一から分かる開業
開業したいと漠然と思っているけれども、「何から手をつけて良いか分からない」方も多いと思います。
今回は、開業時の手続きや気を付けるべきポイントについて解説していきます。
1.開業するコンセプト
「開業する」といっても方法や手段はさまざまです。
まずは開業するにあたり、今後どのようにビジネスをしていきたいかコンセプトを決める必要があります。
しかし、どのようにコンセプトを決めたら良いのでしょうか?ここでは、ビジネスのコンセプトを決めるポイントを解説していきます。
(1)ベネフィット
ベネフィットとは「利益」「便益」「恩恵」などを意味します。ビジネスにおいて、ベネフィットは「商品やサービスの提供を受けた満足度」という意味に使われることが多いです。
お客様は、あなたから商品やサービスの提供を受けた対価としてお金を払います。あなたが開業することにより、ベネフィットつまり「お客様に満足して頂くために、何を提供したら良いのか」を考えてみましょう。
(2)差別化
ベネフィットの観点から「何をお客様に提供するのか」が決まりました。
しかし、世の中には既にあらゆるビジネスが存在しています。ありきたりなビジネスで、既に世の中に存在するライバル企業と真っ向勝負をして、勝てる見込みはあるのでしょうか?
また、お客様視点で考えれば、既に存在する企業が提供する商品・サービスから「あなたが提供する商品やサービス」に乗り換えるベネフィットはあるのでしょうか?
例えば、あなたが大手チェーン店で販売している商品と全く同じ商品を販売するとします。
その場合、あなたは大手チェーン店と何で勝負をしますか?「安売り」などの価格面で勝負をした場合、利益はどんどん小さくなっていきます。また、大手チェーン店は会社としての体力もあることから、商品を更に値下げしていくことも可能です。価格以外のベネフィットがない限り、このまま値下げ勝負を続けても、あなたの会社が存続することは難しいかもしれません。
このことから「ライバル企業との差別化」の視点を持つことが大切です。この差別化を「製品面」「市場面」から更に深掘りして考えてみましょう。
- 「製品面」
あなたの提供する製品やサービスは、あまり世に出回っていないものか?
他のライバル企業が提供する商品・サービスと異なり、独自性があるか? - 「市場面」
大手企業などが進出していない分野の商品・サービスか?
以上から、大手企業やライバル企業と真っ向勝負するよりは、「他のライバル企業が提供していない商品やサービス」や「大手企業が進出していない市場」で勝負をかけることが大切です。そうすれば、あなたのビジネスに独自性が生まれ、競合にはない強みを発揮することが出来るでしょう。
2.開業する形態
開業するといっても、開業の仕方はさまざまです。
ここではいくつかのケースに沿って、開業の仕方を考えてみましょう。
(1)「独立開業」VS「副業」
「自分で開業したい」と思った時に、以前は独立開業することが一般的でした。
しかし、独立開業する際に「今後の収入面での不安」は必ずあると思います。
収入面での不安を解消する手段として、副業による開業が考えられます。
最近は、働き方改革の一環で政府が副業・兼業を推進しており、「副業解禁」という言葉をよく耳にするようになりました。
副業で経験を積み、ある程度収入を得られるようになった段階で独立開業することで、収入面の不安を和らげることが出来ます。
ただし、「労働時間が長くなり、健康状態が悪くなる」「副業に注力するあまり、本業への集中力が欠如する」などの副業によるデメリットもありますので、ご自身がどのような形態で開業するかについて充分に検討する必要があります。
(2)「個人事業主」VS「法人」
開業する際の形態としては「個人事業主で開業するか」「法人を設立して開業するか」を迷われる方も多いと思います。
ここでは、「個人事業主による開業」と「法人設立による開業」を、さまざまな観点から比較していきましょう。
①開業にかかるコスト
個人事業主は、開業届を税務署に提出すれば、すぐにでも開業することが出来ます。
また、初期投資が不要な業種であれば、開業コストもほとんどかかりません。
それに対して、法人設立する場合は法務局への登記手続きが必要です。また設立費用など開業のコストもかかります。
<参考:法人設立費用>
株式会社 |
合同会社 |
|
定款用収入印紙代 |
40,000円 |
