はじめての意匠登録
「新しいデザインのコップを企画した」
「こだわりの形状の眼鏡を製造して展開する」
「アプリ起動用のアイコンの画像を新しく制作した」
「商品の形状や模様などのデザインで、他社商品との差別化を図りたい」
普段、我々が商品を購入するのは、お店に足を運び、陳列されている商品の中から欲しいものを選んでくるか、ECサイトで検索し、ピックアップされてきた商品群の中から選択してポチっとするということになります。
その際、最低限必要とする性能はどの商品でも持っているというような場合に、商品購入の最終的な決め手となるのは、デザインであるというようなことがよくあります。
デザインは、商品の購入意欲を湧かせる重要なポイントになります。
形状や模様・色彩などに係るデザイン、すなわち「意匠」は、商品の競争力を向上させる大きな要因の一つであり、これを意匠登録することで、利益の源泉となるデザインを真似されないように保護できるという利点があります。
そこで、まずは、意匠とは一体どのようなものなのかについて明らかにしたのち、意匠登録のメリットや利用状況についてご説明します。
1.意匠とは
意匠とは、一言でいうと、物品の美的な外観ということになりますが、法律上は、物品(物品の部分を含む)の形状等、建築物(建築物の部分を含む)の形状等又は画像であって、視覚を通じて美感を起こさせるものとされています(意匠法第2条第1項)。
また、内装(店舗、事務所その他の施設の内部の設備及び装飾)を構成する物品等に係る意匠は、内装全体として統一的な美感を起こさせるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができるとされ、いわゆる内装の意匠も保護の対象となります(意匠法第8条の2)。
同時に使用される二以上の物品であって、全体として統一があるときは、組物の意匠として、意匠登録を受けることができるとされています(意匠法第8条)。
加えて、物品の機能に基づきデザインが変化する製品のデザインを、一つの出願でまとめて登録できるという「動的意匠制度」というものがあります(意匠法第6条第4項)。
この制度を利用することで、一つの出願で、変化の前後の形状の異なる状態の意匠についても網羅的に権利化することが可能になります。
整理すると、次のようなものが意匠出願の対象として認められることになります。
- 全体意匠(物品の形状など)
- 部分意匠(物品の部分の形状など)
- 画像
- 建築物
- 内装
- 組物
- 動的意匠
以下に、各意匠の登録例をご紹介します。
(1)全体意匠
意匠登録第1683743号
【意匠に係る物品】コップ
【意匠に係る物品の説明】
本物品は、底面部がリング形状になっているコップである。
使用状態を示す参考図に示す様にフックに掛ければ水切り乾燥ができる。
(2)部分意匠
意匠登録第1512924号
【意匠に係る物品】コップ
【意匠の説明】
実線で表された部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である・・・
(3)画像意匠
意匠登録第1677889号
【意匠に係る物品】アイコン用画像
【意匠に係る物品の説明】
住宅の住み心地をシミュレーションするソフトの起動操作のためのアイコン用画像である。
(4)建築物の意匠
意匠登録第1702747号
【意匠に係る物品】遊戯施設
【意匠に係る物品の説明】
本建築物は、その内部及び中央中庭部分を、遊戯スペースとして用いるものである。
本建築物は、各図の名称を示す参考図に示すように、全体を略螺旋状の建造物本体と建造物本体の中央に設けた中庭と建造物本体の内周壁に沿って建造された回廊とで構成されている。
建造物本体は、全体の形状を螺旋状とし、平面視において外周壁は螺旋状に建造され内周壁は正円状に建造される・・・
(5)内装の意匠
意匠登録第1701736号
【意匠に係る物品】店舗の売場の内装
【意匠に係る物品の説明】
本内装は店舗の売場の内装であり、壁面には、商品陳列棚と商品に関する情報を表示するディスプレイが設置されている。
木目調の商品陳列机の内側には、3段の円盤状のトレイを有し、その中心部に円筒の間接照明が設置され、1段目と2段目のトレイには観葉植物が植わっている円筒状の鑑賞装置が設置されている。
(6)組物
意匠登録第1674724号
【意匠に係る物品】一組の応接家具セット
【意匠に係る物品の説明】
本物品は、テーブルとベンチとチェア2つを備えて成る一組の応接家具セットである。
(7)動的意匠
意匠登録第1702197号
【意匠に係る物品】背もたれクッション
【意匠に係る物品の説明】
本物品は、使用者の体重を支えるストッパーを有し、「約45度に傾けた状態の右側面図」及び「背もたれ部を倒した状態の右側面図」に表されるように、背もたれ部が傾倒するリクライニング構造の背もたれクッションである・・・
【意匠の説明】
本願意匠は、背もたれ部の角度調節が可能な動的意匠である・・・
2.意匠登録のメリット
意匠登録をして、意匠権を保有することで、次の3つの効果があります。
(1)ビジネスを守る効果
意匠登録をすると、その権利の範囲内で、その意匠を日本で独占して使うことができます(意匠法第23条)。
そのため、適切に意匠登録しておけば、他人から何ら文句をつけられることなく、安心してその意匠を実施して事業を継続することができることになります。
同一又は類似の意匠を実施する第三者がいる場合には、意匠権に基づく警告、税関での意匠権侵害物品の輸入差止めなどの権利行使が認められることになります。
(2)ビジネスを発展させる効果
創作したデザインのオリジナル性の証明やデザイン力など、自社の信頼性をアピールすることで、市場における商品の競争力を向上させることができます。
また、取引先や投資家などに対しては、ライセンスや資金調達といったビジネス機会を拡大するという効果があります。
(3)ブランド形成をサポートする効果
特徴のある製品自体やパッケージのデザインなどを意匠権で保護し、その意匠を独占的に実施することで、需要者に対して「この特徴的なデザインといえば、X社」という認識を持たせる効果を期待できます。
複数の製品群に横断的に施されるデザインを意匠権で保護することで、より強固なブランドを構築することも可能です。
3.意匠登録の利用状況
日本国特許庁に出願される意匠出願の件数は、ここ数年、年間約3万件で推移しています。
2021年は前年比約2%増となっており、利用率が伸びていることがわかります。
特に近年、中小企業でも意匠出願が活発に利用されています。
日本企業・個人による意匠登録出願件数全体に占める中小企業の出願件数割合は約41%です。
意匠出願人数に占める中小企業数の割合は60%に上っています。
(出典:特許行政年次報告書2022年版)
4.まとめ
意匠出願をすればどんな意匠でも登録が認められるというわけではなく、特許庁における審査で、新規性(意匠法第3条第1項)、創作非容易性(意匠法第3条第2項)などの登録要件を満たしていると認められたものだけが意匠登録を受けられます。
ただ、最近の法改正により、建築物や内装の意匠にも保護対象が拡大していることに加え、組物の部分意匠制度の導入や関連意匠制度の拡充(意匠法第2条1項、第8条、第10条)により、デザイン戦略・ブランド戦略の昨今の変化にも対応したものとなっており、使い勝手は良くなっているといえます。
製品の意匠だけではなく、店舗の看板や照明器具、店舗そのものの外観や内装、自社ウェブサイトにおける画像などにかかる意匠についても広く意匠登録することで、その継続的な独占実施を確保し、様々な角度から総合的に、商品や組織のブランド構築を促進することが可能となります。
模倣品排除という観点からのみならず、ブランド構築という観点から、自社のデザイン資源を再確認し、有効なツールとしての意匠登録の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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