このページはJavaScriptを使用しています。JavaScriptを有効にして、対応ブラウザでご覧下さい。

事例で学ぶ!民法改正の実務 Q&A【所有者不明土地問題に対応】住所変更登記等の義務化と職権登記制度

事例で学ぶ!民法改正の実務 Q&A【所有者不明土地問題に対応】住所変更登記等の義務化と職権登記制度

この記事の著者
  日本大学商学部准教授、弁護士 

1 はじめに

令和3年4月21日、所有者不明土地問題に関する民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)(以下、「改正法」といいます)が成立しました。

改正法は、近時、問題となっていた所有者不明土地に対処するために制定されたものですが、所有者不明土地問題を契機として、民法上の共有や相続に関する規定も改めており、コロナ禍で話題になることが少ないですが、実務上、重要な法改正となっています。

そこで、本稿では、改正法のうち、住所変更登記等の義務化と職権登記制度に関する不動産登記法の改正について、Q&Aをとおして、解説していくことといたします。


2 Q&A

  • Q:Aは、最近、父Bが死亡し、Bが所有していた本件土地を相続し、相続登記をしました。
    その後、Aは、本件土地の登記簿謄本に記載されている住所から引っ越ししました。
    Aは、近時、不動産登記法の改正により、住所変更登記の申請が義務化されるとの報道に接しましたが、改正法の施行に際して、どのような対応をとればよいのでしょうか。

  • A:改正前不動産登記法ですと、住所変更登記の申請は義務ではなく、住所変更登記の申請をしなくても特段不利益はありませんでした。
    これに対して、改正不動産登記法によりますと、住所変更登記の申請が義務化され、その違反は過料に処せられ、また、改正法の施行日前に発生した住所変更にも、適用されることになります。そのため、Aは、法定の期間内に、住所変更登記の申請を行うか、または、検索用情報を提供する必要があります。

3 解説

(1)改正の経緯

近時、相続登記がされないこと等により、所有者不明土地が発生し、問題となっています。

所有者不明土地とは、

①不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地

②所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地

です[1]

所有者不明土地については、相続の発生等により土地の共有者が多数にわたると、所有者(共有者)の捜索に多大な時間と費用が必要となり、土地の管理・利用のために必要な合意形成が阻害され、所有者の所在等が不明な場合には土地が管理されず放置されることなどの問題点があります[2]

所有者不明土地が生じた要因の一つとしては、不動産の所有権の登記名義人の住所変更登記が未了であることが挙げられています。住所変更登記がされない理由としては、住所変更登記等が任意とされており、申請をしなくても不利益がないこと、転居等の度に所有する不動産の変更登記の申請を行うことは負担であることが指摘されています[3]

所有者不明土地問題は、今後、ますます深刻化することが予想されます。そこで、所有者不明土地の発生を予防すべく、その要因の一つである住所変更登記等の未了について対処するため、住所変更登記の申請が義務化され、併せて、職権登記制度が新設されることとなりました。

(2)改正法の概要

ア 住所変更登記等の義務化

改正法は、所有権の名義人に対し、氏名若しくは名称又は住所(以下「住所等」といいます)の変更日から2年以内にその変更登記の申請を義務付けています(改正不動産登記法76条の5)。これによって、改正法では、住所等が変更されたにも関わらず、変更登記がなされず、所有者が不明となることを防止しようとしています。

〔改正不動産登記法76条の5〕

所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から二年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。

また、改正法においては、「正当な理由」がないのに住所変更登記等の申請を怠った場合には、5万円以下の過料に処せられることとなりました(改正不動産登記法164条2項)。

〔改正不動産登記法164条2項〕

第七十六条の五の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、五万円以下の過料に処する。

「正当な理由」としては、

  1. 登記の申請義務がある者自身に重病等がある場合
  2. 登記申請義務を負う者がいわゆるDV被害者等であり、その生命・身体に危害が及ぶ状態にあって避難を余儀なくされている場合

などが想定されています[4]

また、相続登記の申請義務に違反した場合の過料の具体的な手続についても、公平性を確保する観点から、省令等において明確化される予定です[5]

