[会社法改正] 第3回:令和元年会社法改正による社債法制の改正③
(改正のポイント)
- 社債権者において自ら社債を管理することを期待することができる社債を念頭に、社債の管理が円滑に行われるように補助する制度である社債管理補助者制度が新設される。(今回)
- 社債権者集会への元利金減免権限の付与、社債契約の内容変更につき社債権者全員の同意がある場合の社債権者集会決議省略規定が新設される。(次回・最終回)
社債管理補助者
①社債管理補助者の設置
社債管理補助者制度は、社債権者において自ら社債を管理することを期待することができる社債を念頭に、第三者である社債管理補助者が、社債権者の破産債権の届出をしたり、社債権者からの請求を受けて社債権者集会の招集をすることなどにより、社債権者による社債権者集会の決議等を通じた社債の管理が円滑に行われるように補助する制度です。
つまり、社債管理補助者は、社債管理者よりも裁量の余地の限定された権限のみを有するものとされています。
②社債管理補助者の資格
社債管理補助者は、会社法703条各号に掲げる者その他法務省令で定める者でなければなりません(会社法714条の3)。
(会社法703条)
社債管理者は、次に掲げる者でなければならない。
- 銀行
- 信託銀行
- 前二号に掲げるもののほか、これらに準ずるものとして法務省令で定める者
(会社法施行規則171条の2)
法714条の3に規定する法務省令で定める者は、次に掲げる者とする。
- 弁護士
- 弁護士法人
社債管理補助者の資格に弁護士・弁護士法人が加えられました。
これは、社債管理補助者は、社債管理者に比べて、社債管理者よりも裁量の余地の限定された権限のみを有する者であるため、社債管理補助者の資格要件については、社債管理者の資格要件よりも緩やかなものとしてよいという考え方に基づきます。
③社債管理補助者の義務
社債管理者に関する規定を準用したうえで、社債管理補助者は、社債権者のために、公平かつ誠実に社債の管理の補助を行わなければならず、また、社債管理補助者は、社債権者に対し、善良な管理者の注意をもって社債の管理の補助を行わなければなりません(会社法714条の7、704条)。
これは、社債管理補助者の公平義務、誠実義務及び善管注意義務を定めたものです。
社債管理補助者は、社債の管理の補助について委託を受ける以上は、委託者の信頼を裏切ることがないように、これらの義務を負うことが相当であるとされました[1]。
社債管理補助者の負う誠実義務の具体的内容は、委託の趣旨に照らして決定されます。ただ、社債管理補助者について、社債管理者よりも裁量の余地の限定された権限のみを有し、社債権者による社債権者集会の決議等を通じた社債の管理が円滑に行われるように補助する者と位置付ける場合には、社債管理者と社債管理補助者に対する委託の趣旨は異なるものとなると考えられます。
したがって、社債管理者であれば誠実義務違反とされる行為であっても、社債管理補助者が同じ行為をした場合に当然に誠実義務違反になるわけではないと解されます[2]。
④社債管理補助者の権限等
社債管理補助者の権限等は以下のとおりです(会社法714条の4)。
1項 社債管理補助者は、社債権者のために次に掲げる行為をする権限を有する。
- 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
- 強制執行又は担保権の実行の手続における配当要求
- 第499条第1項の期間内に債権の申出をすること。
2項 社債管理補助者は、第714条の2の規定による委託に係る契約に定める範囲内において、社債権者のために次に掲げる行為をする権限を有する。
- 社債に係る債権の弁済を受けること。
- 第705条第1項の行為(前項各号及び前号に掲げる行為を除く。)
- 第706条第1項各号に掲げる行為
- 社債発行会社が社債の総額について期限の利益を喪失することとなる行為
3項 前項の場合において、社債管理補助者は、社債権者集会の決議によらなければ、次に掲げる行為をしてはならない。
- 前項第2号に掲げる行為であって、次に掲げるもの
- 当該社債の全部についてするその支払の請求
- 当該社債の全部に係る債権に基づく強制執行、仮差押え又は仮処分
- 当該社債の全部についてする訴訟行為又は破産手続、再生手続、 更生手続若しくは特別清算に関する手続に属する行為(イ及びロに掲げる行為を除く。)
- 前項第3号及び第4号に掲げる行為
4項 社債管理補助者は、第714条の2の規定による委託に係る契約に従い、社債の管理に関する事項を社債権者に報告し、又は社債権者がこれを知ることができるようにする措置をとらなければならない。
5項 第705条第2項及び第3項の規定は、第2項第1号に掲げる行為をする権限を有する社債管理補助者について準用する。
