健康経営とは? メリットや国の制度、導入方法までまとめて解説
生産人口の減少で、できるだけ長く健康に働ける人を確保することは企業にとって重要な課題です。またコロナ禍での業務が心身の健康に及ぼす影響も指摘されています。
そこで昨今「健康経営」が注目を集めるようになりました。
健康経営を導入する必要性やメリット、具体的な導入方法、国の取組について解説します。
健康経営とは
企業が従業員の健康管理を経営戦略として取り組むことを「健康経営」といいます。
労働者の心身の健康をむしばむような事業を行っている企業を「ブラック企業」と呼びますが、その対極にある経営の在り方です。
健康経営は、アメリカの臨床心理学者であるロバ―ト・ローゼン博士が1994年に自著の中で提唱した考え方です。企業の業績向上には従業員の健康管理が欠かせないため、会社の経営方針に従業員の健康管理を統合して考えるべき、という考えが記されています。
発表当時にはマイナーだった「健康経営」は、現代においては大変重要視されています。企業が従業員の健康のために取り組むことは、中長期的な業績向上に向けた投資と見なされるようになってきました。
経済産業省も、「健康経営の推進について」で以下のように書いています。
「企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がることが期待される。」
(引用元:令和3年10月経済産業省 ヘルスケア産業課 19ページ)
またこの考えは、「日本再興戦略」という国策にも盛り込まれ推進されています。
冒頭で触れたブラック企業のように、企業が従業員の健康をないがしろにすれば、従業員は心身共に疲弊し、病に倒れる確率が上がるでしょう。そうなれば企業の生産性は落ちますし、国や企業の健康保険料負担が増えて予算を圧迫します。
少子高齢化が進み、ただでさえ生産年齢人口が減っている現代において、病気にかかる人が増えてさらに労働者が減る事態は避けたいものです。
長く健康に働ける人を増やすことは国家にとっても重要事項であり、「健康経営」への注目度が上がる理由となっています。
健康経営を行うメリット
健康経営が国策にも盛り込まれる今、企業として健康経営を行うメリットは何でしょうか。パフォーマンスや生産性の向上はもちろん、離職率低下や社外からの評価向上など多方面に及びます。
パフォーマンスや生産性の向上
疲労の蓄積によりミスを招いてしまったり、作業効率が下がったり、といった経験がある人は多いのではないでしょうか。
実際に福島医科大学の岩崎祥一教授が看護師を対象に行った調査でも、疲労によってうっかりミスが増えたという結果が出ています。
(参考元:看護婦における疲労とうっかりミス)
こうした事実を踏まえると、従業員のパフォーマンスや生産性を良い状態に保つためには、健康状態や疲労状態を把握することが大切です。心身の状態が悪化すれば長期の欠勤にいたることもあり、マンパワー不足から停滞を招きかねません。
一方で、従業員の心身の状態が健やかに保たれ、疲労し過ぎないように職場環境を整えれば、それだけで作業効率がアップして業務推進につながります。
業務がスムーズに回れば職場に余裕が生まれ、新しいアイデアが生まれやすくなるでしょう。健康経営は従業員・企業双方に好循環を生むのです。
従業員の離職率低下
企業側が従業員の健康を考えていて、職場の人間関係も良好であれば、従業員はなるべく長く働きたいと考え、離職率は下がります。
長く勤務していくうちに各従業員の専門性や知識が向上するなら、より難易度の高い業務や案件を扱えるようになるでしょう。人材が充実すれば企業としての成長も望めます。また、新しい人員を採用する際に必要な、面接や教育に関連したコストも削減できます。
健康経営によって離職率を下げられれば、結果的に求職者にとっても魅力的な企業に映り、優秀な人材を集めやすくなるのもメリットです。近年ではブラック企業に関する報道も盛んになされてきたため、新卒・中途採用を問わず就職先としてそのような企業を避ける傾向が見られます。
従業員の心身での健康を保つために労働時間や人間関係を含めた職場環境を改善するなら、ホワイト企業と見なされるでしょう。
一方、離職者が多いため急いで人材募集をせざるを得ない場合、「穴を埋める」意味合いが強く、本当にマッチする人材が見つかるのを待てないかもしれません。
こうして職場と人材の不適合が続けば、企業にとっても大きなマイナスとなります。
ステークホルダーからの評価向上
企業が健康経営に取り組む大きなメリットのひとつとして挙げられるのは、ステークホルダー(利害関係者)からの評価が上がる点です。
ステークホルダーには消費者や従業員、株主、取引先などが含まれます。ある企業の従業員が心身共に健やかに働いていて離職率が低いなら、ステークホルダーは好印象を持つでしょう。
SNSが発達している現代においては、消費者のポジティブな発信が他の消費者の購買行動に直結することも増えています。また企業イメージが高まれば、株価にも良い影響を及ぼすでしょう。
健康経営によるステークホルダーの評価向上は、順調な企業運営に寄与するのです。
国による健康経営に向けた制度
「健康経営が良い」と理解できても、具体的にどういった指標や目標を立てれば健康経営につながるでしょうか。
国による健康経営に向けた制度を三つご紹介します。
健康経営銘柄
