建設業許可を受けるための要件について
1 建設業の許可とは
(1)建設業許可が不要な軽微な建設工事
建設工事の完成を請け負うことを「業」とする場合には、その工事が公共工事であるか民間工事であるかを問わず、原則として、建設業法第3条に基づき建設業の許可を受けなければなりません。ただし、以下のいずれかの要件を満たす「軽微な建設工事」のみを請け負って業とする場合には、例外的に建設業の許可を受けなくてもよいこととされています。
【軽微な建設工事とは】
要件 |
注意すべきポイント |
建築一式工事については、「工事1件の請負代金の額が1,500万円未満の工事」又は「延べ面積が150㎡未満の木造1住宅2工事」 |
●請負代金はすべて税込を基準として考えます ●(原則)工事を2つ以上に分割して請け負うときは、その合計金額を基準と考えます ●材料費も含めて請負代金として考えます |
建築一式工事以外の建設工事については、工事1件の請負代金の額が500万円未満の工事 |
(2)建設業の許可権者
建設業の許可権者は、以下の内容に応じて国土交通大臣又は都道府県知事のいずれかになります。営業所を複数設けた状態で新規で建設業の許可申請をする事例は少ないように思われますので、多くの事例では都道府県知事に対して建設業の許可申請を行っていくことになるものと思われます。
【許可権者による違い】
都道府県知事許可 |
国土交通大臣許可 |
一の都道府県の区域内のみに営業所3を設けて営業しようとする場合 (実際の事務は、営業所の所在地を管轄する都道府県知事が許可申請を審査します) |
二以上の都道府県の区域内に営業所を設けて営業しようとする場合 (実際の事務は、本店の所在地を所管する地方整備局長等が許可申請を審査します) |
(3)建設業許可の種類
建設業の許可の種類としては、下請契約の規模等により「一般建設業」と「特定建設業」に区分されます。 この区分は、発注者から直接請け負う工事1件の金額が4,000万円4(建築工事一式の場合は6,000万円)以上となる下請契約を締結するか否かで区分されます。
上記の区分は、下請に出す場合(発注者側)の制限ですので、元請人から下請負人として工事の受注をする事業者(受注者側)には、特別な制限はありません。なお、下請代金の制限は、発注者から直接請け負う建設工事(元請建設業者)に対するもので、下請けで受けた建設工事をさらに下請け(孫請け)に出す場合には、金額の制限はありません。
なお、新規で許可申請をする場合には、一般建設業許可で足りる場合が多いと思われますので、本稿では一般建設業許可を前提に解説していくこととします。
2 建設業許可を受けるための要件
建設業の許可を受けるためには、建設業法が定める4つの「許可要件」を備えることと「欠格要件」に該当しないことが必要になります。その中でも許可要件の1と2が建設業許可を受ける際の障害になりやすい要件ですので、別途3以降で解説していきたいと思います。
以下では、許可要件の3「誠実性」と4「財産的要件」及び欠格要件について解説します。
許可要件 |
1.建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有する者が関与していること |
2.専任技術者が設置されていること |
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3.誠実性を有すること |
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4.財産的基礎等があること |
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欠格要件 (主要なもの) |
●破産者で復権を得ないもの ●精神の機能の障害により建設業を適正に営むに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者 ●建設業の許可を取り消され、その取消しの日から5年を経過しない者 ●営業の停止を命ぜられ、その停止の期間が経過しない者 ●禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者 ●建設業法等違反により罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者 ●暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者 ●暴力団員等がその事業活動を支配する者 |
