パワハラとモラハラの違いとは? 具体例や特徴、企業にできる対策方法を解説
パワハラとモラハラは、名称は似通っていますが、その意味には明確な違いがあります。
しかし、それぞれの意味を正確に理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。
今回は、パワハラとモラハラの違いと、それぞれの具体例を解説します。
社内でハラスメント対策に従事されている方はぜひ参考にしてください。
パワハラとモラハラの意味の違い
まずは、パワハラとモラハラのそれぞれの意味と違いについて解説します。
パワハラとは
パワーハラスメントとは、職場において
①優越的な関係に基づいて行われる言動
②業務の適正な範囲を超えた言動
③身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害する言動
以上3つの要素すべてを満たす、いじめや嫌がらせ行為のことです。(労働施策総合推進法第30条の2第1項)
パワハラは、上司から部下に対するものだけはありません。
たとえば、知識や経験が豊富な社員が新任の上司に対して行われる場合や、同僚から集団で行われる場合も含まれます。
モラハラとは
モラルハラスメントとは、道徳や倫理に反する、精神的な嫌がらせを意味します。
身体的な暴力行為には及びませんが、言葉や態度で相手に不快な思いをさせ、精神的なダメージを与える行為です。
モラハラの場合は上司から部下に対してのみならず、同僚の間や後輩から先輩、家庭内など、あらゆる人間関係で起こりえます。
特徴・言動で見るパワハラ・モラハラの違い
ここからは、パワハラとモラハラの違いをそれぞれの特徴や言動から見ていきましょう。
パワハラの特徴や言動
パワハラは、「業務上必要かつ相当な範囲を超えている場合」に限り成立すると考えられています。
単純に自分のミスを上司に注意されたというだけでは、パワハラにはなりません。
職場でのパワハラの状況はさまざまですが、厚生労働省は代表的な6類型を挙げています。
1.身体的な攻撃:暴行、傷害
殴る、蹴る、突き飛ばす、物を投げつける、胸ぐらをつかむなど
2.精神的な攻撃:脅迫、名誉棄損、侮辱、暴言
皆の前でミスを大声で長々と言われる、「給料泥棒、役立たず」と言われるなど
3.人間関係からの切り離し:隔離、仲間外し、無視
挨拶も会話もしてくれない、仕事を教えない、必要な情報を与えない、社内イベントに一人だけ誘われない、一人だけ別室で仕事をさせるなど
4.過大な要求:業務上明らかに不要な事や遂行不可能な事の強制、仕事の妨害
終了間際に多くの仕事を毎回押し付ける、休日出勤や残業をしても終わらない業務の強要、達成不可能なノルマを課すなど
5.過小な要求:業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
買い物や掃除だけしか与えない、短時間で終わってしまう仕事しかさせないなど
6.個の侵害:私的な事に過度に立ち入ること
交際相手や家族のことを根掘り葉掘り聞く、性自認・病歴・宗教等の個人情報をほかの従業員に漏らすなど
モラハラの特徴や言動
厚生労働省では、職場のモラルハラスメントを「言葉や態度、身振りや文書などによって、働く人間の人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせて、その人間が職場を辞めざるを得ない状況に追い込んだり、職場の雰囲気を悪くさせること」であるとしています。
パワハラの6類型のうち身体的攻撃以外の5つの類型は、モラハラにも相当します。
また、パワハラの項目で挙げた例以外の具体例としては、下記のような言動が挙げられます。
- 容姿や人格、能力の否定
- 暴言や悪口、陰口を言われる
- 理由もなく不機嫌な態度を取られる
- 舌打ちやため息、軽蔑の眼差しなどの非言語的メッセージ
企業にできるパワハラ・モラハラ対策
それでは、ここからは具体的に企業ができるパワハラ・モラハラ対策を紹介していきます。
社内に相談窓口を設置する
社内にハラスメントの通報や相談窓口を設置することによって、ハラスメントの予防や従業員の安心につながります。
できるだけ初期の段階で気軽に相談できる仕組み作りが大切です。
相談担当者として、男女とも含めた複数の担当者を選任し、ハラスメントや人権問題に関して十分な知識と理解のある人物がよいでしょう。
たとえば、次のような人物が候補となります。
- ハラスメント相談員として選任した管理職や従業員
- 人事労務担当部門
- コンプライアンス担当部門、監査部門、人権(啓発)部門、法務部門
- 社内の診察機関、産業医、カウンセラー
- 労働組合
ただ、相談窓口体制を整えるだけでなく、下記のような内容の従業員への周知も必要です。
- 相談者のプライバシーが確保できる部屋を準備していること
- 相談内容の秘密が守られること
