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上場審査で知っておきたい関連当事者取引とは? 開示基準や手順について解説!

上場審査で知っておきたい関連当事者取引とは? 開示基準や手順について解説!

関連当事者取引とは、親会社や子会社・自社の役員など、自社と関係の深い当事者との取引のことです。

企業が上場審査を受ける際、取引の透明性が求められます。

もし、これから上場審査を受ける場合は、「関連当事者取引」の有無やその内容を確認しなければなりません。

上場に際して、どういった対応が必要なのかを解説します。


この記事の監修者
  公認会計士 / SAP-FI認定コンサルタント / 基本情報技術者 

関連当事者取引とは

上場を予定している会社と一定の関係を持つ会社や役員などの人物のうち、会計基準で定められたものを「関連当事者」と言います。

また、関連当事者と企業との取引を「関連当事者取引」と呼びます。

この「取引」に該当するのは以下の2つです。無償で行われる取引も含み、対価の有無は問いません。

  • 資源や債務の移転
  • 役務の提供

参考:企業会計基準委員会 「関連当事者の開示に関する会計基準

関連当事者取引は、実際に上場をする際の審査(上場審査)で、取引の合理性(妥当性)が細かくチェックされます。

もし、不適切な点があった場合は、上場審査に通らなくなる可能性もあります。

そのため、重要な関連当事者取引がある場合は、上場審査前に十分に整理をしておかなければなりません。

関連当事者の範囲

関連当事者の範囲はとても広く、一例として以下のような会社・人物が該当します。

  • 自社の親会社・子会社
  • 自社と同一の親会社を持つ会社(兄弟会社)
  • 自社の関連会社や、関連会社の子会社
  • 自社の主要株主や、その近親者
  • 自社の役員や、その近親者

参考:日本公認会計士協会「関連当事者 - 会計・監査用語かんたん解説集

上記以外にも、企業にとって重要な影響を及ぼす可能性のある会社や人物が関連当事者となり得ます。

関連当事者取引を開示すべきとする理由

関連当事者取引を開示すべきとされるのは、関連当事者が企業の意思決定に関与することで、結果的にほかの株主が不利益を被る可能性があるためです。

関連当事者取引は、取引の過程や内容・条件などが、通常の取引とは異なる場合があります。

「不要な取引をして利益や経費を水増しする」「他社では到底受け入れられないような条件の仕事を無理やりさせる」といった、対等な立場に基づかない取引ができてしまうのです。

加えて、関連当事者取引の条件や内容は、単純に決算数値を見ているだけではくみ取ることができません。

そのため、重要な関連当事者取引がある場合には、財務諸表利用者が会社と関連当事者との取引を、正しく把握できるような開示を行うことが求められています。

こうしたことから、関連当事者取引を解消し、全ての株主が公平に扱われるようにする必要があります。


関連当事者取引の開示基準

関連当事者取引があった場合は全て開示するのではなく、開示基準を満たすもののみ開示を求められます。

開示対象となる取引

開示対象となる関連当事者取引は、以下のうち特に重要なものと定められています。

  • 無償での取引及び低廉な価格での取引
  • 形式的・名目的には第三者との取引であるもの

「無償での取引及び低廉な価格での取引」は、代金をもらわずに行った取引や、時価と比べて非常に低い金額で行った取引のことです。

また「形式的・名目的には第三者との取引であるもの」は、実質的には関連当事者間での取引であるにも関わらず、関連当事者ではない第三者を挟んで行うもののことです。

「海外の関連当事者に自社の物品を送るため、輸出会社を経由する」といったものが該当します。

開示対象外となる取引

一方で、以下のような取引は開示対象外です。

  • 役員に支払った報酬や賞与・退職慰労金
  • 連結財務諸表作成時に相殺された取引
  • 関連当事者取引の条件が、一般の取引における条件と大差がないことが明確な取引

