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創業融資で審査されるポイント

著者: 中小企業診断士  髙岡 健司

創業融資で審査されるポイント

業種業態によって金額の違いはあるものの、事業を創業する際には費用がかかります。

また創業後、売上が安定するまでは資金繰りも厳しくなり、運転資金が不足するケースもあると思います。

自己資金によって費用を賄えれば良いのですが、賄えない場合は、金融機関などから資金調達を考える必要があります。

今回は、創業時に利用される創業融資について審査されるポイントを解説していきます。


1.主に利用される創業資金

創業融資は金融機関によって申込金額など特徴が異なります。

ここでは代表的な創業資金について紹介します。

① 日本政策金融公庫の「新創業融資制度」

融資対象者

新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方
融資限度額 3,000万円(うち運転資金 1,500万円)
担保・保証人 原則不要
注意点

新たに事業を始める方、
または事業開始後税務申告を1期終えていない方は創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要

日本政策金融公庫は公的金融機関であり、創業した事業者に対して手厚い融資制度を有しています。その中でも「新創業融資制度」は特に有名です。
新創業融資制度の特徴は「担保・保証人が原則不要で最大3,000万円まで融資申込が可能である」ことです。民間金融機関では、融資に際して保証人や担保を求められることが多いです。また創業時には事業実績が無いことから、融資金額も制限される傾向にあります。それに対し、担保・保証人が原則不要で最大3,000万円まで融資申込が可能である新創業融資制度は魅力的な融資制度と言えるでしょう。

参考)日本政策金融公庫HP「新創業融資制度」
URL:https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/04_shinsogyo_m.html


② 民間金融機関の創業融資

銀行、信用金庫などに創業融資を申し込んだ際は、金融機関ごとに審査ポイントが違います。
創業に関する融資制度も都道府県や市町村などで独自に定められているケースが多いです。また、創業当初は事業実績も無いために、信用保証協会付融資が利用されることが一般的です。
まずは各都道府県の信用保証協会や都道府県、市町村などのHPで利用出来る融資制度を確認することをお勧めします。


参考)東京都中小企業制度融資「創業」

融資対象者

事業を営んでいない個人であって、1か月以内に新たに個人で又は2か月以内に新たに会社を設立して東京都で創業し、具体的な計画を有する方

創業した日から5年未満の中小企業者

資金使途 運転資金・設備資金
融資限度額 2,500万円
融資期間

運転資金  7年以内(据置期間 1年以内含む)

設備資金 10年以内(据置期間 1年以内含む)

信用保証料補助

信用保証料の2分の1

本制度資金の詳細については下記URLを参照願います。
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/chushou/13-14%20sougyou.pdf


2.創業融資のポイント

創業当初は資金繰りに困るケースが多く発生します。勢いで創業し、「資金が足りなければ、融資を受ければ何とかなる」という考えは通用しません。
創業融資の際、特に意識して欲しいことは「創業直後は事業実績が無い」ということです。
金融機関は、事業経験を重ねた事業者から融資申し込みを受けた際は、今までの事業実績から融資審査を行います。具体的には、過去の決算書などから財務状況や収益力を審査します。しかし、創業直後は事業実績が無いために、事業計画書や事業者とのヒアリングを通して融資審査を行います。
創業融資を申し込む事業者は、金融機関に「経営に対するビジョン」や「創業して実現したいこと」をいかにアピールするかがポイントになります。
ここでは創業融資の際、特に重要となる4つのポイントを解説していきます。

① 創業に対する思い

創業融資を申し込む際は、金融機関との融資実績は無いケースが多いです。つまり金融機関と事業者は、お互い何も知らない状態からヒアリングが始まります。
まずは「創業した経緯」「創業してどんな事業を行うか」などのヒアリングがあります。
ここでのポイントは「創業して実現したいこと」「自分の経営に対するビジョン」など「創業に対する熱い思いや覚悟」を金融機関の担当者に分かってもらうことです。

明確な経営ビジョン、つまり「自分が事業を通して実現したいこと」が漠然としたまま創業した場合は、事業が成功する確率は低いと言えます。なぜなら、世間には様々なビジネスがひしめいているため、ありきたりな事業を始めてもお客様の目に留まることは難しいからです。
つまり「このビジネスは面白い」「他の企業では行っていないビジネスだ」と思わせる差別化の視点が重要です。
金融機関の融資担当者をあなたのお客様と思って、自分のビジネスモデルをプレゼンテーションしてみましょう。
また、金融機関の担当者は過去に「創業後、直ぐに倒産などに追い込まれる事業者」を山ほど見てきています。創業後は様々な苦難に直面しますが、苦難に立ち向かう事業者の覚悟が事業運営にとって重要です。
融資担当者はあなたの熱意と覚悟を知りたいのです。
融資審査は書面中心に行われますが、融資担当者のひと押しで融資実現が大きく左右されます。創業融資を縁に、金融機関の担当者を事業パートナーとすることができれば、今後の経営にプラスになることは間違いありません。


② 社長の経歴

創業の場合は、社長の経歴も重要なポイントです。
もしあなたがA社長、B社長、C社長の3名から融資の相談を受けた場合、どの社長に融資をしますか?

