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「持続可能な経営」(Sustainable Management)を目指して!―その④―

著者:高岡法科大学 教授  石川啓雅

「持続可能な経営」(Sustainable Management)を目指して!―その④―


コロナで打撃を受ける飲食店

以前から度々報道されてきたことであるが、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置で飲食店は大きな打撃を受けていると聞く。形の上では休業要請となっており、協力したところには協力金が支払われることになってはいるものの、その水準や支給時期はとても十分且つタイムリーとは言えないのが実情で、ペナルティ覚悟で営業するところもあると聞く。そこで、最も打撃を被っていると言われる飲食店絡みの倒産がどのくらいあるかを調べてみた。「新型コロナウイルス関連倒産」動向調査(帝国データバンク、2021/8/26)によると、はじめての感染者が出た2020年2月から2021年8月末までの累計で1933となっており、内訳は、飲食店が321件で1位、次いで建設・工事業197件、ホテル・旅館107件、食品卸100件、アパレル小売86件、食品小売65件と続く。飲食店とそれに関係する産業の倒産が多い。ほとんどが非製造業であり、いずれも個人企業を含む中小企業が多い業種だ。また、飲食店はもちろんのこと、建設・工事業、食品製造、アパレル製造、タクシー・バス運行など地方で比較的ウェイトが高い業種が散見されるのも特徴である。


飲食サービス・宿泊業と酒造業の関係

ところで、飲食店にとって悩みの種となっているのが酒類の提供である。7月には、政府が、飲食業者と取引関係にある金融機関や酒販店を通じて酒類提供停止の要請を行い、撤回されるという一幕もあった。酒類を取扱う商業者も含めて大きな反発が出たわけだが、このことに関連して、飲食業と酒造業が飲食業どの程度の関係があるのか調べてみると、以下のようになる。

表1は富山県の産業連関表から作成したものだ。産業連関表は産業どうしの財・サービスの需給関係、どの産業がどの産業に財・サービスを販売しているのか、財・サービスを生産するのにある産業がどの産業から財・サービスを購入しているのかを把握するのを目的にしたものだ。この表をみると、金額ベースではあるが、飲食店と酒造業の関係がどのようになっているかがわかる。地方での酒造業の多くは日本酒を生産する清酒製造業が中心であるから、土地柄から考えてこれは日本酒生産と飲食業の関係を表している。

まず、酒類を生産する側から行き先をみると、業務用販売に相当する中間需要の分が36.4%、うち飲食サービス・宿泊業への販売が35.4%となっている。消費者への直接販売に相当する最終需要の分は55.1%、県外への移輸出の分が8.6%となっており、需要合計を売上とみなせば、飲食サービス・宿泊業への販売のウェイトはかなり大きい。紙幅の関係で表示はしないが、地方に多い小規模酒造者(清酒製造業者、100㎘以下層)の粗利は大体35%であるから、マクロの数字ではあるものの、仮に飲食サービス向けの需要が蒸発したならば、営業利益や利息どころか人件費すら吹き飛んでしまう計算となる。飲食サービス・宿泊業に至っては、82.3%という数字にあるように、消費者への直接販売に相当する最終需要が販売先のメインになるので、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の影響はかなり深刻である。82.3%に相当する2673.3億円 の中には131.5億円分の酒類の売上が含まれるわけであるから、両産業は一蓮托生の関係にある。そこで、飲食サービス・宿泊業の費用構造を示した表2において、飲食サービス・宿泊業が提供するサービスにおける酒類の位置づけをみておくと、酒類については、全費用の5.2%となっているものの、飲食サービスの直接経費として食材、酒類、その他の飲料、人件費をとると、そのウェイとは大きく跳ね上がることがわかる。このことは費用の内訳は単なる当該費目の支出における負担の軽重だけでなく、同時に提供する財・サービスの技術構造も示している。自動車やPCのような形のあるものを生産しているわけではないので技術構造と表現するのは適当ではないかもしれないが、飲食店として提供するサービスの内容が費用の構造となって現れたものと思ってよい。もちろん、これはマクロの集計値であり、飲食店や宿泊施設のすべてが酒類を提供しているわけではない。しかし、集計値であるにせよ、提供するサービスの設計として、酒類は必要なアイテムになっていることを意味している。したがって、細業種や店単位でみるならば、酒類を出せないということは死活問題にかかわってくる。酒が主か食事が主なのかは表からはわからないが、いずれにしてもセットでひとつのサービスが提供されると考えてよい。片方が出せないなら別のサービスでという形で、食事のみの提供、しかもテイクアウトで乗り切ろうにもかなり困難な様子がみえてくる。飲食サービス・宿泊業は提供される空間・時間も含めて、飲食という行為の「質感」(テクスチャー)を提供しているのである。これをテイクアウトやインターネットで代替するのはかなり難しい。


問われる政府部門の度量

倒産の話に戻そう。企業が倒産するということは、事業や組織が「持続可能でなくなった」ことを意味する。そのことは必要な財・サービスはもちろんのこと、雇用も失われることを意味するのは言うまでもない。需要と供給の関係という経済法則からいうと、マーケットが企業を必要としなくなったということなのであろうが、コロナ絡みの倒産はそうではない。一度なくなったものを新たに興すには大変なエネルギーが要る。企業活動は資本(資金)の前貸しで行われているのだから、「大変なら撤退すればいいじゃない」ということにもならない。こうした状況をどこまで汲めるか、「倒産の心配のない政府」の度量と力量が問われている。

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著者プロフィール

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石川啓雅

高岡法科大学 教授

岐阜大学大学院連合農学研究科修了。建設コンサルタント会社勤務を経て大学教員へ。専門は経済学。中小酒造業を中心に地域産業の活性化に関する研究を行っている。

著書に、「ワークショップ・エコノミーの経済学―小規模酒造業の経営分析―」高岡法科大学紀要32号(2021年)、「現代地方中小酒造業における生産・労働に関するモノグラフ―ワークショップ・エコノミー論序説―」高岡法学39号(2020年)等。

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