財務分析とは? 5つの視点からの分析方法と指標、分析時の注意点を紹介
財務分析は企業の経営状態を理解し、現状抱える課題点をチェックするのに必要です。財務分析における指標を理解できると、より細かい視点で経営現状を把握し、改善できるでしょう。
この記事では、収益性や安全性などの財務分析の全体像や具体的な種類を、財務分析を活用したい経営層に向けてわかりやすく解説します。また、記事の後半部分では、財務分析する際の注意点をまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。
財務分析とは
財務分析は、企業の収益性や安全性、生産性、成長性などを分析し、業界内や競合他社と比較できる分析手法です。具体的には、貸借対照表や損益計算書など、企業の財務諸表の数字を基にして分析します。
経営者や取引先、投資家などは財務分析を通じて現状や問題点を把握することで、企業の全体像や具体的な課題を理解できます。
また、経営上のリスク回避や、将来の業績の予測に役立てられるでしょう。
財務分析をおこなうために必要な財務諸表
企業の財務を分析するのに必要な財務諸表は、貸借対照表(B/S)と、損益計算書(P/L)です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
B/S:貸借対照表
貸借対照表(Balance Sheet)は、決算日における企業の資産や負債の状況を明らかにする表で、財政状態を把握するのに使用されます。貸借対照表は「BS」とも呼ばれており、資産に対して負債 と資本(=純資産)の合計が一致します。
1万円で始めた商売において、仕入れ額1万円の商品を1万5,000円で売ったケースを見ていきましょう。
資産 |
金額 |
負債及び資本 |
金額 |
---|---|---|---|
現金 |
15,000 |
資本金 |
10,000 |
利益剰余金 |
5,000 |
P/L:損益計算書
損益計算書(Profit and Loss Statement)は、特定の期間における企業の収益と収益構造を示す表で、企業がその期間内で出した利益や損失を把握できます。損益計算書は「P/L」とも呼ばれており、企業の経営成績を明らかにする役割があります。
1万円で始めた商売において、仕入れ額1万円の商品を1万5千円で売ったケースを見ていきましょう。
科目 |
金額 |
---|---|
売上高 |
15,000 |
売上原価 |
<10,000 |
売上総利益 |
5,000 |
当期利益 |
5,000 |
財務分析で押さえるべき5つの視点
財務分析には5つの種類があります。それぞれの特徴を詳しく解説します。
1.収益性分析
企業の収益性は利益を生む力のことで、資本収益性と取引収益性の2つがあります。資本収益性は、企業が保有する資本をどれほど効率的に活用し、利益を生み出しているかを示します。
資本収益性を分析するには、次の2つの指標を理解しましょう。
- 総資本利益率(ROA):総資本に対して得られている利益の割合
- 総資本利益率 = 当期利益 ÷ 総資本(期首・期末平均) × 100
総資本利益率の算定に用いる利益は、分析の目的により異なります。経済的な利益を獲得する力を明らかにしたいのであれば「経常利益」を利用します。
- 自己資本当期利益率(ROE):自己資本に対して得られている利益の割合
- 自己資本当期利益率 = 当期(純)利益 ÷ 自己資本(期首・期末平均) × 100
自己資本利益率の算定に用いる利益も分析の目的により異なりますが、当期純利益を利用するケースが多いでしょう。
それに対して、取引収益性は売上や費用、利益の関連性、収益性を分析できます。次の5つの計算式を使うと算出できます。
- 売上高総利益率= 売上総利益 ÷ (純)売上高 × 100
- 売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ (純)売上高 × 100
- 売上高経常利益率 = 経常利益 ÷ (純)売上高 × 100
- 売上高販管費率 = 販管費 ÷ (純)売上高 × 100
- 売上高当期純利益率 = 当期(純)利益 ÷ (純)売上高 × 100
2.安全性分析
安全性分析は、企業の返済能力や倒産のリスクを把握できます。安全性分析にはストック分析とフロー分析があります。ストック分析は、ある時点の財政状態を年度末の貸借対照表を使ってチェックします。
ストック分析は次の4種類の計算式を理解しましょう。
- 流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
- 当座比率 = 当座資産 ÷ 流動負債 × 100
- 固定比率 = 固定資産 ÷ 自己資本 × 100
- 自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資本 × 100
一方、フロー分析はキャッシュフロー計算書を使って、ある期間のお金の流れをチェックします。フロー分析では、次の3点が重要です。
- 営業:商品の仕入や販売など、営業活動での収支の差額
