このページはJavaScriptを使用しています。JavaScriptを有効にして、対応ブラウザでご覧下さい。

実はこんなに難しい、指定役務・区分の選び方

著者:シルベ・ラボ商標特許事務所代表/株式会社シルベ・ラボ 代表取締役 / 弁理士  潮崎 宗

実はこんなに難しい、指定役務・区分の選び方

先日、パティシエをされているA先生から、次のような相談を受けました。

「今度、主婦でもできる一流パティシエ風お菓子作りセミナーにおいて、講師として登壇することになりました。今後、講師業で生計を立てていきたいので、弊社の商標を第41類の『セミナーの企画・運営又は開催』について登録しておきたいです。」

詳しく話を聞いてみると、セミナーの準備、告知、設定と当日の運営自体は、お菓子クラブが行い、A先生は当日の講演のみ行うとのことでした。

この場合、商標出願をするにあたり指定すべき役務は、第41類「セミナーの企画・運営又は開催」とすべきでしょうか。

それとも、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」とすべきでしょうか。


1.「セミナーの企画・運営又は開催」とは

まず、「セミナーの企画・運営又は開催」とは、どのような役務でしょうか。

類似商品・役務審査基準(国際分類第12-2023版対応)において、「セミナーの企画・運営又は開催」は、第41類に属する類似群41A03の役務として分類されています。

また、商品及び役務の区分解説〔国際分類第11-2022版対応〕では、同類似群の役務は、「文化又は教育のためのものが該当します。

なお、商業又は広告のための展示会の企画等のサービスは第35類に属します。」と記載されています。

一見、上述の資料からだけでは、「セミナーの企画・運営又は開催」の役務の中に、文化又は教育のためのセミナーの講師として講演を行うことも含まれているように見えますが、広辞苑を参酌すると

  • 企画 …… 計画を立てること。また、その企画。
  • 運営 …… 組織・機構などをはたらかせること。
  • 開催 …… 会や行事を開き行うこと。

となっています。

「企画」、「運営」、「開催」の意味だけを見ると、講演することそれ自体は、いずれにも該当しないものと見受けられます。


2.「技芸・スポーツ又は知識の教授」

「セミナーの企画・運営又は開催」と同じ41類の役務に、「技芸・スポーツ又は知識の教授(類似群コード:41A01)」があります。

商品及び役務の区分解説〔国際分類第11-2022版対応〕において、「技芸・スポーツ又は知識の教授」の役務は、以下のようなものであると記載されております。

教養、趣味、遊芸、スポーツ、学習等の指導を行う教授所、学校教育法で定める学校及び自動車教習所、理容学校、洋裁学校等の各種学校が教授し又は教育するものが該当します。

なお、通信の方法による教授又は教育も含みます。

「学習塾における教授」における学習塾には、進学塾及び予備校も含みます。

「国家資格取得講座における教授」は、例えば、宅地建物取引士、行政書士、中小企業診断士の国家資格を取得するために教授するサービスです。

なお、「技芸・スポーツ又は知識の教授」に含まれる1つの役務として、特許庁では、商願2003-081622(商標登録第4786429号)において、「菓子作りの教授(類似群コード:41A01)」という表現での登録が認められています。

前述の相談内容を振り返ると、A先生は「お菓子作りセミナーの講師」を行うということでした。

お菓子作りの指導、又は、それに関する知識を教授することが講演の目的であった点を踏まえると、「技芸・スポーツ又は知識の教授」(類似群コード:41A01)の方が役務として相応しい内容であると考えられます。


3.特許庁での判断例

ここまで、セミナーにおいて講演することについて商標権を取得する場合、指定役務は「セミナーの企画・運営又は開催」(類似群コード:41A03)ではなく、「技芸・スポーツ又は知識の教授」(類似群コード:41A01)とすべきであると述べてきました。

この点について、参考となる2つの審決を紹介します。

(1)取消2018-300489

本件は、商標登録第5303502号に対して、第41類の「企業・団体の組織構成員に対する教育研修,(中略)人材育成のための教育訓練,(中略)研修・セミナーの企画・運営又は開催,(以下略)」について、商標法第50条第1項に基づく不使用取消審判を請求した事案です。

本審判において、被請求人(商標権者)は、要証期間中に依頼者からの委託を受けて、依頼者が募集した者に対して研修を行っており、その際、社会通念上同一の商標を使用した実績がある旨を主張しました。

研修前に依頼者に送った見積書、研修中の様子を撮影した写真、研修中に使用したテキスト、研修後に発行した請求書等を使用証拠として提出し、「研修・セミナーの企画・運営又は開催について商標を使用しているから、商標権は取り消されるべきではないと主張しました。

