カルテルとは? 具体事例から対策案まで詳しく解説
同じ業種の企業が協定を結成し、競争をなくすことで利益を確保しようとするものを「カルテル」と言います。
独占禁止法で禁止されていますが、場合によっては合法とされます。
ただし、企業が無意識のうちにカルテルに該当する行為をしてしまっていることもあるため、細心の注意を払わなければなりません。
カルテルの概要から、実際に受けることのあるペナルティまでを解説します。
カルテルとは
カルテル(企業連合)は、同じ業種の複数の企業が、競争を避けるために結成する協定のことです。
価格設定や生産計画、その商品を販売する地域などをあらかじめ企業間で取り決めておくことで、競争を排除し、利益を確保するために結成されるのです。
カルテルが結成されやすい市場の例として、以下が挙げられます。
- 石油
- コーラ(飲料)
- 半導体
こうしたカルテルは、日本では独占禁止法で「不当な取引制限」として禁止されています。
カルテルが禁止されている理由
カルテルが禁止されている理由は「協定を結ぶことにより、商品やサービスの購入者に不利益を及ぼすため」とされています。
カルテルが行われるのは、競合する事業者同士が競争を避けることで、不当に商品価格を高く保ち、競争がある場合より多くの利益を得るためです。
事業者間での競争がなくなれば、商品・サービスの改良や価格競争をすることなく、事業者たちが多くの利益を得る仕組みが出来上がってしまいます。
つまり購入者は粗悪な商品やサービスを、それに見合わない高価格で購入してしまう可能性があるのです。
こうした購入者の犠牲のもとで、事業者が不当な利益を得る状況を防ぐため、独占禁止法で明確に禁止されているのです。
カルテルの種類
カルテルは、さらに「ハードコア・カルテル」と「非ハードコア・カルテル」の2つに分類されます。
それぞれの特徴を解説します。
ハードコア・カルテル
ハードコア・カルテルとは、以下の5つのカルテルの総称です。
- 価格カルテル
- 市場分割カルテル(取引先制限カルテル)
- 数量制限カルテル
- 設備制限カルテル
- 技術制限カルテル
これらに共通するのは「市場への供給量を変動させることで、市場価格に大きな影響を及ぼすものであること」です。
また、その性質上、企業同士の合意の証拠が残されないことも多く、もし実際に行われていたとしても指摘が難しい点が懸念されています。
価格カルテル
同じ業種の企業同士で、以下の点を取り決めることです。
- 商品・サービスの販売価格
- 商品・サービスの上限/下限金額
- 価格の決め方
- 割戻し・値引きの金額
たとえば、Aという企業が別の企業B・Cとともに販売価格値上げについての情報を交換したとしましょう。
その後、Aが値上げしたことにならってB・Cも値上げをすると、価格カルテルに該当すると捉えられます。
市場分割カルテル(取引先制限カルテル)
ある地域を複数の企業で分割して担当し、あるエリアで各企業が市場を独占する状態にして、そのエリアで企業間の競争をなくすことを指します。
たとえばXという商品について、A社は関東エリアに、B社は関西エリアにしか卸さないといったように「そのエリアでは、Aという会社からしかXが買えない」といった状況になることが該当します。
数量制限カルテル
商品の生産量・出荷量・販売量といったものについて、企業同士で合意して制限することです。
「2023年〜2024年の1年間は、Xという商品は毎月1,000個までしか作らない」といったような協定を結ぶことが該当します。
設備制限カルテル
商品の製造に使用する設備の能力を、企業同士の合意によって制限することです。
設備の能力をあえて抑えることで、その商品の供給量を抑えて価格が下がらないようにすることを目的とします。
「本当は設備をフル稼働すればXという商品を1日に1万個作れるのに、希少性と価格を落とさないために、Xを製造しているA社・B社が相談して、双方の設備の生産能力を1日100個までにする」といったケースが該当します。
技術制限カルテル
商品の製造に使用する技術を、企業同士の合意に基づいて制限することです。
こちらも設備制限カルテル同様に、自社の技術力をあえて抑えることで、供給量を増やしすぎないようにする目的で行われます。
「Xという商品の製造方法はA社・B社ともに2パターンずつ保有しているのに、同じ方法で製造することにした」といった例が当てはまります。
非ハードコア・カルテル
ハードコア・カルテルの対となるのが「非ハードコア・カルテル」です。
最大の特徴は、必ずしも、不当な取引制限に該当しないことがある点です。
企業間での合意には基づくものの、市場への供給量が大きく変動する可能性が低いため、一概に違法行為とはされません。
また、この性質から、企業間での合意があることを公表するケースも多数見られます。具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 複数の企業が共同で研究・開発した商品を販売する
- OEM契約を締結し、他社の商品を自社で製造する
カルテルと似た言葉との違い
カルテルには、よく似た意味合いの言葉がいくつかあります。内容を混同しないよう、それぞれの意味を確認しておきましょう。
談合とは「対象となるもの」が異なる
「談合(入札談合)」とは、国や地方公共団体が発注する公共工事や物品の公共調達に関する入札がある際に、企業間で事前に受注者や受注価格を決めることを指します。
カルテル同様、独占禁止法で禁止されている行為です。
カルテルとの大きな違いは、対象となるものです。カルテルは一般企業が販売する商品・サービスを対象に行われますが、談合は国または地方公共団体の工事または物品の調達を対象に行われます。
トラスト・コンツェルンとは「企業同士の関係性」が異なる
トラストとコンツェルンはカルテルとよく似ていますが、企業同士の結び付き方や協定を結ぶ規模が異なります。
それぞれの特徴をまとめると、おおよそ以下のように言い表せます。
種類 |
内容 |
---|---|
