反社チェックの方法・タイミングを法人・個人別に解説
取引先が増えるときや、自社の経営陣の顔ぶれが変わるときなどには、相手が反社会的勢力でないことの確認が必須です。
反社会的勢力とは暴力・脅迫と詐欺によって不当に利益を得る団体や個人のことを指し、この確認は「反社チェック」とも呼ばれます。
反社会的勢力でないことを確認する方法は、複数あります。相手や自社の状況に応じて、適切なものを選ぶとよいでしょう。具体的な確認方法と、確認をすべきタイミングを解説します。

反社チェックとは?
反社チェックとは、取引開始前に取引先や顧客、関係者が反社会的勢力(暴力団、詐欺集団など)と関わりがないかを確認する調査です。
コンプライアンスチェックとも呼ばれ、法令遵守や社会的責任を果たすために重要とされています。企業の信頼を守るため、定期的な確認が推奨されます。
反社会的勢力とは、暴力団、準暴力団、総会屋、反社会的な活動を行う集団や個人のことです。企業が反社勢力と取引を行うと、法的リスクや社会的信用の失墜を招く可能性があります。
反社チェックが必要な理由
反社チェックは、企業が取引開始前に取引先や顧客の信頼性を確保するために必要です。反社とつながりがあることによる企業への影響は、大きく分けて以下の3つあります。
- 法的リスク
- コンプライアンス
- 経済的損失
それぞれについて解説していきます。
法的リスク
反社会的勢力と知らずに取引を行った場合でも、法的に企業の責任が問われる可能性があります。日本では「暴力団排除条例」が各都道府県で制定されており、反社会的勢力と取引を行った企業は罰則の対象になることがあります。
また、反社との取引が発覚すると、民事訴訟や契約解除請求などの法的トラブルに発展するかもしれません。株主や取引先から訴訟を起こされる可能性もあり、企業の経済的損失が深刻化する恐れがあります。
コンプライアンス
また、反社チェックは単なる法律遵守にとどまらず、社会的責任を果たすことで企業の信用を高める役割も果たします。企業は単なる利益追求だけでなく、社会の一員として安全で公正な取引環境を維持する責任もあるのです。
反社勢力を排除することで、犯罪の温床を断ち切り、地域社会の平和や安心を守る一助となります。また、取引先や顧客から信頼されるためには、社会的に倫理的な行動が求められるでしょう。
経済的損失
反社会的勢力との取引が発覚すれば、信用の低下による顧客離れが起こり、売上に直結する影響が出るかもしれません。
また、取引先や株主が契約解除や訴訟を起こすケースもあり、多額の賠償金や法的費用が発生することがあります。金融機関や投資家との関係が悪化し、融資が停止される、または資金調達が困難になるリスクも起こるでしょう。
加えて、反社との関与がメディアやSNSで拡散されると、ブランドイメージの悪化により長期的な売上減少や市場撤退を迫られる場合もあります。こうした経済的損失を防ぐため、反社チェックは企業経営の安全網として重要なのです。
【対法人】反社チェックの方法
先述したリスクを避けるため、事前に取引先が反社会的勢力でないかの確認が重要です。
この際の反社チェックを確実に行うためには、以下の方法があります。
1:商業・法人登記情報を確認する
「商業・法人登記情報」とは、会社に関する重要な一定の事項を、法務局の登記官が専門的な視点で審査したうえでコンピュータに記録したものです。
具体的には、以下の事項を記録しています。
- 商号
- 名称
- 所在地
- 代表者の氏名
- 設立年月日
- 資本金
- 発行株式の数
- 役員の選任
商業・法人登記情報は、こうした記録を一般に公開して信用維持を図るものです。
閲覧したい場合は、一般財団法人民事法務協会が運営する「登記情報提供サービス」を利用します。
2:インターネットで検索する
反社チェックは、インターネットで検索することでも可能です。
反社チェックをするときは、取引先の企業名に加えて、その企業の代表者や取締役などの役員、経営陣の個人名まで検索したほうがよいでしょう。
検索時のキーワードは、以下のようなものが考えられます。
<暴力団関連>
暴力団・フロント企業・ヤクザ・反社・総会屋
<事件関連>
検挙・摘発・逮捕・事件・違法・違反・偽装・不正・行政処分・捜査・送検・摘発・訴訟・容疑・罪・指名手配
<罪状や思想関連>
殺人・傷害・発砲・詐欺・窃盗・収賄・横領・着服・右翼・左翼
3:新聞のデータベースで調べる
新聞の過去記事のデータベースから、取引先の企業名・企業の代表者や取締役などの役員、経営陣が反社会的勢力と繋がっていないかどうかを調べる方法です。
新聞社各社は、それぞれ過去記事のデータベースから記事を検索できるサービスを提供しています。
また、新聞社の運営ではなくても、新聞記事の横断検索や新聞記事を利用した反社チェックができるサービスもあります。