しかしながら、本審決においては、商標権者が行った研修は、「円滑かつ正確な調査の実施につながる(研修の対象者)の接遇スキルのレベルアップを図る。」ことを目的とした研修であり、提出された使用証拠から「『企業・団体の組織構成員に対する教育研修』について本件商標の使用をしていることを証明した」と認められ、商標の登録は取り消すことができないと判断されました。

すなわち、「セミナーの企画・運営又は開催」(類似群コード:41A03)について商標を使用しているとは認められませんでした。

※補足:「~に対する教育研修」は、これまでの審査において「技芸・スポーツ又は知識の教授」と同一の類似群コード41A01が付与されています。

[審査採用例]

一、商願平11-103389  知的財産に関する教育研修

二、商願2003-073740  管理者に対する教育研修

三、商願2003-034271  経営者・管理者・社員に対する教育研修

(2)取消2020-300627

本件は、商標登録第5947687号に対して、第41類の「セミナーの企画・運営又は開催,(中略)バレエに関する電子出版物の提供,バレエに関する放送番組の制作,バレエの演出又は上演,バレエの興行の企画又は運営に関する情報の提供,バレエの振付(以下略)」について、商標法第50条第1項に基づく不使用取消審判を請求した事案であります。

なお、本審判において、「バレエスクールにおけるバレエの教授」は、取消請求されませんでした。

本審判において、被請求人(商標権者)は、要証期間中にバレエスクールを開校し、その際に配布した生徒募集のチラシにおいて登録商標と社会通念上同一の商標を使用した旨を主張しました。

しかしながら、本審決においては、バレエスクールにおいて、座学を行っていたかの確認をすることなく、商標権者が商標を使用していた役務は、「バレエスクールにおけるバレエの教授」のみであり、「当該役務は、請求に係る指定役務に含まれていないことが明らかであるから、請求に係る指定役務について使用されたものと認めることはできない」と判断されました。

よって、商標登録第5947687号は登録を取り消すべきものと審決されました。

すなわち、バレエスクールの生徒募集のチラシについての商標の使用は、「バレエスクールにおけるバレエの教授」(類似群コード:41A01)についての使用であって、「セミナーの企画・運営又は開催」(類似群コード:41A03)についての使用ではないことを示すものであります。

※補足:類似商品・役務審査基準(国際分類第10-2016版対応)「バレエスクールにおけるバレエの教授」は、「技芸・スポーツ又は知識の教授」と同一の類似群コード41A01が付与されています。

4.まとめ

以上を踏まえると、A先生は、第41類の「技芸・スポーツ又は知識の教授」について商標出願すべきということになります。

「セミナーの企画・運営又は開催」と「技芸・スポーツ又は知識の教授」とは、いずれも同じ第41類に属する役務であり、一見すると同じような内容にも見えるために混同してしまいそうですが、実際は全く違う内容のサービスであるということになります。

これらの指定役務、指定商品は、まさに商標権の権利内容・範囲そのものであるため、間違った役務を選んで出願・登録してしまうと、せっかく商標登録を取ることができたとしても、実際の事業で用いている大切な商標を全く守れていないということになってしまいます。

特に、役務(サービス)は目に見えないものである上に、IT技術の急速な進展により、多くのサービス形態にIT技術が絡むに至っており、その複雑性の度合いは進むばかりです。

このような状況において、商標出願の際の指定役務を選ぶ際には2つの大きなハードルが立ちはだかっています。 

1つはそのサービス内容を正確に把握することであり、もう1つは把握したサービス内容を商標法上の区分、指定役務へ当てはめることです。

商標出願の際には、よくよく注意して、商標を使用するサービスの内容把握、区分等への当てはめをすべきです。

高度の専門性が要求されるところですので、漏れ、ムダのない適切な商標登録の取得を目指すには、商標の専門家のサポートも検討すべきといえるでしょう。


【書式のテンプレートをお探しなら】

この記事に関連する最新記事

おすすめ書式テンプレート

書式テンプレートをもっと見る

著者プロフィール

author_item{name}

潮崎 宗

シルベ・ラボ商標特許事務所代表/株式会社シルベ・ラボ 代表取締役 / 弁理士

上智大学法学部法律学科卒業。日本弁理士会関東会 中小企業・ベンチャー支援委員会。東京都内の特許事務所勤務を経て、2005年弁理士登録。

商標・ブランドに関するコンサルティングのほか、ベンチャー企業や中小企業の案件を中心に、国内及び外国での調査や出願、審判に関する手続、不正競争防止法・著作権に関する相談を行っている。各専門家との各々の強みを活かしたワンストップ体制で、知的資産の分析・調査の段階から、権利化、運用までを見据えたサービスを提供している。

この著者の他の記事(全て見る

bizoceanジャーナルトップページ