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投資の意思決定 ~回収期間法と正味現在価値法(NPV法)の特徴とは?

著者:   渡辺 英史

投資の意思決定 ~回収期間法と正味現在価値法(NPV法)の特徴とは?

企業は、投資なくして成長することはできません。現在の投資によって、将来の企業価値が決まると言えます。

したがって、設備投資にせよM&Aにせよ、投資の判断は企業にとって極めて重要です。

今回は、投資意思決定の代表的な手法である「回収期間法」と「正味現在価値法」(NPV法)について説明します。


回収期間法

回収期間法とは、投資したお金を何年で回収できるか計算し、その期間によって投資する・しないを判断する方法です。

投資金額を回収するまでの期間が、会社が定めた基準の期間より短ければ投資し、長ければ投資しないことになります。

次の場合を考えてみましょう。この会社の投資回収の基準期間は「2年」とします。

[投資案A]
投資額200万円、1年目の回収額(キャッシュ・フロー)が100万円、2年目が100万円、3年目が20万円、4年目も20万円。5年目以降はゼロとします。

投資額200万円の回収は、2年間の回収額が

(100+100)=200万円

なので、ちょうど2年でできる計算になります。よってこの投資案は採用されます。

では次の場合はどうでしょうか。

[投資案B]
投資額200万円、1年目の回収額(キャッシュ・フロー)が80万円、2年目が70万円、3年目が60万円、4年目が50万円。5年目以降はゼロとします。

この場合、2年間の回収額は

(80+70)=150万円

ですから、回収には2年より長くかかることがわかります。とはいえ3年間の回収額は

(80+70+60)=210万円

ですから、3年より短いこともわかります。

回収期間を正しく計算すると、

2年+(200-150)/60 ≒ 2.83年

です。よってこの投資案は、回収期間が基準の2年より長いので、採用されないことになります。

しかし、本当にこれでいいのでしょうか。

4年間での回収総額を見ると、投資案Aが

(100+100+20+20)=240万円

あるのに対し、投資案Bは

(80+70+60+50)=260万円

と、投資案Aを上回っています。

投資案Bは、回収こそ2年より長くかかりますが、トータルの収益性は投資案Aより高いように思われます。


時間価値

回収期間法のデメリットとして、設定期間後のキャッシュ・フローを考慮していないことが挙げられます。

2年なら2年と回収基準期間を決めている場合、3年目以降のキャッシュ・フローには目を向けずに判断することになります。

投資に対する安全性を重視する場合、短期回収を最優先する回収期間法は万人にわかりやすい手法ですが、企業価値の最大化を最重視する場合には、回収期間法では計測できない点があることを知っておくべきでしょう。

また回収期間法のもう一つのデメリットとして、お金の時間的価値を考慮していないことが挙げられます。

少し考えてみて下さい。

今現在の100万円と、1年後の100万円、さらに4年後の100万円は、等しく同じ100万円の価値があると言えるでしょうか?

100万円を預金すると、1年後にはいくらかの利息が付き、100万円より大きな金額になります。

つまり1年後の100万円は、現在からみると(100万円-1年分の利息金額)の価値しかない、とも言えます。4年後の100万円なら、さらに今現在の価値は低いでしょう。この利息の利率に相当する数値を「割引率」と言います。

なお、預金金利はとても低い状態が続いていますが、営利企業とは言わば「得た現金の価値を全力で高めようとする装置」であるため、企業の割引率は、通常は現状の金利などより高い価値をもたらすものとして計算されます。これを「資本コスト」と言います。

企業の資本コストを算出するには、その企業の借入金利子率と株式調達コストを加重平均した「加重平均資本コスト」(WACC)を用いるのが代表的な手法です。


正味現在価値法(NPV法)

正味現在価値法(NPV法)とは、投資がもたらす各期のキャッシュ・フローを、時間価値を考慮した現在価値(Present Value)に置き換えて、その合計から投資額を除いた正味額(Net)で評価する手法です。

