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事例で学ぶ!民法改正の実務 Q&A 【所有者不明土地問題に対応】 相続等により取得した土地を手放すには ~相続土地国庫帰属法の解説~

著者: 日本大学商学部准教授、弁護士  金澤 大祐

事例で学ぶ!民法改正の実務 Q&A 【所有者不明土地問題に対応】 相続等により取得した土地を手放すには ~相続土地国庫帰属法の解説~

1 はじめに

令和3年4月21日、所有者不明土地問題に関する民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)及び相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)(以下、合せて「改正法」といいます)が成立しました。

改正法は、近時、問題となっていた所有者不明土地に対処するために制定されたものですが、所有者不明土地問題を契機として、民法上の共有や相続に関する規定も改めており、コロナ禍で話題になることが少ないですが、実務上、重要な法改正となっています。

そこで、本稿では、改正法のうち、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(以下「相続土地国庫帰属法」といいます)について、Q&Aをとおして、解説していくことといたします。


2 Q&A

Q:Xの実家は地方にありましたが、Xは大学進学時に上京して、就職し、実家とは離れた都市で生活をしていました。そうしたところ、実家に住んでいた父A、母Bが相次いで亡くなり、やはり実家からは遠方に住む弟Yとともに、遺産の分割を行うこととなりました。

XとYは、AとBの預貯金やAとBが居住していた土地建物の分割を行いました。もっとも、AとBが農業を営んでいた田畑は、XとY双方とも管理できないことから、取得を希望せず、処分しようとしましたが、買い手が見つからず、田畑の管理費の支出や固定資産税の支払が負担となっています。

このような場合、XとYは、どのような手段をとることができるでしょうか。


A:現行法ですと、土地の所有権を放棄することはできず、XとYは買い手が見つからないと、田畑を管理していかなければなりませんでした。

これに対して、相続土地国庫帰属法によりますと、相続等により取得した土地の所有権を国庫に帰属させることができます。


3 解説

(1)制度趣旨

わが国においては、急速な少子高齢化等の社会経済情勢の変化に伴い、地方を中心に、相続を契機として望まない土地を手放したいと考える人が増加しました。土地を利用したいというニーズが減れば、相続登記がされないまま放置され、所有者不明土地になるとともに、適切に管理することが難しくなります。

そこで、相続等により取得した土地を手放すことを認め、国庫に帰属させる仕組みを整備し、所有者不明土地の発生や土地の管理不全化を防止する必要があります。

しかしながら、国庫への帰属を安易に認めると、本来であれば所有者が負担すべき土地の管理コストを国に転嫁することとなり、また、所有権を手放すつもりで土地を適切に管理しなくなるというモラルハザードが発生するおそれがあります。

そこで、相続土地国庫帰属法では、一定の基準を設けて、将来の管理費用の一部を負担する等の条件の下で、土地所有権を国へ譲渡することを認めるという制度が創設されることとなりました(相続土地国庫帰属法1条参照)。

(2)国庫帰属の手続

ア 申請権者

相続土地国庫帰属法により土地所有権を国庫に帰属させることについて承認申請できる者は、土地の所有者であって、相続又は遺贈(以下「相続等」といいます)によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者とされています(相続土地国庫帰属法2条1項、1条)。

土地所有者の土地の取得原因が相続等に限定されているのは、所有者不明土地が相続等により増加しているためです(相続土地国庫帰属法1条)。

また、土地所有者に法人が含まれていないのは、自然人の場合には相続等により不要な財産の取得を余儀なくされますが、法人にはそのようなことがないためです(中間試案の補足説明150頁参照)。

土地が数人の共有に属する場合については、共有者全員が共同して申請しなければなりません(相続土地国庫帰属法2条2項前段)。その場合には、共有持分の全部を相続等以外の原因により取得した共有者であっても、相続等により共有持分の全部又は一部を取得した者と共同して、承認申請をすることができます(相続土地国庫帰属法2条2項後段)。なお、共有者の一部に相続等により共有持分を取得した者がいれば、相続等以外の原因で共有持分を取得した法人も、共同して申請できます。

Qにおいても、XとYは、相続土地国庫帰属法により土地を国庫に帰属させるためには、相続により取得した土地について、共同申請することになります。

イ 承認申請却下要件に該当する土地

相続土地国庫帰属法では、

  • ① 建物の存する土地
  • ② 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
  • ③ 通路その他の他人による使用が予定されているとして政令で定めるものが含まれる土地
  • ④ 土壌汚染対策法2条1項により規定する特定有害物質により汚染されている土地
  • ⑤ 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

については、承認申請をすることができないとされています。(相続土地国庫帰属法2条3項)。そして、かかる土地について承認申請がなされた場合には、承認申請が却下されることになります(相続土地国庫帰属法4条1項2号)。