40,000円 |
定款の認証手数料 |
50,000円 |
0円 |
定款の謄本手数料 |
2,000円 |
0円 |
登録免許税 |
150,000円または資本金額の0.7%のうち高い方 |
60,000円または資本金額の0.7%のうち高い方 |
合計 |
242,000円 |
100,000円 |
- 電子定款を利用した場合は、定款用収入印紙代40,000円を節約することが出来ます。
- 合同会社は、定款の認証が不要です。
株式会社は、設立費用として最低でも242,000円(電子定款利用時は202,000円)はかかります。法人設立費用を抑えることが出来る合同会社においても、設立費用は100,000円(電子定款利用時は60,000円)かかります。また設立登記を司法書士などに依頼した場合は、更に登記費用などの費用がかかります。
このことから法人を設立して開業する場合は、個人事業主と比べて開業にかかるコストは高くなります。
②信用面での比較
信用面では法人の方が有利に働きます。
以前は資本金規制があり、株式会社を設立するためには資本金として1,000万円の資金を用意しなければなりませんでした。そのため、開業届を提出すればすぐに開業できる個人事業主と比べて、株式会社の方が高い社会的信用力を得られやすいという背景がありました。
現在は資本金規制が廃止になり、資本金1円でも会社設立が可能です。しかし、株式会社の方が個人事業主と比べて社会的信用力が高いという状況に変わりはありません。
もう一つの要因は、商業登記簿謄本に会社内容が登記されていることです。登記されている内容は会社名の他、事務所の場所、事業目的、役員の氏名、資本金などの情報が記載されており、法務局で誰でも閲覧することが出来ます。
営業の現場で、全く取引のない会社と取引を始める際は商業登記簿謄本を取得し、取引相手の会社概要をつかむことが出来ます。それに対して、個人事業主は登記制度などもなく、取引相手の情報は全く分かりません。このことも、法人の方が高い信用力を得られる要因となっています。
③税金面での比較
税金面でも法人の方が有利です。「事業が軌道に乗った際に、個人事業主から法人化する」という話をよく聞きます。これは、法人化により節税効果が得られるからです。
個人事業主には所得税が課税されます。課税方法は累進課税制度であり、所得が多くなればなるほど税率が上がる制度で、最大45%まで税率が引き上がります。
しかし、法人税の場合は利益がいくら増えても税率は23.20%が最高税率です。個人事業で所得金額が900万円を超えた場合、所得税の税率は33%になり、法人税の最高税率である23.20%を超えてしまいます。
このことから、個人事業主で事業が軌道に乗り所得金額が増えた場合、法人化により税率を抑えることで節税効果を得ることが出来ます。
また、法人の方が認められる経費の幅が広くなります。役員報酬、出張日当、退職金などは個人事業主では経費として認められませんが、法人では経費として認められます。経費の幅が広くなることにより、節税効果が高くなります。
このことからも、税金面では法人の方が有利であると言えるでしょう。
3.開業手続きについて
(1)開業届の提出
個人事業主の場合は、開業の事実があった日から1ケ月以内に開業届を税務署に提出する必要があります。開業届を提出することによる最大のメリットは、青色申告が可能になることです。
青色申告を受けるために、開業届を提出する他に、「所得税の青色申告承認請求書」を開業から2ケ月以内に税務署へ提出しなければなりません。青色申告を考えている事業者は、開業届と同時に所得税の青色申告承認請求書を提出することをお勧めします。
法人で開業する場合は、法人設立後2ケ月以内に法人設立届出書を税務署に提出する必要があります。法人設立届出書以外にも提出する書類が多いので、提出漏れがないように管理しましょう。
<法人設立後に提出する書類>
提出先 |
書類名 |
提出期限 |
法人設立届出書 |
法人設立後2ケ月以内 |
|
税務署 |
青色申告の承認申請書 |
会社設立日から3ケ月以内または最初の事業年度終了日のいずれか早い方の前日 |
給与支払事務所等の解説届出書 |
法人設立後1ケ月以内 |
|
都道府県税事務所 |
法人設立届出書 |
都道府県により異なる |
市町村役場 |
法人設立届出書 |
市町村により異なる |
年金事務所 |