(1)誠実性
許可要件における「誠実性」とは、請負契約の締結やその履行に際して不正又は不誠実な行為をするおそれがないことをいいます。建設業法は、「建設工事の請負契約の当事者は、請負契約の締結に際して書面(一定の場合には、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法でも可能)により契約書を作成し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない」旨を定めており(建設業法19条)、この点は誠実性を表した規定の一つとなります。
(2)財産的基礎
次に、「財産的基礎」があるとは、次のいずれかに該当することをいいます。
『財産的基礎』 |
・自己資本が500万円以上であること ・500万円以上の資金調達能力を有すること ・許可申請直前の過去5年間許可を受けて継続して営業した実績を有すること |
建設業の許可を受けるために財産的基礎が必要になるのは、建設工事を着手するに当たっては、資材の購入及び労働者の確保、機械器具等の購入など、一定の準備資金が必要になることや営業活動を行う際にもある程度の資金を確保していることが必要となることがその理由です。ここでは詳しくは触れませんが、特定建設業者は多くの下請負人を使用して工事を施工することが一般的であって、特に健全な経営が要請されることから、特定建設業の許可を受けようとする場合は、一般建設業よりも財産的基礎等の要件は加重されています。
(3)欠格要件
国土交通大臣又は都道府県知事は、許可を受けようとする者が欠格要件に該当するとき、又は許可申請書若しくはその添付書類中に重要な事項について虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けているときは、許可をしてはならないと建設業法で規定されています(建設業法8条)。「許可を受けようとする者」には、許可申請者やその役員等若しくは建設業法施行令第3条に規定する使用人を含むことになりますのでそれらの者が欠格要件の1つでも該当する場合は、許可は行われないことになります。
これまでに説明した(1)から(3)の要件は比較的クリアしやすいもので、実際に建設業許可申請の際に障害となりやすい要件は以下に述べる2つになります。
3 建設業許可を受けるために障害となりやすい二大要件
(1)建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有する者の設置
適正な建設業の経営を期待するためには、建設業の経営業務について一定期間の経験を有した者が最低でも1人は必要であると考えられています。
許可を受けようとする者が法人である場合には常勤の役員のうちの1人が、個人である場合には本人又は支配人のうちの1人が次のいずれかの要件を満たしている必要があります。
【原則的な考え方】
常勤役員の要件 |
該当する者 |
1. 建設業に関し5年以上経営業務の管理責任者としての経験を有する者であること |
●建設業許可を有する法人の役員 ●建設業許可を有さずに軽微な建設工事を業としていた者 |
2. 建設業に関し5年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者(経営業務を執行する権限の委任を受けた者に限る。)として経営業務を管理した経験を有する者であること |
●法人であれば建設業に関する営業所長や工事部長等の管理職 ●個人事業であれば、専従者として事業主を支える配偶者や子供等 |
3. 建設業に関し6年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者として経営業務の管理責任者を補佐する業務に従事した経験を有する者であること。 |
●上記の者のうち、取締役会や事業主から経営業務に関する執行権限を与えられて、実際に経営業務を管理した経験が6年以上ある者 |
【令和2年改正に伴い追加された要件】 常勤役員に加え、常勤役員等を直接に補佐する者を置くことで経営管理責任者と扱うことが可能となります。 |
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常勤役員の要件 |
常勤役員等を直接に補佐する者の要件 |
4. (1)建設業に関し、2年以上役員等としての経験を有し、かつ、5年以上役員等又は役員等に次ぐ職制上の地位にある者(財務管理、労務管理又は業務運営の業務を担当するものに限る。)としての経験を有する者 |