4:業界団体に問い合わせる
業界によってそれぞれですが、独自の反社データベースを構築している業界もあります。この業界団体独自のデータベースを利用して、反社情報の照会や反社チェックができる可能性があるのです。
一例として、以下のような団体が業界独自の反社データベースを作っています。
- 不動産流通推進センター
- 日本証券業協会
- 全国銀行協会
5:調査機関で調査してもらう
反社チェックを自社で行って怪しいと判断した場合には、調査会社のような専門調査機関に調査をしてもらう必要があります。
調査方法はそれぞれの調査機関により異なりますが、調査内容としては以下のようなものがあります。
- 反社会的勢力の疑いのある企業や対象者の周辺人物への聞き込み
- 調査機関が独自に構築したデータベースの照会
- 官公庁やメディア情報の調査
6:チェックツールを利用する
取引先が反社会的勢力である、または反社会的勢力と関係があるかを確認できる「反社チェックツール」を利用してもよいでしょう。
このツールは、反社チェックやコンプライアンスチェックを代行し、取引の可否を判断するものです。自動でリスクを判断し、早急に反社チェックを実施できます。
もちろんコストはかかりますが、反社チェックのノウハウのない企業にはおすすめの方法です。
7:行政機関で情報照会する
取引先が反社会的勢力であるかを、行政機関で情報照会する方法もあります。
照会可能な行政機関としては、警視庁の組織犯罪対策第三課や、公益財団法人暴力団追放運動推進都民センターが挙げられます。
ただし、情報開示については機密事項の部分も多いため、ほかの方法に比べるとハードルが高めです。
【対個人】反社チェックの方法・やり方
個人に対する反社チェックは、以下のような手法で行います。
- 公的データベースの確認
各都道府県公安委員会が公開する「暴力団排除条例」に基づくリストや、反社情報を取り扱う専門機関のデータベースと照合する方法です。 - 身元確認書類の確認
提供された身分証明書(運転免許証、パスポートなど)をもとに、申請者の本人確認を行い、不審な点がないかチェックします。 - インターネット検索
対象者の氏名や関連情報をインターネットで調査し、反社会的な活動に関連する記録やニュース記事がないか確認します。 - 信用調査会社の利用
信用調査会社に依頼し、対象者の過去の活動履歴や関与先を精査してもらいます。これにより、反社との接点がないか確認できます。 - ヒアリング
必要に応じて、対象者に直接質問を行い、背景や取引目的について詳細を確認する方法もあります。不審な点があれば追加調査の実施も検討しましょう。
ただし、過剰な調査はプライバシー侵害となる可能性があるため、法令に基づいて慎重に実施することが求められます。
反社チェックを行う際に気を付けること
企業や個人事業主の反社チェックの方法について紹介しましたが、今後の長期的な事業経営を続ける上で反社チェックを適切に行うことは重要です。
以下で、確実な反社チェックを行う際に気を付けるべき点についてそれぞれ解説します。
- マニュアルを整備する
- チェック結果の記録と共有
- チェックを継続して行う
マニュアルを整備する
反社チェックを確実に実施するには、統一されたマニュアルの整備が必要です。
マニュアルには、チェック対象や手順、使用するデータベースや確認項目を記載し、誰が実施するか責任分担まで明確化しましょう。また、違反が疑われた場合の対応フローも含めることで、適切な対処が可能になります。
マニュアルが完成したら、社員への研修を通じて運用ルールを徹底させましょう。
チェック結果の記録と共有
反社チェックでは、調査の証拠として結果の記録を残すことが重要です。これは調査の結果、反社と判明した場合にその判断が適切であることを証明する必要があるからです。
記録には、チェックの日時、対象者、使用したデータベース、結果、特記事項を含めることで、後から確認可能な状態にします。これにより、万が一問題が発生した際、適切に対応できるだけでなく、第三者に対しても法令遵守や透明性を証明できます。
ただし、個人情報保護法に基づき、記録の保存期間やアクセス権限を明確にし、情報漏洩を防止する配慮が必要です。
チェックを継続して行う
反社チェックは一度行えば良いわけではなく、定期的に更新を行いましょう。なぜなら、反社会的勢力との関与は時間の経過とともに変化する可能性があるためです。
例えば、取引先の役員交代や企業買収による人事配置の変化、途中入社の従業員が後日反社との関与があることがわかったなど、流動的な人の配置によって結果が異なるためです。
