従業員エンゲージメントとは?向上のメリットや調査方法・成功事例を解説
企業を取り巻く外部環境が大きく変化している中、従業員エンゲージメントの重要性が高まっています。言葉自体は知っていても、それが組織運営とどう関係するのか分からないという方もいるのではないでしょうか。
本記事は、企業の経営層に向けて、従業員エンゲージメントの必要性や導入事例、高める方法を解説します。
従業員エンゲージメントとは
エンゲージメントという英語には、「約束」「契約」「婚約」などの意味があります。状況によってさまざまな意味に解釈されますが、「深いつながりや絆のある関係性」を示すのが共通点です。
ビジネスシーンで従業員を対象にする場合には、「企業と従業員との間に築かれた強い信頼関係」を指します。企業が一方的に従業員を管理するのではなく、双方が信頼し合い、共に必要な存在として、高め合っていく関係性であるのが特徴です。
従業員エンゲージメントが高いほど、企業と従業員の信頼関係が強いといえます。エンゲージメントが高い従業員は、自社に愛着や思い入れ、誇りを抱いており、高い帰属意識や貢献意欲を示します。
そして企業は、適切な評価や支援などによって、その貢献に報いることを約束します。
日本の従業員エンゲージメントは世界最低レベル
従業員エンゲージメントが高い、「熱意あふれる従業員」は、日本の企業にどのくらい存在するものなのでしょうか。実は、日本の従業員エンゲージメントは世界最低レベルです。
世論調査や人材コンサルティングなどを行う米ギャラップ社の調査(2017年)によると、日本は「熱意あふれる従業員」がわずか6%しかいないという結果が出ています。
順位でいうと、調査対象139カ国中132位であり、ほぼ最低ランクに位置します。世界平均は15%でした。
また、1位の米国とカナダでは31%もあり、日本の5倍以上です。日本は「熱意あふれる従業員」が少ないだけでなく、「周囲にも不満をまき散らす従業員」が23%もおり、平均の18%を上回っています。
(参考:https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_3.pdf)
かつては「会社人間」と呼ばれる人も多かった日本のビジネスパーソン。しかし、会社への帰属意識がここまで下がってしまった背景には、大きく3つの理由があります。
1つ目は、トップダウン経営による影響です。自発的に挑戦する従業員が育ちにくく、指示待ち人間が増えることで、エンゲージメントの低下に繋がっています。
2つ目には、現代の働き盛りの年齢にあたるミレニアル世代では、会社に依存せず、個人の成長に重きを置く傾向が強まっているという世代間の変化が挙げられます。
3つ目は、前述のエンゲージメントが非常に低い従業員の多さです。
こうした従業員は、会社への貢献度が低いだけでなく、周囲にもネガティブな影響を及ぼし、周りの従業員の熱意にも水を差す存在となり得ます。
従業員エンゲージメントと混同される3つの概念
従業員エンゲージメントは、以下の3つの概念と混同されやすいため、違いを理解することが重要です。
- ワークエンゲージメント
- 従業員満足度
- 働きがい
従業員エンゲージメントとの違いを、それぞれ解説します。
ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントの違い
ワークエンゲージメントとは、個人と仕事全般との関係を示す概念です。
具体的には、仕事に関連するポジティブな心理状態である「熱意」「没頭」「活力」の3つがそろった状態として定義されます。
ワークエンゲージメントが高い人は、仕事にやりがいと誇りを感じ、熱心に取り組み、生き生きとした状態にあります。
ワークエンゲージメントが仕事のみを対象とするのに対し、従業員エンゲージメントは仕事や組織の方向性、人間関係など、さまざまな要素が絡んだ中での会社への愛着や貢献意欲を示すものであるのが違いです。
ただし、切り分けて考えることは少なく、ワークエンゲージメントも従業員エンゲージメントの構成要素の一つとみなされることが多いでしょう。
従業員満足度と従業員エンゲージメントの違い
従業員満足度とは、仕事内容や職場の人間関係、給与、福利厚生などの待遇に対する従業員の満足度を測る指標です。
従業員エンゲージメントが高い従業員は、自発的に会社に貢献したいと考えています。しかし、従業員満足度の場合は高いからといって、必ずしも帰属意識や貢献意欲まで高いわけではないのが大きな違いです。
会社には満足していても仕事へのやる気にあふれているわけではなく、待遇や人間関係が悪化した場合には、より条件の良い職場を探す可能性が高いといえます。
働きがいと従業員エンゲージメントの違い
