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[コンプライアンス] 第5話:預合いの罪

[コンプライアンス] 第5話:預合いの罪

コンプライアンスに対する取り組みは、企業の価値向上に不可欠です。

企業には、法人として守るべき社会的ルールが存在します。

たとえ信頼できる相手であっても、適切でない資金のやり取りは会社法により刑事罰の対象となる可能性があります。

会社法第965条で定められている「預合いの罪」は、会社の設立者と金融機関が共謀して行うものであり、金融機関から借りたお金を同じ金融機関に入金する行為です。

また、第三者から借りたお金を金融機関に払い込んで資金とする行為は「見せ金」に該当します。見せ金は、刑法157条で定められた公正証書原本不実記載等罪に該当する詐欺罪です。

これらの違法行為は、無意識に行われるケースも少なくありません。会社を経営するうえで必要な法の知識を身に付け、思わぬ落とし穴に陥らないようにしましょう。


この記事の著者
永世綜合法律事務所  弁護士 

第5話:預合いの罪

ベンチャー企業の社長

最近、友達から株式会社を設立したいという相談を受けて、ついては出資金を貸してほしいと相談されました。いくらかと聞いたら、1000万円くらいお願いできればということだったのですが、一旦振り込んですぐに返してくれるというので、その友達とは長い付き合いで信頼できるので、それならば貸してもいいと考えています。消費貸借契約書を作成しておけば問題ないでしょうか。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

その友人の行為は、必要な出資金を用意できないため、出資の履行を仮装しているもので、いわゆる「見せ金(みせがね)」とか「預合い」が問題になりますね。

ベンチャー企業の社長

預合い?見せ金?聞いたことのない言葉です。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

預合いについては、会社法965条に次のように規定されています。

(預合いの罪)

第965条
第960条第1項第1号から第7号までに掲げる者が、株式の発行に係る払込みを仮装するため預合いを行ったときは、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。預合いに応じた者も、同様とする。

960条第1項第1号から7号までに掲げる者とは、発起人や設立時取締役等のこと。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

預合いとは、定義としては、発起人が払込取扱金融機関の役職員と通謀して出資金の払込を仮装する行為のことを言います[1]

ベンチャー企業の社長

具体的にはどういう行為を指すのでしょうか。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

例えば、発起人であるその友人が、出資金を準備できないので、払込取扱金融機関から1000万円を借り入れます。そして、そのお金を使って出資金として払込取扱金融機関に払込みをします。これだけなら問題ないのですが、同時に、その友人が借り入れた1000万円の返済が終了するまでは、その友人の設立した会社のために先に振り込んだ1000万円の払込金の返還を請求しないという合意をしておくわけです。これが典型的な「預合い」と呼ばれる仮装払込みにあたります。

「預合い」と呼ばれる仮装払込みのイメージ

ベンチャー企業の社長

どうしてこの預合いは会社法で禁止されているのでしょうか?

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

資本金は、対外的な信用でもあるので、取引先などが資本金の額をみて営業資金が十分確保されていると信じた期待を保護するためです。実は、資本金は契約によって当分の間は返還することができないお金、つまり、使用することができないお金だったとなれば、資本金額はまったく当てにならなくなります。ですから、先程あげたとおり、会社法965条は、刑事罰をもって預合いを禁止しているのです。

ベンチャー企業の社長

刑事罰として5年以下の懲役か、500万円以下の罰金とはキツイですね。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

預合いや見せ金は、有効な株式の払込みではないので、預合いや見せ金により、設立の登記をした場合は、公正証書原本不実記載罪(刑法157条)が成立します。

(公正証書原本不実記載等)

第百五十七条 公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 公務員に対し虚偽の申立てをして、免状、鑑札又は旅券に不実の記載をさせた者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。

ベンチャー企業の社長

公正証書原本不実記載罪は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金なのですね。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

