決算短信で学ぶ財務分析①「決算短信の見方」
「ビジネスマンであれば、決算書が読めなければならない」
書店のビジネス本の棚には、決算書に関する書籍が多く並んでいます。
それだけ、ビジネスにおいて「決算書の内容を理解し、分析ができること」「決算書を理解できるための財務知識があること」が重要になっていることがわかります。
しかし、あまり決算書を見る機会が無いという方も多いと思います。
今回から、実際の企業が公表した決算短信を用いて、財務分析のポイントを解説していきます。
1.決算短信とは
日本取引所「決算短信作成要領・四半期決算短信作成要領」において、決算短信について次のように記されています。
上場会社は、事業年度又は連結決算年度に係る決算の内容及び四半期累計期間または四半期連結累計期間に係る決算の内容が定まった場合は、直ちにその内容を開示することが義務づけられています。
このことから、上場会社は四半期ごとに業績や財務状況を決算として開示しなければなりません。
決算短信は投資家がスムーズに情報収集できるように、上場企業が情報開示するものですが、投資家以外でも決算短信を見ることができます。
今回は、決算短信を用いて財務分析のポイントを解説していきます。
ただし、投資家が投資対象を分析するための視点では無く、あくまで一般的な財務分析を行うときの視点から解説していますのでご了承願います。
2.決算短信から何がわかるか?
決算短信から企業のどのような情報がわかるのでしょうか。
ここでは、任天堂株式会社の2023年3月期第1四半期の決算短信を解説していきます。
(任天堂株式会社決算短信については、任天堂株式会社HPより閲覧することが可能です)
①連結決算成績
連結決算成績については、いわゆる損益計算書の簡略版だと思ってください。
2023年3月期第1四半期(2022年4月~6月)の「売上高」「営業利益」「経常利益」などがわかります。
また対前年同期比である2022年3月期第1四半期との対比も記載されています。
「売上高」については、今期は307,460百万円で対前年同期比4.7%の減少となっています。
また、2022年3月期も対前年同期比で9.9%の減少となっていることから、3期連続して売上高が減少していることがわかります。
「営業利益」は今期101,647百万円で対前年同期比15.1%減少しています。また2022年3月期も対前年同期比17.3%減少となり、営業利益も売上と同様に3年連続して減少しています。
売上高営業利益率を算出すると今期は33.06%、対前年同期は37.12%であり、やはり減少しています。
「経常利益」については今期166,723百万円と営業利益を65,076百万円上回る額を計上しています。
このことから営業外利益が発生していることがわかります。
売上、営業利益共に対前年同期比マイナスとなっているにも関わらず、経常利益だけがプラスに転じています。
財務分析を行ううえでは、数値の変化を見ながら、「違和感を感じる」ことが大切です。
経常利益が順調に推移し、1株当たりの四半期純利益も前期を上回る数値となりました。
②連結財政状態
連結財政状態は、いわゆる貸借対照表の簡略版です。
ここでは「総資産」「純資産」「自己資本比率」が記載されています。
「自己資本=総資産―負債」で求めることができます。
また自己資本比率=自己資本÷総資産で求められ、自己資本比率が高い会社ほど会社の安全性が高いと言われます。
任天堂(株)の場合は、自己資本比率は78.7%であり、安全性は高いです。
自己資本比率が少ない会社の特徴は、「負債割合が多い」「収益性が悪く赤字が続いている」ことが特徴です。
負債割合が多い会社は借入返済を要するために、資金繰りが苦しくなる傾向にあります。
また、当期利益で赤字が続く場合は自己資本も目減りするために、自己資本比率は悪化していきます。
③配当の状況
任天堂株式会社は2022年3月期には配当を出しています。
配当を出すメリットは、株主からの資金調達を行いやすくなる点です。投資家にとっては、配当を多く出す企業に投資したいという心理が働くからです。
配当を出すデメリットは、社外流出が多くなる点です。配当は当期利益から出されるものであり、配当を多く出す企業ほど社内に残る内部留保は少なくなります。
配当を考えるうえで用いる指標は、配当性向です。
配当性向=配当金支払総額÷当期純利益×100
配当性向は、当期純利益の内、配当金としてどの程度支払いしているかを表した指標です。
④連結業績予想
2023年3月期の連結業績予想が書かれています。
売上高は業績予想では1,600,000百万円に対して、実績は307,460百万円であるために、達成率19.2%です。
営業利益は目標500,000百万円に対して、実績101,647百万円で達成率20.3%です。
今回は第1四半期なので、営業利益で達成率25%以上であることが望ましいです。
しかし、達成率だけで判断するのではなく、コロナウイルス感染症、半導体不足などの外部環境の影響を受けていることも考慮しなければなりません。
また、季節要因を確認すべきでしょう。
任天堂株式会社の場合は、クリスマスシーズンである12月を含む第3四半期に売上が大幅に伸びていることがわかります。
2023年3月第1四半期は対前年同期比である2022年3月第1四半期と概ね同水準の売上、利益を計上しています。
出典:任天堂株式会社HPより
3.定性的情報
決算短信の連結経営成績、連結財政状態から経営成績などの概略がわかりました。
しかし、これらの数値だけを見ても、何故このような数値になったのかはわかりません。
決算短信は、投資家に企業の現況を具体的に説明する必要があります。
そこで「連結決算成績に関する説明」「連結業績予想に関する説明」という説明が記載されています。
この説明から、ソフト販売は安定的に推移しましたが、半導体部品が供給不足によりゲーム機本体の販売台数が減少したことがわかります。
業績予想については変更が無いことが記載してあります。
しかし、新型コロナウイルス感染症や半導体不足の影響により、今後の売上や利益が変動する可能性があることを示唆しています。
4.その他の情報
上記の他に「四半期連結貸借対照表」「四半期連結損益計算書」などの情報が記載されています。
これについては、次回の「経営分析編」にて詳細を解説します。
ここでは、「連結販売実績」という資料が掲載されていたので、ご紹介します。
この資料から、今期はゲーム専用機の売上が下がっていることがわかります。
ゲームソフトは順調な売上にて推移していることから、半導体不足によりゲーム専用機自体の生産が遅れた影響が大きいものと思われます。
ちなみに、2021年第1四半期の決算短信を見ると、コロナ禍における外出自粛による巣ごもり需要の影響や「あつまれ どうぶつの森」の大ヒットにより、ゲーム機本体の販売台数は大幅に増加しています。
このように企業は外部環境の影響を受け、業績が変動します。
外部環境の変化の中で、企業がどのような活動を行ってきたかということが決算短信を見ることでわかります。
また、ゲーム販売機は日本だけでなく世界中で販売されているなど新たな気づきにつながります。
5.最後に
今回は、決算短信で学ぶ財務会計①「決算短信の見方」について解説しましたが、いかがだったでしょうか。決算短信を見ることにより様々な企業の財務状況を知ることができます。
また、業種毎のトレンドなどいろいろな情報を得ることが可能になります。
次回は、引き続き任天堂株式会社の決算を用いて財務分析について解説していきます。
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