メール配信システムのセキュリティ|専門家が解説するリスクと対策

本記事では、メール配信時に注意すべきセキュリティリスクや具体的な対策を詳しく解説します。メール配信システムの主なセキュリティ対策、送信データの暗号化、送信元ドメイン認証などが対象となります。
メール配信システムは、メルマガやニュースレターなどの作成から一斉送信までをサポートするツールです。企業の広報活動に役立つ一方で、セキュリティ対策を怠った場合、個人情報漏洩や信頼失墜といったリスクを招く可能性があります。
本記事では、メール配信システムにおけるセキュリティリスクを説明し、具体的な対策を詳しく解説します。メール配信システムの導入を考えている方は、ぜひご覧になり、安全なメール運用に役立ててください。
メール配信システムでセキュリティ対策をすべき理由
なぜ、メール配信システムにおいてセキュリティ対策が必要になるのでしょうか。
メール配信システムでセキュリティ対策をすべき理由は、主に以下のとおりです。
- 法令違反のリスクを回避する
- なりすましメールによる信頼の失墜を防ぐ
- 個人情報が漏洩しないようにする
ここでは、上記の理由について詳しく見ていきましょう。
法令違反のリスクを回避する
メール配信システムを運用する企業は、個人情報保護法をはじめとする各種法令を遵守しなければいけません。これらの法令に違反した場合、企業の社会的信用を著しく損なうだけではなく、課徴金や刑事罰が科される可能性もあります。
特に注意が必要なのは、顧客のメールアドレスや氏名といった個人情報の管理です。個人情報の漏洩は、企業への行政処分や被害者への損害賠償責任も発生します。
また、こうした個人情報や企業情報の漏洩がひとたび発生すると、広く世間に報道され、これまで培ってきた顧客や取引先との信頼関係を大きく失うことにもなります。
法令遵守は単なる義務ではなく、企業の社会的責任です。違反した場合、企業イメージの低下や顧客離れを招き、事業の継続性にも影響を及ぼすことを理解しましょう。
なりすましメールによる信頼の失墜を防ぐ
なりすましメールは、企業のブランドイメージに大きなダメージを与えます。悪意ある第三者が企業を装ってメールを送信することで、情報の正確性や信頼性を損なうばかりではなく、メール受信者に悪意ある危険なサイトへの誘導をさせ、別の被害を生じさせてしまう可能性もあります。
このような事態が発生した場合、たとえ企業側に直接的な責任がなくても、顧客からの信頼は大きく損なわれるでしょう。実際に、なりすましメールによる被害を受けた顧客の多くは、その企業との取引を避ける傾向にあります。
個人情報が漏洩しないようにする
メール配信システムには、顧客の氏名、メールアドレス、購買履歴など、多くの個人情報が蓄積されています。個人情報は法律でも適切な管理を求めており、不適切な扱いにより過失があれば、顧客や取引先から訴訟や損害賠償を受ける可能性もあります。
情報漏洩が発生すると、直接的な被害者だけでなく、潜在顧客にも影響が及び、新規顧客獲得の障壁となる可能性もあるでしょう。さらに、漏洩した個人情報が悪用されれば、二次被害が発生し、企業の責任はより重くなります。
個人情報漏洩事故は、企業の法的責任や社会的制裁を招く重大なリスクであり、対策は不可欠です
メール配信システムの主なセキュリティリスク
ここまで、メール配信システムにセキュリティ対策が必要な理由を紹介しました。では、どのように情報漏洩や不正ログインが引き起こされるのでしょうか。
メール配信システムにおけるセキュリティリスクは、大きく外部要因と内部要因の2つに分けられます。以下では、この2つのリスクについて、それぞれ見ていきましょう。
外部要因によるリスク
外部要因のリスクとして挙げられるのは、日々活発に行われているサイバー攻撃への対策と状況把握です。
メール配信システムを含むITシステムは、今や企業活動を支える重要なインフラですが、攻撃者はシステムの弱点を見つけ、不正なアクセスを試みます。近年ではこうして盗取したデータと引き換えに、身代金を要求するようなケースも少なくありません。
