循環取引とは? グループ内で行う仕組みや罰則となる基準を簡単に解説
循環取引は金融商品取引法違反や、詐欺罪などの犯罪に該当する可能性があります。
循環取引とは、同じグループ内の企業間で商品やサービスを買い取り合う不正会計の1つです。
経営層や法務担当者の方は、自社で不正会計が行われないよう、循環取引の概要と罰則、企業の対策例を知っておきましょう。記事の後半部分では、循環取引の判例も紹介します。
本コラムを読むことで、循環取引を防ぐために企業がすべき対策がわかるので、ぜひ最後までご覧ください。
循環取引とは
循環取引は不正会計に当てはまる取引ですが、具体的な仕組みや目的はどのようなものなのでしょうか。
循環取引の全体像と目的を見ていきましょう。
グループ内で循環取引を行う仕組み
循環取引とは複数の企業がお互いに商品や、サービスを売買しあうことで、会社に架空売上や不正利益が計上されるケースが一般的です。
たとえば、A社、B社、C社の3社を1つのグループで循環取引を行ったとしましょう。
- A社の商品を、B社に300万円で架空販売
- B社が300万円で仕入れた商品を、C社に330万円で架空販売
- C社が330万円で仕入れた商品を、A社に360万円で架空販売
実際、商品は売買されていませんが、この取引が複数回繰り返されると3社間で伝票のみを回す架空販売が行われます。
循環取引が問題とされる理由
循環取引が問題とされる主な理由は、不正会計に繋がる点です。循環取引を行うことで、帳簿上の売上や利益を簡単に水増しできます。
また、循環取引の際に手形を利用することで、短期的な資金調達が可能になることも大きな問題です。
以下では、循環取引の問題点として、売上高の水増しと短期的な資金の増額について説明します。
売上高の水増し
循環取引で商品やサービスの買い取り代金が売上高として計上されるため、取引先との取引量を増やし、売上高を水増しできます。実際の売上は増えていないため、実態に合わない業績(売上高や利益)を作り出すことになるのです。
融資審査や株価に影響がないよう、損失を隠す際にも循環取引が用いられます。
短期的な資金の増額
循環取引で行われる架空取引の売上代金は、手形を用います。その手形を金融機関へ提出し割り引くことで、短期的な資金を入手できます。
手形とは一定期間を過ぎたら、金融機関で現金化できる証書ですが、2026年度末には紙の手形は廃止され電子化される予定です。
循環取引に対する罰則と判断基準
循環取引に対する罰則と、その判断基準をまとめました。
金融商品取引法違反
循環取引で虚偽の売上を決算に反映させた場合、開示書類の虚偽記載として金融商品取引法違反になります。上場企業は毎朝、正しい決算内容を公表しなければなりません。
開示書類に虚偽の情報を記載した人には、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方が科されます。
また、法人の代表者か代理人、使用人その他の従業者が、開示書類へ虚偽記載した場合、法人に7億円以下の罰金が科されます。
(出典:金融商品取引法 第197条第1項)
(出典:金融商品取引法 第207条第1項第1号)
特別背任罪
役員が自身もしくは第三者の利益のため、または企業に損害を加える目的で任務に背く行為をし、企業に財産上の損害を与えた場合には特別背任罪に該当します。
循環取引で企業の信用を失墜させた場合や、循環取引が金融商品取引法違反の粉飾決算に当たる場合にも、担当役員の特別背任罪が成立する可能性があるでしょう。
特別背任罪の法定刑は、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金または、その両方が科されます。
(出典:会社法 第960条第1項)
詐欺罪
次の2つのケースでは、詐欺罪が成立するかもしれません。
- 循環取引で粉飾決算し、財務状況をごまかして金融機関から融資を受けた
- 社員が虚偽の請求書を使って循環取引を行い、自社や取引先から売買代金を騙し取った
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役です。
(刑法 第246条)
循環取引が合法・ならないケースはあるのか?
