読み手に伝わる事業計画書の書き方
1 読み手に伝わる事業計画書を作成するために
開業をする際、今後どのようにして事業を展開していくべきかを検討するために、事業計画書を作成することがあります。また、開業の際に融資を受けたり、補助金の申請を行ったりするために、事業計画書を作成することもあります。
前者の場合は、自分の考えを整理するためのものですので、自分がその内容を理解できれば基本的には問題はありません。他方、後者の場合は、金融機関や行政の担当者などの読み手が存在します。融資や補助金を獲得するためには、事業計画書の内容が読み手に伝わらなければなりません。
そこで今回は、読み手に伝わる事業計画書を作成するためには、どのような点に留意すべきかについて解説をします。
2 事業計画書を作成する目的を正確に理解する
まず、事業計画書を作成する目的を正確に理解することです。例えば、補助金の獲得を目的とするのであれば、その補助金がどのような趣旨のものか、どのような事業が評価されるのかなどを要領等で確認します。また、融資の獲得を目的とする場合は(必ずしも明確になっていない場合も少なくありませんが)、その金融機関がどのような点に着目して融資の可否を審査しているのかなどを推測します。
このように、事業計画書を作成する目的を正確に理解することによって、当該融資や補助金が何を求めているのかを把握することが可能となり、事業計画書においてどのような点を中心に書くべきかが明らかになるのです。
これは、当然のことと思われるかもしれません。しかし、このことを踏まえずに、単に「自分の事業は優れている」「自分の事業には実績がある」ということをPRしているに過ぎない事業計画書は意外と多いといわざるを得ません。漫然と事業のPRをしているだけの事業計画書は、その記載内容自体が抽象的であったり、当該融資や補助金が評価の対象とする事項が漏れていたりすることから、読み手に高く評価されることはないといってよいでしょう。
3 読み手に伝わるような『筋』を示す
事業計画書においてどのような『筋』で論旨を展開していくのかといったことについても、十分に検討を行う必要があります。金融機関などから提示される事業計画書のひな型に記載のある項目について、漫然と記載をしているだけの事業計画書も散見されます。このような事業計画書が高く評価されることはないでしょう。
なぜならば、金融機関や行政の担当者は、多数の事業計画書に目を通します。このため、担当者が一読してその内容を理解できるような事業計画書を作成する必要があります。そして、そのような「一読了解型」の事業計画書とするためには、『筋』が明確である必要があるからです。
それでは、『筋』が示されている事業計画書とは、具体的にどのようなものをいうのでしょうか。
一例として、次のような構成の事業計画書があるとします。
【事業計画書の構成例】
1 自社の概要
2 自社の経営理念及び事業ドメイン
3 自社の現状(SWOT分析)
4 融資や補助金の対象となる事業の市場規模・競合の動向
5 対象事業の強み(優位性)・販路開拓
6 対象事業の実施体制
7 収益計画
8 まとめ
読み手がこれらの項目とその内容を一読するだけで、例えば、以下のようなストーリーを読み取ることができれば、その事業計画書は『筋』が示されているといえるでしょう。
【事業計画書から読み取ることができる『筋』の例】
「2 自社の経営理念及び事業ドメイン」は、抽象的であるものの、自社の「核」となる考え方である。上記の考え方と、「3 自社の現状(SWOT分析)」を踏まえると〇〇という課題が出てくる。この課題の解決として、融資や補助金の対象となる事業(以下「対象事業」という)を行うことが考えられる。
そして、「4 対象となる事業の市場規模・競合の動向」からすれば、〇〇といえ、自社が対象事業を行う余地は十分にあるといえる。また、「5 対象事業の強み(優位性)・販路開拓」からすれば、〇〇であることから、自社が優位性を確保しつつ対象事業を行うことができ、十分な成果を上げることができる。
これらのことから、融資や補助金の対象となる事業は、課題の解決策として妥当なものである。
さらに、「6 対象事業の実施体制」、「7 収益計画」からすれば、自社が対象事業を行うことが可能であることの人的・資金的裏付けもあり、対象事業を実施することは十分に可能である。
以上から、「8 まとめ」にあるように、対象事業は、自社の課題の解決に資するうえ、融資(又は補助金)の趣旨に十分に適合しているから、採用されるべきである。
この例からも明らかなように、『筋』が示された事業計画書とは、個々の事業計画書における事業に関する記載が、当該融資や補助金において評価の対象となる事項に論理的・有機的につながっていることを意味します。
4 結論から考えてみる:『筋』が示された事業計画書を作成するために
では、どのようにすれば『筋』が示された事業計画書を作成することができるのでしょうか。一つの方法として、いきなり事業計画書を作成せずに全体の構成を考えながら個々の項目の記載を考えていくことをあげることができます。
例えば、自社の現状を示す「SWOT分析」においてS(強み)・W(弱み)・O(機会)・T(脅威)それぞれに該当する要素を挙げていくことになりますが、思いつくままに事業計画書に書いていくのではなく、『SWOT分析から自社の課題を導出するためにはどの要素をどの順番で上げていけばよいのか』を意識しながら書いていきます。また、「競合の動向」の項目において、自社と競合を比較してどのような優位性を発揮することができるのかを意識するという視点も重要です。
すなわち、全体の構成を考えながら個々の項目の記載を考える際には、「〇〇という結論を導き出すためにはどのような内容にすればよいか」と結論から考えてみることも重要であるといえます。
5 具体的で根拠のある記載を心がける
また、事業計画書に記載する内容は具体的で根拠のある内容とする必要があります。
例えば、市場の分析を記載するのであれば、事業の内容や、事業の対象となる地域等を具体的に特定したうえで、客観的な資料に基づいて論旨を展開する必要があるでしょう。また、収益計画において、「なぜそのような売上の推移を想定するのか」という具体的な根拠を明示する必要があるでしょう。
ただし、当該事業の内容があまりに専門的なものである場合などは、伝わりやすさを重視してあえて抽象的な説明をすることはあり得ます。なぜならば、例えば、製造業において自社の技術や製品が優れていることについて専門用語を用いて説明しても、必ずしもその分野の専門家ではない金融機関や行政の担当者には十分に伝わらないからです。
6 情報の量やレイアウトを意識する
事業計画書に記載すべき情報量やレイアウトなども、読み手に伝わる事業計画書を作成するために意識しなければなりません。
事業計画書の様式や紙面の制限があるときは、多くの情報を記載しようとして小さい字を詰め込んだり、図表を省略したりすることがあります。しかし、無理やり多くの情報を詰め込んでも読みにくいだけで、かえって読み手に伝わらない事業計画書となってしまいます。
いたずらに多くを伝えるのではなく、ポイントを簡潔に伝えることを心がけることが重要といえます。
7 読み手の立場に立って作成する
どんなに優れた事業であっても、金融機関や行政の担当者に理解してもらうことができなければ融資や補助金が得られることはありません。これまでに説明してきたことは、いずれも読み手の立場から、「読みやすい」「わかりやすい」と感じてもらうためには必須のものといえます。読み手の立場に立って事業計画書を作成するという視点を常に意識する必要があるでしょう。本稿が開業を目指す方の参考になれば幸いです。