ではさっそく、先ほどの投資案Aと投資案Bを計算してみましょう。この会社の資本コスト(割引率)は5%であるとします。

[投資案A]

△200+(100/1.05)+100/(1.05)²+ 20/(1.05)³+20/(1.05)⁴ 

≒ 19.67

[投資案B]

△200+(80/1.05)+70/(1.05)²+60/(1.05)³+50/(1.05)⁴ 

≒ 32.65

このように、投資額(△200万円)を除いたキャッシュ・フローの現在価値は、投資案Aは19.67万円、投資案Bは32.65万円と出ました。

回収期間法の評価とは逆に、投資案Bの方が評価される結果になりました。

時間価値を考慮しない場合、投資案Aのキャッシュ・フロー正味合計は40万円、投資案Bは60万円と、その差は20万円でした。時間価値を考慮すると、その差は

(32.65-19.67)=12.98万円

まで縮まります。しかし逆転するわけではなく、また決して「無視してもいいわずかな差」でもありません。キャッシュ・フローを見る限り、投資案Bは投資案Aより優位となります。


資本コスト

しかし、正味現在価値法(NPV法)にもデメリットがあります。それは資本コスト(割引率)の数値によって、結果が大きく変わってしまうことです。

先ほどは、この企業の資本コストを5%として計算しました。ある調査によれば、日本企業の株主資本コストの平均値は5.86%ですので、現実的な数値です。

では、この企業の資本コストを12%(企業の資本コストとして、決して高すぎる数値ではありません)に設定すると、どうなるでしょうか。


[投資案A]

△200+(100/1.12)+100/(1.12)²+ 20/(1.12)³+20/(1.12)⁴

≒ △4.05

[投資案B]

△200+(80/1.12)+70/(1.12)²+ 60/(1.12)³+50/(1.12)⁴

≒ 1.71

投資案Aは、正味現在価値がマイナスとなりました。これは「投資してはいけない」ことを意味します。

投資案Bは、正の数字、つまり投資する価値はあるという結果になりますが、資本コスト5%のときの計算結果32.65万円に対し、1.71万円と正味現在価値の数値は大きく下がっています。

さらに極端な例として、資本コストを20%に設定すると、どうなるでしょうか。

[投資案A]

△200+(100/1.2)+100/(1.2)²+ 20/(1.2)³+20/(1.2)⁴ 

≒ △26.01

[投資案B]

△200+(80/1.2)+70/(1.2)²+ 60/(1.2)³+50/(1.2)⁴

≒ △25.89

どちらも正味現在価値はマイナス、つまり「投資案Aも、投資案Bも、行ってはいけない」という結果になることがわかります。


まとめ

このように、回収期間法、正味現在価値法(NPV法)ともに、メリット・デメリットがあります。どちらがいい、と決めるものでもありません。

現在のように、事業環境の変化が激しく、不確実性の高い状況であれば、何よりも投資回収期間の安全性を重視するという考え方もあります。

投資案Aが流行に乗った需要期間の短い商品、投資案Bが定番的な商品に関する投資だとすれば、どちらが自社の強みを活かせるか、という観点からの判断もあるでしょう。

一つの判断基準に頼るのではなく、回収期間法による安全性をベースに、正味現在価値法(NPV法)による収益性を加味した上で、複数の判断基準で総合的に評価することが必要と言えるでしょう。

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著者プロフィール

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渡辺 英史

ライター,コンサルタント
1965年生まれ,熊本県熊本市出身。上智大学文学部卒
2020年中小企業診断士登録
大手メディア企業で広告調査、ウェブ記事配信、データベース事業等に携わる。現在は新聞系IT企業勤務。東京都中小企業診断士協会城東支部所属。


お問い合わせ先
株式会社プロデューサー・ハウス
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Mail:info@producer-house.co.jp

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