科学的管理法とは? 活用するメリット・デメリットをまとめて解説
科学的管理法は、業務内容や従業員を客観的かつ科学的に分析し、業務の最適化を図る手法です。20世紀初頭にアメリカで提唱されました。
経験や習慣に基づく当時の一貫性のない経営を見直し、標準的な課業を確定する方法であり、生産性の向上や労使間の対立の解消などをめざしていました。
科学的管理法に基づく経営手法は、現代のビジネスシーンにおいても活用されています。
この記事では、科学的管理法とは何か、そのメリット・デメリットを含めて紹介することで、現代の経営管理に活かせるヒントを提案します。
科学的管理法とは?
ビジネスマネジメントにおいて、現代でもしばしば語られる理論が、科学的管理法です。
まずは科学的管理法の定義と、誕生の背景を確認しておきましょう。
科学的管理法の定義
科学的管理法とは、アメリカの技術者・経営学者であるフレデリック・テイラーによって提唱された、労務管理に関する理論です。
労働者の行う作業内容を細かく分解して、個々の動作の所要時間や効率性を研究します。
こうした作業研究に基づく労働者管理方法により、標準的な課業を確定する方法が科学的管理法です。
テイラーが提唱したこの科学的管理法は、現代経営学の始まりともいわれています。
科学的管理法が誕生した背景
科学的管理法が誕生した背景としては、経営者が現場における生産活動に関与する頻度が少ないことがありました。
経験や習慣などに基づいた経営を行うことが多く、一貫性が取られていないといった問題があったのです。
また、科学的管理法の誕生前は、内部請負制度(熟練工・経験の深い労働者に現場管理を一任する方法)が一般的でした。
しかし、内部請負制度は、管理者の裁量が大きくなることで組織的な怠業の原因になります。そのため、安定的な労働力の供給ができないという課題があると言えるでしょう。
そのため、労使間の協調体制を作るために、管理に対する客観的な基準を設けることが必要と考えられ、科学的管理法が生み出されたのです。
科学的管理法の3つの原則
科学的管理法には、以下の3つの原則があります。
- 課業管理
- 作業の標準化
- 作業管理のための最適な組織形態
それぞれ、詳しく解説しましょう。
課業管理
課業管理は、生産現場の状況を科学的な見地などから分析することで、目標を設定する管理方法をいいます。雇用主や労働者の経験を基に、目標を決めるということではないため、注意しましょう。
具体的には、以下の5つの要素に基づいて目標を設定し、管理を行います。
タスクの決定
1日当たりの仕事量を決めておき、基準となる労働者の仕事量を決定します。
すべての労働者にとって適切な労働量を設定することで、モチベーションを高く維持することが狙いです。
条件等の標準化
労働者が用いる道具などの条件面を標準化することで、キャリアや経験の長短による差を設けることなく、同じ水準での業務をすることができます。
成功報酬
設定した目標を達成した労働者については、成功報酬として多めの給与を与えることで、さらにモチベーションを高めます。
減収
設定した目標に達しなかった場合は賃金を減額するといったように、仕事量によっては増額も減額もありうるというシステムを採用することで、働く意識や行動に変化を与えることができます。
難易度の高い課題の設定
目標の難易度が高い場合はモチベーションが低下してしまいます。
ただし、ある程度難易度を調整することで、モチベーションを維持することができ、労働効率を上げることができます。
作業の標準化
作業の標準化とは、働く時間に対する意識を高めることで、生産性の向上を図ることをいいます。
具体的には「時間研究」と「動作研究」の2つの要素に分かれます。
時間研究
生産工程における標準的な時間を設定して、設定された時間に基づいて1日の課業を決定することです。
生産工程における動作を「要素動作」として、一つひとつの動作にどれくらいの時間を要するかを計測することで、標準的な時間を設定します。
動作研究
作業に要する道具や手順などを標準化させるための研究です。
標準的な道具はどのようなものかや、どのように道具を使用すると標準的な時間で業務が遂行できるかを考えるものといえます。
作業管理のための最適な組織形態
作業管理のための最適な組織形態とは、「計画」と「実行」を分けて管理を行うことで、論理性のある生産計画と効果的な実行を進めることです。
これらを実現させるための考え方として「計画」を行う部署を「実行」を行う現場とは別に設け、それを実現させたものが、現在の「職能別組織」の原型といわれています。
「職能別組織」は「機能別」に部署を分けることで、それぞれの効能を最大限発揮できるようにした組織であり、現代においても多くの企業において活用されています。
科学的管理法のメリット
科学的管理法は、大量生産を可能にし、産業の近代化を進めるなどのメリットをもたらしました。
科学的管理法が当時の産業にもたらしたメリットを、以下で詳しく解説します。
大量生産が可能
科学的管理法を導入することで、管理する側と生産活動をする側が明確に区分され、生産性の向上につなげることができました。
