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諭旨解雇とは?退職金や有給休暇は必要?正しい手続きとよくある質問まとめ

諭旨解雇とは?退職金や有給休暇は必要?正しい手続きとよくある質問まとめ

この記事の著者
弁護士法人堀総合法律事務所  代表 / 弁護士 

諭旨解雇とは?意味と読み方もチェック

諭旨解雇は「ゆしかいこ」と読みます。「諭旨」とは、おおまかにいうと「言い聞かせること」です。

諭旨解雇は、懲戒解雇の事由がある従業員に対し、退職を申し出るよう勧告し、退職金等を支給するなどして、依願退職の形式で退職させるといったような場合が一般的です。

諭旨解雇について、他の解雇方法との違いに焦点をあてながら解説しましょう。

解雇の種類

解雇とは、雇用する側が一方的に労働契約を終了することをいいます。そして、解雇には、ペナルティの意味合いが強い「懲戒解雇」や「諭旨解雇」のほか、「普通解雇」や「整理解雇」があります。これら4つの解雇は、いずれも法律や就業規則に定められた要件を満たすことが必要となります。

「懲戒解雇」は、会社の財産を横領、重度のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメント、会社の名誉や信頼を著しく毀損するなど、従業員が重大な規律違反をしたときに行う懲戒処分です。なお、懲戒処分は、軽いものから「戒告・譴責(けんせき)、減給、出勤停止・懲戒休職、降職・降格、諭旨解雇・懲戒解雇」と、様々な処分があります。

「諭旨解雇」は、懲戒処分の一種です。諭旨解雇とは、懲戒解雇に相当する問題を起こしたものの、真摯に反省している、会社に多くの貢献をしてきたなど、情状酌量の余地があると企業が認めた場合、従業員から退職を申し出させることで労働契約を終了するような場合をいいます。

諭旨解雇の有無や要件は、法律上で具体的に規定されておらず、細かいルールは各企業の就業規則で定められるため、要件は企業によって多少異なります。

一方、「普通解雇」とは、上記のような懲戒処分として行う解雇ではなく、従業員の能力不足などを理由に労働契約の続行が難しい場合に行われる解雇です。具体的には、著しい能力不足や勤務態度の不良がある場合などが、普通解雇の理由となり得ます。

「整理解雇」は会社の倒産や人員削減などを理由に行われるもので、いわゆる「リストラ」です。

諭旨解雇と懲戒解雇の違い

「諭旨解雇」は、一般的に、懲戒解雇よりも軽い懲戒処分とされています。

両者の違いは、諭旨解雇においては解雇対象者に対する温情措置の側面を有する点です。

例えば、長年真面目に勤めてきた経理部社員が横領をした際、これまでの社員の貢献度を考慮して、諭旨解雇にするといったケースがあり、懲戒解雇と比べて、社員の退職条件が優遇されることがあります。

具体的には、懲戒解雇の場合、解雇予告手当の支払いもなく即時に解雇がされ、また退職金等の支給もないことがありますが、このような場合にも諭旨解雇とすることで、解雇予告手当や退職金の全部、または一部が支給されるといった優遇措置がとられることがあります。

諭旨解雇と退職勧奨の違い

退職勧奨とは、会社が従業員に対し、「自らの判断で退職してほしい」と勧めることです。

諭旨解雇は懲戒処分であるため実質的には一方的な労働契約の解消ですが、退職勧奨は最終的な決断を従業員の自由意思に委ねられるため、諭旨解雇とは区別されます。

なお、従業員が退職勧奨に応じる際、退職条件は当事者の合意によって決めることが可能ですので、退職条件として退職金を満額、あるいは増額して支給することを合意することも可能です。


諭旨解雇の場合は退職金が支払われるケースも

諭旨解雇は、退職金の全額または一部が支払われることがありますが、このときはあくまで自社の就業規則に従い判断するので、退職金の扱いも含めて、明確なルールを定めておく必要があるでしょう。

