本当に「日本初」?~宣伝広告の注意点~
商品やサービスを開発した際に行う宣伝広告では、「日本初」や「日本一」などの、消費者の目を引くであろう、センセーショナルな文言を使いたくなるものです。
しかし、このような宣伝文句を不用意に使ってしまうと、場合によっては「景表法」に抵触して、大きなペナルティを科されてしまいます。そうなれば、金銭的損害はもちろん、会社の信用も著しく損なう結果に陥るでしょう。
このようなトラブルを避けるためにも、宣伝広告を作る際には、法律に反していないかを、十分に検証しなければなりません。
本記事にて、注意点をチェックしておきましょう。
つかさ商事の文具開発・広報担当の堀田と申します。先生、聞いてください。すごい新商品を開発したんですよ!
おぉ!それは興味深いですね。いったいどんな商品を開発したのでしょうか?
当社は日本初の技術を用いて、殺菌率99%のボールペンの開発に成功しました。これはもう宣伝するにあたって、「日本初の技術を使用!」と、日本初であることを強く消費者にアピールしていきたいと思っています。
殺菌率99%もさることながら、日本初の技術とは凄いですね!う~ん、ただ、失礼ながらその技術は本当に日本初のものか確認は取りましたか。もしも日本初でなければ、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます。)5条1号の「優良誤認表示」になってしまうおそれがありますよ。新型コロナウイルスに対する予防効果を標榜する商品については、消費者庁から注意喚起もされています1。
第五条
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
- 一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
・・・以下略・・・
うーむ、条文ですと何が何やら…。どのような広告だと優良誤認表示として問題になるのでしょうか?
「著しく優良である」と示す表示、つまり優良誤認表示は、一般消費者に対し、表示の内容全体から、表示の誇張の程度が社会一般に許容される程度を超えて、商品の選択に影響を与えるものかどうかが、判断の基準とされています。本当に日本初の技術ならば消費者に強くアピールできますが、それゆえに、もし日本初でなければ消費者の選択に影響を与えたとして「優良誤認表示」になるでしょう。
広報室で調べているはずですが、念の為確認しておきます。仮に、優良誤認表示だとされた場合は、どうなるのでしょうか?
もしも優良誤認表示だった場合、広告が景表法に違反していたことの告知等をする措置命令(景表法7条1項)や、課徴金を納付する命令(景表法8条)がされてしまいます。
第七条
内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。
第八条
事業者が、第五条の規定に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く。以下「課徴金対象行為」という。)をしたときは、内閣総理大臣は、当該事業者に対し、当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に百分の三を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
これは厳しいペナルティですね…。
でも、優良誤認表示かどうかなんて、私たちではなくおかみが判断するところでしょう。広告はインパクトが大事ですし、他社に先を越されても困るので、とりあえず宣伝してみて後から考えれば良いんじゃないですか。
いやいや、措置命令で失う社会的信頼や、課徴金納付による経済的損失はリスクが大きいですから、ここは慎重に検討しましょう。それに消費者庁は、「優良誤認表示」か疑わしい表示には、その裏付けとなる資料を15日以内に提出するよう、事業者に求めることができます(景表法7条2項、8条3項、景表法施行規則7条2項)。
景表法 第七条
- 2 内閣総理大臣は、前項の規定による命令に関し、事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。
景表法 第八条
- 3 内閣総理大臣は、第一項の規定による命令(以下「課徴金納付命令」という。)に関し、事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示と推定する。
景表法施行規則 第七条
消費者庁長官は、法第七条第二項又は第八条第三項の規定に基づき資料の提出を求める場合は、次に掲げる事項を記載した文書を交付して、これを行うものとする。
一 事業者の氏名又は名称
二 資料の提出を求める表示
三 資料を提出すべき期限及び場所
- 2 法第七条第二項及び第八条第三項に規定する期間は、前項の文書を交付した日から十五日を経過する日までの期間とする。ただし、事業者が当該期間内に資料を提出しないことについて正当な事由があると認められる場合は、この限りでない。
エーッ!たった15日なんですか。あらかじめ資料を用意しておかないと、15日じゃとても出せないですよ。
そうですね。事前に揃えておかないと、資料の提出は難しいと思います。根拠資料のデータをもとに広告をしているのだから資料はすぐに出せる、ということが前提となっているのでしょう。それに、先程の条文のとおり、資料を提出しない場合はもちろん、提出してもその資料が合理的な根拠でなければ、優良誤認表示として取り扱われます(景表法7条2項、8条3項)。
現に、日本初を広告で謳ったものの、その裏付けとした資料が合理的な根拠でなかったとして、優良誤認表示だったと公表すること等の措置命令を受けた事例もあるんですよ2
本当だ。…ちなみに、合理的根拠ってどんなものでしょう?当社の広告も合理的根拠に基づいて作成しているはずですが。
消費者庁のHP3 やこれまでの処分事例等を見る限り、消費者庁は、「不実証広告規制に関する指針」に沿って判断しています。指針では、合理的根拠は以下の2つを満たすことを求めていますね。
- 提出資料が客観的に実証された内容のものであること
- 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること
今回の場合ですと、日本初の技術であると第三者機関が調査したことや、一般的又は専門家の多数が認めるような方法で御社が調査したことを示す資料が、客観的に実証されたものとして考えられます。
ありがとうございます。当社の調査手法について、確認しておきます。
では、それらの資料が揃いましたら、広告と合わせて一度拝見させていただければと思います。
ぜひよろしくお願いします。