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個人事業主VS会社設立

個人事業主VS会社設立

この記事の著者
  中小企業診断士 弁護士 

1 独立開業の際に問題となる個人事業主と株式会社設立

「開業するなら、個人事業主か会社設立か、いずれにするか」は、独立開業の計画を立てる際に必ず検討しなければならない問題です。個人事業主になるか、株式会社(以下単に「会社」といいます)を設立するか、いずれもメリット・デメリットがあります。このため、独立開業の際にどちらを選択するべきか、これらのメリット・デメリットを踏まえたうえで判断しなければなりません。

そこで今回は、個人事業主と会社設立それぞれの主なメリット・デメリットや、個人事業主として一定期間事業を行ってから会社を設立する法人成りなどについて解説します。


2 個人事業と会社設立の根本的な違い

個人事業と会社設立とでは、根本的な違いがあります。それは、個人事業は個人(自然人)が事業を行うのに対して、会社は個人とは別の「人」(法人)が事業を行い、個人はあくまでも会社の代表取締役(以下「社長」といいます)や株主に過ぎない、ということです。

例えば、個人事業主として、「リストランテ甲野」という名前のレストランを、甲野太郎という人が経営していたとします。この場合、レストランの事業を行っているのはあくまで甲野太郎という個人であり、「リストランテ甲野」は事業を行う際の通称(これを「屋号」といいます)に過ぎません。訴訟の際の訴状でも「リストランテ甲野こと甲野太郎」などと記載されます。

他方、甲野太郎が「会社リストランテ甲野」という名前の会社を設立し、その社長になったとします。この場合、レストランを運営しているのはあくまでも「会社リストランテ甲野」であり、甲野太郎はその社長に過ぎません。例えば、会社リストランテ甲野が銀行から借入をした場合、返済をしなければならないのは会社リストランテ甲野であり、甲野太郎ではありません。

個人事業主か会社を設立するかでメリット・デメリットの差が生じるのは、上記の点と関係していることが少なくありません。


3 費用・手間を必要とする会社設立

既に述べたように、会社設立とは、新たな法人を設立することです。会社を設立するためには、会社の基本事項について定めた定款の作成と公証人による認証、資本金の払込み、法務局への設立登記の申請などの専門的な手続を行う必要があります。そして、この設立手続のための費用として、最低でも25万円程度が必要になります(これらの手続を司法書士や行政書士などの専門家に依頼する場合は、さらに報酬が発生します)。このように、会社の設立には費用や手間を必要とします。

他方で、個人事業主の場合はこれらの費用や手間は必要ありません。したがって、費用をかけずにすぐに開業したいのであれば、個人事業主のほうが良いということになります。

さらに、会社に費用と手間がかかるのは開業の場面だけではありません。会社は廃業の際も、費用と手間がかかります。なぜならば、会社をたたむ際には、会社の財産で債務の弁済などを行う清算の手続を行ったうえで、清算結了登記を行う必要があるからです。


4 会社の財産は社長の財産ではない

また、会社と社長が別の「人」である以上、会社の財産と社長の財産も別になります。例えば、社長が会社の預金口座から現金を引き出し、自分の携帯電話料金を支払った場合、現金は会社から社長への「貸付金」としていずれ会社に返済しなければならないか、「役員賞与」として所得税や住民税の課税の対象となってしまうおそれがあります。

他方、個人事業主が事業に使用している口座から現金を引き出し、自分の携帯電話料金を支払った場合は「貸付金」になることはなく、その携帯電話が事業に用いているものであれば経費に計上され、所得税や住民税の対象になることもありません。

なお、マイナスの財産である債務について、個人事業主の場合は債務の支払いをする必要がある一方で、会社の債務であれば社長が負うことにはなりません。ただし、金融機関が会社に対して融資を行う場合は社長を連帯保証人とすることが(最近は改善の兆しもありますが)まだまだ一般的なので、個人事業主と会社とでは、実質的にあまり変わりはありません。


5 会社設立のメリット

もちろん、会社設立には個人事業主とは異なるさまざまなメリットがあります。

まず、会社は登記されており、誰でもその会社の事業内容や取締役等を知ることができることなどから、個人事業主よりも高い信用があることが通例です。金融機関から資金の融資を受けるときも、会社では貸借対照表や損益計算書などの財務諸表が毎期作成されていることから、個人事業主よりも審査に有利であるといえます。

このほか、建物以外の資産の減価償却の計算について、会社の場合は、定率法(毎期一定の率を未償却残高に乗じて計算する方法)の計算が認められています。定率法は、定額法(毎期一定の額を減価償却費とする方法)に比べ、早期により多額の減価償却費が可能であることから、利益が出ていれば当初の節税効果が高くなります。

さらに事業承継の場面においても、会社には個人事業主にはないメリットがあります。個人事業主の場合、死亡した場合は遺産分割が完了するまで口座を凍結されるのが一般的です。このため、遺産分割が完了するまで口座を利用することができず、後継者が事業を行うことができないおそれがあります。また、許認可については、個人事業主が死亡すれば新たに申請をする必要があります。許認可は一審専属的なものなので、相続の対象とはならないからです。他方、会社の場合は、預金口座や許認可は会社名義となっているので、社長が死亡しても預金口座が凍結されたり、許認可が消滅したりすることはありません。

これらのことからも明らかなように、会社設立のメリットは、一定の事業規模で安定して収益を上げている場合に享受できるものが多いといえます。


6 法人成りとそのメリット

上記以外にも、税務、会計、社会保険などにおいて、個人事業主・会社設立にはさまざまなメリット・デメリットがあります。結局のところ、個人事業主とするか会社設立とするかは、これらのメリット・デメリットを踏まえたうえで判断していくこととなります。

とはいえ、個人事業主のほうが開業のハードルが低い一方で、会社設立のメリットは一定の事業規模で安定して収益を上げている場合に享受できるものが多いことなどから、当初は個人事業主として事業を開始し、一定の収益が確保できるようになったところで会社を設立することがあります。これを「法人成り」といいます。

特に、法人成りをすれば、給与所得控除の制度によって社長の報酬(役員報酬)はもちろん、家族を取締役等にして役員報酬を支払うことで、高い節税をすることができるのは大きな魅力であるといえます。また、所定の要件を満たす必要がありますが、開業によって個人事業主となったのち、2年期経過後に法人成りをすれば、最大で連続4年間は消費税が免除される可能性があることも大きな魅力であるといえます。


7 最後に

個人事業主と会社設立のどちらがよいかは、自己の現状によっても異なります。まずは、それぞれのメリットを把握したうえで、自己の現状を分析し、どちらのほうがより多くのメリットを享受することができるかを検討することから始めてみてはいかがでしょうか。本稿が参考になれば幸いです。

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著者プロフィール

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武田 宗久

中小企業診断士 弁護士

ライター、コンサルタント

1978年生まれ、大阪府富田林市出身。京都大学法学部・同大学院法学研究科卒

2011年 弁護士登録

2020年 中小企業診断士登録

債権回収や離婚等の一般民事事件を担当する一方、大阪の中小企業や自治体を元気にするため、法務・労務を中心とした支援に取り組む。著書に『改正民法対応!自治体職員のためのすぐに使える契約書式解説集』(令和2年、第一法規、共著)など。

お問い合わせ先

株式会社プロデューサー・ハウス

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Mail:info@producer-house.co.jp

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