

これらには、文書ごとに印紙税額が決められています。継続取引の基本となる契約書、保険証券、請負通帳などは、印紙税額が一律です。

一方で、請負契約書や不動産の売買・賃借契約書などは、契約金額に応じて印紙税の金額が設定されています。たとえば、300万円を超え500万円以下の請負契約書の場合、1通または1冊につき2,000円の印紙税が必要です。
電子契約ではこれらの費用がかからなくなるため、金額の大きい契約が多い企業などは、大幅な費用削減が見込めるでしょう。

電子契約が非課税と明記している法律はない

前述の通り、電子契約の場合は印紙税が課されません。しかし、電子契約が印紙税の課税対象外だとはっきり定義している法律は2024年8月現在では存在しません。

では、なぜ電子契約は非課税という扱いをされているのでしょうか。それは、いくつかの公的な根拠から導き出される「課税文書」の定義に基づいて、判断されています。
詳しくは、次の見出しにて解説します。


電子契約の印紙税が非課税となる理由

電子契約が印紙税の非課税対象となる理由について、更に詳しく見ていきましょう。

  • 課税文書の「作成」に該当しない
  • 電子データの「送信」は「交付」にあたらない
  • 国会答弁
  • 専門書でも電子契約は不課税と明記されている

それぞれの理由について、詳しく解説します。

課税文書の「作成」に該当しない

印紙税法基本通達(国税庁)の第44条では、課税文書の作成を以下のように定義しています。

法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。

(引用:第7節 作成者等|国税庁

これはつまり、「用紙」で作成・発行(使用)されたものを、課税文書として見なすということです。そのため、電子データの契約書は課税文書とは見なされず、印紙税も適用されません。

また、国税庁の見解としても、電磁的記録は文書に当たらないとしています。電磁的記録には、電子契約書や電子メールなどが含まれます。

印紙税の課税対象となるのは、課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれません。したがって、おたずねの電磁的記録に印紙税は課税されません。

(引用:取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い|国税庁

また、従来の紙の契約書では、相手方に契約書を物理的に交付することで作成が完了しますが、電子契約ではこの現物交付が発生しません。このことも、電子契約が印紙税の非課税対象となる理由の一つです。

これらの要因により、電子契約は印紙税法における課税文書の作成に該当せず、結果として印紙税が課されないことになります。

電子データの「送信」は「交付」にあたらない

電子契約が非課税となるもう一つの重要な理由は、電子データの送信が印紙税法上の交付に該当しないという点です。印紙税法における交付は、物理的な文書の受け渡しを指します。そのため、メールやFAXといった電子データによる送信は、この交付の定義に該当せず、課税の対象外です。

ただし、電子メール送信後に、紙の契約書を受け渡した場合については、印紙税法上の交付と見なされ、印紙税が課される点に注意しましょう。

国会答弁

2005年の国会答弁で小泉純一郎元首相が、電子データ化された文書には印紙税が課税されないことを明確に述べています。

文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。

(引用:印紙税に関する質問に対する答弁書:答弁本文:参議院

専門書でも電子契約は非課税と明記されている

電子契約が非課税対象であることは、印紙税の専門家の間でも周知の事実です。実際に印紙税に関する専門書でも、電子契約が非課税であることが明記されています。

特に『令和3年7月改訂 印紙税実用便覧』にも、電子データで作られた文書には印紙税が適用されない旨が明記されています。この専門書は、国税局で長年印紙税の審理や課税事務を担当していた佐藤弘明氏の著作です。

以前は、電子契約に関する記述がほとんど見られませんでしたが、最近では電子契約の非課税性について、詳細な解説が加えられるようになっています。

このように、印紙税の専門家や専門書においても、電子契約では印紙税が原則適用されないことが広く認識され、通説となりました。これは、電子契約は印紙税の適用外であることの一般的な指標と言えるでしょう。


電子契約書と収入印紙についての注意点

電子契約書を印刷した場合は、収入印紙は必要なのでしょうか。電子契約を締結した後に、紙の文書としてコピーが必要になる状況があるかもしれません。

以下では、電子契約書を印刷した際の注意点について詳しく解説します。

原則として印刷しても印紙税は非課税

電子契約書を印刷しても、原則として印紙税は発生しません。電子契約においては、電子署名が付与されている電子ファイルが契約書の原本となります。そのため、書面を印刷した場合は単なる「写し」として扱われ、原則として印紙税は課税されません。

ただし、印紙税は課税されなくても、電子契約では印刷を最小限に抑えることが重要です。電子契約において、ペーパーレス化や業務効率化といったコスト削減が大きなメリットとなります。

そのため、電子契約のメリットを最大限に活かすためには、できる限り印刷を避けることが望ましいでしょう。

署名・捺印等がある場合は課税対象に

印刷した電子契約書にも収入印紙は必要ありませんが、書面に署名や捺印を行った場合は、状況が変わります。

印紙税法では、写しの文書であっても、後に原本として扱われる場合は、課税の対象になると規定しています。写しの文書に契約当事者が署名や捺印を行うと、その文書は課税文書として取り扱われ、印紙税が課税されるので気をつけましょう。これは、契約当事者が署名や捺印を行うことによって、写しの文書が新たに原本としての性質を帯びるためです。

電子契約のメリットを最大限に活かすためには、印刷した契約書への署名や捺印を避けるべきだと言えます。やむを得ず印刷する場合も、単なる写しや副本であることを明記し、署名や捺印、原本証明は行わないようにしましょう。

電子契約の署名については、以下の記事でも詳しく説明しています。

過去の契約書の電子化により還付金を受給できない可能性がある

電子契約を導入し始めた方の中には、過去の紙の契約書を電子データ化したいと思う方もいるでしょう。導入以前の紙の契約書も、スキャナ保存などで電子データ化して管理することができます。ただし、過去の契約書のうち、既に収入印紙が貼付済みの契約書を電子化する際は、注意が必要です。

過去の契約で印紙税の過誤納金が発覚した場合、還付金を受け取るには、収入印紙が貼付されている原本の契約書が必要になります。スキャンデータだけでは、過誤納還付の申請はできません。そのため、契約書をスキャナ保存したからと言って安心せず、収入印紙が貼付された原本は破棄しないようにしましょう。

電子契約書の保管・管理方法について、より詳しく知りたい方は下記の記事を参考にしてください。


電子契約で収入印紙コストを削減しよう

基本的に電子契約書に、収入印紙は必要ありません。ただし、電子契約書を印刷した場合の扱いには、注意しましょう。原則としてこちらも非課税になりますが、署名や捺印をしてしまうと印紙が必要になるケースもあります。

電子契約システムの導入は、収入印紙の費用の削減にも繋がります。契約書の印紙税費用が多い業種など、導入を検討してみてはいかがでしょうか。


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監修者プロフィール

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井上 通夫

行政書士、申請取次行政書士

行政書士(平成18年度行政書士試験合格)、申請取次行政書士(令和2年1月取得)。

福岡大学法学部法律学科卒。大学在学中は、憲法・行政法ゼミ(石村ゼミ18期生)に所属、新聞部編集長を務める。

卒業後、大手信販会社や大手学習塾等に勤務し、平成20年7月に福岡市内で行政書士事務所を開業、現在に至る。

現在の業務は相続・遺言、民事法務(内容証明・契約書・離婚協議書等)、会社設立、公益法人(社団・財団法人)関連業務、在留資格業務など。福岡県行政書士会所属。

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