①の土地が除外されているのは、建物については管理費用がかかり、解体費用が高額になるためです(中間試案補足説明154頁、部会資料36・4-5頁)

②の土地が除外されているのは、土地に関して権利を主張する者、土地の占有者との間で土地の管理をめぐって紛争が生じ、それによって国が紛争解決のためのコストを負担することを防止するためです(中間試案補足説明153頁、部会資料36・11頁)

③の土地が除外されているのは、当該土地が地域住民等によって管理・利用され、その管理にあたって多数の者との調整が必要になるためです(部会資料54・5頁)

④の土地が除外されているのは、管理・利用に制約が生じ多大な費用がかかり、健康被害などの害悪を発生させるおそれがあるためです(中間試案補足説明155頁、部会資料48・9頁)

⑤の土地が除外されているのは、隣地所有者と紛争が生じかねず、その紛争解決にコストが生じるためです(中間試案補足説明153頁、部会資料48・11-12頁)

却下に対しては、行政不服審査、行政事件訴訟で不服申立てが可能となっています。

Qにおいても、XとYは、相続土地国庫帰属法により土地を国庫に帰属させるためには、相続により取得した土地が却下要件に該当しないことが必要です。

ウ 承認申請の方法

承認申請をする者(承認申請者)は、承認申請者の氏名又は名称及び住所、承認申請に係る土地の所在、地番、地目及び地積について記載した承認申請書、法務省令で定める添付書類を法務大臣に提出することになります(相続土地国庫帰属法3条1項)。

承認申請者は、承認申請に際して、手数料を納付することになります(相続土地国庫帰属法3条2項)。

承認申請は、

  • ① 申請権限を有しない者の申請によるとき
  • ② 承認申請が2条3項の却下事由該当の土地又は承認申請書・手数料に関する3条に違反するとき
  • ③ 承認申請者が、正当な理由がないのに、6条の規定による調査に応じないとき

は、却下されることになります(相続土地国庫帰属法4条1項)。

承認申請が却下された場合には、法務大臣は、遅滞なく、その旨を承認申請者に通知することになります(相続土地国庫帰属法4条2項)。

エ 承認申請不承認要件に該当する土地

法務大臣は、承認申請に係る土地が、

  • ① 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
  • ② 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
  • ③ 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
  • ④ 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
  • ⑤ ①~④に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

のいずれにも該当しないときには、承認申請を承認することになります(相続土地国庫帰属法5条1項)。

①については、傾斜度のある土地の管理は困難であり、崩落によって第三者に危険を及ぼすおそれがあり、その予防のために費用がかさむ傾向があるため、崖がある土地のうち、通常の管理に当たり過分の費用や労力を要するものは不承認要件とされています(部会資料54・6-7頁)。

②については、工作物、車両、樹木などの建物以外の有体物も管理費用がかかるため、通常の管理又は処分を阻害するものについては、不承認要件となっています(部会資料36・13頁)。

③については、地中に埋蔵物がある土地は、その管理・利用に制約が生じ、埋設物等の除去のために多大な費用がかかることもあるため、除去しなければ土地の通常の管理又は処分ができない土地については、不承認要件とされています(部会資料36・15頁)。

④については、土地の帰属や範囲に争いがないものの、隣地の所有者等との間でトラブルが発生し、土地の利用、管理に支障を来す可能性があるため、不承認要件とされています(部会資料48・12頁)。

⑤については、不認可要件のいわゆるバスケット条項です。

承認申請の不承認は、土地の一筆ごとに行われることになります(相続土地国庫帰属法5条2項)。

また、不承認処分に対しては、行政不服審査、行政事件訴訟で不服申立てが可能となっています。

Qにおいても、XとYは、相続土地国庫帰属法により土地を国庫に帰属させるためには、相続により取得した土地が不承認要件に該当しないことが必要です。

エ 事実の調査・意見聴取

まず、法務大臣は、承認申請に係る審査のため必要があると認めるときは、その職員に事実の調査をさせることができます(相続土地国庫帰属法6条1項)。実際には、法務大臣は、各地の法務局に権限を委任することになります(相続土地国庫帰属法15条1項)。

事実の調査をする職員は、承認申請に係る土地又はその周辺の地域に所在する土地の実地調査をすること、承認申請者その他の関係者からその知っている事実を聴取し又は資料の提出を求めることその他承認申請に係る審査のために必要な調査をすることができます(相続土地国庫帰属法6条2項)。土地の実地調査をする場合において、必要があると認めるときは、その必要の限度において、職員に、他人の土地に立ち入らせることができます(相続土地国庫帰属法6条3項)。

次に、法務大臣は、事実の調査のため必要があると認めるときは、関係行政機関の長、関係地方公共団体の長、関係のある公私の団体その他の関係者に対し、資料の提供、説明、事実の調査の援助その他必要な協力を求めることができます(相続土地国庫帰属法7条)。