Qにおいて、Aは、改正不動産登記法が適用されると、本件土地につき、住所変更登記の申請をしなければならなくなります。


イ 職権登記制度の創設

改正法においては、住所変更登記等の申請義務の実効性を確保し、手続の簡素化・合理化を図る観点から、登記官が他の公的機関から取得した情報に基づき、職権的に変更登記をする新たな制度が創設されています(改正不動産登記法76条の6)。

〔改正不動産登記法76条の6〕

登記官は、所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記をすることができる。ただし、当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限る。

所有者が自然人の場合には、職権による住所等の変更登記は、

①所有権の登記名義人から、あらかじめ、氏名・住所等の「検索用情報」の提供を受け、

②検索用情報等を検索キーとして、法務局側で定期的に住基ネットに照会して、住所等の変更の有無を確認し、

③住所等の変更があったときには、法務局側から登記名義人に対し、住所等の変更登記の確認を行い、その了解を得たときに、登記官が職権的に変更の登記を行い、これによって、登記申請義務は履行済みとなる

という流れになっています[6]

以上のように、所有者が自然人の場合には、住民基本台帳制度の趣旨等を踏まえ、職権による住所等の変更登記は、本人による「申出」があるときに限定されています。

これに対して、所有者が法人の場合には、

①法人の住所等に変更が生じたときに、商業・法人登記のシステムから不動産登記システムにその変更情報を通知することにより、住所等の変更を把握し(法務省内のシステム間連携)[7]

②取得した情報に基づき、登記官が職権的に変更の登記を行い、これによって、登記申請義務は履行済みとなる

という流れになっています[8]

そのため、所有者が法人の場合には、本人による意思確認は必要とされていません。

Qにおいて、Aは、改正不動産登記法が適用されたとしても、本件土地につき、検索用情報を提供することによって、住所変更登記が職権で行われることとなります。


ウ 経過措置

住所変更登記等の申請義務は、施行日前に住所等変更が発生していた場合についても、課されることとなります。

もっとも、申請義務の履行期間が施行日前から開始しないように配慮をし、施行日とそれぞれの要件を充足した日のいずれか遅い日から法定の期間(2年)が開始することとなっています(改正法附則5条7項)。


4 おわりに

本稿では、改正法のうち、住所等変更登記の義務化と職権登記制度について、Q&Aをとおして、解説してきました。

もっとも、改正法のうち、共有や相続に関係することなどその他の重要事項が多々あります。

その他の重要な改正事項については、別稿で解説することといたします。


1 所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法2条1頂においては、「所有者不明土地」について、相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地と定義されています。
2 法務省(令和3年12月14日更新)「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」1頁〔最終閲覧2022年6月1日〕
3 村松秀樹=大谷太編著『Q&A 令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』(金融財政事情研究会、2022年)290頁
4 村松・前掲(注3)298頁
5 村松・前掲(注3)298頁
6 法務省・前掲(注2)14頁
7 改正法では、所有権の登記名義人が法人であるときは、その会社法人等番号を登記事項とすることとされており、情報連携において会社法人等番号の利用が想定されています。
8 法務省・前掲(注2)14頁


参考文献

本文中に掲げたもののほか
荒井達也『Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響』(日本加除、2021年)248-250頁
松嶋隆弘編著『民法・不動産登記法改正で変わる相続実務 財産の管理・分割・登記』(ぎょうせい、2021年)126-128頁〔堀江泰夫〕
安達敏男ほか『改正民法・不動産登記法実務ガイドブック』(日本加除、2021年)56-66頁

この記事に関連する最新記事

おすすめ書式テンプレート

書式テンプレートをもっと見る

著者プロフィール

author_item{name}

金澤 大祐

日本大学商学部准教授、弁護士

日本大学大学院法務研究科修了。商法・会社法を中心に研究を行い、実務については、民事事件を中心に幅広く取り扱う。
著書に、『実務が変わる!令和改正会社法のまるごと解説』(ぎょうせい、2020年)〔分担執筆執筆〕、「原発損害賠償請求訴訟における中間指針の役割と課題」商学集志89巻3号(2019年)35頁、『資金決済法の理論と実務』(勁草書房、2019年)〔分担執筆〕等多数

この著者の他の記事(全て見る

bizoceanジャーナルトップページ