そうです。さらに預合いの罪と公正証書原本不実記載罪は併合罪の関係に立つので、7年6ヶ月以下の懲役又は550万円以下の罰金となります。

ベンチャー企業の社長

「見せ金」はどういうものでしょうか。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

ご友人の事案は、預合いではなく、見せ金に当たると思います。見せ金とは、発起人が第三者から金銭を借り入れて払込みを行った後、設立の後の会社の代表取締役に就任して直ちに払込金を引き出し、第三者への弁済にあてることをいいます。これも結局、形式的には払込みをしていますが、すぐに引き出しているために実質的に見れば会社の営業資金は何ら確保されていないことになるので、取引先などの第三者の信頼を害することになります。このような見せ金による払込みは、判例上、有効な払込みとは認められていません[2]

「見せ金」による払込みイメージ

ベンチャー企業の社長

そうすると、先程の預合いと同じように、見せ金による設立登記をすると、公正証書原本不実記載罪が成立するということになるのですね。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

そのとおりです。

ベンチャー企業の社長

見せ金の場合も、預合いを禁止する会社法965条が適用されるのでしょうか。965条の文言は「預合いを行ったときは」となっていますが。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

鋭い指摘ですね。先ほど判例の示した預合いの定義がありましたね。「発起人が払込取扱金融機関の役職員と通謀して出資金の払込を仮装する行為」というものです。この定義と見せ金の事例とを比較すると判るのですが、①見せ金には、払込取扱金融機関の役職員との通謀が認められませんし、②見せ金は、第三者から発起人等が融資を受けているため、資金を預け合っているという関係にはなっていないため、「預合い」という文言に含めるのは困難であることから、見せ金による払込みは、会社法965条の適用はないと考えられています。ですから、見せ金の場合には、公正証書原本不実記載罪のみが成立することになるでしょう。なお、新株予約権や新株予約権付社債の発行については、預合いの規定の適用は認められず、新株予約権の行使については、預合いの規定の適用があると解されています[3]

ベンチャー企業の社長

説明を聞く限り、友達の頼みは断るしかなさそうですねぇ。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

結局このような無効な払込みを行うと、その発起人は改めて有効な出資をする義務を負うことになりますし、会社設立後は、設立後の会社に対して仮装の払込みに係る払込金額の支払いをする義務を負うことになりますので、しないほうがいいと思いますね(会社法52条の2第1項1号)。

(出資の履行を仮装した場合の責任等)

第五十二条の二
発起人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める行為をする義務を負う。
一 第三十四条第一項の規定による払込みを仮装した場合払込みを仮装した出資に係る金銭の全額の支払

ベンチャー企業の社長

その上、私も公正証書原本不実記載罪の共犯となってしまう可能性もあるわけですから、控えたほうが良いことがよくわかりました。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

ご友人の会社の将来性が見込めるようであれば、きちんと貸付けをしてそれを払込みに当ててもらい、すぐに返してもらおうとせずに、ご友人の会社にしっかり儲けてもらってそこから徐々に返済してもらうことです。貸付けの際には、公正証書で執行認諾文言付きの金銭消費貸借契約書を作成するなどの対策をとっておくとよいでしょうね。

脚注

1.最決昭和35・6・21刑集14・8・981、最判昭和42・12・14刑集21・10・1369。

2. 最判昭和38・12・6民集17・12・1633。

3. 江頭憲治郎編『論点体系会社法6組織再編II、外国会社、雑則、罰則』500頁[葉玉匡美](第一法規、平成24年)。

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著者プロフィール

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早乙女 宜宏

永世綜合法律事務所 弁護士

早稲田大学法学部卒業後、日本大学大学院法務研究科卒業。
顧問先等の企業法務に関する相談を多く受ける一方で、日本大学大学院法務研究科にて、刑事系科目(刑法・刑事訴訟法)の教鞭をとる。その他、警察大学校等の公的機関で講義をするなど教育業務も多い。また、スマートフォン向け六法アプリ、And六法の開発も行う。

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