Q&Aで学ぶ民法(債権法)改正 第2回「法定利率の見直し」
Q:Aは友人のBに自家用車を200万円で売却しましたが、代金の支払期限である7月1日がきても返済してくれません。AはBに対して10月1日に返済を求めようとしていますが、いくらの返済を請求できるでしょうか。
A:改正民法によって、Qでは、Aは①代金額200万円と②遅延損害金を請求できます。②は改正法適用時点の法定利率である年3%で計算されます。
1.改正のポイント
令和2(2020)年4月1日から債権法を改正する改正民法が施行されました。前回の「消滅時効期間の改正」に引き続き、本稿では法定利率の見直しについて取り上げます。
改正のポイントは2点です。
- (1)年5%から年3%へ
- (2)変動制利率の採用
2.改正点の解説
それでは改正点を簡単に解説しましょう。
(1)「年5%から年3%へ」について
これは、利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、「その利息が生じた最初の時点における法定利率」によることとされ、改正民法が施行された時点での法定利率は、年3%となるというものです(改正民法404条1項・2項、平成29年民法改正附則15条2項)。
「その利息が生じた最初の時点における法定利率」とは、当該利息を支払う義務が生じた最初の時点を意味すると解され、利息を支払う特約があるときには(利息は金銭の交付時より生じるため)金銭の交付時点が「最初の時点」になるというものです。そして、この最初の時点の法定利率に「よる」ことになりますから、次に述べます変動制利率に移行しても、利息の計算については最初の時点の法定利率の値に注意しておけばよいことになります。
(2)「変動制利率の採用」について
これは、改正民法によれば、固定利率性から変動制利率に移行することを意味します。最初は前述の年3%から始め、その後は3年毎に法務省令で定めるところに従い、一定の計算式(図表)を用いて法務大臣が告示して法定利率を定めることになります。
(図表)法定利率算定の計算式
ⅰ | 法定利率は、最初は3%ですが、3年を1期とし、1期ごとに、ⅱに従って変動することになります | 改正民法404条3項 |
---|---|---|
ⅱ | 各期における法定利率は、当期の「基準割合」(算定方法はⅲによります)と、直近変動期(初回は改正民法施行時の3%です)の「基準割合」との差が1%以上(1%未満の端数は切り捨て)となった場合、直近変動期における法定利率に1%単位で加算または減算した割合が、当期の法定利率となります | 改正民法404条4項 |
ⅲ | 基準割合(法定利率の算出のために用いる利率)は、銀行が新たに行った短期貸付けの過去5年間(2年前から6年前まで)の平均利率の合計を60(=12月×5年)で除して計算した割合(ただしその割合が0.1%未満の端数は切り捨て)です | 改正民法404条5項 |
図表のとおり、法定利率の変更の基準は、銀行の1年未満の貸付の金利です。これをそのまま変動基準とするのではなく、前回変更した時点の属する年の6年前の1月から前々年の12月までの銀行の1年未満の貸付の金利平均と、今回変更する時点の属する年の6年前の1月から前々年の12月までの銀行の1年未満の貸付の金利平均を比べ、その変動の割合に応じて、法定利率を変更させることになります。
過去5年間という比較的長い期間の平均利率をもとにし、1%単位で変動することになりますから、法定利率の変動は緩やかに発生することとなるでしょう。
3.法定利率とは?改正の理由は?
それでは、改正された法定利率とは何でしょうか。またなぜ改正されたのでしょうか。
(1)法定利率とは
法定利率とは、法律で定められた利率のことです。①約定(やくじょう)利率(利息を生ずべき債権について当事者の契約によって定めた利率のこと)が定められていない場合や、②法律の規定によって発生する場合に適用されるのが法定利率です。②の例としては、貸金契約を結んで100万円を貸したのに期日になっても返済がない場合等に請求する遅延損害金があります(民法419条1項)。
これについて、改正前民法は年5分(5%)と規定していました(改正前民法404条:固定制利率)。
また、商行為によって生じた債務について、改正前商法は年6分(6%)としていました(商事法定利率:改正前商法514条)。これは、企業取引においては資金需要が多く、資金は効率的に運用されるのが通常であるため、利率が高く設定されていたのです。
(2)改正の理由
改正前民法のような固定利率で損害賠償(遅延損害金)が定まるという規制は、バブル経済期のように金利が高い時代には適当だったかもしれません。しかし、近年は低金利状態が続いています。そのため、年5%とする法定利率は高率でありすぎるという指摘があり、現行制度を変更する必要性がでてきました。そこで改正民法は、①法定利率を引き下げるとともに、②変動制に改めることとしました(改正民法404条)。
またそれに伴い、商事法定利率を定める改正前商法514条は削除されました。
4.改正の影響は?
それでは改正法の影響について、Qをもとに考えてみましょう。
(1)改正前民法にしたがった計算
Qについて、AはBに対して、①自家用車の代金額200万円に加えて、②損害賠償(遅延損害金)を請求できます。②は、約定利率が定められていない場合であれば、年5%です。1年間支払われていない場合は、200万円×5%=10万円になります。Qでは7月1日から10月1日までの(92日)分ですから、日割計算で10万円×92÷365=2万5,205円となります。
なお、改正民法は令和2(2020)年4月1日に施行されていますが、その施行日前の債権の利息については改正前民法の法定利率によることになります(平成29年民法改正附則15条1項)ので注意してください。
(2)改正民法にしたがった計算
改正民法でも、AはBに対し①代金額200万円と②遅延損害金を請求できる点は同じです。ただし②について、改正法適用時点の法定利率3%の場合(約定利率は定められていないとします)には、200万円×3%=6万円になります。Qでは92日分ですから、日割計算で6万円×92÷365=1万5,123円です。
もし返済が3年間以上遅れ、その間に法定利率が上昇した場合はどうなるでしょうか。その場合でも、遅延損害金はBが遅延の責任を負った「最初の時点における法定利率」となりますので(改正法419条1項)、3%のまま変わりません。
このように、法定利率の改正は大きな影響を及ぼしますので、改正法をよく知っておくことが必要です。