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「持続可能な経営」(Sustainable Management)を目指して!―その⑥―

著者:高岡法科大学 教授  石川啓雅

「持続可能な経営」(Sustainable Management)を目指して!―その⑥―

ムダをどう回避するか?-「経営資源の効率的利用」に関連して-

日本国内に限ってのことだが、新型コロナウイルスの感染者数がこの一か月で大きく減った(2021年10月時点)。その理由についてはよくわからないようであるが、世界的にみれば、全国民に対するワクチン接種率が高い国でも感染が再拡大するなど、予断を許さないような状況が続いており、経済活動の再開といっても、センシティヴな対応を余儀なくされる状況は当面続きそうである。素人の筆者にとっては、この先どうなるかは予測はつかないが、このまま事態が収束してくれることを祈るばかりである。

ところで、前回のコラムでは、生産性の考え方について整理をさせていただいた。詳細は割愛させていただくが、「経営資源の動員と効率的利用は別である」「経営資源の配分・配置に関する話ではなく、その利用をどうするかが重要だ」という主旨のことを書いた。今回は、その点を少し掘り下げてみたい。というのは、前回指摘した「経営資源の管理や技術知識の向上」による生産性向上の問題は、可視的でない、事前に正解があるものでもないとはいっても、当該企業の文化や人的投資にかかっているといっても、予定調和的に達成されるものではないからである。確かに、トライアルを厭わないような動きや姿勢は必要だが、企業経営である以上、ムダな動きは資源の浪費につながる。そこで、この点に関わって、話題をいくつか提供したい。


労働組織の編成原理とその現実

企業が社会に供給する財・サービスは、経済学的にいうと、資本、労働、土地の三大生産要素の投入によって生み出される。

このうち労働に着眼して、どのような労働が投下されるのかを整理してみると、整理の仕方は人によって様々だろうが、現代社会においては、単純生産労働(定型業務)、高度生産技能(専門知識や経験を要する現場業務)、科学・数学等(理数系の専門業務)、社会的業務(対人折衝業務)、資源管理(広い意味でのマネジメント業務)といった各種業務に分類することができる。そこで、財・サービスが生産され販売に至るまでのプロセス、すなわち生産・流通過程とこうした各種業務の関係を考えてみると、生産・流通過程を構成する各段階、すなわち工程のそれぞれに、濃淡こそあれ、これらの業務がぶら下がることになる。その関係を図式化すると、表のようなマトリクスになる。業種(産業)ごとに必要な業務は異なるのでカラ表にしてあるが、恐らく、労働組織、すなわち「役割分担」を決めるとき、表のようにそれぞれの工程に対して、必要な業務を洗い出し、そこに人を配置しているはずである。その際、必要とされる業務を実行することのできる知識や能力(スキル)をもつ人間を配置しなければならないことは言うまでもない。

しかし、現実にはそのような状況にはないのが一般的である。従業員規模が三桁に及ぶような大きな企業なら話は別かもしれないが、中小企業の多くは人手が不足し、なかなか適材適所の配置とならないのが現実であろう。多くの場合、複数の工程や業務を兼務するとか、知識や能力が不足していても、担当者の伸びしろというか潜在能力に期待して、役割分担をつくり、相互に不足するものを補い合いながら仕事をしているし、しなければならない。中小企業の経営者にとって、組織を運営していくためには、このパッチワークをどうするかが大事で、うまくいっているところはこの関係が適正にコントロールされているし、従業員も主体的に相互補完をするような動きをしている。