多くの場合、懲戒解雇と並行して諭旨解雇を検討します。

懲戒解雇の場合には、退職金が支給されない場合が一般的ですので、解雇の対象者の中には、「退職金がもらえない」ことを恐れて懲戒解雇を断固として拒否する人もいます。そのような状況で強引に懲戒解雇をすると、後日「不当解雇」として争いになるかもしれません。会社側からすると、「あんな不祥事を起こした社員に払う金などない!」と考えたとしても、後々のトラブルを避けるためにあえて諭旨解雇を選択し、退職金等を支給する等により穏便に解決を図るのも方法の1つといえるでしょう。

諭旨解雇の正しい手続きの流れ

諭旨解雇は、段階を追って行います。手順を踏まないと不当解雇として争いになる可能性があるので、注意が必要です。

問題行為の調査をする

懲戒処分を行う場合には、あらかじめ懲戒事由を就業規則に規定していることが必要であり、労働契約法第15条及び第16条の定めによって、懲戒処分や解雇を有効とするためには、解雇の対象者の行為が懲戒事由に該当し、当該懲戒解雇処分に客観的合理性があることが必要となります。

つまり、諭旨解雇を行うためには、経営者の感情や価値判断ではなく、あくまで就業規則に規定された懲戒事由に実質的に合致することがポイントです。

(参照URL:労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)

そのため、問題行動があった場合には、就業規則上で諭旨解雇の対象となる懲戒事由があるかをチェックしたうえで、関係者へのヒアリングや証拠集めなど、十分な事前調査を行いましょう。

処分内容を検討する

就業規則に沿った判断であっても、裁判において処分内容が「社会通念上」重すぎると判断されて処分が無効になった事例もあります。そのため、解雇の対象者の行為の性質・態様や対象者に関する情状なども考慮し、必要に応じて弁護士などのアドバイスを得ながら、処分内容を慎重に検討するようにしましょう。

なお、突然諭旨解雇を告知すると、対象者には不意打ちと思われるおそれがあります。また、初めての処分から解雇という重大な処分を行うことで、処分が重すぎると判断されるリスクもあります。

そのため、従業員が懲戒事由に該当した場合には、まずは「戒告」処分をし、対象者に改善のチャンスを与えつつ、何度も懲戒事由に該当した際に段階的に重い処分にするなどすることが、後日のトラブルの予防にもなるといえるでしょう。

従業員に対して弁明の機会を与える

諭旨解雇を行う場合には、解雇の対象者に事情を説明する機会を設ける必要があります。この手続きを経ていないと、後に不当解雇として争いとなった場合、企業側が適正な手続きをとっていないとして、不利になる可能性があるからです。

そのため、人事担当者と一対一で面談するなど、対象者が自由に弁明できる状況を確保して建設的な話し合いを行いましょう。また、面談の内容は、記録・保存するようにしましょう。

解雇通知書を作成する

対象者が解雇に同意したら、口頭で言い渡すだけでなく、解雇通知書を作成・交付します。法的には、書面の交付義務はありませんが、トラブルを回避するためにも欠かせないプロセスです。
解雇通知書に記載すべき内容は以下のとおりです。

  • 解雇する従業員の氏名
  • 社名、代表者名
  • 企業側の解雇の意思表示
  • 解雇通知書の作成日
  • 解雇予定日
  • 就業規則を根拠とした解雇理由
  • 該当する解雇理由を定めた就業規則の条文

諭旨解雇の注意点とリスクを確認

諭旨解雇を行う場合、企業側は一定のリスクを負うことも忘れてはなりません。そのため注意を払いつつ進める必要があります。

情報漏洩のリスクがある

従業員の退職には、顧客情報をはじめとする情報漏洩のリスクが伴います。以下のような対策を徹底しましょう。

  • 社内ネットワークやシステムへのアクセス権の無効化
  • オフィスなどへの入室権限の無効化
  • すべての社用デバイスを回収
  • 情報取り扱いに関する社内ポリシーの周知
  • 秘密保持誓約書や競業避止義務契約の締結

