マタニティハラスメントとは? 裁判に発展した事例や具体的な対策を解説
マタニティハラスメント(マタハラ)は、職場におけるハラスメントの一種です。
男女雇用機会均等法や育児介護休業法の改正によって厳格化が進んでいますが、経営者はどのように対策を取ればよいのでしょうか。
今回は、新聞やニュースで耳にする機会も増えているマタニティハラスメントについて、具体的な事例や対策について解説します。
社内でのマタハラ発生を防止するために、ぜひ参考にしてください。
マタニティハラスメントとは?
まずは、マタニティハラスメントとは何かについて解説します。
マタニティハラスメントの定義
マタニティハラスメント(マタハラ)とは、「妊産婦」を意味するマタニティと「嫌がらせ」を意味するハラスメントを組み合わせた言葉です。
妊娠・出産・育児をきっかけに行われる、嫌がらせを意味します。
具体的には、職場において妊娠・出産をした女性や育児休業(育児休暇)を取得した男女が、同僚や上司によって不利益な取り扱いをされることを指します。
男女雇用機会均等法や育児介護休業法には、これらの不利益な取り扱いを禁止する規定が設けられています。
マタニティハラスメントが起こる背景
マタニティハラスメントの発生には、以下のような原因があると考えられます。
- マネジメント層の理解が不足している
- 同じ職場で働く従業員の理解・同意がない
マネジメント層の人の理解が足りていない背景として、「実際に育児をしたことがないこと」や「パートナーへ育児を任せきりにしていたこと」などが考えられます。
妊娠・出産・育児の知識が不足している管理者の職場内では、産休や育児休業(あるいは育児休暇)を取得しにくい雰囲気になることも珍しくありません。
また、妊娠や出産のために、一時的に休業しなければならない女性社員や育休を取得して休業する男性・女性社員の仕事は、残された従業員がカバーすることになります。
業務に対する負担が増えるため、休業している人に対する不満が募っていくこともマタハラの原因になるでしょう。
マタニティハラスメントと法律
近年では子育てをしやすい社会の実現のため、マタニティハラスメントに関する規定が法律に追加されています。
ここからは、改正によってマタニティハラスメントが明文化された法律について解説します。
改正男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、平成19年4月に「募集・採用・配置・昇進」について男性女性問わず均等な機会を与えなければならないとする改正が行われました。
男女雇用機会均等法では「職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等」を規定しており、職場における妊娠・出産などを原因としたハラスメントに関する言動などを禁止することが事業主の責務となっています。
マタハラ以外ではセクシャルハラスメント(セクハラ)についても、同様の規定が男女雇用機会均等法で定められています。
参考:「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置についての指針」|厚生労働省
改正育児・介護休業法
育児休業に関する規定は「育児介護休業法」で定められており、令和4年4月1日に改正法が施行されました。
改正内容には、労働者またはその配偶者が妊娠し、または出産したことなどを申し出たときは「当該労働者に対して育児休業に関する制度について知らせるとともに、意向を確認するための面談などの措置を講じなければならない」とされています。
つまり、労働者またはその配偶者が妊娠または出産をした旨の申し出があった場合、会社の育休制度について知らせ、育休を取得するかどうかの意志確認をすることが義務付けられたということです。
また、申し出をしたことを理由とした不利益な取り扱いを禁止することも、改正で追加されました。
マタハラに対する禁止規定が明文化されたことで、対応もより厳格化していく流れとなります。
マタニティハラスメントの型
ここからは、マタニティハラスメントの2つの型について、具体例を交えながら解説します。
制度等の利用への嫌がらせ型
「制度等の利用への嫌がらせ型」とは、出産・育児・介護に関する制度を利用したことに対して、解雇などの不利益な取り扱いを受けたり、制度などの利用を阻害されたりする言動のことです。
