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経営分析とは? 手法の種類や知っておくべき取り組み時のポイント

経営分析とは? 手法の種類や知っておくべき取り組み時のポイント

経営環境の変化が著しい今日において、企業はより迅速な意思決定が必要です。

適切に経営分析ができれば、重要な意思決定や問題の解決に役立つ情報を発見できるでしょう。

本記事では、自社の現状を分析し、将来の計画作りに役立てたい経営層に向けて、経営分析に用いる手法を解説します。

また、後半部分では経営分析に取り組む際のポイントをまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。


この記事の監修者
株式会社dacsfirm  取締役 

経営分析とは

経営分析は、業績や財務状態、資金の流れなどの構造や傾向を把握し、現在の課題を理解して将来の計画を立てるために、極めて重要な活動です。

財務諸表などの会計情報を基に分析するのではなく、経営戦略や経営方針を固めるべく、定量や定性を問わず内部環境と外部環境を詳細に調査します。

特に、業績が苦しいときや競争が激化した際には、経営分析が企業の存続に欠かせない作業になります。

次に、財務分析との違いや経営分析の実施目的を見ていきましょう。

財務分析との違い

財務分析は財務諸表を使った分析手法で、企業の収益性や健全性、効率性などを評価します。

経営分析も財務諸表を使って企業の現状を分析しますが、財務諸表をはじめとした会計情報以外にも、市場動向や競合情報などの数字だけではわからない情報を収集し、現在抱える課題の抽出と、解決策の発見に重きを置いています。

財務分析は、経営分析する際の1つのステップという位置付けになります。

実施する目的

経営分析の目的は、企業の収益性や健全性、効率性などを評価し、経営層に意思決定の根拠を提供することです。

そして、次のようなことが可能になります。

  • 戦略の評価と調整
  • 問題・課題の特定と解決策の提案
  • 意思決定の裏付け
  • リスク管理
  • 投資判断
  • 目標設定
  • モニタリング

経営分析を行うことで、企業は適時適切な戦略を選択し、課題に対処できます。リスクを最小化し、持続可能な成功を実現できるといった効果が得られるでしょう。


経営分析に使用する主な財務諸表

経営分析の1ステップである財務分析には主に3つの財務情報が使用されます。

  • 貸借対照表
  • 損益計算書
  • キャッシュフロー計算書

それぞれ詳しく解説します。

1.貸借対照表

貸借対照表は、大きく次の3つの項目から構成され、ある時点の企業の財務状態をスナップショットのように写す財務諸表の1つです。

  • 資産:流動資産(現預金や売掛金)、固定資産(建物や土地、機械、ソフトウェア)など。
  • 負債:流動負債(買掛金や未払費用、短期借入金)、固定負債(長期借入金や社債)など。
  • 純資産:資本金や自己株式、利益剰余金など。

資産を表の左側に記載し、負債と純資産は右側に記載します。資産の額と負債・純資産の合計額が等しくなることからバランスシートとも呼ばれます。

2.損益計算書

損益計算書は、一定期間における経営成績を表した財務情報です。収益と費用、利益の3つの要素から成り立ちます。

次の手順を踏んで費用を収益からマイナスし、各段階利益を求めます。

  1. 売上高 - 売上原価 = 売上総利益(粗利)
  2. 売上総利益 - 販売費および一般管理費 = 営業利益
  3. 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用 = 経常利益
  4. 経常利益 + 特別利益 - 特別損失 = 税引前当期純利益
  5. 税引前当期純利益 - 法人税等 = 当期純利益

3.キャッシュフロー計算書

キャッシュフロー計算書は、ある一定期間において企業の現金の流れを詳しく記した財務情報です。

なお、キャッシュフローの「キャッシュ」には、現金だけではなく預貯金を含みます。

例えば、売上の発生日と入金日には遅れが生じるため、売上が十分あっても、先に費用の支払が発生し、手元の現金がショートする限界の水準になってしまうということが、スタートアップや中小零細企業では多く見受けられます。

こうした事態を防ぐために、現金の流れを細かく把握できるキャッシュフロー計算書が役立ちます。


経営分析の手法と着目すべき指標

経営分析の手法と着目すべき指標をまとめました。ぜひ参考にしてください。

収益性分析|稼ぐ力をみる

収益性分析は、企業における稼ぐ力の度合いを測る分析手法です。

収益性が高いと、最低限のコストで最大限の利益を上げていると判断できます。

一方、収益性が低い場合は企業の発展に関わる問題ですので、迅速に改善しなければなりません。

収益性にまつわる指標は、損益計算書の売上高と、さまざまな利益を比較して算出します。

次の2つの指標を具体例で解説します。

  • 売上高総利益率(粗利率) = 売上総利益 ÷ 売上高 × 100
  • 売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 × 100

売上高総利益率

売上高総利益率が高い場合には、製品やサービスの提供に要する直接的なコストを効率的に管理したり、競争力のある価格設定ができているなど、巧みな事業運営の実行で高い収益性を維持していると判断できます。