こうした取引は、ほかの方法で開示が可能であったり、その取引が行われても株主に不利益が生じなかったりするため、対象外となっています。


関連当事者取引の開示の手順

関連当事者取引の開示を求められた際は、以下の手順で準備を進めてください。

1.関連当事者を分類整理する

まずは、取引の重要性の判断をするために、自社が行った関連当事者取引の相手を、以下の4つに分類しましょう。

  1. 親会社や法人主要株主
  2. 関連会社
  3. 兄弟会社
  4. 役員や個人主要株主

分類できたら、それを以下のように「法人グループ」と「個人グループ」に整理します。

類できたら、それを以下のように「法人グループ」と「個人グループ」に整理します。

法人グループ

個人グループ

  • 親会社や法人主要株主
  • 関連会社
  • 兄弟会社

役員や個人主要株主

個人グループと法人グループに分けるのは、この後の工程で、個人グループ相手の取引とそうでない取引とで対応が異なる部分があるためです。

2.それぞれの関連当事者取引を把握する

分類した関連当事者それぞれと行った取引の内容を、集計します。

まとめるべき内容は、金融庁が公表している「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」第八条の十に記載されている、以下のような内容です。

  • 関連当事者の名前・所在地・資本金または出資金・事業内容・議決権の所有割合
  • 関連当事者取引の内容・金額
  • 取引条件と、その決定方針

参考:金融庁「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(第八条の十)

名前や所在地は登記簿から、取引金額は会計帳簿から集計してまとめましょう。

なお、個人グループ相手の取引の内容を把握するためには、ある程度の時間がかかると考えておいてください。

個人グループの場合は、相手が役員や株主といった個人になります。内容を確認するにも、調査表を準備しての調査が必要です。

まとめる際の注意点は、金融庁のWebサイトで公開されている「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」で詳しく解説されています。

3.重要性の判断をする

それぞれの関連当事者取引の重要性を判断し、関連当事者取引の一覧表として情報をまとめます。

法人グループと個人グループの重要性の判断基準は、以下のとおりです。それぞれの取引を以下の項目や基準に照らして、重要性がある取引かどうかを判断します。

資料

項目

基準となる金額

法人グループ

個人グループ

損益計算書

売上高

売上高の10%超

1,000万円以上

売上原価

売上原価と販管費の合計の10%超

販売費及び一般管理費

営業外収益

営業外収益の10%超※

営業外費用

営業外費用の10%超※

特別利益

1,000万円以上

特別損失

1,000万円以上

貸借対照表

資産/負債残高

総資産の1%超

1,000万円以上

資金貸借取引・固定資産の購入/売却取引 等

総資産の1%超

事業譲受・譲渡

対象資産・負債のいずれか大きい額が総資産の1%超

いずれかに該当する場合は、関連当事者取引の一覧表に「重要性あり」と明記し、そうでない場合は空欄にするなど、分かりやすい記載にするとよいでしょう。


上場審査で不適切とされる関連当事者取引の具体例

上場審査を受けた際に、不適切と見なされる取引は、次のいずれかに該当している場合があります。

事業上の必要性が認められない

まず、事業上の必要性・合理性が認められないものは不適切とされます。

たとえば、自社の事業計画・経営戦略上は必要ないにも関わらず、毎年赤字を出している店舗を貸借しているといったように、明らかに必要性がないと見なされる取引が該当します。

明らかに取引条件がおかしい

一般の取引と比べて明らかに取引条件がよい、または悪いものも不適切とされます。

たとえば、他社には有償で貸与している土地を、関連当事者には無償で貸与しているといったようなケースが該当します。

経営活動を通じて不当に利益を供与している恐れがある

関連当事者が不当に利益を得ているととらえられる活動も、不適切と判断される可能性があります。

たとえば、以下のようなケースが該当します。

  • 会社名義で購入した不動産や社用車などを、関連当事者が個人的に使っている
  • 関連当事者の個人的な趣味に合わせた調度品や美術品などを、会社名義で多数購入している

関連当事者取引に関するまとめ

上場を考えている場合、関連当事者取引は早々に解消しておかなければなりません。

もし、上場審査時に開示を求められた場合は、開示基準や開示手順に沿って、丁寧に対応しましょう。

ただし、取引相手が個人の場合、法人の場合と比べて時間がかかりやすくなります。ある程度ゆとりを持って、対処してください。


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監修者プロフィール

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赤羽 応介

公認会計士 / SAP-FI認定コンサルタント / 基本情報技術者

公認会計士として10年以上にわたり、監査業務やコンサルティング業務(IFRS導入支援、BPR支援、J-SOX対応支援、システム導入支援等)といった実務に従事。

その他、専門誌への寄稿やセミナー講師等を経験し、ブログ「公認会計士によるわかりやすい解説シリーズ」にて会計、税金、ITに関する情報を発信している。

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