健康経営銘柄とは、東京証券取引所の上場企業の中から選定された、健康経営を推進している優れた企業を指します。
この制度を設けた目的は、長期的な成長を重視する投資家に対して、出資の参考にしてもらうことで、企業による健康経営の取組を促進することです。
「健康経営銘柄」は毎年発表されています。健康経営銘柄に選定された企業は、健康経営に対するアンバサダー的な役割を求められ、健康経営を普及拡大していく役割を担います。
健康経営優良法人
健康経営優良法人とは、優良な健康経営を実践している大企業・中小企業の法人を顕彰する制度です。
大規模の企業等を対象とした「大規模法人部門」と、中小規模の企業等を対象とした「中小規模法人部門」があり、それぞれ「健康経営優良法人」を認定しています。
認定されれば、「健康経営優良法人」ロゴマークの使用が可能となり、健康経営を行い従業員の健康増進に努めていることが可視化されます。従業員はもとより求職者や関係企業、金融機関などステークホルダーから社会的な評価を得やすくなるでしょう。
※No.16「健康 経営 優良 法人 メリット」のリンクを入れる
ホワイト500・ブライト500
ホワイト500とは、先述した「健康経営優良法人認定制度」で認定された大規模法人のうち、上位500社に与えられる称号です。
ホワイト500は健康経営優良法人認定制度の開始当時は、認定された企業を一括してホワイト500と呼んでいました。しかし2020年度から上位500社のみに冠されることになりました。
一方、ブライト500とは、2021年度から新たに付加された称号です。中小規模法人部門の上位500社が選ばれます。
健康経営の導入方法
自社に健康経営を導入するには、具体的にどのような順序で取り組めばよいでしょうか。
以下の4つのステップを踏むことをおすすめします。
経営理念の見直しと社内外への発信
健康経営に向けての第一歩は、自社の経営理念を整えることです。
経営理念とは、企業が目指している理想の姿を明文化したものですが、健康経営の観点から今一度経営理念を見直してみます。例えば「顧客満足を第一に考える」という理念があった場合、顧客満足のためには従業員の満足は二の次でよいのか、どうすれば顧客と従業員双方の満足度を上げられるのかを考える必要があるでしょう。
その上で、健康経営に対する方針や健康経営を行う意思を社内外へ発信・情報開示します。従業員など社内の評価はもとより、株主や取引先、顧客、投資家など社外のステークホルダーからの評価獲得につなげるようにアピールします。
組織体制の構築
次は従業員の健康促進に向け、具体策を推進していくための責任者や部署を選定します。
ここで大切なのは、経営陣から従業員に「やっておくように」と丸投げしないことです。経営層も積極的に健康経営に取り組む体制を整備します。最終承認をするだけにとどまるのではなく、企画段階から関わって、役員会の中で取りあげるなどできるでしょう。
また、メンタルおよびフィジカルな健康面についての専門資格者を配置したり、社内の担当者に対する研修制度を充実させたりできます。社員が健康系の資格を取得することを奨励することも有効です。
従業員が参画しやすく、行動や意識を変えやすい体制づくりを目指します。
課題把握と施策の実行
コロナ禍によるリモートワークの増加はライフワークバランスの充実を促した一方、オフラインでの交流が激減したことによるメンタルヘルスの悪化や、体を動かさないことによる体調不良や体力低下が問題になっています。
特にメンタルヘルス面はリモートワーク下では可視化しづらいため、問題が表面化しにくい状況が続きました。そのため多くの企業では、ストレスチェックや健康情報の共有・活用により健康課題の把握に努めるようになりました。
図らずもコロナ禍によって促進された従業員の健康状態の把握ですが、これは健康経営に欠かせないものです。健康課題を具体的に把握してはじめて、自社に合った効果的な方針や施策を立てて実行できるからです。
例えばリモートワークにより、運動機会が減少し、筋力が落ちたと感じる従業員が増えたとします。積極的な運動を促すために、スマートウォッチやアプリを利用し、「月に〇歩歩いたら1日分のランチ代補助」といった奨励制度を設けられるかもしれません。
取組への評価と改善
課題に対しPDCAをしっかり機能させることも大切です。
健康経営はただ「健康増進に関する活動をすればよい」というものではありません。施策を進めたことで当初考えていた目標は達成できたのか、どの程度達成できたのかを振り返る必要があります。
例えば、従業員の健康は増進できたものの、それが業務パフォーマンスの向上に全くつながっていないのであれば、業務パフォーマンス向上に結び付けるための対策を練らなければなりません。
検診参加率は向上したものの、再検査への参加が伸び悩むのであれば、どうすれば次のステップに進みやすくなるのか検討します。
施策が良い結果につながるよう随時取組の成果をチェックし、施策の改善を続けていきましょう。
まとめ
健康経営とは、企業が経営戦略の一環として従業員の健康管理に取り組むことをいいます。従業員の健康維持は企業の底力を向上させ、社内外からの評価にも好影響が及びます。
特に「健康経営優良法人」など国からの認定を受けるなら、株主や投資家、取引先などのステークホルダーからの信頼が一層強まるでしょう。
従業員のパフォーマンスを高め、長期にわたって経営を維持するためにも、今健康経営を始めてはいかがでしょうか。