これに対抗するには、最新のセキュリティ情報を把握し、配信システムや稼働しているサーバ、利用しているアプリケーションを常に最新化することで対抗する必要があります。
内部要因によるリスク
内部要因によるセキュリティリスクは、主に人為的ミスや従業員の不正行為によるものです。例えば、配信先リストの設定ミスにより、本来送るべきでない相手に機密情報を含むメールを送信してしまうケースがあります。
また、アクセス権限の管理が不適切な場合、権限のない従業員が顧客情報にアクセスし、不正に持ち出すリスクもあるでしょう。さらに、パスワード管理の甘さから、退職した従業員がシステムにアクセスし続けるという事例も報告されています。
これらのリスクを防ぐためには、単純ミスや不正を防ぐための組織的な運用やチェック体制の構築、厳格なアクセス制御と継続的な従業員教育、そして操作ログの監視体制が不可欠です。
メール配信システムのセキュリティ対策
メール配信システムにおける主なセキュリティ対策は、以下のとおりです。
- 送受信データを暗号化する
- 送信元ドメイン認証で正当性を示す
- 配信前にダブルチェックをする
- アクセス制御と操作ログ管理を行う
ここでは、上記のセキュリティ対策について詳しく見ていきましょう。
送受信データを暗号化する
メール配信システムにおいて、送受信データの暗号化は欠かせません。一般的には「STARTTLS」という技術を使って、通信を暗号化します。
暗号化されていないメールは、ネットワーク上を平文で流れるため、悪意ある第三者による傍受や改ざんのリスクにさらされています。そのため、STARTTLSによる暗号化は、メールの傍受や盗聴によるデータ漏洩を防ぐために必ず行うべき対策です。
なお、今日ではほとんどのサーバが、メール送受信の際に暗号化することを前提とした構築をしています。仮に受信者のメールサーバが暗号化に対応していない場合、メールは送達できない場合がほとんどですが、その場合は受信者側のメールサーバを暗号化して受信できるよう、適切な設定にしてもらうしかありません。
送信元ドメイン認証で正当性を示す
送信元ドメイン認証は、なりすましメールを防止し、メールの信頼性を高めます。この際、「DKIM署名」「SPFレコード」「DMARC」を活用するのが基本です。
- DKIM署名:メールに電子署名をつけることで、メールが本当に送信元から送られたものか証明する
- SPFレコード:送信元ドメインの正当性を検証し、不正な送信を防ぐ
- DMARC:DKIMやSPFの認証に失敗したときに、受信側がどう対応すべきか(拒否、隔離など)を指示できる
これらを正しく設定すれば、受信側のメールサーバからの信頼を獲得でき、受信拒否を防げるでしょう。
メールのなりすましやスパムメールはこれまで大きな問題となっていたこともあり、GmailやYahoo!メールなどの大手メールプロバイダーでは、2024年頃よりこれらの認証が設定されていないメールを迷惑メールとして扱う方針となり、世界的にも追従する動きとなっています。
自社で利用しているメール配信システムやメールサーバに、これらの対策が行われているかどうかは、早急に確認することをおすすめします。
配信前にダブルチェックをする
人為的ミスによるトラブルを防ぐためには、配信前のダブルチェック体制が重要です。メールの文面や配信リストの誤り、テスト用データの本番環境への混入など、情報漏洩につながる単純なミスの防止につながります。
ダブルチェック体制では、作成者とは別の担当者が配信内容、配信先、添付ファイルなどを確認し、問題がないことを確認してから配信しましょう。この確認で、ヒューマンエラーを防ぎ、万が一ミスがあった場合でも配信前に発見できます。