継続的なチェックを行うことで、最新の状況を把握し、リスクを未然に防ぐことができます。また、継続的な確認を習慣化することで、取引先や関係者への信頼性を維持し、企業のコンプライアンス体制を強化できます。
反社会的勢力かどうか確認するタイミング
反社チェックを行う時期は、いつでも良いわけではありません。
契約を交わすときに加え、取引を開始してから一定期間が経ったときと、経営に関わる出来事があったときにも行います。
新規取引のタイミング
反社チェックを行うタイミングは、新規取引の契約の締結や金銭のやりとりを行う前です。関係を持ってからでは遅いため、できる限り早い段階でチェックしましょう。
新規取引の場合、チェックの対象者は相手企業と、税理士・弁護士など相手企業の外部関係者です。
一定期間ごと
既存の取引先との継続取引の場合は、新規で取引を行う前の一回だけでなく一定期間ごとのチェックも必要です。
契約を開始してから、反社会的勢力との関わりが発生することも考えられるためです。
役員就任のタイミング
反社チェックは、取引先だけでなく自社の社員に対しても必要なケースがあります。例えば自社の役員就任時には、就任前にチェックが必要です。
この場合、役員本人だけでなく、役員の親族や親族が経営する企業などにもチェックをしなくてはなりません。
株主を増やしたり変更したりするタイミング
自社の株主を増やしたり、変更したりする場合も反社チェックが必要です。
反社チェックの対象者は新たに株主になる人で、こちらも株主になる前に確認しなくてはなりません。
新たに株主になるのが法人である場合は、その法人だけでなく法人の代表者・役員と、法人の外部関係者まで反社チェックを行う必要があります。
対個人の場合のタイミング
個人に対しての反社チェックは、必ず取引前や契約前に実施してください。これは、一度契約を締結してしまうと、契約解除は容易ではなく、解除を理由に不当に要求されるケースがあるためです。
先述した反社チェックの方法を用いて検索や照会、必要に応じて依頼を行いましょう。
反社が判明した場合の対処方法
取引先が反社だと判明した場合、具体的にはどういった対応をすればいいのか、それぞれ以下で解説します。
- 弁護士や警察に相談する
- 相手に詳細は伝えない
- 書面で対応する
弁護士や警察に相談する
顧問弁護士がいる場合には初めに相談し指示を仰ぎましょう。弁護士に相談することで、法的な対処を含めて提案してくれるため、そのまま警察と連携をとれる可能性があります。
取引先が明らかに反社であるときや、問題が発生する予兆が見られる場合には、警察に相談するのも選択肢の1つです。特に相手が暴力的な手段や脅迫を行うリスクがある場合は、緊急度をもって対応しましょう。
警察への相談は、聞き取りに時間や手間がかかってしまうことを事前に念頭に置いておきましょう。ただし、まずは従業員に対して身の安全を守る注意喚起を行ってから相談することが大切です。
相手に詳細は伝えない
反社と判明した場合でも、相手に詳細な理由や調査結果を伝えないよう注意が必要です。反社会的勢力は、詳細を聞き出して反論や脅迫の材料にする可能性があるため、余計な情報を与えることは避けるべきです。
取引を終了する場合も、「企業方針」や「規定による判断」といった理由で伝え、具体的な反社チェック結果については触れないようにしましょう。
ただし、契約書に契約解除条項や反社会的勢力排除条項が設けられている場合は、違反を理由に解除できます。そのため、あらかじめ契約書に記載しておくことでトラブル防止につながるでしょう。
書面で対応する
反社だと判明した際の契約の締結拒否や契約解除の意思表示は、口頭ではなく必ず書面で行いましょう。書面で対応することで、取引中止や契約解除の意思を明確に示し、トラブルが起きた際の証拠として利用できます。
また、書面には弁護士の助言を取り入れ、法的に適切な表現を用いることが重要です。冷静で事務的な対応を徹底しましょう。
口頭でのやりとりは後で記録が残らず、相手側に言葉を都合よく解釈されるリスクがあるため避けるべきです。できれば書面での対応が望ましいですが、もし取引先が直接の対談を強く希望してきた場合は、録音機材を用意することで、意見の食い違いやトラブルに巻き込まれても証拠として提出することができるでしょう。
反社会的勢力の確認方法についてのまとめ
故意でなかったとしても、反社会的勢力と関係を持つことは自社に悪影響を及ぼします。そうした事態を避けるためにも、反社チェックは必ず、そして定期的に行うべきです。
反社チェックのどの方法が適しているかは相手と自社の状況によって異なります。そして、場合によっては自社の社員にも実施する必要があります。
自社と社員を守るためにも、慎重にチェックしましょう。
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