競業避止義務とは? 概要や有効範囲、違反した場合について解説
競業避止義務は、自社の利益を守ることを目的に役員や従業員に課す義務です。
在職中だけではなく、退職後も一定の条件下で適用できます。
今回は、競業避止義務の概要や有効とされる範囲、違反した場合の罰則について解説します。
有効性が争われた裁判例についても解説しますので、就業規則や誓約書に規定する際の参考にしてください。
競業避止義務とは? わかりやすく解説
競業避止義務は「きょうぎょうひしぎむ」と読みます。
まずは、競業避止義務とは何かと、目的について解説します。
競業避止義務とは
競業避止義務とは、役員や従業員が所属企業と競合する企業に就職する、あるいは自ら開業するといった競合行為を行わない義務のことです。
役員・従業員が在職中当然に負う義務の一つで、退職後も同じ義務を課す企業もあります。
通常は、就業規則のなかに競業避止義務について定められています。
また、入社時や退職時に個別に競業避止義務について定めた誓約書や契約書を提出する、または交わすことが多くなっています。
企業秘密を勝手に口外しない秘密保持義務と併せ、企業で働くうえで重要な義務です。
競業避止義務の条文
経済産業省が公表する「競業避止義務契約の有効性について」には、競業禁止規定の例として、下記のような文言案が挙げられています。
〈就業規則の規定例〉
「従業員は在職中及び退職後6カ月間、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を営むことを禁止する。ただし、会社が従業員と個別に競業避止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする。」
禁止行為の範囲と禁止期間を明確に定めることが重要であり、誓約書でもこの点は同じです。
なお、就業規則の場合は例のように別途合意できる旨を定めておくことで、個別対応がしやすくなります。
参考:「競業避止義務契約の有効性について」|経済産業省
競業避止義務の目的
競業避止義務は、企業の利益を守るため、役員や従業員に課されている義務です。
企業は自らが築いたさまざまな経営資源や蓄積したノウハウ、情報などを用いて、顧客の獲得や商品・サービスの提供を行い、利益を得るべく活動しています。
企業の内情を知る役員や従業員が、ライバル企業や自らの事業として所属企業とバッティングする事業を行ってしまうと、その利益を得る機会が不当に失われてしまいます。
このような事態を防ぐため、競業避止義務が在職中はもちろん、退職後にもある程度認められています。
競業避止義務の存続期間
就業規則等の競業禁止規定の有無に関わらず、従業員は在職中は競業避止義務を負います。
一方、退職後はすでに企業と契約関係にないため、別途合意がなければ競業避止義務を負うことはありません。
また、憲法に職業選択の自由が定められている以上、合意がある場合でも無制限に競業禁止義務が課されるわけではありません。
有効な存続期間については、明確な数値基準はありませんが、短ければ有効となりやすく、長ければ無効になりやすい傾向にあります。
過去の判例を見る限り、2年を超える場合は無効になりやすいようです。
競業避止義務が有効とされる範囲
競業避止義務が有効とされるためには、複数の条件(範囲)があります。
在職中の競業避止義務は有効性が問題になりにくいため、ここでは、退職後の競業避止義務の有効性に影響する条件について解説します。
業務内容や対象が制限されているか
競業を禁止する業務内容・対象が、一定程度制限されていることが挙げられます。
禁止する業務内容が広くなれば、職業選択の自由への影響が大きくなります。
勤務を禁止する業種や職種がある程度絞られている、または得意先へのコンタクトをしないなど、禁止する業務内容が具体的に限定されている場合、競業避止義務は有効と判断されやすくなります。
代償措置があるか
競業避止義務を負う退職者に一定の代償措置が取られているかどうかも、その有効性に影響します。
職業選択の自由を制限する競業避止義務に見合うだけの利益が与えられていれば、退職者の不利益は小さくなります。
過去の裁判例でも、退職者が受け取った退職金額から、競業避止義務を負うことによる経済的な不利益がカバーされているとして、競業避止義務を有効としたものがあります。
このような金銭的な対価があれば、有効性が認められやすくなるでしょう。
競業避止義務に違反した場合
ここまでは、競業避止義務が有効となる条件について解説しました。
では、有効となった競業避止義務に違反した場合、どのような罰則があるのか見ていきましょう。
損害賠償を請求
競業避止義務に違反したことで損害を被った場合、損害賠償請求をすることができます。
ただ、企業は競業避止義務の違反によって、どのような損害が発生したと言えるのか、裁判所に説明をする必要があります。この説明は容易ではなく、裏付けとなる証拠集めも困難です。
なお、取締役が会社法356条1項に定める競業取引を行った場合は、損害額を推定するルールがあります。
競業避止行為の差し止めを請求
競業行為に対して、差し止めを請求することができます。
しかし、裁判所へ請求を行う場合、裁判の審理終了前に競業避止義務の有効期間が過ぎると、差し止めができなくなってしまいます。
この事態を防ぐために、裁判所に仮差し止めを求めることが可能です。
仮差し止めの請求には、今すぐに差し止めを行わなければ、回復しがたい損害が企業に生じることを立証する必要があります。
競業避止義務に関する判例
競業避止義務の違反に該当するかどうかは、過去の裁判例が参考になります。
ここからは、実際に裁判で争われた2つの事例について、解説します。
競業避止義務を定めた誓約書が、無効と判断された事例(知財高判令和元年10月9日判決)
退職者2名の誓約書の有効性が問題となった事案です。
1名は入社後5年以内に退社した場合に退社後3年間、もう1名は入社後3年以内に退社した場合に退社後1年間において
①退職先と競合関係に立つ事業者や提携先企業への就職・役員就任を禁止する
②退職先と競合関係に立つ事業の開業または設立を禁止する
との内容の誓約書の有効性が争われました。
裁判所は、競業禁止の場所的制限がないことや存続期間の長さ、十分な代償措置がないことを理由に誓約書は共に無効と判断しました。
参考:裁判例結果|知的財産高等裁判所
競業禁止条項のある契約書が有効と判断された事例(知財高判平成29年9月13日)
雇用契約期間中およびその終了後12カ月間、勤務先の業務内容と同種の行為を自らまたは第三者をして行うことを禁じる旨の定めの契約書の有効性が、問題となった事案です。
- 退職者が受託したソフトウェアの開発責任者を務める重要なポジションにあり、勤務先の営業秘密に触れる機会も多かったため、競業行為により退職先に生じる不利益は考慮されるべきであること。
- 12カ月という義務の存続期間は合理的範囲内であること。
を理由に、裁判所は契約書の競業禁止条項を有効と判断しました。
参考:裁判例結果|知的財産高等裁判所
競業避止義務についてのまとめ
競業避止義務とは、役員や従業員が所属企業と競合する企業に就職する、あるいは自ら開業するといった競合行為を行わない義務のことです。企業が自らの企業の利益を守るために、就業規則や誓約書によって規定されます。
ただ、憲法で職業選択の自由が定められているため、競業避止義務を無制限に課すことはできません。
過去の裁判例を参考にしながら、有効となる範囲で定めるようにしてください。
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