銀行融資のポイント「運転資金の審査ポイント」
銀行に運転資金の融資を依頼した場合、どのようなことがポイントになるのでしょうか?
今回は、運転資金の審査ポイントについて解説していきます。
1.正常運転資金の考え方
正常運転資金とは、事業継続する上で恒常的に必要となる資金のことをいいます。
正常運転資金は次の式で求めることができます。
正常運転資金=
売上債権(売掛金・受取手形)+棚卸資産-支払債務(買掛金・支払手形)
具体的に説明していきます。
企業は事業活動を行う際に、次のようなサイクルを繰り返していきます。
- 製造業:材料を仕入れる→製品を製造する→製品を販売する→売上を回収する
- 小売業:商品を仕入れる→商品を販売する→売上を回収する
正常運転資金が発生するのは次のケースです。
①売上金が現金回収ではなく、売掛金や受取手形により回収となる場合
②棚卸資産である商品や製品が在庫としてストックされる場合
たとえばラーメン店をイメージしてください。
ラーメン店では次のようなサイクルを繰り返しています。
①材料の仕入
②お客様からラーメンの注文を受ける
③ラーメンを作り、お客様に提供する
④お客様からラーメン代(売上金)を受け取る
概ね①~④という流れになります。
お客様から注文を受けてからラーメンを作りますので、ラーメンの在庫というものは存在しません。つまり作った商品は直ぐに売れることになります。
また、ラーメンの代金も通常は現金で受け取ることが多く、売掛金や受取手形のように売上金の回収が長期化するわけではありません。
つまり、ラーメン店は現金商売であり、資金繰りは回しやすく、正常運転資金はあまり必要としません。
しかし、通常の企業活動においては、売上金については売掛金や受取手形による回収が一般的です。また、商品を販売しても直ぐに売り切ることは難しく、在庫としてストックされることが多いです。
このように、先行して仕入資金の支払いをおこないますが、商品が売れなければ現金は手元に入ってきません。また、売掛金で売上を回収する場合は、通常1~2ヶ月程度、売上代金は手元に入りません。この収支のズレにより、正常運転資金が必要になります。
2.正常運転資金の融資調達方法
正常運転資金は事業を継続する上で恒常的に必要となる資金です。
銀行としても正常運転資金内の融資申込であれば、融資に応じてくれる可能性は高まります。
正常運転資金は、短期継続資金として手形貸付で融資されることが多いです。
手形貸付は1年以内の融資で、期日に一括返済する形式の融資です。
通常の手形貸付は期日に一括返済しなければなりませんが、短期継続資金の場合は期日が到来した際に利息だけ支払い、元金を書き換えます。
3.資金使途
「今月は資金が足りないから、お金を貸してください」
銀行担当者にこのような交渉をしていないでしょうか?
融資の際には、資金使途を説明することが重要です。資金が足りない原因に妥当性が無い場合は、銀行は融資をしないでしょう。
「今月は為替相場から安く材料を仕入れることができ、通常より仕入を多くするため材料仕入資金を融資して欲しい」
「売上が増加しているので、仕入を増やさなければならず、材料仕入資金を融資して欲しい」
このように資金使途については、銀行の融資担当者が納得できるような説明をするべきです。
4.融資形態
融資形態については、融資期間、返済方法などを検討する必要があります。
(1)手形貸付
手形貸付の場合は、融資期間は1年以内になります。
返済方法は支払期日に一括返済することが原則です。したがって、手形貸付の場合は支払期日に一括返済する資金を確保しなければなりません。
<手形貸付にて融資する例>
手形貸付にて融資するケースの代表として、建設業に対するプロジェクト融資があります。
建築業者が新たに工場を建てる場合は、はじめに建築材料などの仕入れをする必要があります。そのために材料仕入資金として手形貸付にて銀行から融資を受けます。
そして、建物が完成し引き渡しが完了した時点で、売買代金にて手形貸付を返済します。
したがって、手形貸付の期日は建物の完成予定日を設定します。
融資する銀行も、建物引き渡しの際に売却代金が入金されることから、返済原資は明確に分かります。
(2)証書貸付
証書貸付の場合は、返済期間は3~5年程度が多いです。また、返済方法は分割返済が基本です。
証書貸付の場合は、「毎月の返済を遅れずに履行できるか?」が審査ポイントになります。
「当期利益+減価償却費>企業の年間返済元金」になる場合は返済可能と判断されます。
「当期利益+減価償却費<企業の年間返済元金」という場合は、企業が収益として稼いだ資金以上の融資返済があることを意味します。ただし、企業の預金残高が潤沢にある場合などは、返済履行に問題無いと判断されることもあります。
しかし、通常は企業が収益として稼いだ資金の範囲内で融資返済を履行することが望ましい姿であることは間違いありません。
5.金利
銀行はリスクに見合った金利設定をおこないます。
ここでいうリスクとは「返済が履行できなくなる可能性」です。
「融資する会社の業況」「保証人、担保などの保全」「返済期間」などから総合的に判断して金利設定をします。
「知り合いの会社が1%以下で融資を受けているので、私の企業も1%以下の融資でお願いしたい。」
このような融資交渉をしても、銀行は金利引き下げに応じる可能性は低いと思います。
<金利交渉の際のポイント>
- 県や市の制度融資を利用すると、金利を低く抑えられるケースがあります。
ただし、制度融資の場合は信用保証協会の保証となるケースがほとんどであることから、保証料がどの程度かかるのか注意すること。 - 融資期間ごとに金利交渉をおこなう。(例えば、融資期間5年、3年、1年で金利の提示を金融機関に依頼することをおすすめします。通常、期間が短い方が金利を低くすることができます。)
- 信用保証協会を利用する場合は、銀行にとって保全が高い状態となります。
企業にとって信用保証料がかかることから、金利については銀行との交渉で低くなる可能性があります。
6.融資交渉のポイント
「会社の資金が足りないから、明日までに融資して欲しい」
銀行にこのような申し出をしても、直ぐに融資ができるとは限りません。
ここでおすすめするのは、毎月1回程度は銀行に試算表と資金繰り表を持参した上で、融資担当者と資金繰り状況について打ち合わせすることです。
事前に資金繰りについて融資担当者と打ち合わせすることで、融資の可否を早く知ることができます。仮に相談した銀行で融資の取り上げができない場合においても、ほかの銀行に融資相談するなどの対策を取ることができます。
また、銀行においても事前に相談を受けることで、融資審査を計画的に進めることができます。
日ごろからの銀行との付き合い方によって、融資の成約率は飛躍的に高まるといっても良いでしょう。
7.最後に
今回は、運転資金の審査ポイントについて解説してきましたが、いかがだったでしょうか?
運転資金は事業継続する上で、恒常的に必要となるものです。日ごろから資金繰り表を作成して、資金繰りについて意識することが大切です。
今回の「運転資金の審査ポイント」が、今後の融資交渉に役に立つことを願っています。