ただし、チェック体制を確立したとしても、運用実態にズレがある場合や無理な運用をしていると、チェック作業そのものが形骸化し、本来のチェックを果たさなくなるケースもあります。定期的に運用状況をチェックし、実態に合わせて方法を改善することも必要です。
アクセス制御と操作ログ管理を行う
不正アクセスや情報漏洩を防止するためには、アクセス制御と操作ログの管理が欠かせません。役割に応じて権限を付与することで、不必要な情報へのアクセスを制限し、情報漏洩のリスクを低減できます。
また、すべての操作履歴をログとして記録することで、不審な挙動の早期発見ができ、問題発生時の原因究明も円滑に進められるでしょう。定期的なログの監査により、権限の不正使用や異常なアクセスパターンを検出することも可能です。
セキュリティレベルの高いメール配信システムの機能
メール配信システムは運用時のセキュリティ対策はもちろん、充分な機能を備えたシステムを選ぶことも重要です。
特に、以下の機能を備えたシステムを選ぶのが望ましいでしょう。
- 承認機能とログ管理
- 認証機能と暗号化
- 不正ログイン防止のアクセス制御機能
ここでは、上記の機能について詳しく解説します。
承認機能とログ管理
メール配信システムのセキュリティレベルを高めるためには、「承認機能」と「ログ管理機能」が不可欠です。承認機能は、上長や別部門の確認を必須とすることで、配信ミスや不正な配信を未然に防ぎます。承認の手順は柔軟に設定できるため、配信内容の重要度や配信先の規模に応じて、承認レベルを変更できます。
一方、ログ管理機能は、誰が、いつ、どのような操作を行ったかを詳細に記録し、長期間保存できる機能です。万が一トラブルが起きた場合でも、原因をすぐに特定でき、再発防止の対策に役立ちます。
認証機能と暗号化
メール配信システムの選定では、各種認証機能と暗号化への対応状況を確認しましょう。特に、「DKIM署名」「SPFレコード」「DMARC」といった送信元ドメイン認証は必須です。これらの認証機能が備わっているのに加えて、簡単な設定で有効化できるシステムを選ぶことで、導入時の負担を軽減できます。
また、「STARTTLS」による通信の暗号化に加え、保存データの暗号化にも対応しているシステムが望ましいでしょう。さらに、定期的な脆弱性診断の実施や、セキュリティパッチの適用体制も、選定時の評価ポイントです。
認証時情報の適切な運用と不正ログイン防止のアクセス制御機能
先述のとおり、不正ログインは情報漏洩につながるリスクがあります。メール配信システムの認証情報(パスワード)は、極めて厳密に扱いましょう。
例えば、あまりにも単純なパスワードにしない、複数人で使いまわさない、関係者外でも分かるような状態で認証情報を保存・保管しないといったことが重要です。
強固なアクセス制御機能を求めるには二要素認証や多要素認証の実装が効果的で、パスワードが漏洩した場合でも不正アクセスを防ぐことができます。
例えば、メール配信システムを利用するために、指定のメールアドレスやショートメールに送られるワンタイムパスワードを用いる、スマートフォンの認証アプリと連携し、多段階で認証するなどといった仕組みがあります。
さらに、IPアドレス制限機能を利用することで、特定のネットワークからのみアクセスを許可できるため、外部からの不正アクセスを物理的に遮断できます。また、ログイン試行回数の制限や異常なログインパターンの検知機能なども備わっていると、より安心してシステムを運用できるでしょう。
セキュリティレベルの高いメール配信を実現しましょう
メール配信システムのセキュリティは、企業の信頼性と顧客情報の保護に直結します。メール配信のセキュリティレベルを高めるには、送信データの暗号化、送信元ドメイン認証、配信前のダブルチェックといった対策が有効です。
また、これらの対策を効果的に行うには、承認機能、認証機能、不正ログイン防止機能などを備えた、セキュリティレベルの高いメール配信システムの選定も欠かせません。適切なシステムの導入と運用により、安全で信頼性の高いメール配信を実現し、着実に成果へとつなげていきましょう。