それに対して、売上高総利益率が低い場合は、仕入原価などの直接的なコストが高いか、競争力に欠けた価格設定になっているかもしれません。コストと収益の課題を調査し、解決する必要があります。

売上高営業利益率

売上高営業利益率が高い場合には、マーケティングや営業活動、間接部門の業務を効率的に運営しており、収益性を確保していると判断できます。

一方で、売上高総利益率が高く売上高営業利益率が低い場合、販売や管理コストが高く、収益性が低いとわかります。

マーケティングや営業活動に関連したコストを圧縮したり、間接部門を整理したりして改善しなければなりません。

安全性分析|支払能力をみる

安全性分析では、借入金の返済能力や財務の安全性がわかり、経営状態がどれだけ健全かを判断できます。

指標の具体例を解説します。

  • 流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
  • 自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資本 × 100
  • 当座比率 = 当座資産 ÷ 流動負債 × 100

流動比率

流動比率は、130%前後が一般的な数値で、200%以上あると返済能力が高いと判断されます。

流動比率が高い場合、企業は短期的な支払に対応するための流動性が高いことを示し、資金不足に陥るリスクが低く、短期的な事業資金ニーズを満たすための余裕があるとわかります。

自己資本比率

自己資本比率は、総資本に占める自己資本の割合を示しており、比率が高いと、企業は借入よりも自己資本によって資金を支えており、返済負担が少なく財務的に安定していることを示します。

当座比率は、当座資産を流動負債で割ったものです。当座比率が高い場合、在庫を除いた現預金と、短期的に換金可能な資産だけで短期的な返済能力が優れているといえます。

当座資本

当座資産とは、流動資産から在庫などを除いた現預金や売掛金、売買目的の有価証券などです。

なお、当座比率は他の指標と併用して分析する必要があります。当座比率が低い場合でも在庫の回転期間が短い場合には、短期的な返済能力が低いとは一概に言い切れません。

生産性分析|資産や組織の効率性をみる

生産性分析は、経営資源がどれだけ効果的に使われているかを示します。

例えば、次の3つの指標から分析します。

  • 労働生産性 = 付加価値額 ÷ 従業員数
  • 資本生産性 = 付加価値額 ÷ 総資本
  • 労働分配率 = 人件費 ÷ 付加価値額 × 100

労働生産性

労働生産性は、1人当たりの従業員が生み出した付加価値(金額)を測る指標です。付加価値とは労働で得た対価のことで、売上高から生産に要した原材料費などを差し引いて求められます。

労働生産性が高い場合、少ない従業員で多くの製品やサービスを生産できていることを意味します。生産プロセスの効率化や、従業員の熟練度を向上させるためのトレーニングなどの仕組み化ができていることが想像できるでしょう。

資本生産性

資本生産性は、事業に費やした資本が生み出した付加価値(金額)を測る指標です。資本の大きさにかかわらず、客観的な数値を求められるのがメリットです。資本生産性が高い場合、企業は少ない資本投入で多く生産できているということを意味します。

投下資本の効率的な運用プロセスや、技術革新などによる効果的な製造ができていることを示唆するでしょう。

労働分配率

労働分配率とは、付加価値額に占める人件費の割合を示し、人件費が適正な水準かを測ります。人件費は支払給与や法定福利費などの合算値です。

労働分配率が高い場合、企業が生み出した付加価値の多くを人件費に割いていることを示します。労働分配率は計算式の通り、高すぎても低すぎても問題です。

成長性分析|企業の将来性をみる

成長性分析は、企業が生み出した利益や売上高の変化の推移を示します。

例えば、次の3つの指標で分析します。

  • 売上高成長率 = (当期売上高 - 前期売上高) ÷ 前期売上高 × 100
  • 経常利益成長率 = (当期経常利益 - 前期経常利益) ÷ 前期経常利益 × 100
  • 総資本成長率 = (当期総資本 - 前期総資本)÷ 前期総資本 × 100

