エグゼキューションとは? 手続きの流れや成功させるポイントを紹介
M&Aのエグゼキューションとは、M&Aの一連の流れを管理・実行することを意味します。
売り手企業と買い手企業の双方が合意する段階から最終契約書の締結、決済までの過程においてサポートする業務です。
本記事ではエグゼキューションの具体的な流れや注意点、成功させるための押さえておきたいポイントを詳しく紹介します。
M&Aのエグゼキューションとは
M&Aのエグゼキューションとは、M&Aで交渉から始まり契約書締結までの一連の事務手続きを進めていくフェーズのことを指します。
具体的には価格算定や交渉、契約書締結などがあり、一連の流れは大きく3つに分けられます。
- オリジネーション
まずは案件組成の段階で、実際に交渉を行うまでに実施する
- エグゼキューション
オリジネーションの次の段階で、具体的に交渉を行う過程
- PMI
最後に手続きが終了後、当初計画したM&A後の統合効果を最大化するための統合プロセス
まずはM&Aの目的を定め、そのためにどのような戦略を立てて実施していくのかを決定します。
そのうえで、ターゲットのリストを提供いただき、リストを絞り込んだうえで交渉に臨みます。
交渉成立後、買収先企業とのシナジーを出すため、経営理念等の統合を図り、業務の合理化や統合、同じ会社の仲間としての意識の統合を目指して、利益の最大化へと進めていきます。
エグゼキューション手続きの流れ
エグゼキューションの手続きの流れはスキームの検討から最終契約締結まで、大きく分けて6つのステップがあります。
ここでは、エグゼキューションの具体的な業務や傾向とともに手続きの流れを紹介します。
1.どのスキームでM&Aを行うべきか検討
経営統合を行う場合、それぞれの事情からコストの大きさやリスクの有無、手続きにかかる手間を判断基準とし、さまざまなスキームで検討します。
買主のM&Aに準備できる資金や税務面でのメリット・デメリットを考慮しつつ、具体的には以下の選択肢が検討されます。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 合併
- 会社分割
- 現物出資
2.金銭的対価の見積り
適切なM&Aの手法が決まった後には、バリュエーション(企業価値算定)を行います。
算定方法には「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」「コストアプローチ」の3種類があります。
またスキームによっては金銭で支払ったり、自社株を交付する方法があります。
3.交渉
大枠の条件や価格などの論点を話し合います。価格は売主・買主が各々算定したバリュエーション(企業価値算定)をベースに行われます。
また、売主が最も気にする点として、従業員の雇用継続を必須とする場合が多いです。
4.基本合意締結
交渉の結果、M&A手法や買取条件などがおおむね合意に至った段階で、基本合意書が締結されることが一般的です。
また、最終契約書締結に向けて「価格に関する条件」「秘密保持契約」「デューデリジェンス資料開示への協力」「独占交渉権の有無」が含まれることが多いです。
5.財務状況や事業内容の調査
バリュエーション(企業価値算定)の根拠となっている情報が、提供された通りのものか否かを確認するために、財務状況や事業内容の調査が実施されます。
法務デューデリジェンスで弁護士に法的なリスクの調査を、財務・税務デューデリジェンスで税理士や公認会計士に将来の計画や簿外債務の確認を、ビジネスデューデリジェンスで、コンサルティンファームに買収のシナジー効果などの確認の依頼を行うのが一般的です。
6.最終交渉・最終契約締結
デューデリジェンスの結果を受けて、最終的な条件が確定され最終契約書が締結されます。
最終契約書に盛り込まれる主な内容には、M&A手法、価格、秘密保持、表明保証などがあり、その後、M&Aでの経営権の移転を完了させる最終的な手続きとしてクロージングに入ります。
その際に契約書で合意された手続きに漏れがなく、予定通りに進められているかに気をつけながら実施することが大切です。
エグゼキューションの注意点
エグゼキューションの手続きの流れを解説してきましたが、そのなかで気をつけておきたい注意点について紹介します。
1.双方が納得できる条件で合意
M&Aはされる側とする側、それぞれの立場ややるべきことがありますが、M&Aをされる側の企業はどうしても引け目を感じてしまいがちです。
