会社更生法とは? 適用会社やメリット・デメリット、流れをわかりやすく解説
「会社更生法」は、株式会社が自社の経営再建の手続きをするために利用する法律です。
会社更生手続きは、裁判所に申し立て、選任の管理者と綿密な計画の元、厳格に進められます。会社更生法に即した手続きにより見事に経営再建を果たした国内企業も多く、経営難に陥った際の選択肢となるでしょう。
会社更生法の概要や、メリット・デメリット、手続きの流れなどを解説します。
会社更生法とは?
会社更生法とは、株式会社のみを適用対象とする法律です。よく似た法律である「民事再生法」の違いとともに、概要を解説します。
法律の概要
会社更生法とは、株式会社の経営再建を目的に制定された法律です。会社としての名前や形態を残したまま経営再建を行う、「会社再建型」の手続き(会社更生手続き)ができます。
対象となるのは、経営に行き詰まっているものの、再建の見込みのある株式会社です。条文では、会社の更生計画の策定や、再建のための具体的な手続きを定めています。
会社更生法が適用されると、その会社の経営権は裁判所から選任された「管財人」へ移行します。経営陣は退陣となり、以降は管財人の管理の下で事業再建を目指していくことになるのです。
民事再生法との違い
名前がよく似た法律に「民事再生法」がありますが、この法律と会社更生法とでは対象となる会社や、手続きの内容が異なります。
会社更生法は株式会社のみを適用対象としていますが、民事再生法は個人事業主から大企業までを対象としています。また、会社更生法では裁判所が選定した管財人が経営権を引き継ぎますが、民事再生法の場合は現在の経営陣が引き続き経営権を掌握します。
他にも違いはいくつかありますが、簡単にまとめれば会社更生法のほうが民事再生法よりも厳格であり、手続きも複雑だということが言えるでしょう。
会社更生法が適用される会社
会社更生法が適用される会社は株式会社であることが前提ですが、それ以外にもいくつかの条件があります。会社更生法が適用される会社の条件を解説します。
条件1.債務超過または支払不能に陥っている
まず、会社が「債務超過」や「支払不能」に陥っていることが挙げられます。支払不能とは、以下のような状態を指します。
- ある債務の返済期日が来ているのに、会社に支払能力がなく返済できない
- ある債務の総額を返済できるだけの支払能力がない
- 客観的に見て、支払能力がないと見なされる
会社が債務超過または支払不能になっている場合、破産の危機に瀕していると言えます。そうした状況の会社に会社更生法を適用して会社更生手続きをすることで、破産を防ぐのです。
条件2.債務の返済により事業が立ち行かなくなる
支払能力があっても、債務を返済すると金銭がなくなって事業が立ち行かなくなるケースでも、会社更生法を適用できます。
「債務を返済できなくはないが、返済すると会社の経営が危うくなる」という状態だと思えば良いでしょう。
会社更生法を適用するメリット
会社更生法を適用して会社更生手続きをすることには、以下のようなメリットがあります。
- 会社を残したまま経営再建ができる
- 債務の整理は管財人に任せられる
- 担保権者も担保権を実行することができない
会社を残したまま経営再建ができる
会社更生手続きは、その会社が持っている債務を減らし、経営再建を図るものです。会社の名前や形態は残り、その会社として引き続き営業することも可能です。
もし倒産を選んでしまうと、会社として消滅してしまうことになります。会社を残しつつ経営再建をしたい場合は、会社更生法を適用する意義はあるでしょう。
債務の整理は管財人に任せられる
会社更生手続きが開始されると、会社が保有する債務の整理はすべて管財人が担当します。
会社が抱える債務のなかには、権利関係が込み入っているものもあるかもしれません。そうした自社では対応に手間取りそうな債務の整理も、早急に処理できるでしょう。
担保権者も担保権を実行することができない
会社更生手続きを選択することで、主要な財産を維持できる点も魅力的です。
前述のとおり、会社更生手続きと似た制度として民事再生手続きがあります。いずれも会社を維持することを原則としています。