A社長
「老舗の寿司屋で10年修行した後に、独立して自分で寿司屋を構える」

B社長
「洋風レストランで3年間アルバイト勤務した後に、和食レストランを構える」

C社長
「製造業で10年間勤務後、趣味の料理を活かして定食屋を構える」

「A社長に融資する」と答える方が多いのではないのでしょうか?

現実の世界では、どの社長が成功するかは分かりません。C社長は趣味の料理を活かして創業しようとしていますが、プロ並みの技術を持っているかもしれません。

つまりA社長、B社長、C社長、どの社長にも成功する可能性はあります。

ただし創業融資の際は実績が無い状態で、融資金の返済可能性を判断しなければなりません。つまり、事業者とのヒアリングや提出された書類から、「事業が成功する確率」を見定めなければなりません。その際に一番のポイントは「社長の経歴」です。

先ほどのA~C社長について振り返ってみましょう。


  • (ア)A社長のケース
    A社長は「寿司屋」で10年間修行を行い、「寿司屋」を構えます。
    寿司屋で10年間修業しており、経験は豊富であり、寿司職人としての腕前も高いものと思われます。また、業界に対する知識や見識、店舗経営ノウハウや接客ノウハウなども充分にあるものと思料されます。
    A社長は、創業前に寿司に関する知識・経験を積んだ上で創業するために、成功確率は高いと判断できます。

  • (イ)B社長のケース
    B社長の場合は「アルバイト」しか経験がありません。また、「洋風レストラン」でアルバイトをしているにも関わらず「和風レストラン」を創業しようとしています。
    アルバイト経験があるので、料理の腕や接客ノウハウなどはあるのかもしれません。しかし、洋風レストランで修行しているにも関わらず、和風レストランを構えようとしています。
    これでは、和風料理の腕前は分かりません。また、なぜ「和風レストランを創業しようとしたか?」という疑問も残ります。
    A社長と比べて成功確率は低いと判断され、B社長には更なるヒアリングが必要です。

  • (ウ)C社長のケース
    C社長は創業前に飲食店の経験がありません。料理の腕前も趣味程度なので、どれほどの腕前を持っているか分かりません。
    この場合、「安易に創業を考えていないか?」をヒアリングする必要があるでしょう。創業に至る経緯、自己資金の有無、他の店舗に負けない強みがあるかなどC社長と充分に話す必要があります。

これらのケースから「社長の経歴」が融資判断にどのような影響を及ぼすか分かっていただけたと思います。


③ 自己資金

「創業に対する熱い思いや覚悟」以外にも、経営者には計画性がなければなりません。計画性を図るバロメーターに「自己資金」があります。
自己資金とは、「手元資金をどれだけ保有しているか」を表します。
創業に対する熱い思いはあっても、自己資金が全く無い状態では創業に対する計画性がありません。

日本政策金融公庫の新創業融資制度においても「新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方には創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要」という自己資金に対する要件が定められています。

創業直後は売上が不安定で、資金繰りが厳しい状態に陥る可能性が充分あります。自己資金が全く無い状態であれば、創業融資実行後に直ぐに返済ができない事態が起こりえます。つまり、自己資金を多く有する事業者ほど安全性が高いと評価されます。
また「こつこつ自己資金を貯めてから創業する事業者」と「勢いだけで創業して自己資金が全く無い事業者」を比較して、どちらの事業者の方が返済を履行する可能性が高いでしょうか?

「こつこつ自己資金を貯めてから創業する事業者」の方が、返済可能性が高く計画性のある事業者と言えるでしょう。


④ 資金使途

資金使途も非常に重要なポイントです。
「とにかく資金が不足しそうなので、融資を受けさせて下さい」と言っても、金融機関から融資を受けられません。資金計画を充分に検討し、自己資金で賄えない分の融資を申し込むことが必要です。金融機関は資金使途、つまり「融資金を何に使うのか?」を重要視します。
設備資金の場合は、見積書にて必要な融資金額を確定させる必要があります。運転資金であれば、月商の3か月程度が融資金額の目安になります。
また創業資金において、金融機関は信用保証協会などの保証機関を利用するケースが多いです。

ここで質問です。
「信用保証協会付融資で運転資金の融資を受けましたが、資金使途が違う設備資金に充当した場合はどうなるでしょうか?」

この場合、資金使途違反となり「保証免責」となります。つまり、債務者が債務不履行に陥った際に債権者は保証機関から保証を得られなくなります。また、資金使途に違反があった場合は、金融機関から一括返済を求められるケースもあります。金融機関との信頼関係を無くさないためにも、資金使途については慎重に検討する必要があります。


3.まとめ

今回は創業融資の際に、特に重要となる4つのポイントを解説しました。

創業融資の場合は、「自分のやりたいビジョン」を融資担当者にアピールすることが必要です。今回説明したポイントを参考にしていただき、創業融資を実現できることを願っています。

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著者プロフィール

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髙岡 健司

中小企業診断士

PROFILE

ライター,コンサルタント

1975年生まれ,栃木県足利市出身。埼玉大学経済学部卒

2020年中小企業診断士登録

地方銀行を24年勤務後、コンサルタント事務所に転職。

得意分野は財務支援、資金繰り支援。

お問い合わせ先

株式会社プロデューサー・ハウス

Web:http://producer-house.co.jp/

Mail:info@producer-house.co.jp

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