中小企業の働き方改革の現状から見える課題とは?
「働き方改革関連法」に定められている規制に違反すると、刑事罰が科せられます。猶予期間があるとはいえ、中小企業の経営者にとっては緊急の課題です。
今回は、働き方改革の内容を確認し、中小企業の課題を整理します。
日本の中小企業
まず日本の中小企業とはどのくらいの規模をいうのか中小企業基本法に則って整理しました。
同じく中小企業庁の『中小企業・小規模事業者の現状と課題』(平成28年10月)によると、企業全体の99.7%、労働者の7割を占めることが分かります。働き方改革の行方は中小企業にかかっていると認識できるでしょう。
中小企業の働き方改革の内容
次に中小企業の対応が求められる、働き方改革の内容について説明します。ご存じの通り、2019年4月1日「働き方改革関連法」が施行されました。中小企業には猶予期間がありますが、主な内容は次の通りです。
- 時間外労働時間の規制(2020年4月1日より)
- 同一労働・同一賃金の適用義務化(2021年4月1日より)
- 残業時間月60時間超の割増率が引上げ(2023年4月1日より)
これらは、労働者の働き方や環境の改善につながるでしょう。企業側には、人的・金銭的コストが高く課題も大きいです。次の章で詳細をお伝えするので、ぜひご覧ください。
中小企業が直面する3つの課題
働き方改革関連法の罰則強化が中小企業に与える影響は大きく、以前から経営者の頭を悩ませていた課題とつながっているのが背景にあります。しかも、一つの課題がほかの要素と相まって、事態を深刻にしているのが現状です。
課題1:人手不足
中小企業の人手不足の深刻さは、元々言われていました。若者が少ない上に、大企業に人材が流れるからです。少ない従業員で会社の仕事を回すには、個々人の力に頼らざるを得ません。労働時間や仕事量が増えれば、離職率も上がりさらなる人手不足を招いてしまいます。
課題2:賃金高騰と採用難
人手不足とつながりますが、労働人口の減少で就職は「売り手市場」です。より良い労働条件を求める労働者が増えれば、中小企業の採用難となるでしょう。大企業と比べ資金力や生産性に劣る中小企業にとっては、大きな課題です。
残業に規制がかかれば、それまでプラスαの給与を得ていた従業員が離れる可能性もあります。しかし残業で補っていた”生産量”の減少により、賃金アップを図るのは難しくなるでしょう。連鎖的に人は離れます。
課題3:残業規制による受注減
働き方改革関連法施行以前は、残業によって仕事量をこなしていました。しかし、罰則が設けられ、今までと変わらぬ残業のさせ方をすれば、経営に響きます。場合によっては、受注量を減らす状況に追い込まれるでしょう。
働き方改革関連法により、「臨時的な事情で労使が合意する場合でも、複数月平均80時間以内、月100時間未満、年720時間を超えることはできない」とされました。時季によって仕事量に波のある企業はさらに厳しくなります。
中小企業の働き方改革と課題解決のために
中小企業の働き方改革には多くの課題が残されています。しかし、日本の労働者の働き方の改善には中小企業の取り組みが欠かせません。直面する課題をどう解決するのか、その糸口になる視点を3つお伝えします。
その1:従業員との信頼関係づくり
信頼関係は企業の規模を問わず、大事にしたい視点です。職場の雰囲気がよければ、ストレスも軽減され生産性も上がるでしょう。前向きな感情は業務のパフォーマンスを高めるという研究報告もあります。
「やりがい」「幸せ」感をもって働ける環境づくりは、まず人間関係からです。特に企業側が従業員に歩み寄り、対話できる場をつくる姿勢が望まれます。企業の課題を経営者のみで解決しようとせず、双方のメリットとなる解決法を従業員とともに探せば、関係性もよくなるでしょう。
その2:業務や勤怠関連のIT化
最初から大がかりなIT化推進は逆効果と考えられます。できるところから始めましょう。特に勤怠関連、業務報告などのWebサービスは様々なものが増えました。その中で企業の実態に合ったサービスをうまく利用すれば、コスト減につながります。
その3:多様な人材を確保
卒業後に大企業に就職するも仕事だけの毎日に嫌気がさし、中小企業へ転職する若者もいます。また、家事や育児とのバランスで、小規模の職場でマイペースで働きたい主婦層もいるでしょう。自分らしく働ける場を求める人が増えたのは、中小企業にとってチャンスです。働く意欲のある人にとっての「条件や環境づくり」に努め改善すれば、徐々に人材が集まるのではないでしょうか。
働き方改革は中小企業から
法律の施行は、労働者も自身の働き方を見直す機会となります。「収入が減るから残業を!」「残業代の引き上げを!」と求めるのは法律の趣旨と反します。企業側が副業を柔軟に認めるのも良案です。ただ、企業の生産性をどう上げるか、従業員と共に考える姿勢が重要です。
「働き方改革」は労使ともに。対話を重視して進めれば、企業の成長につながるのではないでしょうか。