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「持続可能な経営」(Sustainable Development Management)を目指して!―その②―

著者:高岡法科大学 教授  石川啓雅

「持続可能な経営」(Sustainable Development Management)を目指して!―その②―


ビジネスにおける家業性とローカル性

企業経営の在り方や方向性を考えていく前に、自社の経営がどのような存在なのかを認識しなければならない。経営学では、その代表的なツールとして、強み(Strength)、弱み(Weekness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4要素によるSWOT分析というのがある。このSWOT分析によって、自社の事業がどのような状態にあり、何を改善するか、どのようなことをやったらよいのかの検討を行うことになるが、中小企業の「弱み」として指摘されるもののなかに、家業性とローカル性が指摘されることが少なくない。

家業性とは、定義が明確ではないところもあるが、「財産(資産を)を減らさない」というリスク回避型の消極的な経営姿勢を指しているものと思われる。こうした経営姿勢は実質的に「会社の財産=家の財産」とするところの同族経営やオーナー経営にありがちであることから、恐らくこのようなネーミングになっているのだろうが、本質は、投資に慎重なリスク回避型の性格を指摘したものといえる。それ故、匿名の株主、投資家からの出資による大企業であっても含まれる場合がある。

では、ローカル性とは何か?これは家業性とも関係するのであるが、関心が既存分野(自社の得意分野)や既存顧客に向く、「内向き」の経営姿勢を指しているものと思われる。これはマーケットが地元か否かではなくて、企業としての動き方の問題に着眼していると言える。それ故、地方の中小企業でマーケットの多くを地元に依存していたとしても、「外向き」の動きをしていれば当てはまらないし、中央の大企業でグローバル・マーケットを相手にしていたとしても、「内向き」であればローカル色が強いということになる。

今回はこの家業性とローカル性をとりあげたい。

「家業とローカル」だけではやれなくなっている!

家業性とローカル性という2つの要素は、以前は、大きな発展・成長は期待できないけれども、「持続可能である」ことの要素として考えられていた。

しかしながら、高成長から低成長へ、経済のグローバル化、人口減少によるマーケットの縮小といった経営環境の変化のなかで、今、家業性とローカル性を「持続可能である」ことの要素として強調しえるかといえば、かなり難しい。

経営における家業性とローカル性は手堅いけれども、リスク回避的で内向きである。

経済が右肩上がりという状況下では、既存のマーケットでやれた。衰退局面であっても、既存のマーケットがある限りは、新しい関係をつくらなくても商売をやれた。

しかし、人口減少によるマーケットの縮小や環境問題への対応を要求される局面では、家業性とローカル性だけで生き残れるとは言えなくなっている。

「新たな関係をつくる」という「外向き」の動きをしていかないと、現状維持すら難しい。

                 「持続可能な経営」の座標軸

衰退する地域の特徴―歴史から考える―

例えば、具体的な経営の話ではないが、経済史において、次のような話がある。

幕末から明治半ばにかけて、在来産業である日本の綿織物産業において大きな産地の変動がみられた。維新開港によって輸入されるようになった機械綿糸や三都(江戸・大坂・京都)以外の地方新興市場を取り込みながら発展した産地とそうでない産地があったことが明らかになっている。この産地の分化については様々な要因が指摘されているが、衰退産地の特徴のひとつに、お上から独占的に物産の取扱いを許された生産地問屋が維新改革でその特権を失っても既存の流通ルートに傾斜し、「外部との接触をしない」まま、新たな生産方法や生産組織への移行に乗り遅れたというのである。筆者の専門は経済史ではないので細かいところまではわからないが、衰退した産地とされている地域のひとつについて、その後の歴史を追ってみると、大正期に入ってから本格化する電力化の流れをうまくつかまえて、衰退した在来の軽工業に代わって重工業化によりV字回復を遂げ、途中で戦争があったものの、戦後は高度経済成長に支えられて、今日に至っている。しかしながら、バブル崩壊後に本格化する経済のグローバル化、そして「産業革命」以来の技術革命といわれる情報通信革命のなかで、再び「衰退」に直面している。しかしながら、積極的に「外とつながろう」という動きはみられない。

外とのつながりを欠き、内に向きすぎたがゆえに、逆に「内発的発展」の途を断たれ、外部環境の変化と外部資本によって成功したものの、今まさにそれが行き詰まりをみせているときに、再び150年前と同様のことが起こっている。歴史の皮肉というほかあるまい。しかも、150年前とは異なり、財・サービスの生産過程までグローバル化し、人口減少の時代に突入している。二匹目のドジョウは期待できない。

「持続可能な経営」と家業性、ローカル性

このように考えてくると、もはや家業性、ローカル性だけではやっていけないという状況が浮かび上がってくる。

もちろん、家業性、ローカル性は全面否定するべきものでもない。そのことは、度重なる経済危機のなかで生き残ってきた老舗企業や在来・地場産業の存在や中小企業の数の大きさからも明らかである。

しかし、それだけでは「衰退」を遅らせることはできても、止めることはできない。

家業性、ローカル性だけでは「持続可能な経営」であることが保障されない時代に入ってきているのである。

何をなすべきか―「持続可能な経営」に求められる経営者能力―

そこで「何をすべきか」だが、経営者、従業員問わず、会社や同業者仲間の枠にとらわれず、外部とつながりをもつことが求められる。そして、そうした場を企画する営みが求められる。

その時、はじめから相手に「見返り」を求めないことが肝要である。

そして、何かを連携してやるときには、相手に「丸投げしない」姿勢が必要である。ありがちな話だが、外部とジョイントして事業をやる際に、相手が全部やってくれるだろうということを期待したり、なかには相手にやらせるという姿勢で関係をもとうとするケースが多々ある。前者の場合は中小企業に多く、後者の場合は大企業や行政にありがちだ。

これでは「持続可能な関係」はつくれない。

外部とつながった取り組みの全部が全部よいというわけでもないので、つながる相手を見極めるためのスキル、嗅覚が「持続可能な経営」に求められる能力のひとつである。

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著者プロフィール

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石川啓雅

高岡法科大学 教授

岐阜大学大学院連合農学研究科修了。建設コンサルタント会社勤務を経て大学教員へ。専門は経済学。中小酒造業を中心に地域産業の活性化に関する研究を行っている。

著書に、「ワークショップ・エコノミーの経済学―小規模酒造業の経営分析―」高岡法科大学紀要32号(2021年)、「現代地方中小酒造業における生産・労働に関するモノグラフ―ワークショップ・エコノミー論序説―」高岡法学39号(2020年)等。

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