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倒産した会社に学ぶ③「管理しない社長」

著者: 中小企業診断士  髙岡 健司

倒産した会社に学ぶ③「管理しない社長」

著者は24年間銀行員として働いてきました。その中で、事業規模を拡大し成功した企業もあれば、残念ながら倒産した企業も多くありました。

「倒産した会社に学ぶ」シリーズとして、銀行員時代に実際に倒産した企業をモチーフに、今後の経営に活かすべき論点を解説していきます。

第3回目は「管理しない社長」ということで、会社運営や組織の在り方について解説していきます。


1.会社概要

今回の企業は、地方に本社を置く建設業C社です。売上は10億円程度、従業員はアルバイト社員を含めて30名の中小企業です。20年前に創業し、現在の企業規模まで会社を成長させてきました。

C社は建築業であり、足場の設置から総合建築まで幅広く受注していました。

代表取締役のC社社長は工業高校卒業後、地元の建設会社に入社しました。そして、地元の建設会社で親方のもとで修行しながら建築のイロハを学んでいきます。

C社社長は30歳の時に独立し、自分の会社を立ち上げます。もともと独立する予定は無かったのですが、当時勤務していた会社で人間関係が上手くいかずに会社を退社し、C社を立ち上げました。


2.創業後の業況

C社創業にあたり、工業高校の時の友人であるD氏、E氏を取締役として迎え入れ、事業を開始しました。

友人2名も建築会社に勤務しており、建築業の経験は充分にありました。

C社社長は代表取締役ではありますが、D氏、E氏それぞれの自主性に任せて、あまり行動管理などをしませんでした。

D氏、E氏とは高校の同級生としての関係性が続いており、仲間意識が強かったです。


3.事業の拡大

C社は着実に事業規模を拡大し、従業員は15名に増えました。

C社は、社長、D氏、E氏がそれぞれの工事現場を管理しました。C社社長は管理方法などに口を出さず、D氏、E氏への信頼は厚いものでした。従業員に対しての教育・指導などもC社社長は口を出さずに、D氏、E氏に任せていました。

C社社長は高校卒業後に地元の建築会社に入社しましたが、パワーハラスメントを受け続けるなど劣悪な労働環境の中で働いていました。会社を辞めた原因も上司との人間関係に耐え切れずに辞めた経緯があります。

そのために、C社社長は従業員に対して、他の会社よりも高い給料を与えるなど、良い労働環境を与えていました。このようなC社の働きやすい環境は、口コミで広まり従業員も増えていきました。


4.仲間の裏切り

C社は業績を順調に伸ばし、従業員も増えていきましたが、細かな組織は作りませんでした。事務については女性従業員2名に全て任せていました。実際の工事現場についても、管理方法や進捗管理などは取締役D氏、E氏に任せており、社長からは口を出しませんでした。

それぞれの自主性に任せてきたC社ですが、突然事件が起きます。

それは、足場資材の横流しでした。

C社は足場などの資材数量は全く管理していませんでした。

資材置場に無造作に資材を積んでおき、見た目で資材の数が減ってきたら業者に発注を依頼していました。C社は資材について杜撰な管理をしていたと言わざるを得ません。

このような状況の中で、資材管理をしていた従業員が、足場資材を盗んで転売していたことが発覚しました。これは、たまたま夜遅くに資材を運んでいる従業員を見かけたことにより分かったものです。その従業員は、過去2年間に渡り、少しずつ足場資材を横流ししており、C社は総額で約1,000万円の被害を受けました。

これは、C社が在庫管理を全くしていなかったことにより起きた事件でした。


5.自由放任主義の結果

C社は社長、取締役であるD氏、E氏を中心に業務運営が行われていました。

C社社長はD氏、E氏の行動に指図などは全くせずに各自の裁量に任せていました。

しかし、取締役D氏が取引先と癒着していたことが発覚しました。建築資材業者からC社宛に高めの金額で見積書を提出させ、C社から取引先へ仕入代金を支払います。その後、取締役D氏は建築業者からバックマージンを得ていました。

