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事例で学ぶ!民法(債権法)改正の実務 Q&A 個人根保証契約における極度額の定め

事例で学ぶ!民法(債権法)改正の実務 Q&A 個人根保証契約における極度額の定め

民法のうち、債権法を大幅に改正する『民法の一部を改正する法律』(平成29年法律第44号)及び『民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律』(平成29年法律第45号)が2020年4月1日から施行されました(民法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令〔平成29年政令第309号〕)。

改正された事項のうち、個人根保証契約に関する規定は、改正前民法には規定がなく、また、極度額を定めない場合の効果は保証契約が無効となるものであり、是非とも、知っておきたい事項となります。

そこで、本稿では、個人根保証契約における極度額の定めについて、Q&Aを用いて具体的な事例を前提に、解説していくことといたします。

なお、『民法の一部を改正する法律』及び『民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律』(平成29年法律第45号)による改正前の民法『改正前民法」、改正後の民法を『改正民法』と表記します。


この記事の著者
  日本大学商学部准教授、弁護士 

1.Q&A

Q:当社は、不動産の仲介、賃貸および売買を業としている株式会社です。当社の不動産の賃貸借契約書には、「連帯保証人は、賃借人と連帯して、本契約から生じる賃借人の一切の債務を負担するものとする」旨の条項があります。改正民法が施行されたとのことですが、不動産の賃貸借契約書の条項を修正する必要があるでしょうか。

不動産賃貸借契約書


第〇〇条 丙(連帯保証人)は、乙(賃借人)と連帯して、本契約から生じる乙の一切の債務を負担するものとする。

A:改正前民法ですと、連帯保証人が賃借人の一切の債務を負担する旨の賃貸借契約書の条項も有効でした。これに対して、改正民法下では、当該条項は、極度額の定めがなく、無効(改正民法465条の2第2項)となるため、早期に、契約書の条項の修正が必要となります。

2.解説

(1)民法改正の経緯

一定の範囲に属する不特定の債務について保証する根保証契約に関しては、1990年代初頭のバブル経済崩壊後、中小企業の事業債務を根保証した個人が多額の根保証債務を負い、生活が破綻するという事例が多発しました。

そこで、2004年民法改正において、個人が金銭の貸渡しまたは手形の割引に関する債務を根保証する「貸金等根保証契約」(改正前民法465条の2第1項)を対象として、保証人が責任を負う債務の範囲および金額を限定することによって(改正前民法465条の2第2項)、個人の保証人が巨額の保証債務を負わないようにするための規制が設けられました。

〔改正前民法465条の2第1項2項〕

1 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。

2 貸金等根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない

もっとも、貸金等根保証契約の規制は、個人の根保証契約のうち、主たる債務の範囲が貸金等債務に限定されており、不動産の賃借人の債務の根保証契約には適用がありませんでした(表1:新旧比較表参照)。

例えば、賃借人が長期間にわたって賃料を滞納した場合や賃借物件で自殺した場合には、未払賃料額や賃借物件の原状回復費用が高額となり、保証人の責任負担が過大となる事例がありました。

そこで、民法改正により、貸金等根保証契約以外の個人の根保証契約についても、規制が課されることとなりました。

(2)改正民法の概要

改正民法においては、個人の根保証人の保護を更に拡大し、「個人根保証契約」という類型を設けて、貸金等債務に限定せず、根保証人の保護を個人の根保証契約一般にまで拡大しました(表1:新旧比較表参照)。

改正民法においては、根保証契約であって、保証人が法人でないものが「個人根保証契約」となります(改正民法465条の2第1項)。

個人根保証契約は、書面または電磁的記録で極度額を定めないと無効となってしまう点に注意が必要です(改正民法465条の2第2項)。

〔改正民法465条の2〕

1 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。

2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。

そして、個人根保証契約における極度額の定めは、保証契約締結時点において、確定的な金額を書面または電磁的記録で定める必要があるとされています[1]。そのため、Qにおいても、改正民法の適用がある場合には、このままの不動産賃貸借契約書ですと、個人根保証契約の極度額の定めがないことから、連帯保証契約が無効となってしまいます。

また、賃貸借契約書に、「極度額は賃料の5箇月分」との記載がされている場合、賃料額が月額20万円などと記載されていれば、書面また電磁的記録上、極度額が確定できるため、個人根保証契約は有効ですが、賃貸借契約書等関係書類に、賃料額が記載されていないと、個人根保証契約は無効となる可能性があります[2]

なお、改正前民法下の「貸金等根保証契約」は、規制内容は変わらず、「個人貸金等根保証契約」(改正民法465条の3第1項)という名称へと変更されています(表1:新旧比較表参照)。

〔改正民法465条の3第1項〕

1 個人根保証契約であってその主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(以下「個人貸金等根保証契約」という。)において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において、その元本確定期日がその個人貸金等根保証契約の締結の日から五年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定期日の定めは、その効力を生じない。

〔表1:新旧比較表〕

改正前民法 改正民法
個人の根保証契約全般 規制なし 規制あり(民法改正で新設)
個人の貸金等根保証契約 規制あり 規制あり
*「個人貸金等根保証契約」へと名称変更

3.実務上の留意点

個人根保証契約に関する改正民法の規定は、2020年(令和2年)4月1日以降に締結された個人根保証契約について適用されます(附則21条1項)。そのため、今後締結する「個人根保証契約」、例えば、建物の賃貸借契約の保証契約、介護施設等の入居者の保証契約、保証債務の性質を有する身元保証契約[3]については、契約書等において、極度額を確定的に定めておかないと、契約の効力が否定されることに注意が必要です[4]

極度額を定める際に不動産賃貸借契約の賃貸人としては、極度額が高額であることが望ましいですが、それでは、連帯保証人となる者が現れなくなる可能性もあります。不動産の賃借人の債務の個人根保証契約における極度額をいくらに設定するかについては、国土交通省(平成30年3月30日)「極度額に関する参考資料」[5]などを参考に、賃貸人と保証人で協議して、決定することとなるでしょう。なお、「極度額に関する参考資料」における裁判所の判決における連帯保証人の負担額に係る調査では、連帯保証人の負担として確定した額は、平均で家賃の約13.2か月分でした。

また、施行日より前に、不動産の賃借人の債務の個人根保証契約を締結していたところ、今後、当事者間の合意で保証契約を更新した場合には、当事者は新法が適用されることを予測できることから、改正民法が適用されるとの法務省の見解が示されている点にも注意が必要です[6]

以上

脚注

1. 筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務、2018年)135頁

2. 筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務、2018年)135‐136頁

3. 筒井健夫ほか『Q&A 改正債権法と保証実務』(金融財政事情研究会、2019年)81頁

4. 賃貸借契約における個人根保証契約の具体的な条項については、国土交通省ウェブサイト(最終閲覧:2020年12月8日)が参考となります。

5. 国土交通省ウェブサイト(最終閲覧:2020年12月8日)

6. 法務省ウェブサイト(最終閲覧:2020年12月8日)

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著者プロフィール

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金澤 大祐

日本大学商学部准教授、弁護士

日本大学大学院法務研究科修了。商法・会社法を中心に研究を行い、実務については、民事事件を中心に幅広く取り扱う。
著書に、『実務が変わる!令和改正会社法のまるごと解説』(ぎょうせい、2020年)〔分担執筆執筆〕、「原発損害賠償請求訴訟における中間指針の役割と課題」商学集志89巻3号(2019年)35頁、『資金決済法の理論と実務』(勁草書房、2019年)〔分担執筆〕等多数

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