合資会社とは? 定義やほかの会社との違い、設立費用、手順などを解説
会社の種類の1つに、「合資会社」があります。
株式会社や合同会社などと比べると設立・維持の費用が安い点が特徴です。また最低資本金や役員の任期の定めがないことから、それほど資本力がなくても立ち上げやすいと言えます。
しかしその分、ほかの会社にはない注意点も多数あります。合資会社の特徴や注意点、設立の手順を解説します。
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合資会社とは?
合資会社とは、いわゆる会社員の社員ではなく、株式会社で言うところの株主に取締役の地位を合わせたような会社です。
合資会社には、会社の債務に対して返済不能に陥った際、無制限で返済の義務を負う「無限責任社員」と、出資額の範囲内で返済の義務を負う「有限責任社員」が最低1名ずついることが条件です。
ただし、業務執行権限においては、どちらの社員も同等です。
資本金については規定がなく、最低資本金に縛られません。役員の任期も無制限であることから、自由度の高い会社組織であると言えます。
合資会社のメリット・デメリット
合資会社を設立することには、メリットもデメリットもあります。
合資会社のメリット
合資会社のメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
- コストがかからない
- 定款自治範囲が広く、事業展開の自由が利きやすい
- 出資形態を金銭に限っておらず、いろいろな出資形態が可能
大きなメリットは、ランニングコストが少額であることです。株式会社の場合、設立登記の登録免許税は15万円かかります。一方、合資会社は6万円と、株式会社の半額以下の安さです。
また合資会社の場合、異動がなければ役員変更登記をする必要はありません。
株式会社は役員の任期が定められているため、役員に異動はなくても重任登記が必要です。この点でも、コスト上のメリットがあると言えます。
さらに合資会社には取締役や監査役を置く必要がなく、名前だけの役員を準備する必要もありません。実態に応じた組織体制を構築できるのです。
加えて、出資形態が金銭に限られない点も魅力的です。合資会社の場合、運送・印刷・情報提供といったサービスや専門知識に基づく役務での出資も行えます。
金銭を持ち合わせていなくても出資できるため、自社の出資者を増やせる可能性があります。
合資会社のデメリット
一方、合資会社には以下のようなデメリットもあります。
- 1人での起業が不可
- 無限責任で、責任の範囲が広い
- 認知度が低くなりやすい
合資会社の設立には、2名以上の出資者が要求されます。そのため、個人事業を法人成りする場合、1人会社は設立要請ができても、合資会社の設立は難しくなります。
出資者を増やそうと思っても、「無限責任社員」と聞くと無限定に責任を負わされると感じ、一歩引いてしまう方もいるかもしれません。
実際のところ、株式会社や合同会社でも、借入金を起こす場合には銀行から社長の保証を要求されます。そのため実質的には何ら変わりありません。
しかし入り口でのイメージ的によくなく、マイナスである点は否めません。
また、合同会社や株式会社の設立のハードルが低くなっていることもあり、近年は合資会社がほとんど設立されていません。
そのため「古臭い会社である」と感じる方がいたり、特に若い方だと、そもそも合資会社を知らなかったりもします。
合資会社を設立したとしても、ポジティブなイメージは醸成しづらいでしょう。
合資会社とほかの会社との違い
合資会社とほかの会社の違いをまとめると、以下のとおりです。
合資会社 |
合同会社 |
合名会社 |
株式会社 |
|
---|---|---|---|---|
出資者数 |
2名以上 ※うち、有限責任社員1名以上必要 |
1名以上 |
2名以上 |
1名以上 |
無限責任社員の要不要 |
必要 |
不要 |
必要 |
不要 |
設立費用 |
6万円~ |
10万円~ |
6万円~ |
25万円~ |
役員の任期 |
無制限 |
無制限 |
無制限 |
有期 |
合同会社との違い
合同会社とは、2006年の会社法改正で設立できなくなった有限会社に代わって、設立が可能となった会社の形態です。
合同会社の出資者は1名以上で、有限責任社員になることが一般的です。
出資者は経営全般に参加できるため、所有と経営が分離しません。業務執行権限は出資者自身が有し、自身で会社の業務を行えます。
なお共通しているのは、合資会社・合名会社社員(無限責任社員、有限責任社員を問わず)のどちらも、経営全般に関われる点です。
合名会社との違い
合名会社は、日本でも昔からある会社形態です。明治時代から、すでに多くの会社が設立されていました。
合資会社との違いは、出資者の責任の範囲です。
合名会社の場合、出資者は2名以上必要で全員が無限責任社員になります。出資者は経営全般に参加できるため、所有と経営が分離しません。
