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はじめての事業計画書作成!ビジネスモデルってなに?(家事代行サービス編)

著者: 中小企業診断士  山本 哲也

はじめての事業計画書作成!ビジネスモデルってなに?(家事代行サービス編)

コロナ禍における在宅ワークの増加に伴って家事代行サービスが注目されています。単なる代行業と十把ひとからげに捉えるのではなく、そのビジネスモデルを比較することで、差別化やマネタイズのポイントについて一緒に考えてみましょう。



1. ビジネスモデルとは

「ビジネスモデルとはなんでしょうか?」。よく受ける質問のひとつです。前後の文脈でその答える内容は多少変化しますが、私の答えは大体決まっています。「どこの誰の課題をどのように解決して、継続して収益を上げられるビジネスなのかを明らかにすること」です。

近年は、インターネットやスマートフォンの普及で、どんどん新しいビジネスモデルが生み出されています。既存のビジネスを理解したり、新しいビジネスを考えたりする上では、一連の取引を小さな部分ごとに切り分けて考えることが理解を深めるポイントです。

(1)低料金型ビジネスモデルのポイント

家事代行業のコストの大半は人件費。つまり、低料金でサービスを提供するためには、どうしても人件費を抑える必要があります。大きな費用であるだけに、検討すべきポイントはたくさんあります。

ここでは、その中でも“スタッフの確保”“人材育成”“稼働率”の3つの切り口で考えてみましょう。

1点目は、求人媒体コストです。理想のスタッフを集めようと考えすぎて思考停止となり、とにかく求人広告費に予算をつぎ込む事業者がいます。「うちみたいな小規模零細企業に来てくれるスタッフなんてなかなかいないよ」「人がいないから自分でお客様のところに行くしかないんだよね」なんて愚痴も聞こえてきそうです。しかし、求人広告に費用を多くかけても事態は好転しません。責任者がサービスに伺うことで、短期的にお客様とのコミュニケーションも密になり、充実感が得られるでしょう。一方で、事業継続に不可欠な営業活動や、スタッフの教育、大切な自分のプライベートがほったらかしになってしまってはいないでしょうか?

ここでは発想を転換して、求人募集への応募者を顧客と考えて、その気持ちに寄り添ってみましょう。落ち着いて考えれば、当たり前の話ですが、応募者はとにかく時間給だけを比較して応募してくるのではありません。応募者それぞれに働くための条件や好みがあります。時給や広告費にかけていた投資を働きやすい環境づくりにかけたり、お客様との約束やシフトの見直しを行ったり、働きやすい時間帯に働いてもらえるように工夫をするだけで、人の集まり方は変わるはずです。また、積極的に仕事を探していない人向けの求人チラシや、スタッフや知人に紹介を依頼することも効果的です。

2点目に検討すべきは、人材育成コストです。サービススキルが高いスタッフを退職させず、つなぎとめるためには高い時給を支払う必要があります。また、新人が一人でサービス提供ができるようになるまでは教育係となるスタッフの人件費も必要なので、通常の2倍以上の人件費が発生します。ベテランに依存しないチームを目指し、一定期間で人材が流動するようにマニュアルの整備などにお金をかけて取り組みましょう。

3点目が、もっとも重要な見えないコストとしての人件費です。つまり、移動時間や待機時間、準備片付け時間などの非生産的な人件費です。これらにかかる人件費には売上が伴いませんので、事業の人件費比率を急激に悪化させます。人事制度の面では、日給支払い制や歩合給制度を取り入れたり、仕事を分業したりすることで効率化を図り、残業ゼロを目指すという解決法が検討できます。一方で、売上面で考えると、拠点近隣の顧客を優先的に獲得する方法があります。仮に訪問手段が自動車しかないと考えた場合、売り上げに貢献しない移動中の人件費が発生します。例えば、2名で片道30分のお客様への往復の対応時間は1時間。2名ですから2時間分の人件費が発生することになります。加えて、人件費以外に車両関連費用が固定費として発生しますし、事故や交通違反のリスク、自動車の運転ができるスタッフの採用も考えておく必要が生まれます。自社とスタッフ、お客様も含めたビジネスモデル全体のバランスを考えて解決策を検討してみましょう。