循環取引と見なされたら、まず合法となるケースはありません。循環取引が発覚した時点で、前述の罰則のいずれかに該当すると考えて良いでしょう。循環取引は、税務調査や内部告発、取引先からの通報により発覚することが多いです。
また、循環取引に繋がりやすい取引として、介入取引と仲間取引があります。
介入取引とは、既に商品や金額、決済日などが決まっている取引に、信用と資金力がある第三の企業が介入する取引のことです。仲間取引は、卸売業者同士のように同業他社の間で行われる取引を指します。
この2つの取引は、必ずしも違法とはならないものの、循環取引の温床になりやすく、不正会計を疑われやすい取引です。
循環取引が起こりやすい業界
循環取引は、基本的にどんな業界・業種でも起こりえます。ですが、冷凍食品や化学製品といった劣化しにくい商品を対象とする循環取引は多いと言えるでしょう。
特に、IT業界はソフトウェアやプログラムといった無形資産を商品とする性質上、循環取引が起こりやすい業界です。
IT業界では、目に見えない商品・サービスを取引するため、基本的に有形のモノの移動が発生しません。そのため、他業界に比べて循環取引が発生しても、その実態が掴みにくいという特徴があります。
また、IT業界は商品の特性のほか、仲間取引の習慣が存在するのも、循環取引が起こりやすい理由と言えるでしょう。
循環取引を防ぐために企業がすべき対策
循環取引を防ぐために企業がすべき対策をまとめました。
- 取引の権限を特定の人物にしない
- 内部の監視体制を強化する
- 取引開始基準を厳格化する
- 定期的な外部監査の実施
それぞれ解説します。
取引の権限を特定の人物にしない
取引の権限を一人の個人や、一部の少数の人々に集中しないように分散させることが、最も効果的な対策法です。取引の権限が一つの場所に集中しすぎると、不正行為がしやすい環境になるためです。
また、取引権限の分散は長期的で健全な事業の運営を保証し、不適切な行為が発生した場合でも迅速に対応できます。
内部の監視体制を強化する
循環取引を防止するためには、企業の内部監査体制の強化も効果的です。内部監査では、企業内で行われる取引や経営活動を定期的にチェックし、不正な行為や不適切な取引が発生していないかを確認します。
内部監査体制を強化することで、従業員が法律や企業の方針に従って行動することを確認し、可能な問題を早期に特定して対処できます。
取引開始基準を厳格化する
企業が取引を開始する基準を厳格化すると、循環取引を防止できるでしょう。具体的には次の2点が挙げられます。
- 取引商品の必要性を確認:循環取引は多くの場合、必要性の有無にかかわらず、架空の商品やサービスを用いて行われるためです。
- 商品が末端ユーザーに届いているか確認:仮に商品がユーザーに届いていなければ、循環取引の可能性があります。
定期的な外部監査の実施
外部監査は、第三者が企業の財務状況や取引の正確性を確認しますので、循環取引を防ぐために有効な手段です。
場合によっては、内部での監査だけでは、企業が自身の取引を適切に評価しているかどうかを保証することは難しいかもしれません。
外部の監査人の監査を定期的に受けることで、企業の取引の透明性を保つことが可能となります。
実際にあった循環取引の事例・判例
循環取引の事例を2つ紹介します。
加ト吉事件
加ト吉事件は、かつて冷凍食品大手の企業であった「加ト吉」が中心となり発生した循環取引です。加ト吉の元常務が主導し、6年間にわたり約985億円(不正取引高)を計上する不正行為が行われました。
複数の取引先との間で、帳簿上だけで売買を繰り返す循環取引が行われるといった内容です。
その結果、冷凍食品大手の加ト吉は創業社長が引責辞任する事態となり、さらには元幹部による刑事事件に発展しました。
メディア・リンクス事件
メディア・リンクスが取り扱った情報システムの商品は、いくつかの企業間で売買され、販売元のメディア・リンクスへ戻るという循環取引が行われました。
2003年度の決算において、メディア・リンクスは約1650億円の売上高を報告しましたが、その内約1400億円が架空の循環取引によるものだったことが後に発覚します。
メディア・リンクスは2004年5月に株式市場からの上場除外となり、前任の社長は証券報告書に虚偽の記述をしたという罪で逮捕され、2005年に行われた裁判の結果、3年半の実刑を宣告されました。
循環取引についてのまとめ
不正会計の1つである循環取引は、グループとなった複数社の企業が商品を取引し合い、架空の売上を計上します。
場合によっては刑事責任や民事責任を問われ、法的な処分を受けるかもしれません。この記事を参考にしながら、循環取引の防止策を自社に導入してみてはいかがでしょうか。
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