働きがいに関する調査・分析を行うGreat Place to Work® Instituteは、働きがいを「働きやすさ」と「やりがい」を足した概念と定義しています。
働きやすさとは、働きやすい職場環境や制度、待遇を指し、やりがいとは、仕事に対するモチベーションです。
働きがいは、従業員エンゲージメントを高めるための重要なポイントの一つであり、従業員エンゲージメントは働きがいの概念を内包します。
従業員エンゲージメントの高い組織づくりはなぜ必要か
会社の事業を成立させるには、人的資源が欠かせません。
しかし、日本では昨今、少子高齢化による人手不足が深刻化しています。
また、終身雇用や年功序列などの制度が実質崩壊し、成果主義へと移行する企業が増える現代では、より良い条件を求めて転職することは珍しいことではなく、人材の流動化も進んでいます。
こうした背景による人材確保の難しさを乗り切るためには、より多くの従業員から「働き続けたい」と思ってもらう必要があり、その切り札こそ従業員エンゲージメントの向上です。
従業員の目線に立ち、より働きやすく、個人の能力を発揮しやすい組織づくりを目指すことが、結果的に顧客満足度の向上や企業の成長にもつながります。
従業員エンゲージメントを高めることで企業が得られるメリット
従業員エンゲージメントを高めることで、企業は人事面と経営面の双方において、高いメリットを得られます。
従業員の離職率の低下
エンゲージメントが高いということは、従業員が自社のビジョンに共感しており、自社で働くことを誇りに感じているということです。
すなわち、「この企業で長く働きたい」「もっと貢献したい」と考えています。同時に、個人の能力を発揮しやすい環境である可能性が高く、企業に対する不満やストレスも少ないと考えられます。
つまり、従業員の離職率の低下に大きく寄与するのです。優秀な人材の流出を防止できれば、わざわざ新しい人材を採用する必要もありません。採用コストを圧縮でき、その分のコストを社員教育や事業拡大など、より生産性が高い分野に充当できます。
従業員のパフォーマンスアップによる生産性の向上
エンゲージメントが高い従業員はモチベーションが高く、主体的に行動する傾向が強いため、仕事において高いパフォーマンスを発揮します。このような従業員が増えていけば、企業全体の生産性はアップし、顧客満足度や業績も向上していくはずです。
企業の評判が上がることで従業員エンゲージメントはさらに高まるという好循環が生まれていき、将来的にも安定した経営を実現できます。
社員の従業員エンゲージメントを高める5つの方法
従業員エンゲージメントを高めるには、次の5つの方法が有効です。自社に不足しているものがあれば、紹介する具体的な施策例を参考にして、対策していきましょう。
1. 企業のビジョンを従業員と共有する
従業員エンゲージメントを高めるうえでは、従業員に自社のビジョンを共有し、理解してもらっていることが前提です。
まずは、自社のビジョンを従業員に共有しましょう。場合によっては、分かりやすい言葉に明文化する必要もあります。
ビジョンはすぐに浸透するものではないため、効果的かつ継続的な取り組みが求められます。イントラネットのトップページなど、全従業員が閲覧できる場所に常時掲載しておくほか、社内報で特集を組んだり、社内研修で定期的に社長や経営陣自らの口で語ってもらったりすると良いでしょう。
2. ワークライフバランスを推進する
従業員のワークライフバランスを推進することも大切です。
心身の健康が整うことで個人の能力を最大限に発揮しやすくなり、従業員エンゲージメントが高まります。
従業員のワークライフバランスを推進するには、職場環境の改善や就労条件の見直しなどが有効です。
管理職が率先して有給を取得して部下も取りやすい環境にしたり、時短制度やフレックス制度、テレワーク制度を導入したりすると良いでしょう。このほか、住宅手当や育休制度の拡充など、社員のニーズをくみ取った、多彩な福利厚生を用意することも効果的です。
3. 社内コミュニケーションを活性化させる
職場内の人間関係も、働きやすさに大きく影響します。
例えば、上司から部下へのフィードバックが少ないと、部下は自身が期待されていない、この企業では成長しづらいと感じてしまいやすくなるでしょう。
社内コミュニケーションを活発化させることで、従業員同士の意思疎通や業務の推進がスムーズになります。結果的に労働環境が改善し、従業員エンゲージメントも高まっていきます。
社内コミュニケーションを活性化させるには、1on1ミーティングや社内SNSを導入するほか、社内イベントの実施など、仕事から離れた場で従業員同士が交流する機会を提供することも有効です。
