マトリクス組織とは? 種類別の特徴とメリット・導入企業例を紹介
マトリクス組織は、企業の組織形態のひとつです。事業やエリア、職能といった異なる要素を網目状に掛け合わせるのが特徴で、従来のトップダウン式の組織とは目的が大きく異なります。
この記事では、マトリクス組織の種類やメリット、導入企業例などを紹介します。部門間の連携や人材の有効活用に課題を抱えている方は、ぜひ参考にしてください。
マトリクス組織とは
マトリクス組織とは、事業やエリア、職能といった異なる要素を掛け合わせた組織形態のことです。「マトリクス」という名前の通り、複数の要素が縦横に配置され、網目状に並んでいるのが特徴です。
マトリクス組織に属する従業員は、異なる要素で切り分けられた複数の部門に所属することになります。例えば、1人の営業担当者が、エリアで切り分けたときは「首都圏エリア」に所属し、職能で切り分けたときは「営業部門」に所属するといった形です。
複数の指揮命令系統を設定することで、ビジネス上の目的を達成するために従業員を柔軟に稼働させることができます。
マトリクス組織の起源
マトリクス組織は、NASAの「アポロ計画」が起源となっています。
アポロ計画では、プロジェクトごとにマネージャーが設置されました。一般的なトップダウン型の組織の場合、マネージャーは自分が所属するチームのマネジメントのみを行いますが、アポロ計画では、さらに横軸で複数のプロジェクトチームが結成されました。
マネージャーは自分の専門分野の職務を遂行しながら、他部門間のコーディネートを実施することになります。
NASAは、このマトリクス型の組織形態が有効だと考え、航空宇宙産業界の他企業にも導入を勧めました。その後、複雑なオペレーションに対応するための組織形態として、一般企業にも浸透していきました。
他の組織形態との違い
ここでは、マトリクス組織を他の組織形態と比較してみましょう。
プロジェクト型組織との違い
プロジェクト型組織とは、特定のプロジェクトを遂行する目的で結成された組織のことです。
マトリクス型組織との違いは、期間限定である点と、プロジェクトごとにメンバーが求められる役割が異なる点にあります。プロジェクトが終了したら、チームも解散します。
マトリクス型組織でもプロジェクトは行われますが、継続的な組織であることからノウハウが蓄積されやすく、プロジェクトで得た成果を次に活かすことが可能になるなどのメリットがあります。
機能型組織との違い
機能型組織とは、経理や営業といった部門ごとに役割が細分化された組織のことです。
従業員は自身が所属する部門の業務に集中でき、専門性を高められるというメリットがありますが、組織単位で見たときに部門間の連携が弱まるのがデメリットです。
また、柔軟な組織変更への対応が難しくなります。機能型組織は、業務内容や従業員の役割に変化が少なく、主にルーティンワークが求められる企業に適しています。
マトリクス組織の種類と特徴
マトリクス組織は、責任者の配置方法の違いによって次の3種類に分けることができます。
1. バランス型
プロジェクトメンバーから責任者を選ぶ方法で、プロジェクト全体を見渡せる人物がいることで意思決定が早くなるなどのメリットがあります。
一方で、マトリクス型組織の場合は、プロジェクト責任者の他に部門責任者が存在します。責任者が複数存在することで意見の衝突が起こり、チームがまとまりづらくなる懸念があります。
また、複数の組織に所属するメンバーは、各組織内での意見調整も行わなければなりません。
バランス型のマトリクス組織は、規模が大きく、全体を統制する必要があるプロジェクトに向いています。
2. ストロング型
プロジェクトのマネージャー単位で部署をつくり、各マネージャーを責任者として配置する方法です。
優れたマネジメント能力を持ち、専門性が高いマネージャーが責任者になることでチームワークが発揮されやすくなります。
しかし一方で、トップダウン型の組織になりやすいのがデメリットです。ストロング型のマトリクス組織は、強力なリーダーシップが求められるプロジェクトに向いています。
3. ウィーク型
プロジェクト内に責任者を配置しない方法で、メンバーがそれぞれ主体性を持って行動します。
ウィーク型のメリットは、意思決定が迅速になり、フットワークが軽いチームになることですが、責任者が存在しないことで指示系統が曖昧になる点がデメリットです。
ウィーク型のマトリクス組織は、スピーディーで臨機応変な対応が求められるプロジェクトに向いています。
企業がマトリクス組織を導入するメリット
ここでは、企業がマトリクス組織を導入するメリットを紹介します。
プロジェクトの目標が明確になる
マトリクス組織は共通の目標達成に向けて組織されるため、各チームの目標が明確になるというメリットがあります。