しかしながら、そうでないところもある。


重要な業務の区別・仕分け

中小企業の場合、人手が不足しているので複数の工程や業務を兼務したり、経験のない業務を担当せざるを得ないのが常である。それ故、どうしても業務の線引きが難しくなる。例えば、意思決定や判断ひとつとっても、工程ごと、業務ごとにそれがついてまわるのだが、意思決定や判断は自分が担当する工程や業務のなかだけで完結できるものばかりとは限らないし、判断の対象が専門知識や多面的検討を必要としたりする場合もある。
また、決定・判断したものをどのように実行に移すかという段になると、実行に移すためのさまざまな準備(段取り)が、根回し(事前説明や内諾)も含めて必要になってくる。したがって、専門知識や経験によって意思決定を支えたり、意思決定とラインのつながりをスムーズにするために種々の調整を行うスタッフ機能が必要になってくる。さらには、物事にはこまごまとした雑務、いわゆる手元作業があるのでアシスタント機能も必要になってくる。中小企業の場合、こうした意思決定、実行(ライン)、スタッフ、アシスタントを往々にして一人の人間が抱え込んでしまっていることもあって、担当にその区別がなされず、相談すべきものを相談せずに勝手に物事を決めてしまったり、スタッフ業務とアシスタント業務を混同し、新しい業務に対して過剰なまでに消極的な反応を示したりするケースが少なくない。何故こうなるのかは業務担当者の「働く者」として自覚も含めた資質の問題もあるが、組織的な問題としては、業務の区別なり仕分けがきちんとなされていないことが大きい。もちろん、そのような区別がなされていなくても、担当者がお互いに足りない部分を補完し、グレーな業務を自発的に調整しているところもあるだろう。しかし、そうした企業は少ない。


仕事の「押しつけ」の構図

業務の区別や仕分けもなく、担当が勝手に動き出したらどうなるか?

もちろん、組織はあってないようなものになる。組織は半ば個人商店の集まりようなものとなり、全体として機能しなくなる。

では、それはどのような形で進行するのか?

仕事の「押しつけ」が始まる。組織図や規程に書いてあるからという理由だけで、誰かに押しつけようとする動きになるのだ。しかし、組織図や規程に書かれているのは、部署ごとにやる業務の項目と概略だけであって、その業務を行うにはどのような作業があって、その一つ一つに対して何をしなければならないかが書かれているわけではないし、そもそも規程に書かれるべきものでもない。というのは、それは業務の仕様の話だからである。仕様はやる仕事の内容によって変わる。

問題なのは、このような「押しつけ」を担当どうしがやってしまうのはもちろんのこと、それに輪をかけて管理者が行ってしまう点にある。本来ならば、その交通整理、すなわち業務の仕分けを行って指導すべきはずの管理職自体が、組織図に則ってトップ・ダウンで行うのが「組織」と勘違いをして、事前説明や内諾も得ずに「押しつけ」をやってしまうのである。

こうなると状況はかなり厳しくなる。


回避したいリカバリーのための労力

今、仕事の内容が大きく変わりつつある。企業の業務の一部が外注される、つまりアウトソースされるということも珍しくはないし、企業間で連携してひとつの事業を行うということも増えている。企業内部でも派遣労働者や非正規労働者など、契約にしたがって特定業務のみをを行うスタッフも増えてきている。

それ故、「業務の仕様」ということが、今まで以上に問われることになる。この整理を怠ると社内ばかりか、会社の外との関係においても無用の混乱を招き、結果として、リカバリーのための労力を生じさせることになる。マイナスのリカバリーのための労力は精神的ダメージも大きい。「経営資源の管理や技術知識の向上」による生産性向上に、必要なトライアルにはこのようなムダは含まれない点に留意する必要がある。


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著者プロフィール

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石川啓雅

高岡法科大学 教授

岐阜大学大学院連合農学研究科修了。建設コンサルタント会社勤務を経て大学教員へ。専門は経済学。中小酒造業を中心に地域産業の活性化に関する研究を行っている。

著書に、「ワークショップ・エコノミーの経済学―小規模酒造業の経営分析―」高岡法科大学紀要32号(2021年)、「現代地方中小酒造業における生産・労働に関するモノグラフ―ワークショップ・エコノミー論序説―」高岡法学39号(2020年)等。

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