4. 従業員のキャリアデザインを支援する
従業員個人の成長とキャリアデザインを支援していくことも、従業員エンゲージメントを高めるための重要な要素です。
従業員一人ひとりが理想とするキャリアを築けるよう、定期的に新しいチャレンジを促したり、強みを生かせる適材適所な配置を行ったりすると良いでしょう。
コスト面で余裕があれば、キャリア開発休暇や資格取得手当を導入するのも手です。従業員が仕事を通じて個人のスキルアップを実感でき、会社もそれを積極的に支援してくれていると思えることで信頼関係が構築され、自社に対するエンゲージメントは高まります。
5. PDCAを回して職場環境を改善していく
従業員エンゲージメントの取り組みは、短期間で結果が出るものではなく、段階的かつ継続的な取り組みが求められます。
施策の導入後には、必ず効果を測定しましょう。現状を把握して課題解決のための施策を実行し、再び効果を検証するというように、PDCAを根気強く回していくことが大切です。
従業員エンゲージメントを正確に測定する方法として代表的なのは、サーベイの実施です。具体的な方法については、次の段落で解説します。
従業員エンゲージメント調査の具体的な方法
自社でアンケートを行う方法もありますが、専門性を欠いたものになりやすく、実施や集計にも手間がかかります。ここでは、専門会社に外注する方法を2つ紹介します。
従業員エンゲージメントサーベイ
「従業員エンゲージメントサーベイ」は、従業員エンゲージメントを調査する代表的な方法の一つです。
「自社のビジョンを理解しているか」「直近1年間で成長を実感した機会はあったか」など、エンゲージメントに関連するさまざまな質問項目を用意し、従業員に5段階または10段階で回答してもらい、スコア化します。実施頻度は、半年~1年に一度です。質問項目が幅広いため、あらゆる角度からのエンゲージメントスコアを測定できるのがメリットです。
一方で、回答者の負担は大きいため、サーベイ実施の意図を従業員にも説明し、理解を得ておく必要があるでしょう。
従業員パルスサーベイ
「従業員パルストサーベイ」は、従業員エンゲージメントサーベイと比べて、回答者の負担が少ない調査方法です。
5~10分程度で回答できる簡単な意識調査を、週次または月次の短期間で繰り返し実施します。回答者の負担が少ないため有効回答率が高くなりやすく、調査結果の分析もスピーディに行えるのがメリットです。
従業員の本音をリアルタイムで把握できるため、現在進行形の問題についての解決策を速やかに実施できる場合もあります。
従業員エンゲージメントが高い企業の成功事例と向上施策
最後に、従業員エンゲージメントが高い企業の成功事例と向上施策を2つ紹介します。
スターバックスコーヒージャパン
1つ目は、接客の質の高さに定評があるスターバックスでの事例です。
スターバックスコーヒージャパンの従業員層には、若い世代が多く、かつ8割以上がアルバイトという特徴があります。同社では、この点を十分に考慮したうえで、次の2つの施策を実施しています。
まず、同社では、アルバイトを含む従業員を「パートナー」と呼び、社員以外の従業員にも理念やビジョンへの理解を促しました。
次に、サービスに関するマニュアルを用意せず、パートナー一人ひとりに自発的な行動を推奨したのです。
まとめると、企業が一方的に指示するマニュアルではなく、理念やビジョンへの共感によって生まれるエンゲージメントを従業員の指標とし、同時にそれを社内に一体感を醸成する核としています。
その結果が、現場での付加価値の高い接客となって現れているというわけです。
小松製作所
2つ目は、マネージャー層を対象とした取り組みに注力している小松製作所の事例です。
同社では、現場の従業員のエンゲージメントを大きく左右するのが直属の上司である点に注目し、マネージャー層を対象とした教育・研修を積極的に進めています。
具体的には、マネージャー層が気を配るべきポイントを「信頼・モチベーション・変化・チームワーク・権限移譲」の5つに定め、研修やワークショップで実践させました。
併せて、全従業員が継承すべき価値観をまとめた小冊子「コマツウェイ」を全従業員に配布し、ビジョン・ミッションの浸透を図ったのです。
これらの施策の結果、同社では従業員エンゲージメントのスコアアップと工場のパフォーマンス向上に成功しています。
従業員エンゲージメントの向上は、離職率の防止につながるだけでなく、従業員一人ひとりのパフォーマンスを向上させ、企業の業績アップにも寄与します。
人事や経営面で課題がある場合には、本記事を参考に従業員エンゲージメントの向上に取り組むことをおすすめします。
まずは適切なサーベイによって、現状のスコアを把握してみましょう。