そのため合同会社では出資者自身が業務執行権限を有し、会社の業務を行えます。
また、無限責任社員であっても退社制度が認められている点も特徴です。
社員の仲違いや死亡などあらゆる事情で会社を去ることになった場合には、会社から離脱できます。
退社制度も、「法定退社」と「任意退社」があります。
「法定退社」が法律の定めによって退社となるもの、「任意退社」が退社6カ月前に退職希望を伝えれば退社できるものです。
株式会社との違い
株式会社とは、不特定多数の人に株主となって資金を提供してもらう会社です。
事業を行う者は株主から委任を受けた経営者である取締役だと捉え、所有と経営は分離しています。
株主は得られた会社の利益を配当という形で受け取り、取締役は利益を原資に役員報酬を受け取ります。
株式会社の株主はいわゆる有限責任の出資者ですが、株式を譲渡することで株主の地位を容易に移転可能です。ただし、例外的に移転できない場合もあります。
また、会社を運営していくうえでのルール(定款)を定めますが、株式会社の場合は認証を受けることによって初めてその効力が生じます。合資会社と比較すると、厳格化されていると言えるでしょう。
合資会社を設立したほうが良いケース
以下のケースに該当する場合、合資会社の設立はおすすめです。
- 低コストで起業したい
- 煩雑な手続きを避けたい
前述のとおり、合資会社を設立するメリットで一番大きいのは、設立費用と維持費用の安さです。株式会社の設立費用は25万円ほどかかりますが、合資会社は6万円ほどで設立できます。
また、合資会社の場合、役員の任期に定めがないため、役員が変わらない限り役員の変更登記をする必要がありません。
株式会社の場合、役員の任期は最長10年です。その任期が切れるたびに重任の役員登記を行わなければならず、登録免許税と登記手数料がかかります。
ただし1人で会社設立をしたいなら、株式会社か合同会社の設立がおすすめです。合資会社の設立のためには、最低でも無限責任社員と有限責任社員が各1名、合計2名必要となるためです。
また合資会社だと、無限責任社員に相続が発生した場合、その地位は相続人に引き継がれず、出資が払い戻しされてしまいます。
しかし株式会社か合同会社の場合は、相続によって持分が相続人に移転されるため、問題なく相続を迎えられます。
合資会社の設立に必要な費用
合資会社を設立するために、登記手数料として6万円ほど必要だと言われています。
しかしこれはあくまでも合資会社という器を作成するだけの費用で、実際の経営には別途資本金を用意する必要があります。
現在、会社は資本金1円以上で設立可能です。しかし、それでは会社は運営できないため、ある程度の資本金は必要でしょう。
まず会社を設立するために手数料がかかりますので、一時的にその分を資本金で賄う必要があるでしょう。そうでないと、不足分は社長からの借入金として処理せざるを得ません。
またこれ以外にも会社を運営していく費用はかかります。その金額を見積もって、社長からの借入を発生させない程度の資本金を設定することをおすすめします。
合資会社の設立手順
1.事業計画を立てる
合資会社は2名以上の出資者が必要となりますので、お互いによく話し合って会社の方向性を決めておく必要があります。
この部分をしっかり固めておかないと、トラブルが発生しやすくなります。
揉め事を避けるためにも、「ルール」は作っておくべきでしょう。
2.社名や住所などの基本情報を決定する
続いて、社名や住所を決めます。
この先、登記手続きを行いますが、類似商号を付けた場合、トラブルに巻き込まれる可能性もあります。司法書士を始めとした専門家に調査してもらう必要があるでしょう。
3.必要書類を作成する
会社の絶対に必要な書類として、会社のルールブックである「定款」を策定しておく必要があります。
ひな形はインターネット上でも見つけられますが、法律的に問題がないように行政書士や司法書士に依頼するのが良いでしょう。
なお合資会社の場合、定款の公証役場での認証は不要です。そのため、認証にかかるコストも削減できます。
4.登記手続きを行う
法務局に設立登記の申請を行います。本人申請も可能ですが、司法書士に依頼して行ってもらうほうが安心です。
登記の完了には、通常1~2週間かかります。
しかし決算後の時期を始め、法務局での登記申請が込み合う場合もあります。ホームページで登記完了予定日を確認してみてください。
合資会社についてのまとめ
合資会社は株式会社・合同会社と比べると自由度が高く、さまざまなメリットがあります。
しかし、社員1人が負う責任が大きくなりやすく、またほかの会社より知名度が劣ることから、近年はほとんど設立されていません。
とはいえ、設立費用や維持費用の安さ、運営の手間の少なさは魅力的です。
設立の際はメンバーとよく話し合って、明確な事業計画やルールを設定したうえで立ち上げましょう。
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