このページはJavaScriptを使用しています。JavaScriptを有効にして、対応ブラウザでご覧下さい。

商品在庫は可能な限り持つ?持たない?実は経営に直結! 在庫管理と経営方針

著者: 税理士  髙橋 昌也

商品在庫は可能な限り持つ?持たない?実は経営に直結! 在庫管理と経営方針

前回、棚卸資産についての概要を説明しました。形ある商品・製品を取り扱う事業を営むに当たり、在庫管理は本当に大切です。

そこで今回は、在庫管理と経営方針について、検討をしていきましょう。


物価の潮流

この原稿を書いているのは、2022年3月の上旬です。いまの社会を見回してみると、次のような点が注目されています。

  • 世界経済の発展に伴う商品全体に対する需要増加
  • 感染症対策の影響
  • 戦争の発生による政情不安
  • 為替の円安傾向による輸入価格の上昇

あらゆる側面から物価上昇傾向が進行し、その勢いは止まりそうもありません。人件費の引き上げ傾向も相まって、今後あらゆる物について価格の上昇が進むものと見込まれています。

もちろん、未来予知は不可能ですので、再びデフレ傾向が進み、物の値段が下がり始める可能性もあります。ただ、あくまでも現状からの予測として、今後しばらくは物価上昇が続くだろうということを念頭に、在庫についても検討していく必要があります。

同じ商品を仕入れるとしても、時間が経過すると値段が上がっていく可能性がある。これを念頭に置きながら、仕入れの量や種類について検討していく必要があります。


在庫は多すぎても少なすぎても困る

在庫管理の難しさは「適切な仕入れ量が事前にわからないこと」です。いちばんわかりやすい事例として「運動会を開催する小学校の近くにあるコンビニ」があります。

コンビニというと、どこでも同じような品揃えというイメージがありますが、そんなことはありません。オフィス街ならビジネス用品が、海や山が近ければ行楽用品が置いてあるなど、店舗の立地条件を反映した品揃えになっています。

特に近隣で開催されるイベント情報については、丁寧に情報収集をするそうです。小学校で運動会があるのであれば、おにぎりやサンドイッチをいつもより多めに仕入れておく。こんな地道な努力を欠かさないことが、売上をつくるのに大切なことです(いまは感染症の影響で、イベントも縮小傾向ですが)。

ここで難しいのが天気です。雨が降ると、運動会は中止になってしまいます。発注をする人からすれば「晴れなら沢山、雨なら普通どおりに仕入れをしたい」というのが理想です。ただ、発注期限との兼ね合いで、そうそう簡単に調整できるようなものではありません。

安全策を取って、少なめに仕入れておけば良いかな・・・という考え方もあります。たしかに在庫を余らせるよりは、少なめに仕入れて売り切れる方が被害は少ないかもしれません。しかし、商品が売り切れてしまうというのは、逆に考えると「販売機会を逃している」ということを意味します。

そして店頭に行っても商品がない状態が継続すれば、商売においてもっとも重要な信用を失うことにもなりかねません。「あそこの店は、いつ行っても商品棚がガラガラだ」というお店、近隣にひとつくらい、ないでしょうか?そのうち、そういうお店からは足が遠のいて・・・というのが世の常です。

ここではコンビニという小売業で考えましたが、製造業や建設業における原材料仕入れでも、同じようなことが問題になります。


提供する商品の種類

在庫についてもうひとつ検討が必要なのは、商品の品揃えです。例えば飲食業などが顕著ですが、メニューの種類が豊富なお店というのは、それだけ多数の商品を仕入れなければいけません。このコントロールが、本当に難しいです。

メニューに書かれている以上、本来であればお客様から注文があれば、常に提供できなければいけません。しかし、それが可能なくらい食材を仕入れてしまえば、間違いなく大量のロス(消費期限切れによる廃棄)が発生します。

なぜ飲食店でアルコールを提供したいのかというと、在庫管理が圧倒的に楽だからです。アルコールは生鮮食品と比較すれば、廃棄するまでの時間が圧倒的に長いです。また、調理の手間もないことから、実は利益面でもたいへん優秀な商品です。

感染症対策の影響で、飲食店におけるアルコール提供に制限がかかりました。その結果、多くのお店が休業を選択しています。経営の大黒柱であるアルコール提供を制限され、客足も伸びない中、いつ腐るかもしれない食材を仕入れてまで営業するくらいなら、休んでしまった方が間違いない。そんな判断をしているのです。


経営方針との一致が大切

このように、在庫管理は「量と種類のバランス」を考慮することが大切です。これは大手企業でも一緒なのですが、ひとつの好例をご紹介します。

誰でも知っている、イタリアンレストランがあります。圧倒的低価格を実現し、主食とツマミ、ワインまで頼んで1,000円くらいで楽しめてしまう、あのお店です。

メニューがものすごく工夫されていることをご存知でしょうか?例えばハンバーグなら、そのままの状態、上に野菜ソースやチーズを乗せる、つけ合わせでバリエーションを増やすなど、取り回しがきくようになっています。

用意する素材はある程度絞りつつ、それを上手に組み合わせることでメニューの多様性を生み出しながら、圧倒的低価格を実現する。それがあのレストランの強みだと言われています。その他、調理や配膳の手間を省くための様々な工夫がされています。

在庫管理の大切なポイントが、この事例からわかるかと思います。つまり「自社の経営方針と在庫管理が一致しているか否か」ということです。上記の事例だと、その企業のHPをみると「手軽に行ける」「価格と品質のバランス」といった社是が書かれています。その経営方針とメニューの内容が合致しているからこそ、高い評価を得ています。

小さい企業であればこそ、この点について本当に突き詰める必要があります。

  • お客様にどういう価値を提供したいのか
  • そのために必要な品揃えは、これで良いのか

ここにズレがあると、大概は良くない方向に話が進みます。

一般的に、規模が小さな事業体では「選択と集中」が大切だと言われています。何を提供して良いのかわからず、絞り込むのが怖いから、なんとなく全部提供してしまう。これが一番の失敗への近道だと言われています。

その一方で、強みを一点に絞り込みすぎて、時代の変化や急なトラブルに対処できず、淘汰される事例もあります。ときには経営方針を変え、多様性を取り込むことも必要でしょう。また、数字を基にした客観的評価などを継続することも重要です。

在庫管理は軽く見られがちですが、実は経営方針そのものに関わる、ものすごい重要事項です。前回ご紹介した会計や税務の側面と、今回の経営方針との関係。様々な側面から在庫について検討することが大切です。

この記事に関連する最新記事

おすすめ書式テンプレート

書式テンプレートをもっと見る

著者プロフィール

author_item{name}

髙橋 昌也

税理士

プロフィール
1978年川崎市産まれ。
2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

この著者の他の記事(全て見る

bizoceanジャーナルトップページ