これはC社の内部から発覚した事実では無く、取引先の経理担当の内部告白によって分かったものです。

C社社長は業者への支払について全く管理していなかったために、取締役D氏が不正をしていたことに気づきませんでした。


6.資金繰り管理について

C社社長は資金繰りについても、全く管理していませんでした。

C社社長は、資金が不足したら銀行から借入すれば良いという考えでした。資金繰り表などは作成せずに、資金繰りについては経理担当者に任せきりでした。

資金繰り表は税理士から毎月徴求するも、内容については全く検証しませんでした。


7.C社が倒産した経緯

業績が順調であったC社ですが、最終的には倒産してしまいました。

その経緯を説明していきます。

(1)信用不安の増大

C社には、「建築資材の横流し」「取締役の不正」など様々な事件が起こりました。

これらの事件は建築業界内でも瞬く間に広まり、C社への信用はあっという間に無くなりました。この事件を機にC社への受注は激減しました。

(2)従業員の大量離脱

C社への受注減少は一時的なものに留まりませんでした。

C社社長は従業員に対して自由放任主義を取っていたので、従業員との接点が薄く、あまり信頼関係は得られていませんでした。

従業員もC社に対する愛社精神が薄く、次々とC社を辞めていきました。

取締役であるE氏も隣県の建設業から引き抜きがあり、C社から去っていきました。

(3)多額の借入金

C社は資金繰りについて全く管理しておらず、資金が不足したら銀行から直ぐに借入していきました。こうしているうちに、借入金額は瞬く間に増えていきました。

その中で、C社の受注が減少し借入金を返済することが困難になりました。C社は銀行から融資を受けようとしましたが、信用不安になったC社に融資をする銀行は一社もありませんでした。

この時点でC社社長は事業を継続する意欲を無くし、弁護士に破産申立ての手続きを依頼しました。


8.倒産した企業から学ぶべきこと

(1)社内の管理体制を構築する

C社社長は経営者であるにも関わらず、経営に関して全く無関心であったと言わざるを得ません。

C社社長は、本来の社長の仕事である経営判断、従業員の管理、資金繰り管理などを行いませんでした。確かに従業員が自由に働ける職場環境は必要です。しかし、従業員の行動管理などを行わなければ会社として統制が取れません。

また、C社社長は経営ビジョンを全く持っていませんでした。

「C社を今後どのようにしていきたい」というビジョンを従業員に共有しない場合、次第に組織はバラバラになってしまいます。

(2)強い組織を作る

C社は自由放任主義で、ただ単に人が集まっている状態でした。

これでは、決して組織とは言えません。会社の業績が大きくなると、従業員個人で仕事をするのではなく、組織単位で仕事をすることが多くなり、強い組織を作ることが重要になります。

ここで、アメリカの学者であるバーナードが提唱した組織の3要素を説明します。

強い組織を作るには、「共通目的」「貢献意欲」「コミュニケーション」が必要であると述べました。

  • 共通目的
    会社全体で共通の目的を共有していること
  • 貢献意欲
    お互いに協力する意思を持っていること
  • コミュニケーション
    円滑なコミュニケーションが取れること

会社のビジョン、方向性、社長の決意などを「共通目的」として従業員全員に共有します。

そして、共通目的に向かって頑張ろうという「貢献意欲」が従業員に湧いてきます。また、従業員間で円滑な「コミュニケーション」が取れる体制が必要です。

C社には「コミュニケーション」を取れる体制はありましたが、残念ながら「共有目的」「貢献意欲」はありませんでした。

(3)信用不安

C社で起きた事件により、建築業界に「C社は危ない会社である」という悪い噂が立ちました。こうした信用不安はあっという間に広まります。

信用不安に陥ると、大幅な受注減少を招きます。また、C社との取引条件変更などを迫る業者もいることから、資金繰りは悪化する傾向があります。

またC社の場合、信用不安は建築業界だけでなく銀行にも広がりました。銀行も多数の取引先があり常に情報収集を行っているために、良い噂も悪い噂も直ぐ耳に入ります。

このような信用不安を発生させないためには、事件を起こさない内部体制の構築が重要です。

コンプライアンスに対する教育や相互牽制が出来る組織体制は、会社を運営していく上で重要なことになります。


9.最後に

倒産した会社に学ぶ③「管理しない会社」を解説しましたが、いかがだったでしょうか?

今回取り上げたC社は杜撰な管理体制により、社内体制に問題があったと言わざるを得ません。

会社を成長させると共に、社内の組織体制を構築することが大切であることが分かります。

是非この事例から、会社運営や組織の在り方について学んでいただけたら幸いです。


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著者プロフィール

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髙岡 健司

中小企業診断士

PROFILE

ライター,コンサルタント

1975年生まれ,栃木県足利市出身。埼玉大学経済学部卒

2020年中小企業診断士登録

地方銀行を24年勤務後、コンサルタント事務所に転職。

得意分野は財務支援、資金繰り支援。

お問い合わせ先

株式会社プロデューサー・ハウス

Web:http://producer-house.co.jp/

Mail:info@producer-house.co.jp

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