売上高成長率

売上高成長率とは、今期の売上高が、前期よりもどれだけ伸びたかを示しています。

成長率が高いと、企業は市場で新たな顧客を獲得し、既存の顧客ベースを拡大していることがわかります。

また、成長率が一貫して高い場合には、企業は一定の競争力を維持し、市場のパイを継続して獲得していると判断できるでしょう。

ただし、買収などで収益構造の仕組みが大きく変わった際は、事業単位でさらに詳しい分析をしなければなりません。

経常利益成長率

経常利益成長率は、今期の経常利益が前期と比較して、どれだけ伸びたかを示しています。

経常利益は本業での活動で稼得した利益である営業利益に、本業以外の活動で稼得した利益の営業外損益を加た段階利益です。

経常利益成長率が高い場合には、企業の稼ぐ総合力が高まっていることを意味します。

一方で、経常利益成長率の増加が一時的か継続的かを判断するには、他の指標と組み合わせて、詳しく分析しなければなりません。

総資本成長率

総資本成長率は、今期の総資本が前期よりも、どれだけ伸びたかを示します。

成長率が高い場合、企業は新たな資本を調達し投資活動を行っている可能性があります。新しいプロジェクトや事業の展開、設備の増強などが実施されているとわかります。

ただし、総資本成長率が過度に増加している場合には、注意が必要です。

多くを借入金に頼っていると、返済負担が増加するといった財務安全性に影響を及ぼす可能性があります。他の指標と組み合わせて、総合的な分析や評価を行ってください。

活動性分析|資産の活用度合いをみる

活動性分析では、企業がいかに資産を活用して売上を上げているのかがわかります。

例として、次の3つの指標を解説します。

  • 総資本回転率 = 売上高 ÷ 総資本
  • 棚卸資産回転率 = 売上高 ÷ 棚卸資産
  • 固定資産回転率 = 売上高 ÷ 固定資産

総資本回転率

総資本回転率とは、総資本における売上高の比率で、投資した資本が売上アップにつながっているかを判断できます。

数値が高いほど、少ない資本で大きな収益を得られていると判断できます。

棚卸資産回転率

棚卸資産回転率とは、棚卸資産(在庫)における売上高の比率で、在庫をどれだけ効率的にさばき、売上を上げているかを示します。

ただし、回転率が過度に高ければ在庫不足になりやすく販売機会を逃しやすくなりますし、過度に低ければ、在庫が滞留している可能性が高いといえます。

業界や企業の特性によって、どの程度の回転率が適切か異なります。

固定資産回転率

固定資産回転率とは、固定資産における売上高の比率で、企業が持つ固定資産をどれだけ効率的に活用して売上を上げているかを示します。

回転率が低いと、不要な固定資産が多かったり、機械や設備の耐用年数が短くなったりしていると考えられます。

不要な固定資産は売却して現金化したり、保守や買い替えといったことを検討する必要があります。


経営分析に取り組む際のポイント

経営分析に取り組む際のポイントをまとめました。

  • 企業に適した指標を選定する
  • データ管理は正確におこなう
  • コンテキストの理解と洞察をおこなう
  • フレームワークを用いて定量・定性の両面で分析する

それぞれ見ていきましょう。

企業に適した指標を選定する

適切な経営分析のためには、自社の戦略や目標に合致する指標と、業界で一般的な指標を選ぶ必要があります。

収益性や安全性といった基本的な指標の選択だけでなく、これらの指標の背後にある影響要因(ドライバー)を理解することが重要です。

例えば、収益構造を理解するためには、売上高の単価や数量を決定するドライバーを追求し、顧客構造を分解しなければなりません。

また、業界で一般的な指標は、他社のIR資料を参考にすることで把握できます。

業界特有の指標を採用することで競合他社との比較が容易になり、ステークホルダーへの説明にも役立ちます。

データ管理は正確におこなう

経営分析の指標を選定したあとは、使用するデータの信頼性や一貫性が重要です。

データ収集の方法とソースを明確にし、エラーを防ぐためのバリデーションチェックなどをしっかりと行いましょう。

また、蓄積したデータを適切に整理・保存することも必要です。適切なデータベースやファイル管理システムを利用して、データへのアクセスや管理を効率的かつ、セキュアに行いましょう。

こうした運用によってデータを蓄積しておけば、信頼性と一貫性をより確保できます。

コンテキストの理解と洞察をおこなう

経営分析においては、単にデータを見るだけでなく、データが意味することを理解し、結果が出た理由を追求するプロセスを大切にしましょう。

過去のトレンドやパターンを分析し、市場動向や競合状況などの外部要因の影響を考慮することも不可欠です。

また、異なる視点からの分析を行うことで、より詳細な情報が得られます。データの数値の背後にある意味や要因を把握し、企業の状況や問題を深く理解できるでしょう。

結果として、より戦略的な意思決定や、対策の立案が可能になります。

フレームワークを用いて定量・定性の両面で分析する

経営分析は、データから読み解く部分も多分に含まれますが、それだけでは最適な分析ができるわけではありません。

財務諸表や市場データを用いた経営分析に加えて、フレームワークを用いた定性的な分析方法もあることを覚えておきましょう。

PEST分析、3C分析、SWOT分析といった、外部環境や市場動向、自社の強みなどからマーケティング戦略を立てることで、より総合的な経営分析が可能になります。


経営分析についてのまとめ

経営分析は、現状の問題や課題を把握し、最適な戦略や対策を見つけるのに重要な役割を担います。

自社の戦略や目的に合った指標を選定し、定量と定性の両面から分析を行うなど、成長可能性を最大限に高めましょう。


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監修者プロフィール

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下川 貴一朗

株式会社dacsfirm 取締役

国内中堅証券、監査法人系コンサル、独立系FA・PEファンドを経て、2019年12月より現職。得意領域は経営戦略の立案・実行・管理の全般。

常勤先の株式会社キャムでは、取締役としてコーポレート・マーケティングの2部門を新設し、現在はマーケティング部門を管掌。

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