●常勤役員等を直接に補佐する者として、当該建設業者又は建設業を営む者において「財務管理の業務経験」、「労務管理の業務経験」、「運営業務の業務経験」について、5年以上の経験を有する者5 |
4. (2)5年以上役員等としての経験を有し、かつ、建設業に関し、2年以上役員等としての経験を有する者 |
ここでいう「財務管理の業務経験」「労務管理の業務経験」「運営業務の業務経験」とは、以下の経験を指し、それぞれが役員として経験したものも含みます。ただし、これらの経験は、申請を行う建設業者又は建設業を営む者における経験に限られる点に注意が必要です。
財務管理の業務経験 |
建設工事を施工するにあたって必要な資金の調達や施工中の資金繰りの管理、下請業者への代金の支払いなどに関する業務経験 |
労務管理の業務経験 |
社内や工事現場における勤怠の管理や社会保険関係の手続きに関する業務経験 |
運営業務の業務経験 |
会社の経営方針や運営方針の策定、実施に関する業務経験 |
また、令和2年改正において、経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有する者が「適切な社会保険に加入していること」も許可の要件となりましたので、「健康保険(国民健康保険・国民健康保険組合・協会けんぽ・健康保険組合)」、「厚生年金保険」、「雇用保険(労働者が雇用される事業所に限る)」に加入している旨の証明書類の提出も必要となります。
(2)専任技術者の設置
建設工事に関する請負契約の適正な締結、履行を確保するために、許可を受けようとする建設業に係る建設工事について専門的知識が必要になります。そして、見積、入札、請負契約締結等の建設業に関する営業は各営業所で行われますので、営業所ごとに許可を受けようとする建設業に関して、一定の資格又は経験を有した者(専任技術者)を設置することが必要となり、またその営業所に常勤している必要があります。
この専任技術者は、許可を受けようとする建設業が一般建設業であるか特定建設業であるか、また建設業の種類により、それぞれ必要な資格等が異なりますが、一般建設業においては以下の3つのいずれかに該当する必要があります。
【一般建設業における専任技術者】
分類 |
具体例 |
1. 指定学科修了+実務経験6 |
建築学科を卒業した入社4年目の社員 |
2. 許可業種に関する実務経験 |
実務経験として10年以上のキャリアがある社員 |
3. 国家資格者 |
一級建築士や一級建築施工管理技士などの資格保有者 |
①指定学科修了+実務経験
まず、指定学科修了+実務経験の分類については、許可を受けようとする建設業に係る建設工事に関して、高校卒業後5年以上若しくは大学卒業後3年以上の実務経験を有し、かつ、それぞれ在学中に許可を受けようとする建設業に係る建設工事ごとに指定された学科(以下、「指定学科」といいます。)を修めている者であることで、専任技術者の要件を満たすことになります。
また、①許可を受けようとする建設業に係る建設工事に関して、専門学校後5年以上の実務経験を有し、かつ、在学中に許可を受けようとする建設業に係る建設工事ごとの指定学科を修めている者や、②許可を受けようとする建設業に係る建設工事に関して、専門学校後3年以上の実務経験を有し、かつ、在学中に許可を受けようとする建設業に係る建設工事ごとの指定学科を修めている者のうち、専門士又は高度専門士を称するものについても専任技術者の要件を満たすことになります。
なお、ここでいう指定学科とは以下の表7のとおりです。
許可を受けようとする建設業 |
指定学科 |
土木工事業 |
土木工学(農業土木、鉱山土木、森林土木、砂防、治山、緑地又は造園に関する学科を含む。以下同じ。)都市工学、衛生工学又は交通工学に関する学科 |
建築工事業 |
建築学又は都市工学に関する学科 |
左官工事業 |
土木工学又は建築学に関する学科 |
電気工事業 |
電気工学又は電気通信工学に関する学科 |
管工事業 |
土木工学、建築学、機械工学、都市工学又は衛生工学に関する学科 |
鋼構造物工事業 |
土木工学、建築学又は機械工学に関する学科 |
しゅんせつ工事業 |
土木工学又は機械工学に関する学科 |
板金工事業 |
建築学又は機械工学に関する学科 |
防水工事業 |
土木工学又は建築学に関する学科 |
機械器具設置工事業 |
建築学、機械工学又は電気工学に関す学科 |
熱絶縁工事業 |
土木工学、建築学又は機械工学に関する学科 |
造園工事業 |
