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「持続可能な経営」(Sustainable Management)を目指して!―その⑫―

著者:高岡法科大学 教授  石川啓雅

「持続可能な経営」(Sustainable Management)を目指して!―その⑫―

「持続可能な経営」とは-総括-

自分が営んでいる経済活動、自分の経営している会社を維持していくためには、社会が必要とする財・サービスをつくり続けていくことが重要である。この観点からみると、売上や収益(利益や所得)それ自体の追求は「持続可能な経営」にとって意味をなさない。

地球環境問題により社会、否、世界全体が危機的状況に陥っていると言われるなかで、売上や収益をとことんまで追求する動きはCOの増大につながるし、働いている人間にも過重な負荷をかけ、もはや持続可能ではなりつつある。売上や収益の拡大が企業の盛衰・存亡を左右し、持続可能な条件とされた時期もある。財・サービスの生産販売をめぐって競争が行われる資本主義市場経済では当たり前のことであり、そのシステムのなかで我々は生きているので「売上や収益の拡大を追求すること=持続可能」という図式は未だに根強いものがある。したがって、我々は、今、一方で、売上や収益の拡大を追求しなければならないということと、他方で、それを追求することは次第に困難になりつつあるという矛盾した局面にたたされている。未だ具体的な姿がみえてこない「新しい資本主義」とは実はこの難問の解決にあるのではなかろうか?

だが、その解決に当たっては、「売上や収益の拡大を追求しない」ということではないように思う。

「売上や収益の拡大を追求する」行為自体が問題なのではない。

「売上や収益の拡大」が自己目的化してしまうことが問題なのである。世間が本当に必要とする財・サービスが何なのかを明確にしてそれを供給し、そのために投じた費用の回収に必要な売上+αを目標にすれば、自ずとブレーキがかかるはずである。そこでの売上や収益は、社会が必要とする財・サービスを提供しながら、供給に関わる人間の食い扶持を確保するという目的達成のための「手段」になっているはずである。もちろん、世間が必要としているものの供給を目的にしたとしても、競争が激しくなって、目的達成のために様々な手段が必要になり、回収すべき売上のハードルが上がり、将来の投資のために利益がより必要になるということはある。それはそれで当然のことだ。しかしながら、目的と手段の関係を忘れて、売上や収益それ自体が独り歩きすると事態がおかしなことになっていく。

このように考えてくると、度々話題にあげてきた「生産性の問題」も同じで、生産性の追求が問題なのではなくて、それが自己目的化してしまう点に問題がある。

生産性の追求は「少ない人数や時間で多くの成果をあげる」という労働と成果の「投入-産出関係」(Input-Output)関係の効率化を意味するが、それを逆さまにして「一定の成果をあげるのに人数や時間を少なくする」という「産出-投入関係」(Output-Input)の関係にすればいいという話でもない。後者のような発想の転換が必要とだとしても、「何のために必要で、どこまでそれを追求するのか」というキャップがなければ、結果は同じである。

そもそも、社会が壊れかかっているときに、あるいは会社がつぶれかかっているときに売上や収益も生産性もあるまい…

売上がどうの、収益がどうの、生産性がどうのと声高々に叫んだところで、経営は財産の前貸しをもって行われるわけだし、その回収が順調に行われてはじめて存続できるわけである。回収は売上からなされるのではあるが、1回きりの事業ならともかく、継続的な事業とするならば、売上を継続的に生み出せるような体制を内外につくり出さなくてはならない。企業内部では役割分担がきちんとなされ、その役割分担に基づいてメンバーがお互いが自律的に繋がりながら業務が動いていくコミュニティ(共同体)がつくられる必要があるし、外部においては、資金提供者、取引先を含む様々なステーク・ホルダーとの間で信頼関係に基づく良好な関係を築いていく必要がある。顧客に対しても、ただコスパの高いものを売るのではなく、顧客のおかれた状況を慮りながら、必要な財・サービスを提供していく習慣を身に着ける必要がある。こうしたことは言わば企業の文化や風土というべきものであって、経営者の作為的な働きかけによってつくられるものではない。関わる者の協働作業の結果として自然と出来上がるものである。売上や利益を追求していけば予定調和的に持続可能な組織やシステムが出来上がるというのは妄想である。