そのため、M&Aする側の企業は、される側の経営者の気持ちに寄り添うことが大切です。
誠意を持って交渉に望み、十分に理解したうえで合意するように努めましょう。
また、M&Aされる側の企業は経営者だけでなく、従業員も将来への不安が大きいでしょう。
十分に話し合いを持って理解を深め、今後同じ会社の一員として働いてもらうことへのモチベーションを持ってもらうように心がける必要があります。
2.M&A手続きを漏れなく実施する
M&Aのスケジュールは両社で十分に練られたうえでの手続きをリストアップされており、仮に逸脱があった場合には問題が起きることが予測されます。
それにより損害が発生したり、リカバーするための莫大なコストや時間が必要となることが想定できます。
場合によっては回復不能な損害や問題にも発展する危険性もあり、M&A自体が破談になる恐れもあります。
M&Aの手続きは漏れなく実施するよう注意してください。
エグゼキューションを成功させるポイント
エグゼキューションを成功させるための3つのポイントについてまとめました。
進める際はポイントを押さえてスムーズに導けるよう準備しておきましょう。
ポイント1.各分野の専門家からサポートを得る
M&Aを行っていくためにはあらゆる専門家の所見が必要になるため、専門家がチームを組んであたる形となります。
会計税務の所見は公認会計士や税理士が、法律の所見は弁護士が適任者となります。
さらに、ビジネスや経営の所見は中小企業診断士や経営コンサルタントが適任者となります。
近年ではITの重要性から、ITコンサルタントの所見を求めたり、M&A後の組織としての一体感を高める目的で、社会保険労務士や人事コンサルタントの要請も高まっています。
各分野の専門家からのサポートを得られる体制を整えておくことが大切です。
ポイント2.専任担当者をつけるなど通常業務への支障を考慮する
M&Aが成立するまでは、社外だけでなく社内の耳にも入らないよう考慮することが大切です。そのためには専任担当者をつけるなどして、情報の共有を最小限に留める必要があります。
近年では、M&Aに対するマイナスなイメージは徐々に薄れてきていますが、まだ良い印象を抱いていない人が一定数いることも事実です。
社外に情報が漏れてしまえば、「あの会社の経営は大丈夫なのか」と取引先からの信頼を失い、契約の存続に関わることもあります。
社内で噂が広がれば、自身の保身を図って否定的な行動を取ることが予想されます。
優秀な人材ほど転職先がすぐに見つかるため、会社の状況が悪ければ見切りをつけて退職してしまうでしょう。
契約の危機や人材の流出は日常の業務に支障をきたし、業績に悪影響を及ぼします。
業績や評判が悪くなれば、M&A買収価格に影響が出たり、M&Aそのものが破談になったりするケースもあります。
このような情報漏えいから起こり得る事態を避けるには、専任担当を配置することが予防策といえるでしょう。
ポイント3.書類や必要情報リサーチなどの事前準備
エグゼキューションを成功させるためには、買収する側が売り手の企業について調査する「デューデリジェンス」が最も重要であり、この準備には多くの時間を要するため、事前準備が必要不可欠なのです。
デューデリジェンスを行うにあたっては、決算書や商業登記簿謄本、株主総会や取締役会の議事録など、膨大な資料を用意しなければなりません。
さらに、必要な書類は買い手側の要望によっても異なります。
スムーズにデューデリジェンスを進めるためには、求められた書類をすぐに提出できるようにしておく必要があります。
要望に対してすぐに応えられるように、事前に書類や必要情報のリサーチをし、準備を整えておくことが大切です。
各種書類の準備や記載が必要な際は、M&Aに必要な書類のテンプレートがあると業務が効率化します。
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エグゼキューションのまとめ
M&Aのエグゼキューションとは、M&Aの一連の流れを管理・実行する業務のことです。
売り手側、買い手側の双方が合意する段階から、買収条件の決定、最終契約書の締結、決済に至るまでの流れを全面的にサポートします。
専門的な知識が多く必要となるため、専門家からのサポートは必須です。
また、売り手側、買い手側の双方の立場、懸念を考えながら業務に当たる必要があります。
事後リスクを把握しておくこともエグゼキューションの段階で必要なことです。
効率的に進めるためには、漏れなく手続きが行えるよう事前準備を徹底して行いましょう。