土木工学、建築学、都市工学又は林学に関する学科 |
さく井工事業 |
土木工学、鉱山学、機械工学又は衛生工学に関する学科 |
建具工事業 |
建築学又は機械工学に関する学科 |
②許可業種に関する実務経験
専任技術者を設置するのは、建設業に係る建設工事について専門的知識が必要となることがその理由です。そのため、前記(1)や後述する(3)国家資格者以外でも、一定期間以上の実務経験を有しているのであれば、専門性の部分については問題ないであろうという理解のもと、許可を求める業種について過去に10年以上の実務経験が存在するのであれば、その者を専任技術者とすることが認められています。
ただし、10年以上の実務経験をもとに専任技術者となるためには、10年以上実務を経験していたことを証明する必要があります。許可申請時に提供する証明用の資料としては、「請負契約書」や「発注書」など工事内容を明らかにする資料と工事が完了したことにより請負代金が入金された「預金通帳」等の入金記録を明らかにできる資料が必要になりますが、多くの場合は請負契約書の作成をしておらず、注文書や発注書もところどころ廃棄されていることもあり、継続的に建設業の実務を行っていたことを証明できない場合もありますし、請求書と入金記録で工事の実績を証明しようとしても、10年前のものを廃棄していることも珍しくはありません。これらのことからも、実務において10年以上の実務経験を証明する資料を管理することは、困難である場合が多く、意識的に管理するようにしなければ、資料を保管していないことの方が多いものと思われます。いずれにしても、これらの資料を用意できないなどの理由から、建設業の許可申請自体を諦めざるをえないケースも少なくありませんので、10年以上の実務経験をもとに専任技術者の要件を満たそうとする場合には、十分な準備が必要になります。
以上のことからも建設業許可を円滑に受けたいのであれば、次に述べる国家資格者となることがお勧めです。
③国家資格者
以下に記載8する国家資格者等に該当する場合には、その建築業種への知識・理解・専門性があることが認められますので、即座に専任技術者の要件を満たすことになります。また、一級建築士や二級建築士、一級建築施工管理技士や二級建築施工管理技士(種別:仕上げ)などの資格保有者は、その資格を保有することで複数の建築業種の専任技術者になることが可能となりますので、建設人材として重宝される存在となります。
まずは、自身が許可を受けたい建築業種の国家資格が何であるかを確認したうえで、それらの資格取得のための準備を進めていくことが、建設業許可を早期に受けるための近道となることは間違いありません。
なお、国家資格者を雇用し、それらの者を専任技術者として設置すること自体に、もちろん問題はありませんが、経営業務の管理責任者と同様、専任技術者の設置も許可要件の1つとなりますので、許可を取得した後に専任技術者が不在となった場合は建設業許可の取消しの対象等になることを理解した上で、後任者の準備も進めていくことが事業を運営していく中では必要なことにも留意すべきです。
1 木造とは、建築基準法第2条第5号に定める主要構造部が木造であるものをいいます。
2 住宅とは、住宅、共同住宅及び店舗等との併用住宅で、延べ面積が2分の1以上を居住の用に供するものをいいます。
3 営業所とは、本店または支店もしくは常時建設工事の請負契約を締結する事務所をいい、これら以外であっても、他の営業所に対して請負契約に関する指導監督を行うなど、建設業に係る営業に実質的に関与する場合も、営業所に該当します。ただし、単に登記上本店とされているだけで、実際には建設業に関する営業を行わない店舗や、建設業とは無関係な支店、営業所等は、ここでいう営業所には該当しません。
4 特定建設業許可が必要となる下請契約の締結に係る金額については、平成28年6月1日より、金額が変更となっています(建築工事業の場合は4,500万円だった要件が6,000万円に、それ以外の場合は3,000万円だった要件が4,000万円に引き上げられています)。
5 1人が複数の経験を兼ねることが可能です。
6 実務経験とは、建設工事の施工に関する技術上のすべての職務経験をいい、ただ単に建設工事の雑務のみの経験年数は含まれません。ただし、建設工事の発注に当たって設計技術者として設計に従事し、又は現場監督技術者として監督に従事した経験、土工及びその見習いに従事した経験等も含めて取り扱うものとされています。
7 国土交通省ホームページから抜粋
8 国土交通省ホームページから抜粋