科学的管理法を導入することで大成功したのが「フォード社」であり、流れ作業を発案し、大量生産方式を編み出しました。
この成功によってアメリカの機械産業において科学的管理法はなくてはならない理論となり、現在に至っているといえます。
産業の近代化
従来の生産制度(内部請負制)では、計画性はなく、経験などをもとに経営を行うスタイルであるところが多かったため、生産性が安定しないところがありました。
科学的管理法により、生産現場における管理体制を確立できるようになり、適切な目的を設定し、その目的を達成するために必要な生産性をどれくらい高めるべきか管理できるようになりました。
その結果として、現代における経営管理や生産管理にも、大きな影響を与えるものとなっています。
科学的管理法のデメリット
科学的管理法は、上記のようなメリットをもたらした反面、デメリットも内包していました。
科学的管理法を導入するにあたり、注意すべきデメリットを確認しておきましょう。
人間性の軽視
科学的管理法は、労働生産性や作業管理などを強く意識するところがあるため、労働者の人間性を軽んじてしまうという問題が生じました。
生産性の管理を徹底するあまり、労働者を人として扱うことなく、単に道具として扱うような管理対応をしているところもあるといわれています。
そのため、労働者を命令を受けて動く機械化のように扱っているという批判に対して、学者や経営者による改善が行われました。
これが、現在の経営や生産管理などにつながっているといわれています。
ホワイトカラーとブルーカラー
科学的管理法を導入することで、頭脳労働を中心とした業務を行う「ホワイトカラー」と肉体労働を中心とした業務を担う「ブルーカラー」の二極化が生じるようになりました。
仕事の内容によって、業務の難易度などが大きく異なるため、賃金などにおいても二極化が進む傾向があります。
業務の内容によっては、どちらか一方の雇用が偏りがちになり、その結果として少数派の立場の人の待遇面に不満が生じるといった問題もあります。
科学的管理法を導入している企業の事例
近年では、世界的に有名な企業をはじめ、日本国内でも科学的管理法を導入している企業があります。
ここでは、科学的管理法を導入した代表的な企業事例を4つ紹介します。
フォードモーターカンパニー
フォードモーターカンパニーは1903年に創業されて以来、自動車業界で重要な地位を築いています。
同社はテイラーの科学的管理法を早期に取り入れ、自動車の大量生産に成功しました。当時の自動車は高価で一般市民には手の届かないものでした。
しかし、フォード社は科学的管理法を用いて、ベルトコンベアの導入による流れ作業を行い、大量生産方式を確立したのです。
この革新的な手法はアメリカの機械産業における基盤となり、現代の大量生産方式の基礎を築きました。
その成果は現代においても引き継がれ、自動車産業だけでなく他の産業にも大きな影響を与えています。
トヨタ
トヨタは大量生産方式を推進する際、科学的管理法を積極的に導入した企業です。生産現場での科学的管理方法を発展させ、長期的な生産計画を立てて管理するようになりました。
そこで計画を策定し、実行し、結果を評価し、次の計画にフィードバックするPDCAサイクルを確立したのです。
このように、科学的管理法を使ってマネジメント・サイクルを確立することで、独自の品質管理を徹底させ、生産効率の向上に成功したと言われています。
マクドナルド
マクドナルドは科学的管理法を用いて、全店舗で一貫した品質の商品とサービスを提供することに重点を置いています。
徹底した品質管理とマニュアルの遵守が行われ、どの店舗でも同じレベルのサービスが提供される仕組みです。
また、アルバイトクルーの教育も統一化されています。特に、マクドナルド独自の「ハンバーガー大学」でのプログラム受講と店舗での実践を通じて、スキルアップが図られています。
アマゾン
アマゾンが導入している科学的管理法は、作業と管理を分離させることで、それぞれの熟練度を高めるという仕組みです。
IT機器であるハンディーターミナル(携帯端末)を駆使することで、膨大な量の商品や、保管場所の管理を正確化しています。
また、ハンディーターミナルはピッキングの順序も把握できるので、作業効率化の実現が可能です。
アマゾンのシステムにおけるこの科学的管理法は、効率的に作業するだけでなく、顧客サービスの向上や生産性の向上につながっています。
科学的管理法のまとめ
科学的管理法は、20世紀初頭に広がっていた経験や習慣に基づく一貫性のない経営による生産性の低下や、労使の対立などの解消をめざした理論です。
課業管理や作業の標準化や、作業の「計画」と「実行」をする現場を別に設ける組織形態の最適化を実践することで、大量生産を可能とし、作業の近代化を進めるなどのメリットをもたらしました。
科学的管理法の導入により指摘された労働者の軽視や賃金の差などの課題に対しては、多くの学者や経営者が改善に取り組み、現代の経営や生産現場での改善手法にもつながっています。
科学的管理法を参考に、自社にマッチする経営管理手法を導入し、経営改善や生産性向上につなげましょう。
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