健康保険・厚生年金保険新規適用届 |
法人設立後5日以内 |
(2)銀行口座開設
ビジネスを行うにあたり、銀行口座は必ず必要になります。
個人事業主が口座開設する場合は、屋号付きの銀行口座を作成することが一般的です。個人事業主の場合は、事業資金と個人の資金の区別が付きにくくなります。屋号付きの銀行口座を作成することにより、事業資金と個人の資金の区別を明確に分けることをお勧めします。
法人で口座開設する場合は、「口座開設には金融機関の審査があること」「口座開設までに時間を要すること」を覚えておきましょう。
金融機関の審査については、「営業実態の有無」「信用できる会社かどうか」という視点から行われることが一般的です。資本金を極端に低い金額で設定した場合やバーチャルオフィスを利用している場合は、金融機関の担当者に「資本金を低い金額で設定した理由」「バーチャルオフィスを利用する理由」をあらかじめ説明しておくことをお勧めします。
また、口座開設する場合は、金融機関ごとに必要書類が異なることから、事前に申し込みする金融機関に必要書類を確認しておきましょう。
(3)創業資金
創業する際には、さまざまな費用がかかります。自己資金で創業費用を賄えれば良いのですが、資金が不足する場合は金融機関からの融資を検討する必要があります。
創業資金では、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」が最も有名でしょう。
<新創業融資制度の概要>
融資対象者
新たに融資を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方
- 融資限度額
3,000万円(うち運転資金 1,500万円) - 担保・保証人
原則不要 - 注意点
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要 - 参考
日本政策金融公庫HP「新創業融資制度」 - URL
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/04_shinsogyo_m.html
創業当初は事業実績がなく、保全として保証人や担保が必要なケースが多いです。
新創業融資制度は原則、無担保・無保証で融資限度額3,000万円の融資申込が出来ることが大きな特徴です。ただし、自己資金などの要件もあることから、融資申込の際には注意しましょう。
日本政策金融公庫以外に、銀行、信用金庫などでも創業融資を取り扱っています。民間金融機関の場合は、市や県で独自に定められた創業制度を利用するケースが多いです。市や県、各地域の信用保証協会のHPで利用出来る制度について確認することをお勧めします。
(4)開業にあたっての検討項目
開業にあたり導入すべきかどうか検討する項目がありますのでご紹介します。
①会計ソフト
経理業務は必ず行なわなければならない業務です。経理業務を税理士に全て任せることも出来ますが、税理士報酬は当然高くなります。税理士費用を抑える場合は取引の仕訳などの経理業務を自社で行い、決算業務のみを税理士に依頼する方法があります。
経理業務を自社で行う場合は、会計ソフトを導入することをお勧めします。会計ソフトには仕訳業務をアシストする機能やサポート体制もあることから、簿記の知識が不十分な方でも経理業務を行いやすくなります。また、銀行口座と会計ソフトを連動させ、口座情報を自動的に取り込むことにより入力の手間を省き、経理業務の効率化が図れます。
②事業用クレジットカード
経理業務をスムーズに行うために、事業用クレジットカードの導入を検討しても良いでしょう。事業用クレジットカードは個人事業主、法人共に開設することが出来ます。
事業用クレジットカードも会計ソフトと連動させることにより、仕訳入力の手間が省けます。
4.最後に
今回は「一から分かる開業」ということで、開業に対する考え方や開業の仕方について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。開業の際には、さまざまな不安や分からないことが出てくることもあると思います。この記事があなたの開業の手助けになれば幸いです。
また、開業について迷われることがあれば、国が設置した無料の経営相談所である「よろず支援拠点」や中小企業診断士などの士業に相談することをお勧めします。