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業務改革のすすめ(ITシステム営業部門編)

著者: 中小企業診断士  吉川 和明

業務改革のすすめ(ITシステム営業部門編)

長年利用し続けてもらっている IT システムなら、客先側の担当者とも信頼関係が構築できており、企業側においても安定した売上が見込めることから、営業担当者としても重宝されることがあります。

その反面、営業面での変化が少なく、対応する客先も固定化してしまうことから、業務的にも組織的にも硬直化してしまいがちです。筆者自身も、長年同じ客先の IT システム営業を担当し、知らず知らずのうちに営業スタイルや組織構造が硬直化してしまうことを体験しました。

本記事では、このような IT システム営業部門での業務改革をどのように進めればよいかを、筆者の体験も踏まえて解説します。


1.よくある問題点

(1)固定客先に固執

長年つき合いのある客先であれば、客先の担当者とは慣れ親しんだ間柄であり、信頼関係も確立されていることから、営業活動そのものが「楽」であると感じてしまいがちです。

定期的にITシステム改修の依頼があり、システム利用料や保守サポート料なども含めて一定の年間売上が見込める客先は、企業にとっても重要です。この客先と今後も長くつき合えるように、信頼関係ができている営業担当者を固定的に割り当てるでしょう。

このような環境下では、固定客先から離れられない営業担当者がよく見受けられます。

(2)営業スタイルが属人的

営業担当者は、自己流の営業スタイルを持っています。

入社して集合教育は受けるものの、客先の担当者の性格や上層部への根回し、見積り交渉時の観点など、長年の経験から作り上げたノウハウを持っています。このノウハウは、自分自身の営業活動の糧となり、次の案件受注に向けて活用し続けることで、さらに磨きがかかるようになります。

このようにして自ら作り上げた営業スタイルは属人的であるため、マニュアル化もされていません。

(3)環境の変化に弱い

長年、固定客先を担当してきたがゆえに、担当する客先のITシステム部門についてはよく知っているが、その他の部門の情報には疎いという状況もよく見受けられます。

ITシステム以外の経営課題など意識したことがないために、営業として長年担当してきたわりには、実は客先のことをよくわかっていないのです。

筆者自身も、客先の経営方針が変わってITシステムそのものを刷新するような事態になった際、客先のニーズや将来を見据えたITシステム提案がすぐにできない営業担当者でした。


2.よくある原因

(1)営業範囲の偏り

法人向け営業、新規開拓営業といった具合に、営業担当者には役割分担がありますが、営業としての活動範囲や情報が偏ってしまうことがよく見受けられます。

売上目標達成に向けて、信頼関係のでき上がっている客先に足しげく通って、次の案件を獲得すべく受注活動に専念するためです。

売上を上げることが営業担当者の仕事ではありますが、業務が硬直化されてしまい、ITシステム営業としての視野も狭くなるといった状態に陥ります。

(2)ベテラン営業の存在

ベテラン営業担当者は、長年のつき合いから、客先の上層部とも顔なじみで、客先の決裁権限や手続きなどをよく知っていることなどから重宝されています。

営業としてのテクニックが秀でていることから、若手の営業担当者からは憧れの先輩として見られます。ところが、営業スタイルは属人的であるため、その存在が組織の硬直化を生んでいるケースも散見されます。

長年の活動で築き上げた営業スタイルは、マニュアルなど文字であらわすことが難しく、他の営業担当者には真似のできない営業活動となってしまいます。

(3)新規開拓機会の減少

新たな販路を見つけて開拓する機会が減っていることも、硬直化の原因としてあげられます。

事業を維持拡大していくために、営業担当者自らも考えて取り組む機会を会社として与えなければなりません。長年同じ客先とつき合っていた営業担当者は、特にマーケティング力が低下している傾向にあります。

自社の持つITシステムが、既存客先以外のどの業界に役立つのか、どの分野に役立つものなのかといった観点で、マーケティング活動を進めていく必要があります。


3.業務改革のポイント

(1)営業担当者の入れ替え

慣れ切った環境から脱却するために、営業担当者を入れ替えることをおすすめします。

もちろん、入れ替えるためには、これまでの営業内容や客先との関係、客先担当者などについて、お互いに引き継ぎをしっかりと行うことが大切です。マニュアル化しにくい営業ノウハウについては、営業活動に同行させてOJTにより理解を深めてもらいます。

筆者も経験しましたが、1案件を任せてみて要所要所をチェックしながら、新たな営業担当者と客先との信頼関係構築を後押しすることが大切です。

(2)ノウハウの継承(後継者育成)

ベテラン営業担当者ならではの営業テクニックは、その個人だけのノウハウとするのではなく、組織のノウハウとして継承すべきです。

やり方としては、営業担当者入替えの際に引き継ぎを受けた側が、OJTを通じて習得した内容をマニュアル化し、共有化することをおすすめします。

ベテラン営業担当者にとってはマニュアルに記述された内容をもとに自分自身のノウハウの棚卸しができ、引き継ぎを受けた側にとっては自分自身の営業スキル向上にもつながります。

(3)部門間連携(営業情報交換)

自部門だけでなく、他部門との交流機会を増やすことをおすすめします。

他部門は、営業スタイルも客先の特性も異なるところが多く、お互いにとって刺激となり営業活動が活性化します。自社内での情報交換会を行い、お互いの客先のことを話していると、思わぬところに商機が見つかるものです。

筆者も流通業界を相手に営業活動をしていました。客先内部にも様々な部門があり、これらの部門のニーズに対して、自社の他部門の商材が役に立つことに気づくことができました。この取り組みにより、客先とのさらなる関係強化にも結びつけることができました。


4.実施する際の留意点

(1)客先との信頼関係維持が大前提

営業担当者を変える、新たな分野の営業と連携してアプローチするなど、硬直化をやわらげるあまりに、客先との信頼関係を損なうようでは本末転倒です。

新旧の営業担当者を含めて、客先と自社との信頼関係がさらに強固なものとなるよう、今まで以上の気配りを心がけたいものです。

(2)チーム貢献でも評価を

営業担当者間の連携によるシナジー効果により、多くの受注を獲得できるようになれば、企業としても喜ばしいことです。この連携を活性化させるためにも、営業担当者個人だけではなく、チームでの成果を評価することも大切です。

例えば、「他の営業担当者をフォローしたことで、チームとしての売上アップに貢献した」「他部門の営業担当者を自分の客先に紹介することで、新たな受注を生み、客先にも喜ばれた」といった成果を評価しましょう。


5.おわりに

硬直化した IT システム営業部門での業務改革について解説しました。

同じ客先を相手に、長く営業として携わっていると、知らず知らずのうちに環境の変化や業界動向の変化に気づかず、外部との接触機会も減って硬直化してしまいがちです。

本記事が、硬直化した IT システム営業部門での業務改革において参考になれば幸いです。

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著者プロフィール

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吉川 和明

中小企業診断士

1965年生まれ,京都府京都市出身。
2021年中小企業診断士登録

大手電機メーカー系列のソフトウェア会社にて、流通業向けPOSシステム開発に長年携わり、現在は大手流通業向け法人営業を担当。得意分野は流通系ITシステム、業務改革、プロジェクトマネジメント、ファシリテーション。


お問い合わせ先
株式会社プロデューサー・ハウス
Web:http://producer-house.co.jp/
Mail:info@producer-house.co.jp

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