- 相談者が不利益な取り扱いを受けないこと
- 相談対応の流れが解りやすいこと。相談窓口の役割や解決までの流れ、会社のパワーハラスメントに対する方針(パワハラは許さない等)などの説明
社内で相談窓口を設けられない場合は、外部機関に相談対応を委託する方法もあります。
相談は面談だけでなく、電話やメールなどの複数の方法でもできるようにするとよいでしょう。
相談窓口の担当者に対し、相談対応に関する研修を実施したり、マニュアルを作成することも重要です。
就業規則に明記する
社則や就業規則に、ハラスメントの定義や禁止事項、ハラスメント行為者への懲戒の種類・事由、相談対応などに関する社内ルールを明文化しましょう。
ハラスメントを許さないという毅然とした取り組みを示すことが予防効果につながります。
なお、就業規則を変更した場合は、その内容の周知が義務付けられています。従業員への説明会や文書の配布などで周知が必要です。
就業規則に盛り込む具体例は、厚生労働省の下記資料を参考にしてください。
ハラスメント研修を実施する
ハラスメント研修を提供している外部組織の講師を招くなどし、研修でハラスメントに関する正しい知識を身につけることも予防に有効です。
社員だけでなく非正規労働者も含め、従業員全員が受講し、定期的に繰り返し実施することで、ハラスメントの予防意識を高める効果が期待できます。
新入社員や中途入社の従業員には入社時に研修や説明を行うようにするとよいでしょう。
管理職と一般従業員に分けた階層別研修がより効果的です。
研修内容には、企業トップのハラスメントに対するメッセージや、社内ルール、取り組み内容、具体的な事例を含めることがポイントです。
なお、厚生労働省の運営サイト「あかるい職場応援団」では、管理者と労働者の階層別に研修資料や自習用テキストをダウンロードできます。
それらを用いて人事担当者が講師を務めて社内研修を実施するのもよいでしょう。
各研修資料は企業に応じて文章をアレンジして使えるようなパワーポイント資料になっており、そのまま使えるので便利です。
また、同サイトには、パワハラの6類型、パワハラ回避のための指導動画、パワハラ相談対応の仕方をまとめた相談動画などもダウンロードできる画面もありますので、社内研修に活用してください。
経営方針として企業トップがメッセージを発信
企業のトップが経営方針として、ハラスメントに対する会社の姿勢を明確に示すことが重要です。
企業トップ自らがハラスメントに対する取り組みを発信することによって、ハラスメントを受けた従業員やその周囲の従業員も問題の指摘や解消に向けての発言がしやすくなりますし、予防効果がより強く期待できます。
メッセージに盛り込んだ方がよい内容は次の通りです。
- パワハラは重要な問題である
- パワハラ行為は許さない、見過ごさない
- パワハラ行為をしない
- パワハラ行為をさせない、放置しない
- 会社としてパワハラ対策に取り組む
- トップ自らパワハラ対策に取り組む
- 今年度、重点的にパワハラ対策に取り組む
- 従業員の意識向上を求める
- パワハラがあったら相談を
- 相談者等に不利益な取り扱いをしない
- 相談者等のプライバシーは守る
- 人権等の尊重
従業員への周知・啓発
ハラスメントに対する企業の方針や取り組み、相談窓口に関して、ポスターやパンフレット、社内報、ホームページなどで従業員に周知し、啓発に努めることも重要です。
「あかるい職場応援団」のサイトではポスターもダウンロードすることができますので、活用するといいでしょう。
また、相談窓口の存在や取り組みをアピールするために、従業員に名刺大の携帯用カードを配布している例もあります。
社内アンケートの実施
社内における従業員のパワハラに関する意識や実態を把握し、予防対策に取り組むためにアンケートを実施することも重要です。
より正確な実態把握や回収率を上げるためには匿名での実施が効果的です。
また、パワハラ対策実施後の効果を把握するための調査として、事後アンケートも実施するとよいでしょう。
アンケート実施マニュアルは、厚生労働省のハラスメント総合情報サイト「あかるい職場応援団」からもダウンロードすることができます。
パワハラとモラハラの違いに関するまとめ
パワハラとモラハラは、いずれも人に対する嫌がらせ行為です。
ただし、パワハラは知識や経験が豊富な社員が新任の上司に対して行われる場合や、同僚から集団で行われる場合など、優越的な関係に基づいて行われる言動を意味します。
それに対してモラハラは、同僚の間や後輩から先輩、家庭内など、あらゆる人間関係で起こりえます。
職場でのパワハラ・モラハラ対策には、相談窓口の設置や研修の実施が有効です。従業員が安心して働くために、適切なハラスメント対策を実施しましょう。
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