【他社事例で学ぶ健康経営】IT系企業の事例:健康経営を働く場を通じて実現
健康経営シリーズ
人生の90%を過ごす室内を健康的に
コロナ禍により、リモート・ワークが当たり前となり、また、出社率を低減させることで、オフィスで仕事をする機会が減ってきた。ワクチンが多くの人にいきわたり、接種の効果が表れてきたら、おそらくオフィスで働くことが、また当たり前のようになるだろう。確かに、Beforeコロナの時よりは少なくなるとは思うが…。
人生の内、人は90%を室内で過ごすと言われている。中でもオフィスワーカーは、その大部分を仕事場、オフィスで過ごしている。となると、このオフィスが健康的でないと、身体的、精神的に大きなダメージを与えてしまう。健康経営を実現する上で、オフィスを快適なものにすることは必須項目の一つでもある。
オフィスのつくりを快適にしつつも、オフィスで摂取する食事や飲み物についても配慮されるべきである。あるいは、福利厚生的な仕掛けをオフィスの中に組み込むことも必要だ。あるいは、ストレスなく仕事ができる環境づくりも、ある意味健康経営の一環である。
オフィスの先端を走るアメリカの流れを紹介すると、オフィスの第一段階は、執務スペースと会議スペースが存在するもの、第二段階は、それにリフレッシュスペースが追加され、第三段階は、さらに福利厚生スペースが追加されるものとされている。今回は、オフィスにおける福利厚生制度の充実化による健康経営の事例を紹介する。
福利厚生制度充実により、人材を引き付ける
同社では、世界一のサービスを提供すべく優秀な人材が集まる仕組みをつくり、メンバーの意欲と能力を十分に発揮してもらうために、さまざまな福利厚生制度の拡充を目指している。人材を引き付け、定着してもらうためには、高額な報酬もさることながら、思う存分好きな仕事ができる環境づくりも大切なカードである。むしろ、エンゲージメントを高めるためには、働きたい場所、最もパフォーマンスが上がる場所を提供することが効果的だ。
同社では、まずは、社員食堂も兼ねたコミュニケーションスペースを開設。24時間、365日稼働、飲食は全て無料で提供。金曜日の夜にはバーとして開放され、ソムリエも常駐、ビールやワインも無料で提供されている。社内イベントも開催できる多目的コミュニケーションスペースだ。
この手のスペースの課題は、つくるより出来上がってからの運営だ。使われない福利厚生施設ほどムダなものはない。さまざまな利用パターンを紹介したり、管理部門が率先して使ったり、上手に使われている事例を社内コミュニケーションメディアで紹介するなど、活用イメージの共有が重要である。
続いてオープンしたのが、社内託児所だ。ゼロ歳児から預けられ、急な要望にも応えられるように、月次保育や一次保育など柔軟な受け入れ体制が取られている。また、預けた子供と一緒にランチが取れるようにもなっている。仕事と育児の両立をサポートする体制が整っている。育児との両立で悩むストレスを解消できる仕組みである。
オフィスの中には昼寝スペースもある。同社では午後の作業の効率アップのために昼寝が推奨されており、昼間の時間には会議室が仮眠スペースとして開放されている。このような福利厚生が充実することにより、さまざまなメディアで取り上げられるケースも増え、知名度もアップ。それにより採用応募者も増加し、採用活動に多大な貢献をしている。
もう一つ、同社ならではのユニークな取り組みが社内コンシェルジュサービス。メンバーがより業務に集中できる環境をつくりたいとのことで、ホテルのコンシェルジュのようなサービスを構築。社内の懇親会の予約からクリーニングの手配、靴の修理まで、業務効率のアップに寄与することを基準に、可能な限りメンバーの要望に応えている。
利用率の把握と見直し
同社では、先述した数々の福利厚生制度について、経営陣とともに利用率向上策や新たな施策の検討を行っている。全て数字に基づいて対処するのが同社の原則であり、あらゆるデータの把握に努めている。
往々にしてあるのが、つくったらつくりっぱなしで、実際にどれくらい利用されているのか把握していないケース。なんとなく使われている、今ひとつ使われていないようだ、そんな会話はされるのだが、かといってなにか策を打つわけでもなく、使われない施設や施策のそのまま存在。ふとした機会に経営陣から現状を聞かれ、慌てふためく。よくあるケースではないだろうか。
取材して感じる優秀な管理部門に共通することは、「見直し」である。この事例のように毎月の利用率を把握して、取捨選択をしていく。あるいは、現場の声を聞くことで新たな施策を検討していく。ある企業では、社内規程を毎年全て見直している。見直すことで、変更がなければそのまま継続、少しでも現実との不整合があれば修正する。本音と建て前がまかり通る日本においては、制度やルールのダブルスタンダードが存在しがちである。
VUCA時代と言われるように、変化の激しい時代。企業を取り巻く環境も変化すれば、社内のメンバーの価値観もマインドも変化していく。なにより、個々のメンバーは毎年一歳年を取る。それにより、家庭環境も変化すれば、ニーズも変化していく。つくったら終わりの制度では、その変化を捉えきれない。
さらに、時代はダイバーシティ。これは、全体最適を実現しようとしていた高度成長期では対応できず、個々に寄り添う個別最適の対応が望まれるのだ。まさに利用率や個々の要望の収集が必要となる。確かに画一的な対応の方がはるかに楽ではある。しかし、人手不足の時代でもある現代においては、個別最適で対応していかないと人材が集まらない。事業継続がままならない。
働き方改革は多様性と言われるように、さまざまな制度がある企業に人が集まる。だからこそ、利用率の把握が必要となるのだ。あまりに多くの制度が存在すると、使う側も管理する側も煩雑となってしまう。一度作成しても、その利用率を見ながらマイナーチェンジ、あるいは廃止していく。
その中で、自社の社員に適した制度が残っていく。想定されるに、自社の風土や文化にマッチしたものが残っていくのではないだろうか。だとすると、福利厚生制度や健康経営施策は、自社のDNAを育み強化していく意味もあるのではないだろうか。