具体的には、以下のような例が該当します。
- 育休取得の申請をしたところ、「代わりの人を入れたいから早く辞めてもらいたい」と言われた
- 育休取得の相談した際に「男のくせに育休を取得するな」と言われ、取得を諦めざるを得なかった
- 妊婦健診を受診するために休暇の取得を申し出たところ、「病院は休日に行くべきだ」と言われ、取り合ってもらえなかった
状態への嫌がらせ型
出産・育児などによる就業状況の変化に対して、不利益な取り扱いを示唆されたなどの嫌がらせとなる言動を行うことが、「状態への嫌がらせ型」です。
具体的には、以下のような例が該当します。
- 妊娠したことを報告したところ、上司に「契約を打ち切りするぞ」と言われた
- 「妊婦はいつ休むかわからないから」という理由で、雑務を押し付けられるようになった
- 同じ職場の仲間たちに、「忙しい時期に妊娠するなんてあり得ない」などの心もとない言葉を言われた
マタニティハラスメントの具体的な事例
マタニティハラスメントの具体例を紹介しましたが、ここからは裁判にまで発展した事例を解説します。
広島中央保健生協事件(マタハラによる不利益取り扱いが無効であることを示した最高裁判例)
マタハラによる不利益取り扱いが無効であることが、初めて最高裁判例で示された事件です。
副主任の理学療法士の女性が、妊娠していることを申し出たことで軽易な業務への転換措置を受けていたが、その際に副主任からの降格を受け、出産後の休業から復帰した後も、副主任に復帰できませんでした。
この副主任への降格処分が違法なものであり、無効であるかどうかが争われました。
最高裁判所は、妊娠などを理由に解雇やそのほかの不利益な取り扱いをすることは、男女雇用機会均等法の規定に違反するものとして、女性の降格を無効とする判決を下しました。
この判例が、現在にいたるマタハラに対する考え方(妊娠・出産などを理由として不利益な取り扱いをすることは無効とする考え方)の定着につながった重要な事例となっています。
ツクイ事件
妊娠したことを所属長に報告し、業務の軽減についての配慮をするように求めたにも関わらず、軽易な業務へ転換させる配慮を行わなかったことがマタハラに該当するとして、会社を訴えた事件です。
所属長は「労働者が妊娠を理由として、業務の軽減を申し出ることは許されない」といった趣旨の発言や「流産しても働く覚悟を持って働くべき」といった趣旨の発言をしていたことや、申し出を受けたときから約4カ月間、何の措置も行わなかったことなどがマタハラに該当するという判決が下されました。
マタニティハラスメントへの対策
では、職場でのマタニティハラスメントの発生を防ぐためには、どのようなことを行えばよいのでしょうか。
事業主が行うべき対策について解説します。
1.マタハラに対する就業規則の作成
育児介護休業法は企業の規模を問わず、すべての企業に適用される法律です。
中小企業でも、妊娠・出産・育児休業などを取得する者に対する配慮などについて、就業規則に規定して、従業員に周知させることが大切です。
2.マタハラに関する相談窓口の設置
マタハラの被害者が相談できる窓口を設置し、公正・中立な立場で事実関係を確認して、初期の段階で解決するための体制を整えることも必要です。
マタハラだけに限らず、すべてのハラスメントに対する窓口を一元化するのが望ましいでしょう。
3.マタハラ被害者に対する適切な対応
マタハラに対する相談があった場合に、相談者やマタハラに関する事実確認の協力者に不利益な取り扱いを受けないようにすることも、事業者の責任です。
相談窓口の担当者や専門の産業医、カウンセラーと人事担当が連携して、適切な解決手段を選択しましょう。
マタニティハラスメントについてのまとめ
マタニティハラスメントは、妊娠・出産・育児に関する不利益な取り扱いや嫌がらせを意味します。男女雇用機会均等法や育児・介護休業法の改正によって、事業者の責任が大きく問われるようになりました。
マタニティハラスメントの発生による影響は、被害者や職場環境だけに留まりません。会社自体が従業員に訴えられるリスクも生じます。就業規則の作成や、相談窓口の設置といった対策を怠らないようにしてください。
【書式のテンプレートをお探しなら】