トラスト |
|
コンツェルン |
|
カルテルは、独立している企業同士の合意に基づくものですが、トラストとコンツェルンは、競争をなくすために複数の企業が結び付く方法です。
独立していた企業がグループ会社になったり、どこかの企業に吸収されたりします。
また、カルテルは法律で禁止されていますが、トラストとコンツェルンは一律に禁止されているわけではありません。
ただし、トラストやコンツェルンになることで不当な取引制限につながりそうな場合は、禁止される場合もあります。
カルテルで独占禁止法に違反した際のペナルティ
万が一、自社の行動がカルテルに該当するとみなされると、公正取引委員会によって以下のようなペナルティが科される可能性があります。
排除措置命令
早急に該当する行為を止めて、市場できちんと競争がされる状態に回復させるために必要な措置をさせる命令です。
たとえば以下の措置をするよう、命じられることがあります。
- 価格維持の合意をしておらず、今後は自主的に価格を決めることを、株主総会や取締役会で決めて、その旨、取引先(販売先)や従業員に周知する
- 独占禁止法を守ることについて、従業員に対して定期的に研修を行う
- 価格について今後、一切情報交換しない
課徴金納付命令
カルテルや談合を行った企業に対して、一定金額の課徴金の納付を求める命令です。
定められた支払期日までに、以下の式で算出された課徴金を支払わなければなりません。
期日までに支払いを行わない場合、法律で定められた割合で計算される延滞金を含めて請求される場合もあります。
課徴金額=
(違反期間中の対象商品またはサービスの売上額・購入額+密接関連業務の対価の額)
×課徴金算定率+違反行為をしていた期間中の財産上の利益(談合金等)に相当する額
参考:公正取引委員会「課徴金制度」
課徴金算定率は、状況に応じて1〜10%となります。
また「密接関連業務の対価の額」は、場合によっては適用されないケースもあります。
たとえば、違反期間中に1,000万円のサービス売上額があり、課徴金算定率が10%、違反行為をしていた期間中に200万円の利益に相当する額があった場合の課徴金額は、以下のとおりです。
なお、密接関連業務の対価の額は発生していないとします。
課徴金額=10,000,000×10%+2,000,000=3,000,000
刑事罰
カルテルの内容の悪質性・重大性が高かったり、過去にもカルテルを実施したことがある場合、以下のような刑事罰が科されることもあります。
違反行為 |
条文 |
量刑など |
私的独占、不当な取引制限、事業者団体による競争の実質的制限 |
独占禁止法第89条第1項第1号 |
5年以下の懲役又は500万円以下の罰金 |
不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定又は国際的契約 確定後の排除措置命令等に従わない行為 |
同法第90条第1号、第3号 |
2年以下の懲役又は300万円以下の罰金 |
検査妨害 (出頭、鑑定、物件提出命令への違反や、検査の拒否、妨害、忌避) |
同法第94条 |
1年以下の懲役又は300万円以下の罰金 |
調査のための強制処分違反 (規定による処分に違反して出頭せず、報告、情報若しくは資料を提出せず、又は虚偽の報告、情報若しくは資料を提出する行為) |
同法第94条の2 |
300万円以下の罰金 |
排除措置命令違反 (刑を科すべき場合を除く) |
同法第97条 |
50万円以下の過料 |
裁判所による違反行為等の緊急停止命令への違反 |
同法第98条 |
50万円以下の過料 |
引用:https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/lawdk.html
一度行っただけで刑事罰が科されるケースは少ないものの、こうした処分が下される場合もあると知っておきましょう。
カルテル対策と回避策
故意ではない場合でも、カルテルとみなされてしまうケースもあります。そうならないためにも、普段から以下の対策をしておきましょう。
適用除外制度について知っておく
カルテルのなかでも、独占禁止法や各事業に関連する法律で、ある目的を実現するために必要で合法的なものとして認められています。
これを「適用除外制度」といい、以下のようなものが該当します。
- 農協や中小企業協同組合といった、小規模事業者の集まりが実施するもの
- 航空・海運など、利用者の利便性向上のために国際的な共同行為が認められているもの
- 保険のように、危険負担を分散する必要が高いといった理由で事業の特殊性が認められているもの
参考:公正取引委員会「独禁法よもやま話 第6回「独占禁止法の適用除外」」
適用除外制度を利用するためには、関係省庁への届け出が必要です。
自社がこの制度を利用できるかどうか、公正取引委員会や、自社の最寄りの商工会議所などで相談することをおすすめします。
独占禁止法相談ネットワークへ相談する
「自社の体制がカルテルに該当するか分からない」といったように、独占禁止法に関する悩みや疑問がある場合は、公正取引委員会が運営する「独占禁止法相談ネットワーク」を利用するとよいでしょう。
これは企業が独占禁止法に関する内容を気軽に相談できるもので、全国の商工会議所や商工会が窓口となっています。
カルテル関連の事案では、故意ではなくても独占禁止法に違反してしまうリスクもあります。
知らず知らずのうちに加害者・被害者になっていることもあるのです。少しでも不安を覚えた時の窓口として、覚えておくと便利です。
カルテルのまとめ
カルテルのなかにも、違法とされるものとそうでないものとがあります。
大まかには、価格や販売・生産数量、販路などを他の事業者と共同で決める行為は違法となり、ペナルティを科されると考えるとよいでしょう。
ただし消費者の利益のためと考えられる行為でも、場合によっては問題視されるケースもあります。
制度についてよく調べる、不明点は公正取引委員会に相談するなど、日頃から慎重な行動と公正な経営に努めてください。