- 投資:固定資産の取得や売却などで生じたキャッシュフロー
- 財務:金融機関からの融資や借入金による収入など
3.活動性分析
活動性分析は経営状態がどれだけ活動的かを示しており、そのなかでも総資本回転率と固定資産回転率、棚卸資産回転率が大切な指標です。総資本回転率は資本をどの程度有効に活用できているかを示します。
固定資本回転率は固定資産を効率的に活用できているのか、棚卸資産回転率は、棚卸資産の期末残高が相当分であるかを示します。
- 総資本回転率(回/年) = 年間の純売上高 ÷ 総資本(期首・期末平均)
- 固定資産回転率(回) = 売上高 ÷ 固定資産(期首・期末平均)
- 棚卸資産回転率(回) = 売上高 ÷ 棚卸資産(期首・期末平均)
総資本回転率と固定資産回転率において、回転率が低い場合は売上が伸び悩んでいる可能性があります。また、棚卸資産回転率の回転率が低い場合は、在庫が過剰な場合が多いでしょう。
4.生産性分析
生産性分析は、設備や従業員を企業が効率的に活用できているか示しており、資本生産性と労働分配率、労働生産性の3つの指標を使って分析します。
- 資本生産性 = 付加価値額 ÷ 総資本 × 100
- 労働分配率 = 人件費 ÷ 付加価値額 × 100
- 労働生産性 = 付加価値額 ÷ 従業員数(2期平均) × 100
資本生産性は、企業が保有する資本をどれだけ効果的に活用して成果を得ているかを示す指標です。利用されていない遊休資産がある場合は、資本生産性が低くなるため、資本の活用度合いに問題があるといえるでしょう。
労働分配率は付加価値に占める人件費の割合です。介護福祉事業や物流業など、人手が多く必要となる業種では、割合が高くなる傾向にあります。労働分配率は業種によって適性値が異なるため、業界平均との比較に利用するときは、活用方法に留意が必要です。
労働分配率が低い場合、人件費を抑えながら効率的に付加価値を獲得していると考えられます。しかし、労働者の給与が低水準のままという場合もあります。
労働生産性は1人あたりの従業員が生み出す付加価値で、従業員の業務の効率性を表す指標です。労働生産性が高ければ、少ない従業員でより効率的に付加価値を獲得していると考えられるため、企業にとっては望ましい状態と言えます。
5.成長性分析
成長性分析は企業の成長度を測定する分析手法で、主に3つの指標を使います。
- 売上高増加率:前年度の売上高に対する増加の程度
- 利益増加率:前年度の利益に対する増加の程度
- 純資産増加率:前年度の純資産に対する増加の程度
それぞれの計算式は次の通りです。
- 売上高増加率 = (当期売上高 - 前期売上高) ÷ 前期売上高 × 100
- 利益増加率 = (当期利益 - 前期利益) ÷ 前期経常利益 × 100
- 純資産増加率 = 純資産増加額 ÷ 基準時点の純資産残高 × 100
例えば、売上高増加率が大きく、利益増加率も大きくなっている企業は、今後も成長する可能性が高いと考えられます。一方、売上高増加率が小さく、利益増加率も小さい企業は、今後の成長が鈍化する可能性が高いと考えられます。
成長性分析は企業の成長度を把握し、今後の成長戦略を策定するのに重要です。
財務分析をおこなう際の注意点
財務を分析する際の注意点をまとめました。
- 基準は企業の状況によって異なる
- 財務と会計の面からしか判断できない
- 必要に応じて専門家へ相談する
基準は企業の状況によって異なる
財務分析は企業の現在の問題点を明らかにするのに役立ち、企業の将来的な成長が期待できるでしょう。しかし、分析の手法が誤っていると、経営を誤った道に進めてしまうリスクがありますので、注意が必要です。
財務分析の基本公式は決まっていますが、業界ごとに理想の値が異なるため、算出された数値が自社のビジネスに何を示しているのか、慎重な判断が必要です。
財務と会計の面からしか判断できない
財務分析は多様で、ビジネスの健康状態を把握するのに大変役立ちます。しかし、計算が複雑な指標や、同じ名前で異なる計算方法を持つものもあり、自社に最適な分析を選ぶのが難しい場合があるでしょう。
自社で財務分析するのが難しい場合、公認会計士や税理士などの専門家へ相談するとよいでしょう。
必要に応じて専門家へ相談する
財務分析はビジネスの健康診断として幅広い種類があり、企業の実態を把握するうえで重要です。ただし、付加価値のように複雑な計算があったり、一つの指標に複数の方法があったりするため、どれを使うか迷うケースもあるでしょう
さらに、誤った分析では、財務分析の真の価値を活かせません。必要に応じて、専門家へ相談するようにしましょう。
財務分析についてのまとめ
財務分析を活用すると企業の状態を可視化できるため、問題点や改善策を把握しやすくなるでしょう。知りたい情報に応じて使う財務分析の手法は異なりますので、適した分析手法を選択してください。
しかし、財務分析は財務諸表をもとにしているため、財務諸表以外のデータの要素は含みません。会計以外のデータを十分に利用しながら、多角的な視点で分析することが大切です。
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