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株主代表訴訟とは? 対象や事例、リスクへの対策ポイントを紹介

監修者:弁護士法人山本特許法律事務所 パートナー弁護士  上米良 大輔

株主代表訴訟とは? 対象や事例、リスクへの対策ポイントを紹介

会社の役員や一定の関係者が何らかの問題を起こした場合、通常であればその責任を問うのは会社の役目です。

しかし、仲間意識や慣れ合いから、必要な追及が行われないリスクが考えられます。

このような背景から生まれたのが「株主代表訴訟」で、株主が会社に代わって役員などの関係者の責任を追及することが認められています。

この記事では、株主代表訴訟の対象や事例、リスクへの対策ポイントを紹介します。


株主代表訴訟とは

株主代表訴訟とは、株主が会社に代わって、役員や一定の会社関係者の責任を追及する訴訟のことをいいます。

役員などが株式会社に対して、任務懈怠責任(任務を怠ったことによる責任)を負う場合、その責任を追及するのは会社自身であるのが原則です。

しかし、責任追及の判断を会社に任せると、役員間で同僚意識が働き、本来行われるべき責任追及がなされない恐れがあります。

このような背景から、一定の条件を満たすことを理由に、株主が役員の責任を追及できるようになりました。この制度を、「株主による責任追及等の訴え」または「株主代表訴訟」といいます。


株主代表訴訟が考えられるケース

株主代表訴訟が考えられるケースには、次のようなものがあります。

  • 違法な自己株式の取得を行ったとき
  • 違法な利益供与を行ったとき
  • 不公正な価額での株式やストックオプションの引き受けがあったとき
  • 独占禁止法や刑法に違反する行為があったとき

法令・定款に違反する行為によって取締役が任務懈怠責任を負うことが、典型的な株主代表訴訟のケースです。上にあげたのは、いずれも任務懈怠責任の例になります。

そのほかに、利益供与の受益者に対する責任、不公正な払込金額で株式・新株予約権を引き受けた者の責任、出資の履行が仮装された場合の引受人の責任といった、役員以外に対する責任追及も代表訴訟の対象になります(会社法847条1項)。


株主代表訴訟が行われる流れ

ここでは、株主代表訴訟が行われる流れを見ていきましょう。

まず、株主が会社に対して、責任を怠った役員などへ責任追及するよう書面または電磁的方法で提訴請求します。

会社が監査役、監査等委員または監査委員の設置会社である場合に、取締役や執行役の責任を追及する訴訟を起こすよう求める請求の提出先は、その監査役などです。

そうでない場合は、代表取締役や代表執行役が宛先になります(会社法386条2項1号、399条の7第5項1号、408条5項1号)。

60日を経過しても会社が責任を怠った役員へ訴えを提起しない場合は、株主が代表訴訟を提起します。

会社が訴えを提起しないときは、その理由を株主に通知しなければなりません

株主が会社に対して提訴請求をせずに、いきなり代表訴訟を起こした場合、訴えは基本的に却下されます。

しかし、60日という検討期間を待っていると、会社に回復できない損害が生じるおそれがある場合は、提訴請求を飛ばして直ちに代表訴訟を起こすことができます(会社法847条5項)。


株主代表訴訟のリスクを下げるポイント

会社は、株主代表訴訟のリスクを下げるための対策を講じる必要があります。

そのためのポイントには、次のようなものがあります。

1. 役員が不正を行いにくいシステムを構築する

株主代表訴訟のリスクを下げるためには、役員などに責任追及すべき事態を生じさせないことが会社として重要になります。

会社法では、資本金が5億円以上または負債額が200億円以上の取締役会設置会社及び委員会型の会社に対して、会社の業務を適正に確保する内部統制システムの構築を義務付けています(会社法348条3項4号・4項、362条4項6号・5項、399条の13第1項1号ロハ、416条1項1号ロホ)。

この内部統制システムには役員が不正を行いにくいようチェックする体制が含まれているため、同システムの構築の中で仕組みづくりを行うことが考えられます。

2. 株式の保有者を分散させない

通常、非公開会社の株式は、取締役会などの承認がなければ譲渡できないことになっています。そのため、会社である程度、株主のコントロールが可能です。

役員などが適切に任務を遂行していることが前提ですが、会社に敵対的な人に株式がわたることは代表訴訟提起のリスクを高めるという側面はあります。

株式を保有する者を経営者側に集めておき、敵対的な少数派株主が生じる状態になった場合は、株式の併合などによって同株主をスクイーズアウトする方法も考えられます。

3. 万が一の場合に備えて役員賠償責任保険に加入する

株主代表訴訟のリスクを下げるというよりは、役員などが責任追及を恐れ、会社経営を委縮するなど不測の事態を防ぐ観点からの措置です。

役員などが責任追及されたときの費用や損失を填補するため、保険会社と保険契約を結びます(会社法430条の3第1項)。

実務上はD&O保険と呼ぶことが多く、特に上場会社で頻繁に導入されています。


実際にあった株主代表訴訟の事例

実際にあった株主代表訴訟の事例を通じて、さらに理解を深めましょう。

1. アパマンマンション事件

ある会社(X社)が、事業再編計画の一環としてY社を完全子会社化することになり、1株5万円で株式の一部を買い取りました。

しかし、X社株主が、Y社株式の適正価格は1株当たり8,448円程度であり、不当に高額で株式を購入させたことについて取締役に善管注意義務違反があるとして、株主代表訴訟を起こしました。

最高裁は、「事業再編計画の策定は、将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられており、株式取得の方法や価格について、その決定過程、内容に著しく不合理な点がない限り、同義務に違反しない」と判断しました。

本件限りの判断ですが、最高裁は経営判断事項について制限的に審査する姿勢を示したといえます。

2. ヤクルト事件

ヤクルトの取締役副社長がデリバティブ取引により巨額損失を被ったとして、当時の経営陣が株主代表訴訟を提起した事件です。

第1審で、裁判所は、副社長に一部の支払いを命じました。しかし、ほかの経営陣は責任を否定しました。

その理由として裁判所は、「デリバティブ取引はリスクの高い有価証券取引で会社は本来必要なリスク管理体制を取るべきだが、金融機関でさえ完備されておらず事業会社のヤクルトが当時構築していた結果的に不十分なリスク管理体制でも、当時の水準では相当で、副社長の取引を探知できなかったとしても、監督責任は問われない」としました。

控訴審および上告審もその結論を認めました。


株主代表訴訟のまとめ

株主代表訴訟の対象や事例、リスクへの対策ポイントを紹介しました。

役員は本来、会社のブレインとして経営の中枢を担う存在です。

しかし、影響力の大きさゆえのリスクもあり、会社はそのリスクを低減するための取り組みをしっかりと行わなければなりません。

役員の不正を防止するための仕組みを整え、万が一の場合に備えて役員賠償責任保険に加入するなど、必要な対策を講じておきましょう。


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監修者プロフィール

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上米良 大輔

弁護士法人山本特許法律事務所 パートナー弁護士

2009年弁護士登録。大阪市内の法律事務所を経て、2012年にオムロン株式会社に社内弁護士第1号として入社、以降約7年にわたり企業内弁護士として、国内外の案件を広く担当した。特にうち5年は健康医療機器事業を行うオムロンヘルスケア株式会社に出向し、薬事・ヘルスケア規制分野の業務も多数経験した。

2019年、海外の知的財産権対応を強みとする山本特許法律事務所入所、2021年、弁護士法人化と共にパートナー就任。知的財産権案件、薬事規制案件を中心に、国内外の案件を広く取り扱う。

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