したがって、財産の回収にしても、資本回転率を上げなければならないという「方向性だけの話」では済まない。

そこで、「持続可能な経営」の問題として何が必要なのかをさらに考えた場合、資金がショートしないような動きが求められる。売上を追求して押し込み販売をしたあげく資金がショートした、資金がショートしかかって従業員の給料や賞与をカットしたというのでは本末転倒であるし、上述の企業文化の構築も企業が存続してこその話だからだ

かくして、マネジメントの具体的な問題として「持続可能」であることを突き詰めていった場合は運転資金に行き当たる。

なので、運転資金どのくらいあればいいのか調べてみた。

業種にもより一概に言えないようなのだが、大体、最低でも「月商若しくは月経費の3倍」ないとキツイらしい。なぜ、3倍、すなわち3ヵ月分なのかはわからなかった。恐らく、平均的な決済期間から出てきている数字なのだと思う。現金が入ってこなくても、営業をやれる限界が3ヵ月間で、それを超えると資金不足で倒産する、休廃業する企業が増えるということなのだと思われる。金融機関からすると、売上がなくてもカネを貸せるのは最長でも3か月だということである。

否、中小企業の場合、2ヵ月かもしれない、月末締めて翌々月払いだと2ヵ月である。筆者が以前聞取り調査をした酒造業者の話では、直接取引のある酒販店や飲食店だと出荷した月の月末締めで翌々月の集金になり、問屋だとさらに1ヵ月遅れの決済というということであった。酒販店の店主に聞いても、酒造業者への代金の支払いは2か月だという。なので、以上の数字と辻褄が合う。

いずれにしても、2~3ヵ月間に売上0ということになれば支払ができなくなるわけで、2~3ヵ月間間の売上に相当する流動性資産をもっていなければ事業を継続できないということになる。

だったら委託販売にすればいいではないかとの声が聞こえてきそうだが、それは販売リスクを酒造業者が全部かぶることになるので、商売上の信義・信頼関係からできないし、やるべきではない。買いたたきなどもってのほかである。そこが街の酒屋のつらいところである。が、買取販売は販売業者がリスクをかぶる話もであるので、酒造業者の側からは、支払期限の延長など配慮はあってもいい。そうした配慮なくして経営は成り立たない。

とりとめのない話ではあるが、以上のようなことを考えてくると、「持続可能な経営」というのは、様々なバランスからがあってはじめて成立し得るのかもしれない。逆に言うと、バランスが崩れると持続可能ではなくなるということである。例えば、売上と利益が右肩上がりであるということは、入ってくるものと出ていくもののバランスが取れていないということでもあるし、生産性の向上にも同じことが言える。少ない人数や時間で大きな成果をあげるということは、効率的ではあるが、それとて投入-産出関係のアンバランスを生んでいる可能性がある。また、経済的に収支のバランスがとれていたとしても、別のところでアンバランスが生じている可能性がある。地球環境問題はその典型である。

細かい話だが、「持続可能な経営」を実践するためには、経営に関わって生じる様々なInput-Output、経営資源の投入産出、つまり金銭や物財の出入りだけではなくて、周囲に与える影響も含めて「星取表」をつくってみたら面白いかもしれない。

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著者プロフィール

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石川啓雅

高岡法科大学 教授

岐阜大学大学院連合農学研究科修了。建設コンサルタント会社勤務を経て大学教員へ。専門は経済学。中小酒造業を中心に地域産業の活性化に関する研究を行っている。

著書に、「ワークショップ・エコノミーの経済学―小規模酒造業の経営分析―」高岡法科大学紀要32号(2021年)、「現代地方中小酒造業における生産・労働に関するモノグラフ―ワークショップ・エコノミー論序説―」高岡法学39号(2020年)等。

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