そして、法務大臣は、承認申請の承認をするときは、あらかじめ、当該承認に係る土地の管理について、財務大臣及び農林水産大臣の意見を聴くことになります(相続土地国庫帰属法8条)。

オ 承認の通知と負担金の納付

法務大臣は、承認申請に対する承認又は不承認について、承認申請者に通知をすることになります(相続土地国庫帰属法9条)。

承認申請者は、承認申請に対する承認があったときは、承認がなされた土地について、国有地の種目ごとにその管理に要する十年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定めるところにより算定した額の金銭(負担金)を納付することになります(相続土地国庫帰属法10条1項)。負担金の額は、承認の通知の際に併せて行われます(相続土地国庫帰属法10条2項)。承認申請者が負担金の額の通知を受けた日から30日以内に、法務省令で定める手続に従い、負担金を納付しないときは、承認は効力を失うことになります(相続土地国庫帰属法10条3項)。

現状の国有地の標準的な10年分の管理費用は、粗放的な管理で足りる原野で約20万円、市街地の住宅(200㎡)で約80万円とされており、この金額が参考にされることとなること予想されます(法務省民事局〔令和3年12月14日更新「令和3年民法・不動産登記法改正、 相続土地国庫帰属法のポイント」21頁)。

承認申請がなされた土地の所有権は、承認申請者が負担金を納付した時に、国庫に帰属することになります(相続土地国庫帰属法11条1項)。また、法務大臣は、承認申請がなされた土地の所有権が国庫に帰属したときは、直ちに、その旨を財務大臣(当該土地が主に農用地又は森林として利用されていると認められるときは、農林水産大臣)に通知することになります(相続土地国庫帰属法11条2項)。

Qにおいても、XとYは、相続土地国庫帰属法により土地を国庫に帰属させるためには、負担金を納付することが必要となります。

(3)国庫帰属地の管理

負担金が納付され国庫に帰属した土地(国庫帰属地)のうち農地又は森林として利用されているものは農林水産大臣が管理又は処分し(相続土地国庫帰属法12条1項)、その余の土地は、国有財産法の普通財産として財務大臣が管理・処分を行うこととなります(国有財産法6条、20条)。

(4)承認の取消しと損害賠償責任

法務大臣は、承認申請者が偽りその他の不正の手段により国庫帰属の承認を受けたことが判明したときは、当該承認を取り消すことができます(相続土地国庫帰属法13条1項)。

法務大臣による職権取消しについては、期間制限はなく(部会資料54・10頁)、土地所有権の国庫帰属は遡及的に無効となります。

法務大臣は、承認を取り消すときは、国庫帰属地を所管する各省各庁の長の意見を聴くことになります(相続土地国庫帰属法13条2項)。

国庫帰属地を取得した第三者を保護するため、承認を取り消すためには、法務大臣は、国庫帰属地の所有権を取得した者の同意を得なければなりません(相続土地国庫帰属法13条3項)。

そして、承認が取り消されたときは、承認を受けた者に対して、通知がされることになります(相続土地国庫帰属法13条4項)。

承認がなされた時において、承認申請却下要件に該当する土地又は承認申請不承認要件に該当する土地のいずれかに該当する事由があったことによって国に損害が生じた場合において、承認を受けた者が当該事由を知りながら告げずに同項の承認を受けた者であるときは、国に対して、損害賠償責任を負うことになります(相続土地国庫帰属法14条)。損害賠償責任は、悪意である者に限定され、また、会計法30条の規定により、行使することができる時から5年間が時効消滅期間となります。

(5)施行日

相続土地国庫帰属法の施行日は、令和5年4月27日とされています(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律の施行期日を定める政令)。


4 おわりに

本稿では、改正法のうち、相続等により取得した土地を国庫に帰属することができる相続土地国庫帰属法について、Q&Aをとおして、解説してきました。

もっとも、改正法による重要な改正事項は、他にも多々あります。相続土地国庫帰属法以外の改正法による重要な改正事項については、別稿で解説することといたします。

以上

参考文献

本文中に掲げたもののほか
松嶋隆弘編著『民法・不動産登記法改正で変わる相続実務 財産の管理・分割・登記』
(ぎょうせい、2021年)91-103頁〔戸髙広海〕

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著者プロフィール

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金澤 大祐

日本大学商学部准教授、弁護士

日本大学大学院法務研究科修了。商法・会社法を中心に研究を行い、実務については、民事事件を中心に幅広く取り扱う。
著書に、『実務が変わる!令和改正会社法のまるごと解説』(ぎょうせい、2020年)〔分担執筆執筆〕、「原発損害賠償請求訴訟における中間指針の役割と課題」商学集志89巻3号(2019年)35頁、『資金決済法の理論と実務』(勁草書房、2019年)〔分担執筆〕等多数

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