たとえば民事再生法による手続きの場合、債務者である法人が所有する不動産の抵当権者は、民事再生手続き中でも競売の申立てをして債権の回収を図れます。このため債務者は、経営の根幹となる資産を失うリスクがあるのです。
これに対し、会社更生法による手続きの場合、担保権が設定されている財産も含めて管財人の管理下に置かれます。そのため債権回収がされず、主要な資産を維持できるのです。
会社更生法を適用するデメリット
経営再建のために会社更生法を適用することには、以下のようなデメリットもあります。
- 手続き完了までに時間がかかる
- 費用が高額になりやすい
- 現経営陣が保有する会社の経営権は失われる
手続き完了までに時間がかかる
会社更生法に則った経営再建は、すぐに完了するものではありません。
詳しくは後ほど解説しますが、会社更生手続きの開始から完了までには、多くの関係者が携わります。そのため、早くても1~2年はかかると考えておいてください。
費用が高額になりやすい
会社的用法による経営再建には、多額の費用がかかります。実際の費用は会社によりさまざまですが、数千万円かかることも珍しくありません。
ただし、そもそも会社更生は上場企業のように、かなり大規模な法人の再建のための制度です。そうした会社規模であれば、会社更生手続きに必要な費用を支払ってもそれほどの負担とならないのです。
費用が捻出できない中小企業は、民事再生手続きを選択することになるでしょう。
現経営陣が保有する会社の経営権は失われる
会社更生手続きでは、財産の管理や債務の整理はすべて管財人が行います。つまり、原則として現経営陣は退陣を迫られるのです。
ただし現在は、一定の条件の下で現経営陣が管財人となる「DIP型会社更生」というスキームも選択できるようになっています。
会社更生手続きの場合、現在の経営陣が退陣するのが原則ですが、「会社の経営権を維持するため、民事再生手続きを選択する」というケースが増えてしまいました。このため、一定の条件を満たした場合に限り、現経営陣を管財人に選任する、すなわち現経営陣に会社の経営を維持させる「DIP型会社更生」も認められるようになったのです。
DIP型会社更生を行うために必要な条件は、以下のとおりです。
- 現経営陣に不正行為を始めとした違法な経営責任の問題がないこと
- 主要債権者が現経営陣の経営関与に反対していないこと
- スポンサーとなるべき者がいる場合はその了解があること
- 現経営陣の経営関与によって会社更生手続の適正な遂行が損なわれるような事情が認められないこと
経営陣の顔ぶれは変えずに会社更生手続きがしたい場合は、検討してみても良いでしょう。
会社更生手続きの流れ
実際に会社更生法に則って経営再建を進める際は、以下の手順で進めてください。
- 手続き開始を申し立てる
- 更生計画案を提出する
- 更生計画案が決議・認可される
- 権利の変更が行われる
1.手続き開始を申し立てる
まず、裁判所に会社更生の開始を申し立てましょう。その後、裁判所が申し立ての内容を確認して管財人を選定し、手続き開始の可否を判断します。
手続き開始が決定すると、裁判所から手続きに必要な費用である「予納金」の支払いを求められます。その支払いも、済ませてください。もしこの段階で更生手続きが不可と判断された場合は、破産手続きに移行されることもあります。
なお、申し立てをする裁判所に特に定めはありません。会社更生法では、以下の裁判所に申し立てができるとされています。
- 株式会社の主たる営業所を管轄する地方裁判所
- 株式会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所
- 東京地方裁判所または大阪地方裁判所
参考:「会社更生法(第5条1項、2項、6項)」
2.更生計画案を提出する
手続き開始が決定すると、管財人が株式会社の更生計画案を作成します。
これは文字通り、会社の更生をどのように進めていくかを定めるものです。更生債権者や株主といった会社更生に関係する人々の権利の変更や債務の減額などを記載し、管財人から裁判所へ提出します。