目標が明確になることで、従業員が目標達成に向けてモチベーションを高める効果が期待できます。
リソースの有効活用が可能になる
従業員が複数の役割を持ち、部署横断的に業務を遂行することになるため、リソースの有効活用につながります。
結果的にマルチプレイヤーが増え、新たな人材を採用することなく事業展開を行うことも可能です。
円滑な情報伝達
マトリクス組織では、複数のチームが関わり、上下関係や職能の壁を越えたコミュニケーションを行うことが重要です。
職能などの壁を越えてチームが形成されることで、さまざまな情報がチーム内に集まり、円滑な情報伝達が可能となります。
組織の柔軟性が向上
プロジェクトの目的に合わせて部署や職能を越えてチームを形成するなど、状況に応じて柔軟な組織が形成できます。また、従業員が複数の部署に所属することで部署ごとの壁がなくなり、視野が広がったり、新たなアイデアの創出につながったりすることも期待できます。
人事コストの削減
マトリクス組織は、プロジェクトごとに社内から必要なメンバーを選定するのが特徴です。人材の新規採用や大規模な異動を行う必要がなく、人事にかかるコスト削減につながります。
成果物の多様化
さまざまなメンバーがプロジェクトに集まることで多角的な視点が生まれ、多様性を持った成果物の創出につながります。各メンバーがプロジェクトで得たノウハウを次のプロジェクトに活かすことで、さらなる相乗効果も生まれるでしょう。
マトリクス組織の導入によるデメリット・注意点
マトリクス組織の導入によるデメリットや注意点も見ていきましょう。
責任者が不明確になりやすい
マトリクス組織は責任者が複数存在する場合もあり、プロジェクトの責任者が不明確になることが懸念されます。
責任者が曖昧な状態のままプロジェクトが進むと、問題解決や適正な評価が難しくなります。あらかじめ、責任者と責任の範疇を明確にしておきましょう。
コミュニケーションの混乱や衝突が生じる恐れがある
部署や役割の垣根を越えてメンバーが集まるのがマトリクス組織のメリットですが、文化が違うメンバーが集まることによるコミュニケーションの混乱や、衝突が生じる恐れがあります。
文化が違うメンバーが集まっているからこそ、密にコミュニケーションを取ることが重要です。責任者を中心に、メンバーが円滑なコミュニケーションが取れるような体制を整えましょう。
仕事量の偏りが生じる可能性がある
マトリクス組織では、1人の従業員が複数のチームに所属することもあります。チームを編成する際は、各従業員の仕事量に大きな偏りがでないよう配慮することが大切です。
業務の偏りは従業員の不満の種になる可能性も高く、複数のチームを兼任する優秀な従業員が離職する事態にもなりかねません。
マトリクス組織の導入に成功している企業例
ここでは、マトリクス組織の導入に成功している企業例を紹介します。自社への導入を検討する際の参考にしてください。
花王
大手消費財メーカーの花王は、2012年から2013年にかけて大規模な組織変更を行い、事業×機能のマトリクス型に再編成しました。
「ビューティケア」「ヒューマンヘルスケア」などの事業を縦軸とし、「会計」や「IT」といった機能を横軸にすることで、特に研修開発分野で高い成果を上げています。
事業や機能をまたいだ組織編成によって、新しい事業展開のための中長期的な開発・研修を行う体制が整いました。
村田製作所
主に電子部品の製造を手がける村田製作所では、製品×製造工程のマトリクス型組織への再編成を実施しました。
「コンデンサー」「圧電部品」などの製品軸を、「調合」「成形」など製造工程の軸と掛け合わせ、さらにそれを横断するように本社の社員が間接業務を行う「3次元マトリクス組織」になっています。
この取り組みによって事業部間の連携が取れるようになり、業務効率化を実現しています。
ABBグループ
電力や重工業関連の事業を展開している多国籍企業のABBグループは、地域マネージャー×事業部門マネージャーによるマトリクス型を編成しました。
グローバル企業は、世界にまたがる事業を包括的に捉えるグローバルな視点と、事業を各国に適応させるためのローカルな視点をどちらも持つ必要があります。
マトリクス型の組織を編成することで、ローカルへの適応力を維持しながら、グループ全体の業務効率化を高めることに成功しています。
マトリクス組織についてのまとめ
マトリクス組織は、各部門や個人が持つ知識・ノウハウを横断的に共有できるのが大きなメリットです。
しかし一方で、責任者が曖昧になりやすく、一部の従業員に作業負担が集中する可能性があるなどのデメリットも考えられます。
事業内容や企業の規模によっても適した組織形態は変わってくるため、まずは本記事を参考に、自社のスタイルに合った組織形態を検討してみましょう。
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