上記のとおり改正会社法は、社債管理補助者が必ず有する権限として、破産手続参加等をする権限を挙げています。
社債に係る債権の弁済を受ける権限については、社債管理補助者が必ず有する権限とするのではなく、委託契約の定める範囲内において有するものとしています(会社法714条の4第2項1号参照)[3]。また、会社法714条の2第3項は、社債権者集会の決議によらなければならない行為を挙げています。
⑤特別代理人の選任
社債権者と社債管理者との利益相反の場合と同様に、社債権者と社債管理補助者との利益が相反する場合において、社債権者のために裁判上又は裁判外の行為をする必要があるときは、裁判所は、社債権者集会の申立てにより、特別代理人を選任しなければなりません(会社法714条の7、707条)。
⑥社債管理補助者等の行為の方式
社債管理補助者又は特別代理人が社債権者のために裁判上又は裁判外の行為をするときは、社債権者が多数で常に変動する可能性があることや、無記名社債の場合には、社債権者を確知することが困難であり、記名社債の場合にも、多数の社債権者をすべて表示することが困難であることから、個別の社債権者を表示することを要しません(会社法714条の7、708条)。
⑦二以上の社債管理補助者がある場合の特則
二以上の社債管理補助者があるときは、社債管理補助者は、各自、その権限に属する行為をしなければなりません(会社法714条の5第1項)。これは、社債管理補助者は社債管理者と異なり、その権限が裁量の余地の限定されたものであり、その行使を他の社債管理補助者と共同して行うことの実益に乏しいことを理由とします。
⑧社債管理補助者の責任
社債管理者と同様に、社債管理補助者は、会社法又は社債権者集会の決議に違反する行為をしたときは、社債権者に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(会社法714条の7、710条1項)。
⑨社債管理者等との関係
社債管理補助者が定められている社債について、社債管理者との間の委託契約又は受託会社との信託契約が効力を生じた場合には、社債管理補助者との間で締結された委託契約は当然に終了することとなります(会社法714条の6)。
⑩社債管理補助者の辞任
社債管理補助者の辞任事由には、①社債発行会社及び社債権者集会の同意を得ての辞任、②委託契約に定めた事由の発生による辞任、③裁判所の許可を得ての辞任があります(会社法714条の7、711条)。
⑪社債管理補助者の解任
社債管理補助者を解任するためには、社債発行会社又は社債権者集会の申立てにより、裁判所は、社債管理補助者がその義務に違反したとき、その事務処理に不適任であるときその他の正当な理由があるときは、当該社債管理補助者を解任することができます(会社法714条の7、713条)。
⑫社債管理補助者の事務の承継
社債管理補助者が①資格を有する者でなくなったとき、②裁判所の許可を得て辞任したとき、③解任されたとき、④死亡し、又は解散したときには、社債発行会社は、事務を承継する社債管理補助者を定め、社債権者のために、社債の管理の補助を行うことを委託しなければなりません(会社法714条の7、714条1項)。
⑬社債権者集会
社債管理補助者は、社債権者から社債権者集会の招集の請求を受けた場合、辞任するにあたり社債権者集会の同意を得るために必要な場合に限り、社債権者集会を招集することができます(会社法717条3項)。
もっとも、社債管理補助者は、社債管理者と同様に、①社債権者集会の招集の通知を受けること(会社法720条1項)、②社債権者集会へ出席すること(会社法729条1項)、③社債権者集会の議事録の閲覧等を請求すること(会社法731条3項)が認められています。
⑭募集事項
社債管理者補助者を定める場合には、社債管理者を定めないこととする旨及び社債管理補助者を定めることとする旨のいずれも募集事項として定めなければなりません(会社法676条7号の2・8号の2)。そして、社債管理補助者に係る委託契約に定めた①辞任事由、②会社法714条の4第2項各号に掲げる行為をする権限の全部もしくは一部又は会社法に規定する社債管理補助者の権限以外の権限を定めるときは、その権限の内容、③会社法714条の4第4項に規定する社債の管理に関する事項を社債権者に報告又は知ることができるようにする措置について決定することが必要となります(会社法676条12号、会社法施行規則162条5~7号)。
次回の社債法改正④(社債権者集会制度の効率化)をもって、社債法改正解説は完了となります。
脚注
1. 法務省民事局参事官室「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明」(2018年)48頁。
2.3. 法務省民事局参事官室・前掲注(1)48頁。