【2022年施行法改正対応】パートやアルバイトにも被用者保険に加入させる義務が生じます 社会保険の適用拡大
団塊の世代が後期高齢者となる2025年、現役世代が急減する2040年。それぞれ2025年問題、2040年問題といわれ、公的年金をはじめとする社会保障制度への影響が懸念されています。
こうした中、国は「全世代型社会保障検討会議」を開催し、社会保障の持続可能性を確保するための検討を重ねてきました。
令和元年には「中間報告」が出され、令和2年12月には「全世代型社会保障改革の方針」を閣議決定しています。社会保険の適用拡大もこの流れの中にあります。
今回は、社会保険の適用拡大について説明します。
全世代型社会保障改革の内容は?
全世代型社会保障改革は、現役世代が急減する2040年を見据え、これまでの社会保障の構造を見直すものとなります。
全世代型社会保障改革の内容は多岐にわたり、「全世代型社会保障改革の方針」に従い、各分野で取り組みが進められています。
例えば、少子化対策では「男性の育児休業の取得促進」に関する法律が成立し、令和4年10月に産後パパ育休(出生時育児休業)制度が始まります。
医療では「後期高齢者の自己負担割合の在り方」が見直され、同じく10月から、一定の所得がある75歳以上の後期高齢者の医療費負担が1割から2割に引き上げられます。
少子化対策 |
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医療 |
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(参考:「全世代型社会保障改革の方針」)
令和元年に出された「中間報告」は下記の通りです。
労働 |
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年金 |
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(参考:「全世代型社会保障検討会議第2次中間報告」)
「厚生年金(被用者保険)の適用対象拡大」はここに含まれており、令和4年10月以降、被用者保険の適用対象が拡大されます。
適用対象の拡大
現在、一定の要件を満たす短時間労働者を被用者保険(健康保険・厚生年金)に加入させる義務があるのは従業員数500人超の企業ですが、今後、その企業規模が見直され、令和4年10月に100人超の企業、令和6年10月には50人超の企業となります。
つまり、アルバイトやパートなど短時間で働く労働者であっても、一定の要件を満たす場合は、中小企業においても被用者保険に加入させなければならないということです。
【適用範囲の拡大】(一定の要件)
Q&Aで確認を
「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集(令和4年 10 月施行分)」からQ&Aをいくつかみてみましょう。
Q.使用する被保険者の総数が常時 100 人を超えるか否かの判定は、適用事業所ごとに行うのか。 |
A. 法人事業所の場合は、同一の法人番号を有する全ての適用事業所に使用される厚生年金保険の被保険者の総数が常時 100 人を超えるか否かによって判定します。 |
Q. 「被保険者の総数が常時 100 人を超える」とは、どのような状態を指すのか。どの時点で常時 100 人を超えると判断することになるのか。 |
A. 法人事業所の場合は、同一の法人番号を有する全ての適用事業所に使用される厚生年金保険の被保険者の総数が、 12 か月のうち6か月以上 100 人を超えることが見込まれる場合を指します。 |
Q. 特定の月の所定労働時間に例外的な長短がある場合とはどのような場合か。また、そのような場合は1週間の所定労働時間をどのように算出すればよいか。 |
A. 夏季休暇等のため夏季の特定の月の所定労働時間が例外的に短く定められている場合や、繁忙期間中の特定の月の所定労働時間が例外的に長く定められている場合等は、当該特定の月以外の通常の月の所定労働時間を12分の52で除して、1週間の所定労働時間を算出します。 |
Q. 短時間労働者の厚生年金保険・健康保険の適用については、月額賃金が8.8 万円以上であるほかに、年収が 106 万円以上であるかないかも勘案するのか。 |
A. 月額賃金が8.8万円以上であるかないかのみに基づき、要件を満たすか否かを判定します(年収106万円以上というのはあくまで参考の値です)。 |
130万円の壁が106万円の壁に
適用対象の拡大に関しては、「扶養を抜けたくない」という短時間労働者への対応が必要です。
扶養の範囲内で働きたいという労働者は少なくありません。適用拡大の対象でなければ、パートなどで働いている労働者は配偶者の扶養に入り、健康保険の被扶養者及び国民年金の第3号被保険者となります。扶養に入ることで、年金保険料や健康保険料の負担なく保険給付を受けられます。
扶養を外れるのは、年収130万円以上となる場合です。これが130万円の壁です。
しかし、適用拡大の対象となれば、月収8.8万円以上(年収約106万円以上)で扶養を外れることとなります。
この場合、本人の意思とは関係なく、健康保険と厚生年金に加入させなければなりません。当然、保険料の負担が発生します。
現在は500人超の企業で働くパートの壁が106万円ですが、将来的には50人超の企業で働くパートの壁も106万円となります。強制適用だからという説明だけで加入手続きを進めると離職につながったり、不要なトラブルを招きかねません。
事前に説明会を開き、さらに個人面談を行うなど、丁寧な対応が望まれます。
被用者保険に加入するメリットとして、老後の年金が増えることに加え、障害がある状態になった場合に、障害基礎年金に加えて障害厚生年金を受け取れること、けがや出産によって仕事を休んだ場合に、傷病手当金や出産手当金が受けられることなどを十分に説明しましょう。
厚生労働省「被用者保険適用拡大サイト」には、年金額や保険料のシミュレーションがありますから、参考にしてみてください。
士業の個人事業所も強制適用に
個人事業所の場合、強制適用事業所となるのは、法定された業種のいずれかに該当し、常時5人以上の従業員を使用する事業所です。従来、士業は対象外でしたが、令和4年10月、適用業種に弁護士、税理士等の士業が追加されます。
【適用対象となる士業】
弁護士、沖縄弁護士、外国法事務弁護士、公認会計士、公証人、司法書士、土地家屋調査士、行政書士、海事代理士、税理士、社会保険労務士、弁理士
適用事業所になると、以下の方が厚生年金・健康保険の被保険者となります。
- ① 正社員
- ② パート・アルバイト等のうち、1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が正社員の4分の3以上である方
「全世代型社会保障構築会議(第3回)」(令和4年3月29日)の資料には、勤労者皆保険の実現に向け、「使用されている勤労者であれば、被用者保険(厚生年金・健康保険)も同じように適用されることを目指すべき」とあります。
また、「企業規模要件の撤廃も含めた見直しや非適用業種の見直し等を検討すべき」としていることから、さらに適用対象が拡大されるかもしれません。
まずは令和4年10月に向けての対応を進めるとともに、適用対象に関する議論の行方にも注目していきましょう。