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Q&Aで学ぶ民法(債権法)改正  第3回「中間利息控除の見直し」

Q&Aで学ぶ民法(債権法)改正  第3回「中間利息控除の見直し」

この記事の著者
  日本大学法学部教授、ミロク情報サービス客員研究員 

Q:Aは自動車に轢かれて負傷し、後遺障害が残ったため、労働能力が減退してしまいました。治療費等に加えて、事故がなかったならば得られたはずの利益(逸失利益)を加害者Bに請求することはできるでしょうか。

A:改正民法によって、Qでは、Aは逸失利益を請求することができますが、年3%の法定利率に従って将来得られるはずの運用利息分を計算することになります。

1.改正のポイント

令和2(2020)年4月1日から債権法を改正する改正民法が施行されました。前回の「法定利率の見直し」に引き続き、本稿では中間利息控除の見直しについて取り上げます。

改正のポイントは、中間利息の控除に関する明文の規定を置くことです。

2.改正点の解説

改正前民法には中間利息の控除について明文の規定はありませんでしたが、改正民法は、中間利息の控除について明文の規定を設けます(図表)。

(図表)中間利息控除の算定式

将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする 改正民法417条の2第1項
将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において、その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも、ⅰと同様とする 改正民法417条の2第2項

3.中間利息とは?改正の理由は?

それでは、改正された中間利息とは何でしょうか。またなぜ改正されたのでしょうか。

法定利率に関して中間利息控除が問題となる場合があります。この問題について、逸失利益を例にとって考えてみることにしましょう。

(1)逸失利益とは何か

交通事故等を原因とした身体障害による逸失利益は、①休業損害(事故による受傷から治療・症状固定までの間)と、②症状固定後の後遺障害による逸失利益があります。休業損害は、原則として、現在の収入に休業期間を乗じて算定されます。逸失利益は原則として、障害がなかった場合と比較して現実に減少した収入を元に算定されます(なお、最判昭和56年12月22日民集35巻9号1350頁は、後遺障害があっても収入が減少していなければ原則として逸失利益は認められないという立場に立ちます)。

これだけではわかりにくいのでQを基に次の事例で考えてみましょう。Aが50歳で年収は500万円ありましたが、年収250万円に下がってしまった場合です。この場合に、毎年250万円ずつ損害が発生することになります。事故に遭う前の職業から考えても、定年となる65歳まで働けたとしますと、逸失利益は次のようになるでしょう。

250万円 × 15年 = 3,750万円

しかしながら、これをBに支払わせると、Aが利益を得すぎることになります。なぜなら、Aが15年間で定期的に得るはずの利益を一時金として得ることになりますから、運用利息分を利得することができるためです。

(2)中間利息の控除の必要性

そこで中間利息を控除して現在の価額に換算する必要がでてきます。中間利息とは、将来の一定額の金銭の支払いを目的とする債権について現在の価額を算定する場合に、その債権額から控除されるべき中間の利益のことです。民法では、金銭は常に利息を生ずるものとして扱われますので、15年後の3,750万円は、その時に至るまでの利息を含んでいるものと考えられます。そこで、3,750万円からその間に至るまでの利息を差し引かなければならないとされ、それを中間利息控除といいます。

(3)中間利息の控除の法定利率

中間利息控除は法定利率で行うというのが現在の裁判実務です(最判平成17年6月14日民集59巻5号983頁)。法定利率とは、法律で定められた利率のことであり、改正前民法は年5分(5%)と規定していました(改正前民法404条:固定制利率→詳しくは、Q&Aで学ぶ民法(債権法)改正 第2回「法定利率の見直し」を参照)。

その算定にあたっては、被害者Aが損害額をまとめて受け取り、それを将来にわたって複利で運用した場合の利息(中間利息)を差し引く方法(ライプニッツ式)が用いられます。実際は、年数に応じた係数(ライプニッツ係数)をあらかじめ算出しておき、損害額にこの係数を乗じて中間利息控除後の金額を算出しているとのことです。

4.改正民法による解決

(1)交通事故の場合

前述2の(図表)に示した規定(改正民法417条の2)は、Qの交通事故のような不法行為の場合でも用いられます(改正民法722条1項による準用)。

法定利率が変動制となったのですから、法定利率に従って将来得られるはずの運用利息分は将来にならないと計算できないはずですが、将来を待っていると賠償額が確定できないという問題が生じます。そこで、改正民法は、前述2(図表)ⅰのとおり、損害賠償請求権が生じた時点(不法行為の場合は不法行為の時点)が中間利息控除に用いられる法定利率の基準時であることを示しています。

Qのように事故から症状固定まで時間がかかる逸失利益の算定についても、改正民法では事故時点の法定利率によることになりますから、法定利率について変動制に移行してもその算定は行いやすいといえます。

なお、前述2(図表)ⅱは、事故によって発生した介護費用等が「将来において負担すべき費用」にあたりますので、それについて中間利息の控除をするときにも、損害賠償請求権が生じた時点が法定利率の基準時であることになります。

(2)保険への影響

改正民法によれば、法定利率が下がれば中間利息の控除額も低くなるため、Aの得られる損害賠償額は増えます。もっとも、Qの事例は保険金で対応することが多いでしょう。改正民法が成立すると保険金の支払が増えるため、保険料が高くなることも予想されます。

執筆の参考にしたサイト

法務省「法定利率に関する見直し

最高裁判所「最判昭和56年12月22日

最高裁判所「最判平成17年6月14日

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著者プロフィール

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大久保 拓也

日本大学法学部教授、ミロク情報サービス客員研究員

日本大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。ミロク情報サービス客員研究員として商法・会社法・民法等の研究報告を行う。令和元年改正会社法の審議において、参議院法務委員会で参考人として意見を述べた。日本空法学会理事、日本登記法学会監事も務める。
著書に『法務と税務のプロのための改正相続法徹底ガイド〔令和元年施行対応版〕』(共著・ぎょうせい)、『実務が変わる!令和改正会社法のまるごと解説』(共著・ぎょうせい)等多数。

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