不当解雇として訴訟に発展する可能性がある

諭旨解雇において最も懸念されるのが、「不当解雇」として後に争いになることです。裁判となって企業側が敗訴した場合、多額のバックペイ(賃金の支払い)や賠償金の支払いが必要となったり、当該従業員の雇用を継続しなければならなくなったりします。

バックペイとは、「さかのぼって支払う」ことで、企業側は解雇が無効となった場合には、解雇以降も従業員の地位があったことになるため、その期間分の賃金を支払う事態に直面します。

不当解雇の争いになった場合、最大の争点となるのが、諭旨解雇の有効性です。

そのため、就業規則に明確な記載があること、懲戒事由に該当する事実が存在すること、及び従業員への聞き取りを行ったなど諭旨解雇の手続きが合理的かつ正当に実行されたことを証明し、解雇が有効であったといえるようにしなければなりません。

上述したように、従業員との話し合いのプロセスを記録し、解雇通知書を作成・交付することが、必要不可欠な対策といえます。

諭旨解雇に関するQ&A

諭旨解雇を実際に進めるうえでの疑問点をQ&A式で解説します。

諭旨解雇者への有給休暇は認められるのか

諭旨解雇が決定しても、未消化の有給休暇は認められます。有給休暇は従業員の正当な権利であり、労働契約は解雇日まで有効なので、企業側は原則として拒否できません。

諭旨解雇者への解雇予告手当の支払いは必要か

諭旨解雇の場合であっても、労働基準法第20条「解雇の予告」に基づき、30日より前に解雇予告をしなければ、解雇予告手当を支払う必要がある場合があります。

しかし、懲戒解雇同様「従業員の責に帰すべき事由において解雇」すると認められる場合には、「解雇の予告」を除外できる可能性もあります。なお、解雇の予告を除外するには、労働基準監督署に「除外認定」を申請し、認定を受ける必要があります。

賞与支給日以前に諭旨解雇した者への賞与は必要か

「賞与支給日に会社に在籍する」ことが賞与の支給条件である場合、賞与を支払う必要はありません。

整理解雇など会社都合で解雇する場合は、在籍日数や勤務成績に応じて一定額を支給したり、退職金とともに精算したりするのが妥当ですが、従業員に原因のある解雇の場合、通常は賞与を支給しません。

ただ、賞与支給日直前の解雇は、後日のトラブルの種になる可能性があるので、解雇日は慎重に決めることが求められます。

諭旨解雇は再就職・転職に影響するか

諭旨解雇は、再就職や転職に影響しない場合が十分に考えられます。

「諭旨解雇」と自ら申告する必要はなく、履歴書の職歴欄には「会社都合により退職」と記入することが一般的であるため、会社都合による普通解雇と同じ扱いになることが多いからです。

もっとも、離職票や退職証明書には「諭旨解雇」と記載されるため、この提出が求められた場合には諭旨解雇であることが知られることになります。

諭旨解雇者が退職届を提出しない場合どのような対応が必要か

諭旨解雇処分を受けた従業員が、期限までに退職届を提出しないケースもあり得ます。その場合、懲戒解雇処分に切り替わることが一般的です。

諭旨解雇は従業員にとって重い処分ですが、企業にとっても慎重を期すべき重大なジャッジメントです。万が一解雇をしなければならない場合や解雇時のトラブルを防止するためにも、就業規則や諸規程については、弁護士などの専門家に相談のうえ、事前に整備するようにしましょう。

そして諭旨解雇を行うときは、ルールを確認し、正しい手順で進めてください。

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著者プロフィール

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堀 智弘

弁護士法人堀総合法律事務所 代表 / 弁護士

大阪弁護士会所属。大阪市中央区北浜の堀総合法律事務所の代表。単独で事務所の代表を務め「経営のわかる弁護士」として中小企業経営者に寄り添うとともに、素早く丁寧で法律論に囚われない柔軟な対応により一般の市民の方々からも好評を得ている。業務は中小企業の支援と相続問題が中心。年間相談件数300件以上。セミナー・講演実績も多数。

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