(2) プレミアム料金型ビジネスモデルのポイント

コストを極力抑えて、低料金で顧客に貢献する方法とは逆に、他社よりも高いプレミアム料金を設定し、人件費比率を下げつつ、顧客満足を高めるビジネスモデルがあります。しかし、人件費以外のところでは、料金に見合う投資をする必要があります。そして、すべての問題を簡単に解決する魔法のような施策はなく、日々の小さな積み重ねを徹底することが大切です。ここでは、人件費以外の投資先として代表的な3つの切り口で考えてみましょう。

1点目は、ヒトへの投資です。といってもお給料ではなく第一印象の改善です。メラビアンの法則(会話やコミュニケーションの際に相手に与える印象を、言語情報・聴覚情報・視覚情報の3つの要素を数値で表したもの)によれば、「人は判断の物差しとなる情報の55%を視覚情報から得ている」のだそうです。つまり、顧客からの信頼を勝ち取るためには、視覚的な要素に投資を行うことが近道と考えられます。具体的には、ユニフォームや接客マナーなどです。ユニフォームは会社管理とし、常に清潔なものを着用できる環境を整えます。接客マナーでは、日々のトレーニングなどの取り組みはもちろん必要ですが、店内や車両内の掲示物など、常に目に触れるところでメッセージを発信することも効果的です。

2点目は、サービス機材への投資です。ユニフォームと同様に、車両や清掃用機材などもサービス提供前に顧客の目に触れる重要なものです。これらがきちんと整備されていると顧客の期待も高まり、料金設定に大きく好影響を与えます。レストランに当てはめると、いくら料理がおいしいからといって、内装やお皿、接客の質が低ければ満足できないし、プレミアム料金を出す気にはなれないのと同じことです。

3点目は、情報提供への投資です。ホームページやパンフレットなどの販促物に始まり、電話での問い合わせに対する応対マナー、アフターフォローなど顧客に寄り添ったきめ細やかな情報提供が重要です。レストランの例でいうと、どのような産地の食材に、どれくらい手の込んだ調理を施しているのかといった情報提供が、プレミアム料金のお店では求められることに似ています。

つまり、すべての接点において顧客の予想を上回るグレードのサービス提供を行うことで、プレミアム料金は可能だということです。

(3)サービス業の商品は昔から変わらず今も“ヒト”

いずれのビジネスモデルにおいても、サービスを提供するのはスタッフという一人の人間であることに変わりはありません。いくら教育に時間を費やしても、仕組みや機材に投資をしても、私たちの提供価値はスタッフの一挙手一投足にかかっているのです。つまり、常に高いサービス品質を提供できるようなモチベーション管理が、家事代行サービス業で成功する重要な要素ということです。

ESという言葉を聞いたことがあるでしょうか?エンプロイーサティスファクションの略で、従業員満足という意味で使われています。顧客満足を高めるためには、まず従業員満足を高める必要があるという考え方です。詳しくは、人や組織のところで触れますが、家事代行サービスに限らずサービス業全般で大切にすべき考え方です。


2. まとめ

今回は、同じ家事代行サービスにも、低料金型のビジネスモデルとプレミアム価格型のビジネスモデルがあり、その費用構造や考え方など両者の違いを生み出す要因についてお伝えしました。どちらのタイプに取り組むかは対象市場や事業者の考え方次第です。

サービス業の生産性が低いことは、長年のわが国の課題です。個人的には、家事代行サービス各社が低料金を競うのではなく、知恵を絞って付加価値を競う世の中になってほしいと思います。今後も引き続きお役に立てる情報を発信してまいります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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著者プロフィール

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山本 哲也

中小企業診断士

PROFILE
ライター,コンサルタント
1966年生まれ,大阪府大阪市出身。
1998年ビルクリーニング技能士取得
2019年年中小企業診断士登録
総合サービス事業会社にてオープンイノベーションによる新規事業開発を担当。得意分野は新規事業開発、事業企画、営業チームビルディング、フランチャイズビジネス

お問い合わせ先
株式会社プロデューサー・ハウス
Web:http://producer-house.co.jp/
Mail:info@producer-house.co.jp

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