3.更生計画案が決議・認可される
提出された更生計画案は、まず裁判所が確認します。そこで形式的に問題がないと判断されたら、関係者集会で更生計画案の決議を行います。この関係者集会は、会社の債権者や株主で構成されるものです。
関係者集会での決議が終われば、再び裁判所に移り、更生計画案が認可されます。この段階で、更生計画案には効力が発生します。
4.権利の変更が行われる
発効した更生計画案に従い、更生債権者や株主の権利変更が行われます。その他に定めた更生計画も順次遂行し、会社の再建を目指しましょう。
以降、更生計画が遂行される、または更生計画で定めていた債権の2/3以上が弁済されると、裁判所から更生手続終了の判断が下されます。これをもって、更生手続きは終了です。
会社更生法の適用における注意点
会社更生法の適用を受け、経営再建に取り組む際に注意したいポイントを解説します。
事前にスポンサーを見つけておく
自社の経営再建を支えてくれるスポンサーを見つけておくことで、会社更生も成功しやすくなります。
会社更生法を利用しての経営再建には、多額の費用がかかります。金銭の出資だけではなく、更生する会社の事業の受け皿となってもらうことも良いでしょう。
スポンサーは、できれば会社更生手続き開始前に見つけておきましょう。
会社再建の手段を検討する
そもそも会社更生法の適用でしか経営再建ができないのかも、よく検討しましょう。
会社を残したまま経営再建がしたいなら、先に紹介した民事再生法が適用できるケースもあります。また、M&Aを行っても良いでしょう。あるいは、破産手続きをして会社を解体することも選択肢としてはあります。
前述のとおり、会社更生法の適用による経営再建には、時間と多額の費用がかかります。さまざまな方法を検討したうえで、利用するかどうかを考えてみてください。
会社更生法を適用した企業事例
会社更生法の適用により経営再建が実現した国内企業は多数あります。ここでは、よく知られる事例を2つ、紹介します。
JAL(日本航空)|戦後4番目の負債総額から復活
大手航空会社のJAL(日本航空)は、会社更生法により経営再建を果たした企業として広く知られています。JALは2010年1月に、会社更生法の適用を申請。当時の負債総額は2兆3221億円で、戦後4番目の規模となりました。
このとき管財人となったのは、国の認可法人である企業再生支援機構でした。機構はJALの会社更生におけるスポンサーにもなっており、資金援助や外国政府への対応もしたのです。
不採算路線の減便や債務の減額などを行った結果、急激に経営状況が改善されました。その後、2011年3月に更生手続きが終了。2012年には株式市場への再上場を果たし、見事に復活を成し遂げたのです。
ウィルコム|他社の子会社になって事業を存続
PHS事業で知られるウィルコムも、会社更生法により再建した企業の1つです。こちらはJALとは異なり、他社の子会社になった点が特徴です。
ウィルコムは、2010年に更生手続き開始の申し立てをしました。負債総額は、通信事業者では過去最大の2060億円。このスポンサーにSoftBankが就任し、管財人の派遣や更生計画の遂行を支援したのです。
その後、料金プランや端末などの拡充を行ったウィルコムは順調に累計契約数を伸ばし、2011年度の第3四半期には黒字化。残っていた更生債権を一括弁済し、2013年には更生手続が終了しました。
その後はSoftBankの連結子会社となりもう1社と合併、現在はワイモバイルとなって通信事業を展開しています。
会社更生法についてのまとめ
会社更生法の適用を受けることは、会社の事業を再建するために有効な手段の1つです。しかし相応の費用や時間もかかるため、必ずしも会社の再建に最適な方法とも言い切れません。
まずは会社の状況をよく確認しましょう。そのうえで、民事再生法や破産手続き、あるいはM&Aなどとともに検討してください。
一般的に、手続きに時間がかかるほど会社の価値も下がっていくものです。最初から最適な手段を選べるよう、慎重に進めましょう。
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